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第2章 矢作、村を出る?!

ジルの実力***矢作様を添えて***

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『ふん。次は護衛部隊隊長か。
つくづく生意気なやつだ。
それでも諜報部隊の隊長を解任されたのは好都合だ。今なら奴を始末しても王とて何も言うまい。』

不機嫌な顔に浮かぶ笑みは、腹の中がそのままように黒く澱んでいた。
しかし、それを気にするものはここにはいない。
何故なら、相手の顔とて同じようなものだからだ。

『ダナ殿。今は彼奴よりも大事がございますぞ。まずは異国人を攫ってこちらの駒にせねばなるまい。あんな若造よりも、我々の方が余程上手く搾り取る事が出来ますからな。本人も我々に喜んで仕えましょうぞ。』

カチンと再びグラスの重なりあう音が響き室内に低い笑い声が響いた。


***


「先輩!!このドラム缶風呂が檜風呂になってますよ。どうやったんですか??」

ふぅ。どうして草薙はあんなに大声で叫ばなくては話せないんだ。

「ドラム缶の内側に腐食しにくい木材を貼り付けたんだ。」
昔、田舎の祖父の家で五右衛門風呂に入ったことがある。

良い風呂だった。が!!
怖い。そう、本当に恐ろしい風呂だった。

風呂場に入った俺はその場で固まった。

熱々の岩肌に浮いた木の蓋。
えっ?
この上に乗る?!
こんな原始的な風呂は無理!!
祖父に向かって叫んだ記憶がある。

しかし所詮子供。
やるしかないのである。
慎重に蓋の上に飛び乗る!!もしも、乗れなければ…。

思い出すと今も身震いする。

そこでだ。
危険でない風呂をコルバとドヤンに頼んだのだ。

2人の協力技は、スゴすぎた。
出来上がりは、露天風呂。
しかも持ち運び出来る。はい即、収納!!
物思いにふける俺に草薙からダメだしが来た。

「先輩、、やっぱり臭いです。このドクダミ出して良いですか?」

あのな、草薙。
なんでいくら言ってもどくだみの良さが分からないんだ。
皮膚疾患にも効くし、殺菌作用もある。
しかもお茶にして飲めば、効果は更に広がるんだ。

まだ不満そうな草薙に風呂終了のお知らせだ。

『ダメだ。それよりコルバ達に交代の時間だぞ。そろそろ出ろ。』
後ろに列が出来てる。
人気で何よりだ。

夜が更けると一段と気温が下がった。
風呂上がりの生姜湯で更に身体を温めて、今夜の徹夜の前にやるべき事を済ましてしまおう。

あの日、一緒に旅するから役割分担をしようと好青年に言われたのに、結局殆どを丸投げしてしまった。やっぱり体格差は大きいのか。
『我々がやりたいのです。矢作さんは気にしないで下さい。』

こんな風に誰かに気遣われる事がなかったので少し困った。
それでも何か役に立ちたいと料理と風呂、洗濯は引き受けた。家事は元々得意だしな。

さて、寝る前にまずは洗濯だな。
俺は無駄は嫌いだ。
だから、全員が出たドラム缶風呂に軽石を数個放り込んで【簡易洗濯機】にする。
この世界の軽石は、汚れを吸い取る吸引力が半端ないから便利だ。
一晩付けておけば大丈夫だろう。
ついでに、ドクダミの残りを火に放り込むんで煙を出す。これは虫除けのつもりだ。
もちろん、防虫菊も少し入れた。
そして、火の番をするルフに声をかけてテントへと戻る。

3mくらいある槍を片手に持って、手を振っている。お休みの挨拶にしては、強烈だな。

『お休み。』「おやすみなさい。」
草薙と声を揃えてテントへ入った。

『テンパイ、おてやらかに。』
『もう違う。先輩、お手柔らかに、だ。
さあ、基本からやり直し。』

今晩も長くなりそうだな。


***  とある男の視点  ***

『とにかく、手段は選ばん。無論金に糸目も付けぬ。全滅させよ。』
偉そうな態度は気に食わなかったが、金払いは良かった。

更にはコレだ。

【オキニス草】

強力な眠り草だ。煙にして四方に撒けば即夢の中だ。
しかも、もう1つ大切な効果がある。
全身が赤く爛れるのだ。

煙は無臭の上無色。
風上にさえ気をつければ、刀を抜く必要すらない。
が、役目を終えた証拠を土産にしなくてはならない。それには刀は必要か。

奴らが、浮かれて風呂など入っている隙に準備は済ませた。

しかし、慎重な俺はもうひとつ手をうっておいた。これで1人の漏れもなく片付ける事が出来るだろう。


寝静まった野営地に、時折焚き火のはぜる音がする。
動かなくなった火の番に、別部隊に合図を送る。

潜んでいた別部隊をこちらに集結させるための合図だ。

チカチカ。

。。。


チカチカチカチカ。

。。。


何故だ?
何の応答も無い。

まさか、煙にやられたのか?
あれほど、言っておいたのに、全く。

仕方ない、こちらの手勢だけで攻めるか。
まあ、動けない敵なら容易いはずだ。

キーーーン。

誰もいない野営地から耳鳴りのような音が響いてきた。
俺の【装身】である空気の動きを感じるスキルが何者かを捉えた。


誰もいない大木の横。

ゆらぎが見える。

『お前たち!!刀を抜け!!!』
既に抜刀してゆらぎに向かって駆け出しながらそう叫ぶ。

臨時で集められたとは言え、それでも元ギルドのDランクだ。全員が刀を構えたその瞬間。

バサッ!!
『ううっっ。、』
うめき声と血しぶきに振り返ると

バサッ、ドサ!!
5人中、3人が切り捨てられた。

全てが一振り。
微かなうめき声のみとは、最上級の腕利きに違いない。
叶わないかもしれないが…。

しかし俺のスキルを舐めるなよ!!

『そこだーー!!!』

カキン!!
刀と刀の激しいぶつかり合いに火花が散った。

『ほぉ、やるな。最後の一人はせめて姿を現してやるか。』
ぼんやりしていた気配の場所に、1人の男が立っていた。

血にまみれた刀を下げて、ニヤリと笑う男に背筋がゾクリと震えた。
嫌な予感がどんどん増してゆく。

こいつはヤバい奴だ。
あの依頼者、嘘をつきやがったな。
単なる行商人の護衛じゃねえだろ。

『依頼主を聞いておきたいけど、それは別の者の仕事だしね。さあ、あまり煩くすると矢作さんが起きてしまうのでさっさと済まそうか。』

『お前、何故【オキニス草】の効果を逃れた?どうやって…』

『ククク。そんなの信じたの?あれは【オキニス草】なんかじゃないよ。
【ルータ】、別名呪い草だ。
例え、風上にいても数時間後には全員が解毒剤の奴隷となる代物さ。』

!!!
【ルータ】だと。
あれは麻薬だぞ。危険過ぎて裏界隈でも取引なんぞしてないのに。

計られた。
くっそう。。まぁマトモな道を歩いて来なかったんだ。仕方ないがそれでも奴隷なぞまっぴらゴメンだ。ならばやるしかない。

『そう、やる気なんだね。裏切られたままは嫌か。悪党のくせに贅沢だね。
まあ、お望み通り始末してあげるよ。』

キラッ、、と光った。

それが最後の風景だった。


***ジル視点 ***


『ジル様、そちらは終わりましたか?』
そう言いながら近づいてきたのは村長だ。

『ベン。別動部隊は始末したか?』

にっこり笑う姿は、普段よく見る彼の優しい笑みだ。

『もちろん、全て片付けました。ネズミの割に数は少なかったですね。』
『ほう、何人くらいいたのか?』

少し考える仕草をして村長は照れた笑いで
『54人』と答えた。

数分もかからなかったはずだが。
。。本気の村長は中々おっかないな。

『【ルータ】が使われたようだか、身体は大丈夫か?』

無味無臭無色の煙
その名も【奴隷商人】

まさか序盤から、これほどの攻勢をかけるとは思わなかった。


『はい。高尾様によれば全てはあの風呂の中の草で中和されたそうです。『自分の出る幕がなくて悔しい。』と少し拗ねておられましたよ。』


【ルータ】避ける方法もあったが、それでもダメージは残る。それほど強力な毒草なのだ。

『やっぱり矢作様には叶わないな。』
『全く。』

ため息混じりにそう言いながら、テントの方へと 戻ると仁王立ちのルフの姿が。

『おや?打ち漏らしかな?』
倒れている2人に血の匂いはない。

『違う。近くを通りかかった隣村の者。
多分、【ルータ】にやられた。』

こんな夜遅くに、何か隣村にあったのかと聞けば。
『隣村にて異変あり。食糧が盗まれて餓死寸前の様子。』深刻だな。

久しぶりの影からの応答に、再び倒れている村人を見れば、確かに痩せている。
しかし相手はあの【ルータ】だ。もう解毒は、間に合わない。

『矢作様のテントに動きがあります。
私は血まみれなので姿を消します。』
サッと姿を消すベンの素早い動き。

私は、血を浴びるような抜刀は既に卒業したのでこのままいさせて貰おう。

『あれ?みんなまだ寝ないのか?
ん?  この人たちどうしたんだ?
寒いのにこん場所に寝てるなんて…。
あっそうだ。皆さんにコレを飲んで貰おうと思って作ってきたんだった。
夜番さんの分はコッチでどうぞ。』

渡されたのは、黒黒しい飲み物。
良い香りだが、色がちょっと…。

『寒いから、この人たちにも是非飲んで温まって貰おう。すぐ2つ持ってくるよ。』

急いでテントへと帰る矢作様を止める術は無いな。
意識は無いのだ。飲み物など飲めないと思うが、食べ物絡みになるといつも頑固になる矢作様だ。
さて、どう言えば…。


結論。
考えるまでもなかった。

矢作様なのだ。
我々の斜め上の更に遥か上をいくに決まってた。

黒黒しい飲み物の香りで、何故か目を覚ました村人は(普通の人間の体力なら2日は目覚めないはずだが…。)飲んだ途端全回復した。

『こんなに美味しい飲み物始めて飲みましたよ!!』
興奮する村人にクサナギさんが一緒に火を囲みながら。

『キャンブファイイ、ミタイ。タノシシ。
ココアサイゴーー。』と、意味不明な言葉を相変わらず叫んでいる。でも楽しそうだ。

『草薙。最後じゃない、最高だろ?
まだ、眠るには早そうだな。もう一度単語の復習をやり直しだな。』

『ひぃぃい、オニーー!!』
2人のやり取りに笑いがこぼれる。
色々あったが、火を囲んで黒黒しい美味しい飲み物を飲みながら、ようやく1晩目の夜は終わろうとしていた。


今頃、キセの部隊が物言わぬ襲撃者から身元確定をしているだろう。

まぁ、大方予想はついているが。
やっぱり、馬鹿は馬鹿のままだな。

これからの逆襲を考えながら、長かった夜は更けていった。





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