俺の拾い主

ちかず

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日和ちゃん誘拐事件?!

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朝五時に起きて全ての用事を終えた俺は、久しぶりのスーツの袖口に手を滑りこませた。 

隣の部屋ではあのおっさんはまだ惰眠を貪っているだろう。
朝飯の支度も書き置きも全て終えた。
あとはおっさんに頼まれた案件を片付けるだけと急ぎながらも、鏡に写った自分に驚く。
どこのホストだ…。
今までに出会った事のない高級品の手触りの良さにもドン引きしながらも髪を整えてよそ行きの顔を作り外へ急ぐ。

もう一日無駄にしたのだ。時間はあまりない。「青い鳥」子供の悪戯ではと思う気持ちもある。でも…あの日の日和ちゃんの握りしめた震える手がその度に頭を掠める。あんな小さな子の中に何があったというのだ。
何かに怯えるように見えた。
また、見落としたのかもしれない。そんな気持ちが足を早める。

やがてあの高級住宅街にやって来た。
まだ早朝の街並みは静かなものだ。時折、犬の散歩のご婦人と行き合うもスーツのお陰か違和感なく溶け込んでいる。
聞いた日和ちゃんの住所の近くまで来て、そのまま行き過ぎる。そう、行く先を変えたのだ。
オカシイ…。
違和感を強烈に感じたが付けられる感触はない。だが、どこかに視線を感じるのだ。足早に遠ざかりながら目線を動かさず辺りを探るも動きはない。
ん?ふっと気づいた。そうだ幼稚園バスはどうした?下調べの結果ではこの辺りで今頃の時間に日和ちゃんが乗り込むはず。そんな事を考えていた俺の目に予想と異なる風景が目に写った。
通りに向こうをその幼稚園バスが走って行くからだ。もう乗り込んだのだろうか?今日は早いのか。考えながらもグルリと回って日和ちゃんの家の近くに戻った。

ジワリと嫌な予感が走る。この依頼は何かオカシイ。そんな風に感じた俺は扉の開く音に振り返った。
キキキ…錆びてない小さな物音に思わず振り返った俺の目に日和ちゃんの姿がみえた。 
駐車場の自動扉が開いて高級車が走り出して俺の横を過ぎたのだ。

一瞬、目が合った。気がするがその目は強い警戒感に満ちていた。あの日の身なりではなく、お嬢さまの姿に似合わないあの目。高級車らしくゆっくりスタートした車を俺はゆっくり追いかけた。  すぐに開くと思った距離はすぐに縮まった。十字路のせいだ。

あっ。

そこからの出来事はあっという間だった。車から転がり出てきた日和ちゃん。
俺の手を握って走り出した彼女を小脇に抱えた俺。血相を変えた運転手が追いかけて来たからだ。公園から大通りへ逃げる俺が捕まらなかったのはクラクションが激しく鳴ったお陰だ。
十字路に立ち往生している車に向けての激しいクラクションに怯んだ一瞬をついて公園から人に家の庭を横切り大通りへ…。

昨日、地図を頭に入れ込んでいて良かった。昔、先輩から叩き込まれたお陰だな。

「助けて!!」
あの時の俺の手を握った彼女の悲鳴に近い小声の声こそ今も逃げ続ける意味なのだ。何故ならこのままでは俺が誘拐犯だからだ。

人混みに紛れるながらもこのままではあっという間に見つかる。それほど違和感のある二人組だからだ。

サラリーマンと子供。親子にも兄弟にも見えない。小道具を仕込んで良かった。
荷物を取りに向かう俺の後をつけている人間がいるのにその時の俺は気づかなかった。それが誰であるかも…。
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