俺の拾い主

ちかず

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初めての依頼

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今、俺はデスクの前に座っている。

探偵事務所のたった一つのデスクだ。
こんな風になるハズのないおれの目の前には、これもあり得ない依頼人が立っていた。

但し、黒い髪の毛しか見えないが。

そう。依頼人の名前は日和ちゃん。
御年…5歳。
依頼内容は、幸せの青い鳥を捕まえて欲しいとの事。

もちろん断る。
だろ…普通。なのに、この探偵事務所のバカ所長は「もちろん捕まえてみせるよ!!」なんてニコニコ言うからさ。
依頼人も調子に乗って「じゃあ依頼料の50円。」だとよ。
あのさ、子供相手にツッコむのも変だが『一律5000円』と書いてあっただろ?見たよな、とツッコミをいれたら所長の場所から空き缶が飛んで来た。
痛いなぁ、もう!!


「ハートが依頼料に乗っているだろ?
さて日和ちゃん、どのくらいまでに必要なのかな?」

おぉ、侮って悪かったよ。鋭いアプローチだな。納期を理由に断るつもりだったのか。さすが伊達に年食ってないなぁ。

「えーっと。明後日まで。大丈夫?」

「もちろん!」


彼女が帰ったあと、残る沈黙に耐えきれず所長の叫び声がこだました。

「頼むよー。無視だけはやめてよね。ほんと相坂君の冷たい眼差しは堪えるんだよねぇ…」

半泣きの声でそう言われても、もう慣れたと言わざる得ない。しかし本気で青い鳥だとかをどうやって探すやら…。

「それは大丈夫だよ。優秀な助手を得た今の俺に不可能はない!!」

。。。


「あのさぁ、まだ骨折の状態の俺じゃ動けなでしょ!!さあさあ、頼みますよぉ。」

「迷子の犬猫じゃああるまいし、無理です。」


。。。


おっさんに半泣きの表情で縋られても別にキモいだけだしな。さぁ、朝のコーヒータイムにしよう。これがここにいる一番の理由だものな。
重厚な戸棚の中にある、高級なコーヒーセットを出して用意をする。
香りが事務所に充満する。

一口。。何度飲んでも本当に旨い。
色々なコーヒーを飲んで来たけれど、こんなに毎回旨さをしみじみと感じるコーヒーなんて初めて出会った。


しかし…ウザいなぁ。
おっさんのうるうる目なんて需要ないんだけどな。あ、ちゃっかりコーヒーは飲んでるし。

幸せの青い鳥なんてあるなら誰だって欲しいわ!そう言い返そうと思った所へ扉の向こうから声がした。


「渡辺日和ちゃん。住所は五月町五丁目よ。明後日、中国にお引越しだから相坂君も急がなくっちゃね。」だとよ。


出た。この探偵事務所の本物のドン。
いつだって、婆さんはいつの間にか来てどこから紐解いたか分からない情報を俺に寄越す。

これがこの場所に留まる二つ目の理由だ。胡散臭さは充分だが確かな情報である事も間違いないのだ。ならば、あの情報ももしかして…。僅かな希望が久しぶりに俺の目の前に差しているのだ。

仕方ない。青い鳥探しのフリでもしに行くか。

「おっ?さすがはお富さんだよな。相坂君のやる気スイッチを押すの上手いよなぁ。さあさ、まずは彼女の身辺から探ってくれよ。」


青い鳥をペットショップに見に行けばOKじゃないのか?それっぽいので…。

「とにかく、まずは所長である俺の指示に従ってくれよ?」

恐る恐る聞く所長に渋々頷いて俺は事務所を出た。
梅雨はもう明けたのか、蝉が鳴いている。

相坂君…かぁ。
適当に所長が付けた俺の名前も呼ばれるのにそろそろ慣れた。
五月町までは、徒歩で30分だ。
とりあえず、彼女の家まで向かってみるか。



これが思わぬ事件の始まりだとはその時の俺は知る由もない…のだが。

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