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第二幕 あやかし兎の京都裏町、舞妓編 ~祇園に咲く真紅の紫陽花
第二幕エピローグ
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昨日の千秋楽は、大変なチンドン騒ぎ、いえ、大変な盛況ぶりで幕を閉じました。
表京都からは五花街の祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町、上七軒。
裏京都からは煩悩三十六花街の、祇園南、祇園東、それなりに北祇園、どちらかといえば西祇園、北大路、西大路、伏見と嵐山の間、などなど。
雄大豪壮に飾られた裏町・南座で行われた『表裏一体・都の賑い』に、総勢二百名だか、三百名だかの芸妓さんと舞妓さんが集結しました。いくら裏町の南座の舞台が広いとはいえ全員が乗れるのかと心配になれば、最後の総演目では案の上、舞台には収まらず、仕方がないので通路にはみ出して、どうせなら外でやってしまおうと、そのまま四条通に繰り出しました。
当然、踊りの群れは往来の人々を巻き込みます。
裏町観衆も愉快に踊り出し、これは都の賑いなのか、百鬼夜行なのか、気が早すぎるハロウィンパーティーなのか判然としなくなりましたが、最後は阿国さんが仕切って舞妓さんだけの演目で締め括られましたので、文化的な催しの意義は保った上でのチンドン騒ぎであったと。
もちろん、鈴屋からは音兎(鈴月)ちゃんと鈴夜ちゃんと、芸妓の鈴華さんも参加しました。今回の騒動の発端であり、表と裏を繋ぐキッカケとなった音兎ちゃんには専用の演目が用意されたので、さすがにその時は緊張したようです。だけど終わった後の笑顔は誰よりも可憐で、可愛かった。
ええ、音兎ちゃんの単独と聞いていたんですけど。
「キッカケは二人いるだろう!」
「そうだぞ、キツネ娘!」
バクケンのメンバーに煽られてしまい、なぜか私も踊る羽目に。リハーサルに参加していたので少しは真似できましたが、全部を覚えているわけではないので途中からは、あらよっと、みたいな恥ずかしい演武の披露になりました。
バクケンと言えば、五臓さん。
今回の騒動とアヤメさんや沖田さんへの禊として『表裏一体・都の賑い』を金銭的に援助してもらい、また、今後の京都の舞妓の活動を永続的に支援することを約束させたのです。
「平安京を復活させたるでぇ! そのためには文化を守らんといかんのや! こういうのが政治や、税金や!」
改心したのか懲りていないのかは分かりませんが、結果として京都の文化保護が推進されるのであれば御の字。こういう形の復讐であれば、それでいいと沖田さんも納得してくれました。
「アタシらは、旅に出るよ」
千秋楽が終わった次の日に、表の京都駅でアヤメさんと沖田さんに会いました。
「蘭丸とね、二人で日本を回ってみようって」
「僕らは旅行したことありませんから。それに姉さんだけだと、常識がないので」
「アタシが常識ないって? ちゃんと表に合わせた服装にしただろ」
確かに女武将の恰好ではありませんが、下は袴に、上は羽織に胸にサラシだけを巻いているので、これではレディースの特攻隊長だと思われるでしょう。
「京都に戻ったら連絡するよ。いろいろとありがとな、薫」
手を振りながら去っていきます。きっと、素敵な旅になるでしょう。
旅と言えば、もう一人。
アヤメさん達を見送った後に、鈴華さんとも京都駅で会いました。
「鈴月を見てたらね、私も久しぶりに帰ってみようと思ったから」
九州の実家に帰るそうです。十五年振りの帰省らしく、お母さんと連絡も取れたのですって。鈴華さんの簪に付けた紐が虹色に光っています。ここでもまた、一つの絆を取り戻したようです。
結局、縁結びの紐は三本とも渡してしまったけれど。
これで、良かった。
だって私はもう、取り戻しているから。
「ねえ、お婆ちゃん」
掃除は心の洗濯です。
月に一度の、本殿の大掃除。定期的にやらないと勝手に増えていく物で溢れてしまう。
「これ、もういらないと思う」
「それはねぇ……五年に一回くらいは使うのよ」
「こっちの壺、底に穴が開いているけど」
「塞げば、使える気がするのよ」
お婆ちゃんは物を捨てられない性格。
おそらくは、それぞれに宿っている想い出に縛られているのでしょう。
まあ、分からなくは、ないのですけど。
「ねえ、お婆ちゃんは広島に行ったことある?」
「そうねぇ、若い頃はお爺さんとよく行ったねぇ」
「小学校の修学旅行から行ってないから、あんまり覚えてなくて。久しぶりに行きたいなぁって。ほら、全員で出掛けることって最近はなかったから、みんなで行こうよ。お母さんは行くだろうし、お父さんも強引に連れて行けばいいと思う。お婆ちゃんだって懐かしいんじゃない?」
「そりゃあ行きたいけれど、若い頃みたいに京都から歩いて行けるかねぇ」
「……新幹線を使いますけどね」
本殿から物を外へと運び出します。さっきまで全身が埃にまみれていたから、すうっと心地よい空気を胸に入れました。
境内の梅雨は明けて、夏の到来を告げる日差しが注ぎ始めて、紫陽花の色はすっかり薄くなってしまったけれど、剪定して枝を切っておけば、また、来年に美しい花が咲くのです。
切っても、また、何度でも。
そうして来年も青く染まった花の群れに赤い色の紫陽花を見つけた時、私はあの日の情景を想い出して、失った情愛と絆を取り戻せるのです。
そんなことを考えつつも、今はせっせと掃除に勤しむのでした。
表京都からは五花街の祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町、上七軒。
裏京都からは煩悩三十六花街の、祇園南、祇園東、それなりに北祇園、どちらかといえば西祇園、北大路、西大路、伏見と嵐山の間、などなど。
雄大豪壮に飾られた裏町・南座で行われた『表裏一体・都の賑い』に、総勢二百名だか、三百名だかの芸妓さんと舞妓さんが集結しました。いくら裏町の南座の舞台が広いとはいえ全員が乗れるのかと心配になれば、最後の総演目では案の上、舞台には収まらず、仕方がないので通路にはみ出して、どうせなら外でやってしまおうと、そのまま四条通に繰り出しました。
当然、踊りの群れは往来の人々を巻き込みます。
裏町観衆も愉快に踊り出し、これは都の賑いなのか、百鬼夜行なのか、気が早すぎるハロウィンパーティーなのか判然としなくなりましたが、最後は阿国さんが仕切って舞妓さんだけの演目で締め括られましたので、文化的な催しの意義は保った上でのチンドン騒ぎであったと。
もちろん、鈴屋からは音兎(鈴月)ちゃんと鈴夜ちゃんと、芸妓の鈴華さんも参加しました。今回の騒動の発端であり、表と裏を繋ぐキッカケとなった音兎ちゃんには専用の演目が用意されたので、さすがにその時は緊張したようです。だけど終わった後の笑顔は誰よりも可憐で、可愛かった。
ええ、音兎ちゃんの単独と聞いていたんですけど。
「キッカケは二人いるだろう!」
「そうだぞ、キツネ娘!」
バクケンのメンバーに煽られてしまい、なぜか私も踊る羽目に。リハーサルに参加していたので少しは真似できましたが、全部を覚えているわけではないので途中からは、あらよっと、みたいな恥ずかしい演武の披露になりました。
バクケンと言えば、五臓さん。
今回の騒動とアヤメさんや沖田さんへの禊として『表裏一体・都の賑い』を金銭的に援助してもらい、また、今後の京都の舞妓の活動を永続的に支援することを約束させたのです。
「平安京を復活させたるでぇ! そのためには文化を守らんといかんのや! こういうのが政治や、税金や!」
改心したのか懲りていないのかは分かりませんが、結果として京都の文化保護が推進されるのであれば御の字。こういう形の復讐であれば、それでいいと沖田さんも納得してくれました。
「アタシらは、旅に出るよ」
千秋楽が終わった次の日に、表の京都駅でアヤメさんと沖田さんに会いました。
「蘭丸とね、二人で日本を回ってみようって」
「僕らは旅行したことありませんから。それに姉さんだけだと、常識がないので」
「アタシが常識ないって? ちゃんと表に合わせた服装にしただろ」
確かに女武将の恰好ではありませんが、下は袴に、上は羽織に胸にサラシだけを巻いているので、これではレディースの特攻隊長だと思われるでしょう。
「京都に戻ったら連絡するよ。いろいろとありがとな、薫」
手を振りながら去っていきます。きっと、素敵な旅になるでしょう。
旅と言えば、もう一人。
アヤメさん達を見送った後に、鈴華さんとも京都駅で会いました。
「鈴月を見てたらね、私も久しぶりに帰ってみようと思ったから」
九州の実家に帰るそうです。十五年振りの帰省らしく、お母さんと連絡も取れたのですって。鈴華さんの簪に付けた紐が虹色に光っています。ここでもまた、一つの絆を取り戻したようです。
結局、縁結びの紐は三本とも渡してしまったけれど。
これで、良かった。
だって私はもう、取り戻しているから。
「ねえ、お婆ちゃん」
掃除は心の洗濯です。
月に一度の、本殿の大掃除。定期的にやらないと勝手に増えていく物で溢れてしまう。
「これ、もういらないと思う」
「それはねぇ……五年に一回くらいは使うのよ」
「こっちの壺、底に穴が開いているけど」
「塞げば、使える気がするのよ」
お婆ちゃんは物を捨てられない性格。
おそらくは、それぞれに宿っている想い出に縛られているのでしょう。
まあ、分からなくは、ないのですけど。
「ねえ、お婆ちゃんは広島に行ったことある?」
「そうねぇ、若い頃はお爺さんとよく行ったねぇ」
「小学校の修学旅行から行ってないから、あんまり覚えてなくて。久しぶりに行きたいなぁって。ほら、全員で出掛けることって最近はなかったから、みんなで行こうよ。お母さんは行くだろうし、お父さんも強引に連れて行けばいいと思う。お婆ちゃんだって懐かしいんじゃない?」
「そりゃあ行きたいけれど、若い頃みたいに京都から歩いて行けるかねぇ」
「……新幹線を使いますけどね」
本殿から物を外へと運び出します。さっきまで全身が埃にまみれていたから、すうっと心地よい空気を胸に入れました。
境内の梅雨は明けて、夏の到来を告げる日差しが注ぎ始めて、紫陽花の色はすっかり薄くなってしまったけれど、剪定して枝を切っておけば、また、来年に美しい花が咲くのです。
切っても、また、何度でも。
そうして来年も青く染まった花の群れに赤い色の紫陽花を見つけた時、私はあの日の情景を想い出して、失った情愛と絆を取り戻せるのです。
そんなことを考えつつも、今はせっせと掃除に勤しむのでした。
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退会済ユーザのコメントです
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