38 / 67
第二幕 あやかし兎の京都裏町、舞妓編 ~祇園に咲く真紅の紫陽花
19.市会論争(6)
しおりを挟む
こういう事態に直面していても、あくまでハルは冷静です。息を荒げてもいません。
「おい、薫」
ハルが弁慶さんの後ろから覗き込むようにして、私を見ました。きっと私が怪我をしていないか、聞いてくれるのでしょう。
「向きが逆だ」
「へ?」
「葛の葉。表裏が反対になっている」
左手に視線を注ぐと……なるほど、葉脈の筋が綺麗に通って、葉が内側に少しヘコんでいます。つまりこれは表側で、私は相手に葉っぱの裏側を向けて構えていることになります。
どーでもいい気遣い!
「陰陽師の若造」
義経さんが、ハルを一瞥しました。
「俺は別に五臓に肩入れするつもりはないがな。みすみす乱波者を逃がすのは気が引ける。大人しく投降するか、見事、ここから逃げてみせるか、好きな方を選べ」
「いいよ、やろうよ」
アヤメさんの口調から、抑えきれない興奮を感じます。
「捕まる気はないからね、やるならやるよ」
アヤメさんはボクサーのように両手を構えて、義経さんは刀の柄に手を添えて、弁慶さんは背中の棍棒を、ハルは術札を広げたまま動こうとしません。怒涛のチャンバラが始まりそうで、巻き込まれては大変ですから、私を含め、他の皆さんも早く逃げ出したいに決まっていますが――
ここにいる誰かが動けば、それを合図に戦が始まりそう。
しばらく、誰も動かないまま不穏な沈黙が続きました。
右手の柏餅に、手汗が滲みます。
滑って餅が落ちてしまいそうで、このままでは私の手から餅が地面に落ちた途端に乱戦に。ああ、誰か、私よりも先に動いて欲しい。リレーのピストルを鳴らす役目を負いたくない。
「喝っ!」
緊張の静寂を破ったのは、天地を揺るがす怒号でした。これを皮切りに戦闘開始、ではなくて、むしろ動けません。突風が吹き荒れ、会議の資料が部屋中に舞い、ぼっと紙に火が点いて灰になると、全身に痺れが走りました。
「全員、動くな」
静かな口調で威圧を放ったのは、一人、座ったままの玄桃斎さん。
「動いた者は、私の裁量で成敗する。もしも私と戦いたいのなら、好きにするがよい」
どうして忘れていたのか。いえ、忘れてはいなかったのですが、何も発言しなかったので、黙認されていると誤解していました。あの玄桃斎さんが表京都で、こんな騒動を許すはずがない。
「動けねぇよ、オッサン」
アヤメさんの右手が小刻みに揺れています。私と同じように、金縛りにあっているようです。
「全員、武具から手を離せ。もしもまた手をやれば、即座に滅する」
唐突に力が抜けて、動けるようになりました。他の皆さんも同様らしく、アヤメさんは両手を降ろし、ハルは札を懐にしまい、額の汗を拭う人や、へなへなと椅子に腰かける人など。私の右手からは、ぼとりと柏餅が床に落ちましたが、武器に手を触れるなとのことですから、すぐに拾うのは止めておきましょう。
「義経、柄から手を離せ」
玄桃斎さんは座ったまま、義経さんの手元を確認することなく注意しました。
「誰に上から言っている。見た目はお前の方が老けて見えるがな、実際は俺の方が遥かに年上だ」
「三十から成長を止めているなら年下のままだ。人の身ならいざ知らず、今の姿では私の術を直に受けるぞ」
「そういうのは詰まらん。子供の喧嘩に親が、とも言うが……それだけではないか。妖怪嫌いのお前が狐を見逃していた理由、何を企んでいる?」
「企んでいるのはどちらかな。連中に伝えておけ。裏でコソコソやるのは構わんが、表で事を起こせば、容赦しないと」
「やれやれ、本当に詰まらん奴だ。遊び心が足りない。まあいい。今は引くとしようか」
義経さんも柄から手を離し、弁慶さんも遅れて棍棒から手を離しました。二人は、くるっと背を向けました。
「ちょ、義経はん! こいつら、ほっとくんでっか?」
「文句は玄桃斎に言え。どのみち話し合いを続けられる空気でもあるまい」
「そ、そうでっか……確かに会議が長引き過ぎてスケジュールが押しとるな」
五臓さんは腕時計を見て、秘書の女性が頷くと、義経さんを追うように部屋から出て行こうとしました。
なんとなく騒動が着地したような雰囲気になっていますが。
全っ然、納得できない。
何も問題が解決していないまま、有耶無耶の煙に巻かれています。
「逃げる気なの!?」
私の追撃に、体を揺すって、辟易さを全身で表現しながら五臓さんが振り向きました。
「お前な、いったい何が目的なんや。そんなにワシが気に入らんのか」
「私が怒っているのは、音兎ちゃんを利用したこと。彼女に落とし穴を掘ったのは、あなたなんですからね」
「舞妓のことは、穏便に済ませる言うたやろ」
「香月さんと引き換えでしょ。ちっとも分かってない。それじゃあ、音兎ちゃんの心が救われない。非を認めて彼女に直接、謝りなさい」
「濡れ衣ばっかり着せよって。なんで問題解決に奮闘しとるワシが謝罪せなアカンねん。さては、お前、ワシを舐めとるな?」
「……くだらない。それがあなたの答え? だったら、私、ここで宣言します。音兎ちゃんを舞妓に復帰させて、香月さんの冤罪を晴らして、それから、五臓さん。あなたに非を認めさせるまで、私は戦います」
「ほう、ワシと戦うと……それで、名前はまだ、聞いとらんかったが」
「私は裏町案内人、玉藻薫」
「ワシは平安平穏党の五臓六腑や。やると決めたら、徹底するで。尻尾はもう出しとるようやけどな。降参するなら、早めにしとけよ」
ぶっきらぼうに手を振りながら、五臓さんが去りました。当惑の色を隠しきれない秘書の女性も慌てて彼を追いかけます。
しばらく、誰も言葉を発しませんでした。
少しだけ冷静になると、むしろ事を大きくしてしまったのではないかと自責の念に駆られました。これでもう、引くに引けなくなった。いい塩梅で手打ちにしておけば、少なくとも音兎ちゃんは復帰できたのかもしれない。でも、私は、自分の信念を裏切ることができなかった。私の勝手な行動で、周りまで巻き込むことに。
「今更だ」
ハルが言いました。私の表情から察したのか、まるで心を読んでいるかのよう。普段は以心伝心、とはいかないけれど、こういう場面では通じ合えるのです。
「ええ啖呵でしたよ。案内人にしとくのは惜しい」
「家訓は『やるからには全力』だっけ? だったら、とことんやってやろうぜ。アタシも、そういうの好きだしさ」
「本来は、私が言うべきことでした。何から何まで、申し訳ない」
香月さんがゆっくりと、私に頭を下げました。他の市議会議員さんも、後援会の方々も、アヤカシが表沙汰になること危惧していた市民代表の方までもが、「力を合わせましょう」と言ってくれました。
「客観的に見たら、腑に落ちない点がいくつも出てきたものね」
「分かりやすい悪役になってたし」
「厄年って、五臓さんは五十六歳ですよね。どういうことなんでしょう?」
ノートパソコンの男性が、首を何度も傾げながらキーボードを叩いている様子を見て、全員が、初めて笑いました。
私は会議室のガラス窓から、外の景色を眺めます。
ビル街を見下ろす遠くの白い雲に向かって、スズメの群れは、大きな鳥になっていました。
「おい、薫」
ハルが弁慶さんの後ろから覗き込むようにして、私を見ました。きっと私が怪我をしていないか、聞いてくれるのでしょう。
「向きが逆だ」
「へ?」
「葛の葉。表裏が反対になっている」
左手に視線を注ぐと……なるほど、葉脈の筋が綺麗に通って、葉が内側に少しヘコんでいます。つまりこれは表側で、私は相手に葉っぱの裏側を向けて構えていることになります。
どーでもいい気遣い!
「陰陽師の若造」
義経さんが、ハルを一瞥しました。
「俺は別に五臓に肩入れするつもりはないがな。みすみす乱波者を逃がすのは気が引ける。大人しく投降するか、見事、ここから逃げてみせるか、好きな方を選べ」
「いいよ、やろうよ」
アヤメさんの口調から、抑えきれない興奮を感じます。
「捕まる気はないからね、やるならやるよ」
アヤメさんはボクサーのように両手を構えて、義経さんは刀の柄に手を添えて、弁慶さんは背中の棍棒を、ハルは術札を広げたまま動こうとしません。怒涛のチャンバラが始まりそうで、巻き込まれては大変ですから、私を含め、他の皆さんも早く逃げ出したいに決まっていますが――
ここにいる誰かが動けば、それを合図に戦が始まりそう。
しばらく、誰も動かないまま不穏な沈黙が続きました。
右手の柏餅に、手汗が滲みます。
滑って餅が落ちてしまいそうで、このままでは私の手から餅が地面に落ちた途端に乱戦に。ああ、誰か、私よりも先に動いて欲しい。リレーのピストルを鳴らす役目を負いたくない。
「喝っ!」
緊張の静寂を破ったのは、天地を揺るがす怒号でした。これを皮切りに戦闘開始、ではなくて、むしろ動けません。突風が吹き荒れ、会議の資料が部屋中に舞い、ぼっと紙に火が点いて灰になると、全身に痺れが走りました。
「全員、動くな」
静かな口調で威圧を放ったのは、一人、座ったままの玄桃斎さん。
「動いた者は、私の裁量で成敗する。もしも私と戦いたいのなら、好きにするがよい」
どうして忘れていたのか。いえ、忘れてはいなかったのですが、何も発言しなかったので、黙認されていると誤解していました。あの玄桃斎さんが表京都で、こんな騒動を許すはずがない。
「動けねぇよ、オッサン」
アヤメさんの右手が小刻みに揺れています。私と同じように、金縛りにあっているようです。
「全員、武具から手を離せ。もしもまた手をやれば、即座に滅する」
唐突に力が抜けて、動けるようになりました。他の皆さんも同様らしく、アヤメさんは両手を降ろし、ハルは札を懐にしまい、額の汗を拭う人や、へなへなと椅子に腰かける人など。私の右手からは、ぼとりと柏餅が床に落ちましたが、武器に手を触れるなとのことですから、すぐに拾うのは止めておきましょう。
「義経、柄から手を離せ」
玄桃斎さんは座ったまま、義経さんの手元を確認することなく注意しました。
「誰に上から言っている。見た目はお前の方が老けて見えるがな、実際は俺の方が遥かに年上だ」
「三十から成長を止めているなら年下のままだ。人の身ならいざ知らず、今の姿では私の術を直に受けるぞ」
「そういうのは詰まらん。子供の喧嘩に親が、とも言うが……それだけではないか。妖怪嫌いのお前が狐を見逃していた理由、何を企んでいる?」
「企んでいるのはどちらかな。連中に伝えておけ。裏でコソコソやるのは構わんが、表で事を起こせば、容赦しないと」
「やれやれ、本当に詰まらん奴だ。遊び心が足りない。まあいい。今は引くとしようか」
義経さんも柄から手を離し、弁慶さんも遅れて棍棒から手を離しました。二人は、くるっと背を向けました。
「ちょ、義経はん! こいつら、ほっとくんでっか?」
「文句は玄桃斎に言え。どのみち話し合いを続けられる空気でもあるまい」
「そ、そうでっか……確かに会議が長引き過ぎてスケジュールが押しとるな」
五臓さんは腕時計を見て、秘書の女性が頷くと、義経さんを追うように部屋から出て行こうとしました。
なんとなく騒動が着地したような雰囲気になっていますが。
全っ然、納得できない。
何も問題が解決していないまま、有耶無耶の煙に巻かれています。
「逃げる気なの!?」
私の追撃に、体を揺すって、辟易さを全身で表現しながら五臓さんが振り向きました。
「お前な、いったい何が目的なんや。そんなにワシが気に入らんのか」
「私が怒っているのは、音兎ちゃんを利用したこと。彼女に落とし穴を掘ったのは、あなたなんですからね」
「舞妓のことは、穏便に済ませる言うたやろ」
「香月さんと引き換えでしょ。ちっとも分かってない。それじゃあ、音兎ちゃんの心が救われない。非を認めて彼女に直接、謝りなさい」
「濡れ衣ばっかり着せよって。なんで問題解決に奮闘しとるワシが謝罪せなアカンねん。さては、お前、ワシを舐めとるな?」
「……くだらない。それがあなたの答え? だったら、私、ここで宣言します。音兎ちゃんを舞妓に復帰させて、香月さんの冤罪を晴らして、それから、五臓さん。あなたに非を認めさせるまで、私は戦います」
「ほう、ワシと戦うと……それで、名前はまだ、聞いとらんかったが」
「私は裏町案内人、玉藻薫」
「ワシは平安平穏党の五臓六腑や。やると決めたら、徹底するで。尻尾はもう出しとるようやけどな。降参するなら、早めにしとけよ」
ぶっきらぼうに手を振りながら、五臓さんが去りました。当惑の色を隠しきれない秘書の女性も慌てて彼を追いかけます。
しばらく、誰も言葉を発しませんでした。
少しだけ冷静になると、むしろ事を大きくしてしまったのではないかと自責の念に駆られました。これでもう、引くに引けなくなった。いい塩梅で手打ちにしておけば、少なくとも音兎ちゃんは復帰できたのかもしれない。でも、私は、自分の信念を裏切ることができなかった。私の勝手な行動で、周りまで巻き込むことに。
「今更だ」
ハルが言いました。私の表情から察したのか、まるで心を読んでいるかのよう。普段は以心伝心、とはいかないけれど、こういう場面では通じ合えるのです。
「ええ啖呵でしたよ。案内人にしとくのは惜しい」
「家訓は『やるからには全力』だっけ? だったら、とことんやってやろうぜ。アタシも、そういうの好きだしさ」
「本来は、私が言うべきことでした。何から何まで、申し訳ない」
香月さんがゆっくりと、私に頭を下げました。他の市議会議員さんも、後援会の方々も、アヤカシが表沙汰になること危惧していた市民代表の方までもが、「力を合わせましょう」と言ってくれました。
「客観的に見たら、腑に落ちない点がいくつも出てきたものね」
「分かりやすい悪役になってたし」
「厄年って、五臓さんは五十六歳ですよね。どういうことなんでしょう?」
ノートパソコンの男性が、首を何度も傾げながらキーボードを叩いている様子を見て、全員が、初めて笑いました。
私は会議室のガラス窓から、外の景色を眺めます。
ビル街を見下ろす遠くの白い雲に向かって、スズメの群れは、大きな鳥になっていました。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。