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11話 先生と12月

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「すみません。先生、こんな事この時期に言う事じゃないんですけど」

前回から2週間しか経っていなかった。


「俺の事情でこの仕事辞めないといけなくて」

そう切り出された時は驚いてカップが手から落としそうになった。

(落ち着かなきゃ。こんな時こそ)

「何かあったの?」

「仕事の更新の打診があって。その、就活この仕事続けていくのが難しくなって。行きたい業界が土日はどっちか出なきゃいけない業界だから」

そこまで言われ彼を止める事は出来なかった。

今の彼の勤務状態は私は土曜の日中をお願いしているが別の曜日はたまに夕方から夜までのシフトで週に数日入っているのだ。

学業とバイトと就活はどれも全部は両立できない。

「新しい勤務先は決まってるんだよね」

「はい」

申し訳なさそうに彼は頭を下げる。

ならば誰も彼を止める理由はない。

「話してくれてありがとう。でも、もう少し早めに言って欲しかったなあ」

残念なのは事実だ。


「すみません」

榊原くんは謝ってばかりでこんな事は普段の私と彼が逆転したみたいだ。

「今のはイジワルだったよね。でも土日出勤って事はサービス系かな?」

予想し彼にピッタリだなと憶測してしまう。

「何で分かったんですか?」

「作家ですから。想像力だよ」

と冗談まじりに言うけど彼はいたって真面目に感動している。

「榊原くんならどこだってやっていけるよ。
だって私毎回快適だったし」


「それはどうも」
と彼は調子が戻ったので少し呆れた表情になった。

彼は不思議だ。

会った最初は大人っぽかったのに、よく話すと年相応に見えるが呆れてるけど優しい表情も見ていて飽きない。

仕事じゃなくてもデートをすればたまには会える。

そう思って急ではあるが彼は月末に退職した。

しかし、予想以上に彼は忙しいのかなかなか電話に出ることができないらしい。

連絡先は勤務の関係上前に交換していたが付き合う前は水族館のみくらい。

付き合ってからたまに電話したりメッセージを送りあったりしていた。

しかし、家事代行の勤務最終日を過ぎたあたりから連絡の頻度が、さらに減ってしまった。

ここ数日送ったメッセージに既読はつくがスタンプではぐらかされてるように感じる。

(まだ、大丈夫だ)

部屋でスマホを見て大丈夫じゃないけど自分に言い聞かせる。

ふと何が大丈夫なんだろうとモヤモヤした感情が広がる。

(明日はちゃんとした返事が貰えるはずだ)

数日前に『来週どこかで会えないかな?』
と彼にメッセージで質問していたのだ。

来週、26日は新人賞だ。

彼が接客をしている限りクリスマスに会える事は期待しない方がいい。

でも待ってもはぐらかされてるばかりで何だか辛くなって来た。

(もしかして私、重たいって思われているのかな?)

胸の中のモヤは急速に黒く色付いて充満する。

その時、今になって元カレに言われた言葉がフラッシュバックした。


『ごめん、他に好きな子ができた。別れよう』

「ーッ!」

トラウマに耐えきれずしばらく寒気が覚めなかった。

デスクの普段使わない引き出しを開ける。

その中にまた箱がある。前の部屋から回収した榊原くんにしてもらった時の道具を取り出す。

自分で使うのは初めてだ。

思い切って秘部に当ててみる。

しかしスイッチを入れる気持ちになれない。

それは彼にしてほしい事だ。


グスッとこぼした涙を拭く。

涙は一向に収まらないでいる。




そうして24日になった。
彼からは一言メリークリスマスのスタンプだけが送られていた。

嬉しいはずが逆に虚しくなってしまう。
迷いに迷ったあげくスタンプを返すのに何時間もかかってしまった。

そうして25日も何もなく過ぎて行った。







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