⌘悟り令嬢の嫁入り奇譚⌘

麻麻(あさあさ)

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四章 相愛

19話 父からの宣戦布告

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静かだ。

蔵の中はシンとしていて秋だからか冷えてしょうがない。

(本当にもうここから出られないのかしら)

改めて燈子は輪島の屋敷の賑やかさに比べてここは孤独だと思い知った。

でも何故今更嫁がせて置きながら高柳の家に連れ戻すのだろうか。

女中なんて一番こき使われたとはいえ燈子は元から数に入っていない。

売り上げだって高柳は納涼祭では一位を築いている。

連れ戻す理由が分からない。

それとも単純に茉莉が言っていたように生意気だとかつまらないとかそういう理由なのだろうか?

そう考えていると何やら蔵の入り口に誰かの気配を感じた。

「輪島様っ、お引き取り下さい!」
「離して下さい。少なからず高柳殿に聞かなきゃいけない事はごまんとある」

「!」
一番聞きたかった声が外から聞こえ燈子の顔に涙が溢れた。

「カイ様!!」
今まで出した事のない大声でカイの名前を呼ぶ。

しかし、そこに割って入って来たのは騒ぎを聞いて駆けつけた父、元康だった。

「輪島殿、どうなされたんだ。燈子は風邪だ。 
また明日見舞いに来てくれというようにと伝えさせたつもりだったんだけどなあ」

「風邪の娘を蔵で療養させようなんて悪化しますよ。
それに燈子さんは屋敷で休んでると聞きましたが」

二人の間にはわずかな沈黙があった。

「それがだなあ。娘はが触れているようでねえ。
騒いで騒いでしょうがない。
仕方なしに蔵に閉じ込めて様子を見ているんだ。

それでだなあ。輪島君、君には悪いが燈子もこんな調子だ。

離縁してほしいんだ」

(え?)

燈子の背中には二つの焦りに冷や汗をかいた。

ドッ ドッ ドッ

焦りすぎて心臓が爆発しそうだ。

(どうしよう!まさかお父様全て私の事を話すつもりなの!?
それに離縁なんて嫌!!)

嫌。

はっきりとそこで燈子は嫌だと想ってしまった。

(そうか。私、カイ様の事すごく慕ってたんだわ)

やっと気づくと余計に父が余計な事を言わないか不安が余計に渦巻く。




しかし、そんな空気を壊したのはカイだった。


「風邪の後に気が触れる?そんな訳ないでしょう
見え透いた嘘を重ねて何をそんなに恐れておいでで?」

カイはジッと元康を睨む。

「英国紳士というのはもっと品性があるかと思ってたんだがなあ」
嫌味に笑いかけ元康は横にいたサヲリに話を振るがカイは巻末入れず

「そうだ。私は異国から来たただの成金です。
しかし、今年の夏の納涼祭の高柳の売り上げは前年よりは芳しくないと聞いています」
と意見した。

(ーそうだったの?)
初めて聞いた高柳の売上事情に燈子は驚いた。


これには元康もサヲリも絶句してついに怒りをあらわにし出した。

「お前が悪いんだ!
お前みたいな若造に燈子を嫁がせたばかりに!」

燈子は理解した。
(だから、私を高柳に繋ぎ止めるつもりなのね)

改めて聞くと到底そんな事は受け入れられない。

しかし、カイは引かない。

「なぜ高柳殿がそんなにお怒りに?
燈子さんを帰してくれれば私はそれでいいのですが」

「返さない。
燈子はお前には渡さない」

渡すものか!と恨めしそうに元康は激昂する。

「なぜ、そこまで彼女に執着するのです?」
「うるさい!」

ピリピリした空気が蔵の前に漂う。

すると元康は急に何かを思い出したかの様に提案をした。

「そうだ。一つ勝負をしよう。
一週間後、高柳の屋上で蚤の市をやるだろう?」

「出ろって事か?」

「そうだ。そうすれば燈子は返してやる」

(嘘!?高柳に輪島が勝つ事なんてできるの?)

急に話が二転三転して燈子の頭は着いて来れそうにない。

カイもありえない提案に呆れていた。
「正気か?」

元康殿は娘を賭け事の戦利品にしか見てないらしい。

カイは元康と格子窓からカイを見つめる燈子の目を交互に見る。

「ああ。
大丈夫だ。この子には何もしないさ」

自分の娘なのにその子呼ばわりとは他人行儀な事だ。

その証拠に燈子は諦めたように下を向いている。

それを見てカイは何かこの家の事情が分かった気がした。

「分かった。燈子さん、待ってて。必ず勝つから!」
 
それだけ言うとカイは高柳の屋敷を後にして輪島に帰るとすぐさま頼みの綱に電話を掛けた。










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