⌘悟り令嬢の嫁入り奇譚⌘

麻麻(あさあさ)

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一章 出会い

5話 輪島家当主 カイの事情

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重い空気を先に割って燈子に声を掛けて来たのはエミリーだった。

「トーコ様、お声がけするのが遅くなってすみません。どうぞこちらにお掛けください」

そう言われ、書斎にある談話をする為のソファに座る様に促されるとカイが「そうだね。一度三人で話を整理しよう」
とテーブルを挟んだ燈子の向かいに座る。

「燈子さんが言っているのは先週、三ツ橋で元康殿に会った時の事だと思うんだ。その時に輪島の業績不信の話になってね。彼なりに気にかけてくれていたつもりらしいんだ。だからつい両親が亡くなり後ろ盾がないから痛手ですと話したらー」



「ご愁傷様。若いのに。しかし、ご両親を亡くしては心細いでしょう?輪島様もお若いとはいえそろそろ輿入れされては?家の子もちょうど良い年頃がいまして。いやあ、その方が娘も喜ぶ」 
と返されたんだとカイは燈子に一言一句漏らさずに伝えると燈子は
「まあっ」
と口に手を当て驚き隣で話を聞いていたエミリーも驚く。




その様子を見ながらカイは元康との会話の続きを思い出していた。


「その方が娘が喜ぶ」と言いながらうんうんと勝手に高柳様は頷く。

ー輿入れ?俺が結婚なんてー
(父と母が亡くなって間もないのに、その上、輿入れなんて俺の心や懐にそんな余裕はない!!)

輪島の家は家具や雑貨のセレクトショップ ハリソンの名で成功した。父のジョージ・ジョゼフ・ハリソンは新しい物好きで好奇心豊かなやり手だった。

中でもアジアの国々に興味を持っていて母ハナとは
視察という名の観光で知り合い二人は一緒になった。

社長として、また珍しく自らバイヤーとして手腕を働かせる父。買い付けに出かけたまに帰って来ては小さいカイを可愛がり横には朗らかに笑う母がいた。

やがて父の跡を継ぐため一緒に仕事をし、力を付けたと思われたとこで日本でハイカラが流行っているからと自分に日本で支店に和名である母の姓の店をハリソン二号店をオープンさせ、売り上げ一位とはいかないもの日本にもハリソンを繁盛させる事ができた。

その矢先、たまたま英国で一緒に久しぶりに逢引きしていた両親は事故で他界した。

母国に一旦戻り、父と母の葬儀の後店をどうしようか考えた。

迷う事はない。日本から今すぐ撤退し、直ちに英国の本店を建て直さなければと思った。

しかし、カイは日本から撤退しがたい理由があった。

日本支店に自分を行かせると決まった時、抗議したのだ。

日本語には母のハナも話すから言葉には心配はない。

小さい頃、確かに母が住んでいた故郷を訪れた事は数少なかった家族旅行である。

しかし、それを見習いである自分にさせるのは力不足じゃないかと。

「どうして、俺に行かせるんですか。そんなに日本で商売がしたいならあなたが行けばいいでしょう?」

日本はあくまで父、ジョージが好きな国だ。

しかし帰って来た言葉はこうだった。

「そうはしたいがここ(英国)にいなきゃハナと離れる事になるだろう。
またまだ私は現役だし、お前にまだ本店を任する気はないよ」
そう言いながら父は笑う。

だったら何故自分に見習いをさせるのか。
母と一緒にいたいからって公私混同するのはいかがなものか。

言いたい事はたくさんあった。

「日本では私達の国で出来た物達が流行ってるんだ。
ハナと出会った島国でだ。
そんな場所に母国の棚やテーブルが置かれていると考えなさい。最高に楽しそうじゃないか」

そんな風に能天気に笑う父を見ているともう何も言う気はなくなった。

「流行れば!ですけどね」
と釘を打ったが父はすっかりカイが聞き入れてくれた気になったのだろう。

すぐさま日本で大工を手配し小さな別荘みたいな洋館を造り上げた。

(まったく・・・。せっかくオープンした新店が閑古鳥状態だったらこの館はどうするつもりなんだ!)
と思っていたが
「その時は別荘か、ハナとの終の住処だなあ」
と建てた本人は高笑いだ。

そう完成した輪島の新店と屋敷を見ると父は
「後は任せた。連絡はまめにしなさい」
というとさっさと母国に帰って行った。

幸い、輪島には閑古鳥は鳴かず連日賑わったが数ヶ月後帰らぬ人になってしまった。

だから本店の営業と取引を一旦停止させ、執事やメイドも帰らせ、カイは日本に残った。

「エミリーも帰っていいんだよ」
と乳母にも言って聞かせたが
「カイ一人では家仕事は難しいでしょう?」と言われ申し訳ないが残ってもらった。

しかし、そんな中さらに痛手になったのは母国の級友トーマスの高跳びだ。

「ロンドンに若いデザイナーの作品を集めたジュエリーのセレクトショップを開こうと思う」
そう言った彼に貸した金は決して安くはなかった。
結果、やはり本店は無くなり日本での商売の雲行きも徐々にブレーキを踏む様に売り上げは下降している。


そんな中、高柳様は縁談を勧めてくる。

ーいや、この場合勧めるという表現は正しいのだろうかー?

かたや繁盛してるとはいえ三ツ橋では新参者で若造な輪島。
相手は老舗の高柳。

上位互換ならどちらが上かなんて明白だ。
となると下手に出れない。


さて、なんと返そうか。
そう悩んでいる内に高柳殿は挨拶もせずに三ツ橋の会合から帰る人だかりの中に紛れ消えていった。

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