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一章 出会い

3話 ユキ

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桜が咲くにはもうしばらくの季節、昼前に外をホウキではわく燈子には楽しみがあった。

貴重な「友達」の来訪だ。
「モーニン!トーコ」
真っ白な身体にある翼をはためかせ裏庭にやってくるのはオウムのユキである。

「ユキ。モーニン」
かろうじて簡単な英語での挨拶くらいなら知識がある燈子はユキに挨拶を返すのは日課だ。

ユキとの出会いは数週間くらい前になる。
いつもの一家の朝食を片付け、簡単な食事を取り外のはわき掃除をしていると家の塀に止まっていたオウムを見つけたのだ。

初めてみる異国の鳥に燈子は驚いたがその子が言葉を喋ると燈子はもっと驚いた。

「モーニン モーニン」と英語で挨拶をする子に燈子も「も・・・モーニン」と返す。

するとその子はパァッと表情が明るくなり「ボク ユキ キミ ダレ?」とカタコトで自己紹介をされ「あなた男の子だったの?それに言葉も上手だわ」

関心する燈子にユキは「エヘン ボク テンサイ」
と喋る姿はどこか誇らしげでその姿についに燈子は笑いをこらえられず「プッ・・・ッフフすごいわあ!ユキくん本当にテンサイね」と褒めるとユキはますます上機嫌になり「ユキ ヨンデ」とまた喋るが燈子は聞き取れない。

「え、ユキくん何?」
「チガウ ユキ!」
まるでユキって呼んでと言っている彼に燈子は
「・・・ユキ?」と戸惑い声をかけると彼はまたパァッと目を輝かせ喜んだ表情をする。

(この子・・・可愛いわ!)
燈子がこんなに癒される感情になったのはこの家にいて数少ない。
ユキは「キミ ダレ」とお喋りをする。
僕も教えたから君も名前を教えてという事だろう。
「燈子。トーコよ」
「トーコ!」
ユキはそう聞くと満足気に翼を広げるとどこかに去って行った。

「あ・・・」
せっかく可愛いオウムと知り合いになれたのに・・・。

燈子は少し落ち込んだがそれは杞憂に終わった。
翌日も、そのまた翌日も燈子が掃除をしに裏に出るといつの間にかユキは塀に留まり
「モーニン! トーコ」
と挨拶をするのだ。

燈子にとってユキはたった一人の初めての友達だ。

ユキのおかげで今年から良い年を遅れそうだ。

そう安堵して束の間、父に昼食を持っていく為広間に入るなり父、元康は
「燈子、お前に面白い話がある」
と珍しく声をかけてきた。

いつも、家仕事や今日の予定しか話してこないので何事かと期待したが一体「面白い」とはいささかどういった内容か危惧する。

「本日、買い付けのご予定ではなかったと思いますが・・・」
と返すが父はまあ静かに聞けと正座させると唐突に
「同業者に若い輪島という青年がいてな。お前ももういい年だ。話を付けといたから輪島家に嫁ぎなさい」
と言われ、流石に
「はあ?」
とこれには間抜けな声を上げた。

いや、まず結婚という事が自分事になるとは思っていなかった為頭の中は疑問符だらけだ。

燈子が取り乱すなんて事は早々ない。
(一体、お父様は何を考えているの?)

一生、この生活をずっと高柳の家で送るものだと思っていた。

しかし、父の考えは違ったらしい。
「あの、輪島様とはどの様なお方でしょうか?」

先程、父は輪島様を若いと言っていた。
どうやら嫁を貰い損ねたお爺さんに嫁がせるつもりはないらしいという事は分かったが、だからといって彼が「普通の良い縁談話」を持って来るとは燈子は思えなかったのだ。

その質問に父はふむと考える仕草をする。
あまりにも私自身が取り乱すのに驚いていたし、彼なりになんて返そうか考えてるようだ。

「彼は英国から渡って来た青年だ。なんでも近頃母国で両親を亡くなったらしく落ち込んでいたよ。そのせいか最近、三ツ橋での売り上げも落ちたらしい」

(英国ー)
そう聞いて燈子は確か昨年のに聞いた父の愚痴を思い出した。

三ツ橋の店舗やオーナーの会合があった日、元廉はその日あまり見ない不機嫌な顔をしていた。

「なあに、あなた不貞腐れて」
出迎えた妻のカヲリにからかわれ
「五月蝿い。なんでもない」
とその場では黙り込む。

しかし夕飯後にチビリチビリと酒を飲みながら自慢話や愚痴をもらすのだ。

確かにその日の父は新しく海外から来た若い同業者の売り上げが伸びている事を危惧して荒れていた。
「クソ!輪島のやつ。若造の癖にしゃしゃりでおって」
時代は大正に入り、海外から輸入された家具や洋服は三ツ橋でも昔から売ってある日本製の物に比べたら人気なのは父も承知だ。

売り上げだって三ツ橋では高柳が毎度、季節事一番だ。

しかしいくらハイカラな物が流行ってるとはいえポッと日本にやって来てそればかりを売る為商売を始めた若者の同業者を父のプライドに触ったのだろう。

その輪島が今は窮地に立たされている。
そう話す父の姿はどこか愉快そうだ。


(ああ、そうか)

つまりは父にとっては厄介払いだ。
同業としての輪島様を三ツ橋から。
自分を高柳の家からあくまで「嫁がせる」体でそれができる。

「何か異論はあるか?」
(異論なんて・・・聞き入れないでしょうに)

燈子はそう思いながらも
「いいえ」
と返事をすると
「うむ。なら今日明日という訳にはいかない。
来週くらいに嫁ぎなさい」

父の命令には逆らえない。
はいと返事をしたものの燈子は
(視える私を損切りしてまで嫌いな輪島家に嫁がせるなんて父様はあくまでこんな時も父様なのね)



「ユキ・・・、ごめんなさい。仲良くなったのに」
もうすぐ会えなくなってしまう。

燈子は一人、ユキとの別れを悲しんだ。




















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