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最終話 私の王子様
しおりを挟むそうだ。
彼に無事でいてほしい。
いてもだってもいられず裏庭に陣を描いて真ん中に立ち祝詞をとなえ祈祷する。
私の得意分野だ。
(お願い、無事でいて!)
その時、空に白い鳥が見えた。
父様の白鳩だ。
この子は賢く脚に文を巻き付けいる。
(父様から手紙!)
それは私に後宮に戻るよう
手紙だった。
エイレン様の記憶が戻ったのだ。
衛兵と一緒にいつも地下牢の入り口に来るとそこには父や姉、皇子の姿もあった。
(それとシュウ様!?)
衛兵により捕らえられたシュウ様が
「私は無実だ!」
といつもの温厚そうな様子からは考えられない形相で衛兵から逃れようとしていたが、反対に力強くで彼らによって取り押さえられていた。
「これは、どうゆう事?」
唖然と立ち尽くしているとエイレン様が衝撃的な言葉を放った。
「私を陥れたのはそいつだ」
あまりの事態に驚いていると父が私に
「お前を香で弱らせ術に使う霊薬などを奪ったのもコイツだ。こんなものを香に使うとはゾッとする」
と言われ父が花を一輪地面に捨てた。
確かキョウチクトウ!
あれの煙を吸うとひとたまりもない。
助かったのは奇跡だ。
「私も同じ手口で葬ったな。兄上をそそのかし、
私の意見が通らなかった事を兄上が気に病んで直接詫びる事をためらったのか文で謝られるのはまだいい。しかし、私に手紙を渡したのはシュウ氏お前だ。
あの時、景気付けに酒を勧めたのはお前。
そしてメイユイまで葬ろうとした
何がしたい!」
エイレン様に糾弾されシュウ師は口を割る。
「大人しくしないお前が悪い!化け物のくせに、まだ私にたてつく気か?
私の占いを無視し行動し挙句、導師が関わる政治にまでとやかく口を出す。
大人しく私の言う通りにしておけば良いものを!」
「そんな、ひどい!それだけの為にエイレン様を殺めたなんて」
「私はこの宮廷の導師だ!
私の言葉こそが信託なのだ!!
女のお前に私の苦労が分かるわけがない!」
黙っとけ!
と私を罵声するシュウ氏にエイレン様は胸ぐらを掴んだ。
「離せ、化け物!」
目の前に立ちはだかるエイレン様にシュウ氏は腰を抜かした。
「メイユイを女だからと馬鹿にするな・・・。
良いか今の私は霊薬のおかげで人でもキョンシーでもないのだ。
今しがたお前の事は皇帝の耳に入っている。
これがどうゆう事か分かるな」
そう鋭い眼孔でシュウ氏を睨むと
「連れてゆけ!」
と彼は衛兵に命じた。
こうしてその場には父、姉と私。
そしてエイレン様だけとなった。
「エイレン様、先程のキョンシーではなくなったというのはどうゆう事でしょう?」
その言葉に父が反応した。
「私から話す。彼の記憶がお前の手紙についたキョウチクトウの匂いで戻ったらしい。
そこからの回復は早く
邪気もたちどころに引いてしまったよ。
本来なら心身は最高潮まで回復し、死人はそのまま朽ちて亡くなるまでが霊薬の役割だ。
生者の怪我や病気を治すが死人の魔や邪気を祓い普通の亡骸に戻すのがこの霊薬。
しかし、彼は不思議でな。
心身が回復した後に倒れもしなく
生きている人間同様にしておるし、邪気もないのだ。
こんな症例は初めてだ」
これにはエイレン様本人も驚いている。
「私は一度死んだ身。
生きている事は喜びたいが、やはり生き物としては不自然だな。
民には亡くなった事は伝わっているから今さら生前通りには暮らせん」
大所帯でエイレン様をどうするか皆で悩んでいると皇帝が現れた。
「全て聞いた。
もうこうやって話す事はできないと思ったぞ」
安堵し皇帝はエイレン様に駆け寄る。
「あに、・・皇帝、私も嬉しいです」
「こら、兄上で良い」
そう笑い合う2人の過去のわだかまりはとっくに消えていた。
そして私達に皇帝が向き合うと礼を言われた。
「そなた達のおかげで弟は救われた。
チョウ殿、宮廷導師が後宮にいなくなった今、そなたを新しい後宮の導師に任命したい」
その言葉に父は
「もったいなきお言葉」
と跪きこれにはその場にいた皆が喜んだ。
そして皇帝はエイレン様についても話した。
「すまない、エイレン。
お前を後宮に残したいのは山々だ。
しかし、お前は人ではない存在だ・・・」
「分かっている。私は皇弟の身分を捨てようと思う。
しかし、身を寄せる場所がない。
だからチョウ殿よ、お願いだ。
私を遣いとして側に置いてくれないだろうか」
これには私を含め、その場にいた皆が驚いた。
父は悩み、私に向き直る。
「お前が皇弟君に宛てた手紙を私も読んだ」
(嘘!父様に読まれるなんて。
想像しただけでも恥ずかしいのに!)
しかし父は
「あの手紙のお前の気持ちに嘘はないか?」
と聞かれ
「はい」
と答える。
(エイレン様が恋しいのは本当だ)
「ならば師からの命だ。
今後、街での祈祷はお前に任せてエイレン様と一緒に仕事に取り掛かるようにしなさい」
(え?嘘)
父様に私が認められた。
その事実が嬉しく精一杯頷く。
「メイユイ、よかったな!これからよろしく頼む」
「はい!こちらこそよろしくお願いします」
これには姉も喜ぶ。
「よかったじゃない。
でも好きな相手が四六時中側にいるからってだれた生活を送ったらダメよ」
と姉に咎められ
「姉様、何をいきなり!」
と照れていると
父様もゴホンと咳をした。
「巫とはいえ結婚してはいけない決まりはない。
幸せになりなさい」
そう父に言われ
信じられない嬉しい出来事に涙を浮かべると礼を口にする前にエイレン様に抱き抱えら口付けをされてしまった。
「エイレン様!?」
人前で恥ずかしいのに彼は何度も私の口を吸う。
「ああ、ヤダ。
妹に先を越されたわ」
姉様がそう吐き捨てる。
やれやれと父は苦笑した。
それから半年ほど。
「メイユイ、街のリー家に子どもが生まれたらしい。
祈祷の依頼が入ったぞ」
エイレン様は近所の子を連れて小さな家に戻ってきた。
仕事がないか彼は街の人の人助けをしつつ営業をかけているのだ。
物腰が柔らかい彼に街の子ども達は懐いていた。
後宮の件で頂いた金で街に小さな家を買った私達は夫婦2人で祈祷を仕事に暮らしている。
「メイユイ様、こんにちは」
「はい、こんにちは。エイレン様もお疲れ様です」
と彼の脱いだ上着をもらう。
「ねえメイユイ様、どうして2人は夫婦なのにエイレン様って呼ぶの?」
そう子ども達に聞かれ、無邪気な質問に真剣に悩む。
確かに元皇族だからかクセが抜けないのだ。
これにはエイレン様もハハっと笑い
「私としては呼び捨てでも構わないんだが」
どうしたものかなあと子ども達に彼は笑ってみせる。
彼らはなんでなんでーと素直に疑問をぶつけてくる。
返答に困っていたがこれだけは確かに言える。
「エイレン様は私の王子様なのよ。だからエイレン様と呼ぶの」
そう言うと明らかにそう呼ばれた彼の口角は上がっていた。
子ども達はおお!と納得したのか笑い合うと
仲良く家路に戻っていった。
エイレン様は私の返事に満足し
「そうか、そうか。
私はメイユイの王子か」
とからかった。
「本当の事ですよ」
そう答えると彼はさらに満足そうに私に口付けをした。
庭に咲いた梅の花達が見つめ合う2人を見下ろしていた。
【完】
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