上 下
7 / 7

最終話 元宝石店勤務の非モテOLでしたが幸せになります!

しおりを挟む

城とグレイとの別れは以外とあっさりしたものだった。

馬車で店の前まで送ってもらい
「お元気で」と彼は礼をし自分を見送った。

家族は久しぶりの娘の帰還と褒美に喜んだが、なんだかやりきれなさを感じながら翌日からまた店頭に立った。
ケースを拭きながら思い出すのは彼の冷たい声や時折り見せるイタズラっぽい表情ばかりが思い浮かびため息が出た。

どうも最近、気分が優れない。

休憩中、裏口から出て散歩でもしようと家を出ようとした矢先、店の前に馬車が止まる音が聞こえた。

(せっかく気分転換しようと思ったのに)

父や母が店には残っているがわざわざ遠方から来た客を迎えない訳はいかない。

すぐ様店内に戻ると母はバタバタしながら店先に降り立つお客を店に通す。

その相手を見て驚いた。

グレイだ。


「グレイさん、何故また急に家に?まさかまた仕事ですか」との問いに

「当たらずとも遠からずですが」
と彼は答えた。

「エメ・ウィリアム様にお願いが3つ依頼があって来ました。
率直に申し上げますとあなたに王室の宝石商として雇いたいと妃からお願いがありました」


「え」

本当なら大出世だ。


どうしようと迷ってるが隣にいた両親は大喜びだ。

「それともう2つお願いがあります」
と彼は勿体ぶるように言う。

「ルビーを買い付けたいのです。明るい桃色のルビーでおすすめな物をあなた好みに加工して指輪にして欲しいのです」
と何故か彼は緊張したように上擦った声で頼んできた。

なんと羨ましい依頼だろう。
「お妃様からの依頼ですか」と尋ねると彼も側にいた両親もため息をついた。


「アンタねぇ」と母に言われたが意味が分からず困惑していると父はまあまあと母を宥め裏に2人で戻ってしまった。

「私、何か可笑しな事を聞きましたか?」
とグレイ様に問う。

「依頼主は私ですよ・・・。あなたさえ嫌じゃなければ機会があれば指輪の一つは渡したいと思っていましたが」

と言われまさかの展開に顔が薔薇色になる。

「あれから私も褒美をもらった訳で貴方に礼くらいはできるようになりましたよ」
と素直に言葉にしないとこがイジワルだが今はそのやり取りに乗る事にした。

「グレイ様、3つ目のお願いを教えてくださいな」
と彼からの言葉をねだると彼はやっと素直に
「エメ様、私と結婚して下さい」とプロポーズをしたのだった。






城での仕事は行事尽くしだ。

執事長なら尚更で、今は王の生誕を祝う為準備をしている。

自身にとって毎年の事ではあるが、新たに城で雇われた「彼女」は余りにも1人で初めての行事の仕事を体験した為
今頃自分の淹れる紅茶やスコーンを心待ちにしているに違いない。

ふと自分の手袋の下をなぞるとそこには確かに銀の指輪の感触があった。

昼はお互い妻とは離れて仕事をしている為
「彼女」がデザインした裏にルビーを埋め込んだシルバーの指輪が自分達を繋いでる物と感じる。

部下達に君達も休憩するようにと伝え昼下がりの
「彼女」の仕事場に台車を持って向かう。

「仕事のしすぎですよ。どうですか◯◯は?」 
と、手袋の上で一輪の薔薇に桃色の水滴のデザインの指輪をした「彼女」に問う。

テーブルの上には様々な宝石が置かれデザイン画を元に彼女はここにはこれ?いや、これ?と自分には分からないが恐らくはどの宝石を使うかを必死に選んでいた。

「これはまだ時間がかかりそうですね」
と一緒になってテーブルを覗く。

「あ、グレイさん!待ってください。あと一箇所宝石を選んだら休憩しますから」
と彼女は言うがそう言って以前、何分待たされたであろう。

先にお茶を淹れ
「冷める前に飲みなさい」
と強制的に「彼女」、もとい妻であるエメに言うことを聞かす。

渋々分かりましたと彼女は紅茶とクッキーを喜んで頂く。

(まったく、実に手が掛かる妻だ)

美味しい、グレイさんもどうですかと自分のカップをエメはグレイに渡す。

「はしたないからやめなさい」と彼女の親切に遠慮すると
「ええ・・!これからはお茶の量は減らそうと思ったからグレイさんと昼休みの時間を楽しく過ごしたかったのに」
としょんぼりされた。

一体なんのつもりなんだ。

「お茶なら君はいつも飲んでいるでしょう。減らすならお茶よりお菓子でしょう」
と叱ると
「・・・それは・・、そうなんですけど。
一日も3、4杯は多すぎるから控えるようにって先生が・・・」
とゴニョゴニョ彼女は言い訳を濁す。

一体何なんだ

(先生と言った?なんの先生か。
カフェインならコーヒーよりも少ないし1、2杯なら妊婦に問題はない・・・)

「!」
自分が言いたい事が自分に伝わったのが分かったのか彼女は赤面して俯いてる。

彼女は身籠ったのだ!

信じられない事態にただ、彼女を抱きしめると腕の中で彼女は微笑んだ。





今、新しい宝物がゆりかごの中で眠っている。

女の子だ。

この子は将来どんな光を掴むのだろう。

その指には母から送られた可愛らしいリングがはめられている。

それはただスヤスヤ眠る持ち主を見守る様にキラキラ輝いていたのだった。

【完】











しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...