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最終話 生贄少女の幸せな結婚

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「旦那様できましたよ。桃酒です」

神前式が終わりその夜、また私は彼に盃を渡す。

「おう。呑もうか」

乾杯と満月の前で盃を交わす。



「美味いな」
と旦那様は満足そうだ。


よほど美味しそうに飲むので
「旦那様は桃酒がお好きなんですね」


と聞くと

「お前さんが初めてワシにくれたもんじゃからな」

と恥ずかしげもなく言う彼に照れる。


「あれはお近づきの印です」
桃は嫁入り道具と一緒に持ってきたまでた。


しかし旦那様はきょとんとしていた。

「ああ、お前さんにはそれが初めてじゃな」
と含み笑いをしたので、その意味深な態度が気になってしまう。

「ワシが小蛇だった頃、お前さんの屋敷の畑でワシ達は会っているんじゃよ」

旦那様は唐突に告げると外に出た。

「旦那様、雨が降っていますよ」
雨傘を取りに行こうと思ったが
「かまわん。すもも、少し離れておくれ」

と言われ旦那様の言う通りにする。

すると目の前から旦那様が消えたかと思うと社の下から金色の光を放った白蛇がひょっこり顔をだした。

いつもだったら怖がるところなのにその大蛇は神々しく美しかった。

「綺麗な蛇さん」
と思った言葉を溢すと大蛇から返事が返って来た。

『すもも』

「!」
その声に覚えがあり驚いた。


旦那様の声だ。

「蛇さんは旦那様なのですか?」

そう問う私に
『そうじゃ。これがワシ本来の姿じゃ。
お前、蛇は苦手じゃろ?怖くないのか?』

と聞かれたが首を横に振ると旦那様は驚いた。

『ワシがまだこの姿で小さかった頃、お前さんは弱ってたワシをかくまってくれたんじゃよ。お前さんのくれた桃は甘かった。ありがとう』

そう言われ私は遠い記憶を遡った。


思い出した。小さい蛇を!

あの時、お父様は子どもの姉や私に怖かった。

でも父に怒られたまだ小さな蛇はもっとかわいそうだった。

私は娘だから父様に殴られるまではされなかったが目の前の蛇はあまりにも痛々しかったのだ。

初めて守りたいと思ったのだ。

厨房の壊れた樽を持って来て蛇が食べ物と水分を取れるよう桃を細かく切って樽に入れた。


なんとか警戒しながらも樽に入った蛇は大人しくなって明日まで元気になるか心配だった。

その姿を次の日見せる事はなかったがどこかで元気に過ごしてるといいなと思っていたのだ。


全てが繋がった。


「旦那様だったんですね」

いつの間にか旦那様はいつもの人の姿に戻っていた。


「黙っていて悪かった。蛇が苦手と言っておったから言い出せんかった」

と彼はしゅんとしていたが気遣いが嬉しかった。

「蛇は苦手ですけど旦那様の蛇の姿は別です。
綺麗でしたよ」
と言うと

「男に綺麗はないじゃろ」
と叱られた。

そういうつもりで言ってないのに。

「いいえ、初めて会った時から旦那様は美しかったです」

と言うと彼は呆れたのか
「そうか」と残念そうだ。


彼に機嫌を直してもらいたく持って来た桃を差し出す。

「一緒に食べましょう。旦那様」
と言うと彼は
「仕方ないわい」
とまんざらでもないように笑った。


雨はまだこの村に降っているみたいだ。

「旦那様のおかげで村の干ばつは無事なおりそうですね」

と言うと

「そうじゃな。良い嫁を貰ったし役目は果たさんとな」
と言われ耳が熱くなる。


「なあに、本当の事じゃろ?
今更離さん。狐神のとこにも行かさんからな」

と旦那様はやはり稲荷様を敵視しているらしい。

「行きませんよ。私、確かに稲荷様は豊穣の神様ですけどお米は作れませんから」

そう返すと旦那様は
上手いことを言うとハハハと笑った。





こうして、村で醜いと言われていた娘は無事、蛇神様に嫁ぎ幸せに暮らし

彼らの村には今、新しい村長と美しい花嫁が村を治め、たまに降る優しい雨によって村全体に平安が訪れ、水と食料に困る事のない立派な村になりました。

時折、雨が上がった後の空には龍みたいな大蛇みたいな雲がかかり村人がそれを見上げている光景が多々あります。



全て昔のおはなしです。


【完】





































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