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最終章
5-8クリスマス、大切な人に送るお茶
しおりを挟む「早く後宮に帰らねば」
ただが雑用係の名ばかりの宦官だ。
しかし役職を放棄したい訳じゃない。
そうして帰り道を歩いているとある事が頭に浮かんだ。
(そういえばここは桃麗様の屋敷の近くだ)
彼女が出て行って半年近くが経つ。
「お前も彼女に会いたいか?」
明明は元気に「ニャア!」と返事をする。
決まりだ。
歩くと広い広い屋敷の前に着いた。
しかし、なにかがおかしい。
その外観は荒れており中に人がいる気配がしない。
場所は間違いないというのに。
しばらくそこを彷徨いていると後ろから声を掛けられた。
「お前さん、なにもんだ?この屋敷になんか用か?」
この村人だろうか。
宦官という事と事情を話すと彼の態度は変わった。
「これはご無礼を!お許し下さい」
男は屋敷の側に住む者だった。
「いえ、気になさらないで。そこでこの屋敷の者たちは?」
「確か5年くらい前に西に移って行きました」
「5年前!?」
(どうゆう事だ)
時間は緑仙が宦官になるずっと前になっている。
「失礼、今はいつですか?」
年号を告げられ驚く。
緑仙が後宮を出てなんと5年の歳月が過ぎていた。
(からかわれている!?いや。でもそうでなかったら悪い夢だ)
しかし今はそれも気になるが桃麗だ。
「取り乱して申し訳ない。それでこの屋敷の者達は?」
と緑仙は再度聞くが
「・・・」
男は口を割ろうとしない。
いや、口にしようか迷ってるのだ。
「お嬢様は亡くなられました」
「!!」
「楽器や詩がお上手でうちの娘もお嬢様に胡弓を習ってました」
そうして男は気を利かせ、緑仙を自分の家に上がらせて桃麗に胡弓を習っていた娘と話をさせた。
「先生に手解きを受けたのは1年でしたが楽しかったです。
でも先生、お身体が徐々に悪くなっていって寝てる事も多くなってそのまま。
そういえば先生、お茶も習っていた事もあったようで桃の茶を淹れてもらいました。
お茶とは言えないけどって笑って言っていましたけど」
娘は話を続ける。
「先生は不思議な人でした。
よくふざけるのに春に桃の花が咲くと
『私、桃麗でよかった。
別れ際の男には花を贈るといいってあるでしょう
あれってなかなか良い案よ
花が咲けばあの人は桃のお茶を飲んで私を偲ぶわ
』
って言うから
あの人って?って聞いたら
『私にこのお茶を教えた人』
って。
だから春にはあのお屋敷には桃がたくさん咲いてました」
娘から話を聞き終わり緑仙はふらふら家を後にした。
さっきから自分がどんな顔をしているか分からない。
思えば桃麗は元々うまいのにも関わらず胡弓や詩吟もよく練習していた。
身なりに更に気を使うようになったのも緑仙が来てからだ。
そのくせ皇帝に聞かせればって言えば空返事。
(今になって隠すの下手がすぎる。
そう何回も振るな
一度でも口にしなかったくせに)
「・・・っ!・・・ぐっ」
地面にボタボタ涙が落ちる。
『好きよ』
少し緊張した彼女の顔に動揺した時の事を思い出す。
そこでやっぱりあれは恋だっんだとやっと分かった。
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