長崎あやかし茶房 桃花源（とうかげん）へいらっしゃい 〜中国茶は人を救う〜

４章

4-2 季節はずれの康乃馨茶（カンナイシテー）はカーネーションのお茶

健康診断の帰り道。

美味しそうな香りに釣られて由香子（ゆかこ）は中華街に立ち寄った。

別に異常は見つからなかったけど仕事環境には悩みがある。

工場勤めは寒い。

娘を大学に行かせ、実母の介護が終わり派遣を探した。

女1人手で育てて娘には離婚もしたしヤングケアラーまがいな事をさせ、いい母じゃなかったが娘が薬剤師になりたいと言った時は驚いた。

貯金してきて心からよかったと思った。

娘は聞き分けも面倒見もいい。

今まで家に縛り付けていた分、一人暮らしもしたいと言われ心配したが、せめて見守ってやるのができる事。

そう決めたら娘に対して感じていた罪悪感も薄れた気がした。

娘が自立しようという気持ちにこっちが励みをもらった気がし、派遣を探した。

見つけたのは調味料を作る会社。


不器用だから調理じゃなくてよかったと思った。
だが工場内は思いの外寒い。


今日も採血も時間取らせた。

「歳かなあ」
朝から絶食したからお腹が空いたままだった。

気がつくと中華街近くまで来ていた。

一人じゃレストランは無理だけどいい匂いに負けて中に入って食べ歩きをしようと決めた。

普段食べない分、肉まんが美味しく感じる。　　
少しだけお腹に入ると少し元気になった気がした。

（さて、次はなんば食べよう）

しばらく歩くがなかなか座って食べれる店が少ない事に気づく。

由香子もここに来たのは久しぶりだったので忘れていた。

中華街の難点はそこだ。

「やっぱり、コンビニに行こうか」

そう呟くとどこからかニャアーンと猫の鳴き声が聞こえた。

どうやらメイン通りの横から聞こえた気がした。

由香子は猫が好きだ。

声のする方に行くと一軒の店があった。
立て看板の下で猫がごろんと横になりペロペロ自分の身体を舐めている。

「アンタここん子ね、可愛かね」
と撫でると猫はコローンと伸びをしながら由香子のナデナデを受け入れる。

看板を見ると美味しそうなティーセットの写真と喫茶店2Fの文字に惹かれ由香子は店に入った。