3 / 43
一章
1ー3 一期一会の中国茶屋 白瑞香(はくずいこう)の巻
しおりを挟む「ここ、二階もあるんですね」
そこにはロープに「立入不可」の張り紙がしてある。
「そうですね。一応広い広間があるのですがうちはこの通りお茶しかありませんからねえ。
となるとスペースはここで事足りるので持て余してる次第なんですよ」
確かに。
飲食スペースならこのベンチの横にカウンターが数席ある。
素敵なところなのになんだか勿体ない気分だ。
それは売れないシュウマイになんとなく重なった。
「一応、お菓子もお茶受け程度ならあるにはあるのですが」
そう言うと店員は小さなお盆を桃花の前に置く。
「ありがとうございます。
これはなんてお菓子ですか?」
懐紙の上には赤い木の実に水飴を絡めた様な丸い飴のような物がある。
「千紅棗(ガンホンザオ)という棗(なつめ)を干したものです。少し酸味がありますが中国では好まれますね」
そう言われると興味が湧く。
「頂きます」
と桃花は一粒たべるとパリパリしてもう一つ口にしたくなる。
そんな桃花の反応を店員は読んだのか後ろでいそいそまた茶を淹れ彼女に渡す。
「・・・何から何まですみません」
我に帰り彼に謝る。
「いえ。
気になさらないでください。
うちはお客様が少ないので良い反応が頂けて嬉しいのです」
(聖人だなあ)
彼の優しさが沁みた。
「あの、私こそありがとうございます。
ちょうど私も仕事の合間に立ち寄って素敵なお店を知れてよかったです。
実は私、広報志望だったんですけど営業になって。
全然売れないんですけど見習わなきゃいけないなって思いました」
「恐縮です。
そうですか。じゃあそちらは会社のお荷物だったのですね」
「はい」
そう話しながら名刺を渡す。
「丸山中華本舗、あの有名な」
「ご存知でしたか?嬉しいです」
「はい。たまに買わせて頂いてます。
餃子は確か鍋に入れても美味しいんですよね」
桃花はパアッと救われた気持ちになった。
(この店員さん通だ!)
「うわあ、アレンジして下さって嬉しいです」
「いえ。また夏場は生姜を溶かして食べると美味しいんですよね」
「ありがとうございます。そう言って下さって」
つい、愛用者に良いレビューを貰い話が盛り上がってしまった。
「あ、風邪っぽいの治ったかも」
そういえばさっきから痰も絡まない。
「しかし、お茶は薬ではありませんからやはり続くようでしたら病院に行かれた方がいいかもしれませんね」
「ですよね」
次の休みに内科を受診しようと桃花は決心した。
ようやく雨が上がり会社に戻れそうになって来た。
「すみません。天気が良くなってきたので会社に戻ります」
「はい。気をつけて」
ひとときだったが楽しい時間になった。
ご馳走様でしたと店を去ろうとする時、桃花は思い出した様に振り向いた。
「これ、よかったらこれお一つどうぞ」
それは紙袋から出した冷凍シュウマイだ。
「売れ残りで申し訳ないのですが」
「気にしないで下さい。お、これは見た事ない商品ですね」
「新商品のエビシュウマイです。
普通にお醤油に付けて食べてもいいんですけどレモン汁に胡椒もおすすめの食べ方です」
とアピールも忘れない。
「はい。試してみます」
そう言われ桃花は今度こそ店を去った。
「随分楽しそうだったじゃないの」
店の奥から聞き慣れない高い女の声がした。
「いいじゃありませんか。それに迎様だってあなたが気づいて連れてきたでしょう」
店員は女の声に無視し千紅棗(ガンホンザオ)を口にする。
「従業員用のおやつなんて言っちゃって。そんなに引き止めたかったならまた来て下さいって念押ししたらよかったじゃないのよ」
フフンとイタズラっぽく女の声は笑う。
「五月蝿いですね、あなたは。
その様な事が続くようならその首に首輪を付けまよ」
「緑仙(リューシェン)は鬼畜なのね。それにあの桃プリン、私が作ったのよ!せっかく2つ作ったのにあげちゃうなんてどうゆうつもり?」
さては残りはもう食べたんじゃないのかしらと女の声は納得できないと不機嫌だ。
「心配しなくても冷蔵庫に残ってますよ」
そう言いながら残りのプリンを出す。
「なんだあるじゃない。ならいいのよ」
頂きまーす。
声の主はあーんとプリンにかぶりつこうとした
が
「あー!」
ヒョイっと先に緑仙が一口頬張る。
「なんて事するのよー!アンタの一口デカいのに」
女は小さい身体が憤怒の感情をプンプン丸出しだ。
「分かりました。大人気なかったです」
「分かればいいのよ」
フン!と謎の女はプリンを頬張り機嫌を戻したのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる