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一章

1ー3 一期一会の中国茶屋 白瑞香(はくずいこう)の巻

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「ここ、二階もあるんですね」

そこにはロープに「立入不可」の張り紙がしてある。

「そうですね。一応広い広間があるのですがうちはこの通りお茶しかありませんからねえ。
となるとスペースはここで事足りるので持て余してる次第なんですよ」

確かに。
飲食スペースならこのベンチの横にカウンターが数席ある。

素敵なところなのになんだか勿体ない気分だ。
それは売れないシュウマイになんとなく重なった。

「一応、お菓子もお茶受け程度ならあるにはあるのですが」

そう言うと店員は小さなお盆を桃花の前に置く。
「ありがとうございます。
これはなんてお菓子ですか?」

懐紙の上には赤い木の実に水飴を絡めた様な丸い飴のような物がある。

「千紅棗(ガンホンザオ)という棗(なつめ)を干したものです。少し酸味がありますが中国では好まれますね」

そう言われると興味が湧く。

「頂きます」
と桃花は一粒たべるとパリパリしてもう一つ口にしたくなる。

そんな桃花の反応を店員は読んだのか後ろでいそいそまた茶を淹れ彼女に渡す。

「・・・何から何まですみません」
我に帰り彼に謝る。

 
「いえ。
気になさらないでください。
うちはお客様が少ないので良い反応が頂けて嬉しいのです」

(聖人だなあ)

彼の優しさが沁みた。
「あの、私こそありがとうございます。
ちょうど私も仕事の合間に立ち寄って素敵なお店を知れてよかったです。

実は私、広報志望だったんですけど営業になって。
全然売れないんですけど見習わなきゃいけないなって思いました」

「恐縮です。
そうですか。じゃあそちらは会社のお荷物だったのですね」

「はい」

そう話しながら名刺を渡す。

「丸山中華本舗、あの有名な」
「ご存知でしたか?嬉しいです」

「はい。たまに買わせて頂いてます。
餃子は確か鍋に入れても美味しいんですよね」

桃花はパアッと救われた気持ちになった。
(この店員さん通だ!)

「うわあ、アレンジして下さって嬉しいです」
「いえ。また夏場は生姜を溶かして食べると美味しいんですよね」
「ありがとうございます。そう言って下さって」
つい、愛用者に良いレビューを貰い話が盛り上がってしまった。

「あ、風邪っぽいの治ったかも」
そういえばさっきから痰も絡まない。

「しかし、お茶は薬ではありませんからやはり続くようでしたら病院に行かれた方がいいかもしれませんね」

「ですよね」
次の休みに内科を受診しようと桃花は決心した。

ようやく雨が上がり会社に戻れそうになって来た。


「すみません。天気が良くなってきたので会社に戻ります」
「はい。気をつけて」

ひとときだったが楽しい時間になった。
ご馳走様でしたと店を去ろうとする時、桃花は思い出した様に振り向いた。

「これ、よかったらこれお一つどうぞ」
それは紙袋から出した冷凍シュウマイだ。
「売れ残りで申し訳ないのですが」
「気にしないで下さい。お、これは見た事ない商品ですね」
「新商品のエビシュウマイです。
普通にお醤油に付けて食べてもいいんですけどレモン汁に胡椒もおすすめの食べ方です」
とアピールも忘れない。

「はい。試してみます」
そう言われ桃花は今度こそ店を去った。



「随分楽しそうだったじゃないの」
店の奥から聞き慣れない高い女の声がした。

「いいじゃありませんか。それに迎様だってあなたが気づいて連れてきたでしょう」

店員は女の声に無視し千紅棗(ガンホンザオ)を口にする。

「従業員用のおやつなんて言っちゃって。そんなに引き止めたかったならまた来て下さいって念押ししたらよかったじゃないのよ」

フフンとイタズラっぽく女の声は笑う。

「五月蝿いですね、あなたは。
その様な事が続くようならその首に首輪を付けまよ」

「緑仙(リューシェン)は鬼畜なのね。それにあの桃プリン、私が作ったのよ!せっかく2つ作ったのにあげちゃうなんてどうゆうつもり?」
さては残りはもう食べたんじゃないのかしらと女の声は納得できないと不機嫌だ。

「心配しなくても冷蔵庫に残ってますよ」
そう言いながら残りのプリンを出す。

「なんだあるじゃない。ならいいのよ」
頂きまーす。

声の主はあーんとプリンにかぶりつこうとした


「あー!」

ヒョイっと先に緑仙が一口頬張る。

「なんて事するのよー!アンタの一口デカいのに」
女は小さい身体が憤怒の感情をプンプン丸出しだ。

「分かりました。大人気なかったです」

「分かればいいのよ」
フン!と謎の女はプリンを頬張り機嫌を戻したのだった。


































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