25 / 45
十二本目 開け扉、走れ探偵
しおりを挟む
「うーん、いないなぁ」
「いないのですぅ」
前回のエンカウントから、はやくも二週間が経過した。あれから完全空き巣の被害報告も上がっておらず、かなり警戒されているようだ。
「でも、向こうもいつまでも出てこない訳にはいかない。きっとそろそろ見つかるはずよ」
「ええ、もうひと頑張りなのです」
と、この一週間言い続けてる。そろそろ体力的にも、溜まってる仕事的にも、解決に持っていきたいところだ。
「そういえば、どうして榠樝が来てるの?」
「え、迷惑だったのですか?足を引っ張ってましたか?」
「いや、そうじゃなくて。むしろ助かってるよ、警察手帳とか」
「む、なんだか私の方が警察手帳のおまけみたいなのです」
「あはは、ごめんごめん。そんなことないよ、大丈夫だから。でも、なんでわざわざ警部自ら依頼に来て、捜査にも参加してるのかなって。警部って現場指揮の統括みたいな仕事でしょ?」
「ええ、まあ、私なりに思うところがあったのです。私が行きたいって思ったのです」
「へー、ま、深くは聞かないよ」
「助かるのです」
「あ!いた!」
あれから2時間ほどたった頃、ついに見つけた。街はもう赤色に沈み、空にはとっくに宵の明星が輝いている。
「今度こそ、しっかり作戦も立ててきたのです。理香は車で待機してください。私が降りたら、少し追い越した所に停車。いつでも動けるようにしておいてください。くれぐれも飛び出さないように」
「はーい、承知しました。まっかせといてよ」
「ホントに大丈夫なのでしょうね?なんとなく嫌な予感が」
二人が所定の位置についた。ハザードランプに明滅する塀に囲まれている。開けられるものは無い。一方は車で、他方は榠樝さんが塞いだ挟み撃ちの形。
「………ちょっと、そこのフードの人、少し、お時間、よろしいですか」
ゆっくりと近づく。ゆっくりと喋りながら、警察手帳を出しながら、いつでも動けるよう膝は曲げながら。
「………………」
フードの向こうからは声は聞こえない。こちらを背にしているのでまったく表情は伺えないが、微かに揺れる頭は、この状況をどうにか打開できる方法を探しているように見える。
バッ
突如フードが振り向いた。と、そのまま榠樝さんに突っ込んでいく。
「くっ、やはり来ましたか。ですがこちらも生半可な気持ちで来てないのでね!」
迎撃態勢をとる。パーカーの袖が伸びる。キードで開けさせるつもりだ。
「どっ、けーーーー!!!」
初めて聞こえたその音は、思っていたより高かった。
が、その勢いは両者の接触寸前で削がれる。フードが少し持ち上がる。一瞬チラリと見えたその奥には、見開かれた目があった。
「どうしました?来ないんですか?来ないですよね。だって、予想外でしたよね?キードが発動しないなんて」
狼狽えるように固まったパーカーを、勝ち誇って見下す。
「前回恥ずかしい思いをさせられたのでね、こちらだって対策のひとつぐらい立ててきますよ。ふふふ、今着てるこの服、実は少し仕掛けがしてあるのですよ。これツナギの作業服なのですが、着た後、ジッパーを接着剤で固めたのです。これなら開けませんね。なんたって、脱げるようにできてないんだもの。これであなたの奥の手は完封なのです!あ、脱ぐ時どうしよう」
「ぐぬぬぬ」
ダッ
フードは引き返した。
が、
「残念!既に包囲済みです!」
「よかった、ちゃんと待機してたのです」
その先は横向きに停まったワゴン車が塞いでいる。パーカーの足が止まる。
「ちなみに既に応援を呼んであるので、私を突破したところで無意味なのです。さあ、大人しくお縄につくのです!」
しかし、パーカーは再度車の方へ走り出した。そして、おもむろに袖を伸ばしたと思うと、ワゴン車の後ろ側の扉が左右両方とも開いた。だってそういう能力だし。そして、その勢いのまま包囲網にできた穴に飛び込む。後部座席のシートを飛び越えて、向こう側に前回り受け身で着地、即座に駆け出す。
「ああ!その手があったのです」
「ちょっと、関心してる場合じゃないでしょ。早く追いかけなきゃ!」
「はっ!そうなのです。まてー!」
榠樝さんも遅れて駆け出し、同じように穴に飛び込む。が、ジャンプ力が足りずにシートに寝転がってしまった。
「もう、なにしてんの!」
理香さんが運転席から降りて走り出した。起き上がった榠樝さんも続く。まだ、パーカーは見える。
ここからはただの追いかけっこだった。もともとパーカーより二人の方が速かったのだ、ついには追いついた。その頃には三人ともバテバテで、合流した他の事務所メンバーに支えられながらでないと歩けなかった。
「やっ、やった、やったのです。、ついに捕ま、捕まえたの、です。ぼ、僕が!この僕が!」
「す、すごく、嬉し、そうだね。最後、スパート、無かったらきっと、逃げられてたよ。ナイス、ファイト、ははは」
「それ、それほど、でも。ふふふ。………本当に、あなたに頼んで良かったです、理香。ありがとうございました」
「どうしたの急に」
「いえ、なんでもないのでーす!ふふふ」
「いないのですぅ」
前回のエンカウントから、はやくも二週間が経過した。あれから完全空き巣の被害報告も上がっておらず、かなり警戒されているようだ。
「でも、向こうもいつまでも出てこない訳にはいかない。きっとそろそろ見つかるはずよ」
「ええ、もうひと頑張りなのです」
と、この一週間言い続けてる。そろそろ体力的にも、溜まってる仕事的にも、解決に持っていきたいところだ。
「そういえば、どうして榠樝が来てるの?」
「え、迷惑だったのですか?足を引っ張ってましたか?」
「いや、そうじゃなくて。むしろ助かってるよ、警察手帳とか」
「む、なんだか私の方が警察手帳のおまけみたいなのです」
「あはは、ごめんごめん。そんなことないよ、大丈夫だから。でも、なんでわざわざ警部自ら依頼に来て、捜査にも参加してるのかなって。警部って現場指揮の統括みたいな仕事でしょ?」
「ええ、まあ、私なりに思うところがあったのです。私が行きたいって思ったのです」
「へー、ま、深くは聞かないよ」
「助かるのです」
「あ!いた!」
あれから2時間ほどたった頃、ついに見つけた。街はもう赤色に沈み、空にはとっくに宵の明星が輝いている。
「今度こそ、しっかり作戦も立ててきたのです。理香は車で待機してください。私が降りたら、少し追い越した所に停車。いつでも動けるようにしておいてください。くれぐれも飛び出さないように」
「はーい、承知しました。まっかせといてよ」
「ホントに大丈夫なのでしょうね?なんとなく嫌な予感が」
二人が所定の位置についた。ハザードランプに明滅する塀に囲まれている。開けられるものは無い。一方は車で、他方は榠樝さんが塞いだ挟み撃ちの形。
「………ちょっと、そこのフードの人、少し、お時間、よろしいですか」
ゆっくりと近づく。ゆっくりと喋りながら、警察手帳を出しながら、いつでも動けるよう膝は曲げながら。
「………………」
フードの向こうからは声は聞こえない。こちらを背にしているのでまったく表情は伺えないが、微かに揺れる頭は、この状況をどうにか打開できる方法を探しているように見える。
バッ
突如フードが振り向いた。と、そのまま榠樝さんに突っ込んでいく。
「くっ、やはり来ましたか。ですがこちらも生半可な気持ちで来てないのでね!」
迎撃態勢をとる。パーカーの袖が伸びる。キードで開けさせるつもりだ。
「どっ、けーーーー!!!」
初めて聞こえたその音は、思っていたより高かった。
が、その勢いは両者の接触寸前で削がれる。フードが少し持ち上がる。一瞬チラリと見えたその奥には、見開かれた目があった。
「どうしました?来ないんですか?来ないですよね。だって、予想外でしたよね?キードが発動しないなんて」
狼狽えるように固まったパーカーを、勝ち誇って見下す。
「前回恥ずかしい思いをさせられたのでね、こちらだって対策のひとつぐらい立ててきますよ。ふふふ、今着てるこの服、実は少し仕掛けがしてあるのですよ。これツナギの作業服なのですが、着た後、ジッパーを接着剤で固めたのです。これなら開けませんね。なんたって、脱げるようにできてないんだもの。これであなたの奥の手は完封なのです!あ、脱ぐ時どうしよう」
「ぐぬぬぬ」
ダッ
フードは引き返した。
が、
「残念!既に包囲済みです!」
「よかった、ちゃんと待機してたのです」
その先は横向きに停まったワゴン車が塞いでいる。パーカーの足が止まる。
「ちなみに既に応援を呼んであるので、私を突破したところで無意味なのです。さあ、大人しくお縄につくのです!」
しかし、パーカーは再度車の方へ走り出した。そして、おもむろに袖を伸ばしたと思うと、ワゴン車の後ろ側の扉が左右両方とも開いた。だってそういう能力だし。そして、その勢いのまま包囲網にできた穴に飛び込む。後部座席のシートを飛び越えて、向こう側に前回り受け身で着地、即座に駆け出す。
「ああ!その手があったのです」
「ちょっと、関心してる場合じゃないでしょ。早く追いかけなきゃ!」
「はっ!そうなのです。まてー!」
榠樝さんも遅れて駆け出し、同じように穴に飛び込む。が、ジャンプ力が足りずにシートに寝転がってしまった。
「もう、なにしてんの!」
理香さんが運転席から降りて走り出した。起き上がった榠樝さんも続く。まだ、パーカーは見える。
ここからはただの追いかけっこだった。もともとパーカーより二人の方が速かったのだ、ついには追いついた。その頃には三人ともバテバテで、合流した他の事務所メンバーに支えられながらでないと歩けなかった。
「やっ、やった、やったのです。、ついに捕ま、捕まえたの、です。ぼ、僕が!この僕が!」
「す、すごく、嬉し、そうだね。最後、スパート、無かったらきっと、逃げられてたよ。ナイス、ファイト、ははは」
「それ、それほど、でも。ふふふ。………本当に、あなたに頼んで良かったです、理香。ありがとうございました」
「どうしたの急に」
「いえ、なんでもないのでーす!ふふふ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
戸惑いの神嫁と花舞う約束 呪い子の幸せな嫁入り
響 蒼華
キャラ文芸
四方を海に囲まれた国・花綵。
長らく閉じられていた国は動乱を経て開かれ、新しき時代を迎えていた。
特権を持つ名家はそれぞれに異能を持ち、特に帝に仕える四つの家は『四家』と称され畏怖されていた。
名家の一つ・玖瑶家。
長女でありながら異能を持たない為に、不遇のうちに暮らしていた紗依。
異母妹やその母親に虐げられながらも、自分の為に全てを失った母を守り、必死に耐えていた。
かつて小さな不思議な友と交わした約束を密かな支えと思い暮らしていた紗依の日々を変えたのは、突然の縁談だった。
『神無し』と忌まれる名家・北家の当主から、ご長女を『神嫁』として貰い受けたい、という申し出。
父達の思惑により、表向き長女としていた異母妹の代わりに紗依が嫁ぐこととなる。
一人向かった北家にて、紗依は彼女の運命と『再会』することになる……。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる