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十二本目 開け扉、走れ探偵

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「うーん、いないなぁ」
「いないのですぅ」
前回のエンカウントから、はやくも二週間が経過した。あれから完全空き巣の被害報告も上がっておらず、かなり警戒されているようだ。
「でも、向こうもいつまでも出てこない訳にはいかない。きっとそろそろ見つかるはずよ」
「ええ、もうひと頑張りなのです」
と、この一週間言い続けてる。そろそろ体力的にも、溜まってる仕事的にも、解決に持っていきたいところだ。

「そういえば、どうして榠樝が来てるの?」
「え、迷惑だったのですか?足を引っ張ってましたか?」
「いや、そうじゃなくて。むしろ助かってるよ、警察手帳とか」
「む、なんだか私の方が警察手帳のおまけみたいなのです」
「あはは、ごめんごめん。そんなことないよ、大丈夫だから。でも、なんでわざわざ警部自ら依頼に来て、捜査にも参加してるのかなって。警部って現場指揮の統括みたいな仕事でしょ?」
「ええ、まあ、私なりに思うところがあったのです。私が行きたいって思ったのです」
「へー、ま、深くは聞かないよ」
「助かるのです」

「あ!いた!」
あれから2時間ほどたった頃、ついに見つけた。街はもう赤色に沈み、空にはとっくに宵の明星が輝いている。
「今度こそ、しっかり作戦も立ててきたのです。理香は車で待機してください。私が降りたら、少し追い越した所に停車。いつでも動けるようにしておいてください。くれぐれも飛び出さないように」
「はーい、承知しました。まっかせといてよ」
「ホントに大丈夫なのでしょうね?なんとなく嫌な予感が」

二人が所定の位置についた。ハザードランプに明滅する塀に囲まれている。開けられるものは無い。一方は車で、他方は榠樝さんが塞いだ挟み撃ちの形。
「………ちょっと、そこのフードの人、少し、お時間、よろしいですか」
ゆっくりと近づく。ゆっくりと喋りながら、警察手帳を出しながら、いつでも動けるよう膝は曲げながら。
「………………」
フードの向こうからは声は聞こえない。こちらを背にしているのでまったく表情は伺えないが、微かに揺れる頭は、この状況をどうにか打開できる方法を探しているように見える。
バッ
突如フードが振り向いた。と、そのまま榠樝さんに突っ込んでいく。
「くっ、やはり来ましたか。ですがこちらも生半可な気持ちで来てないのでね!」
迎撃態勢をとる。パーカーの袖が伸びる。キードで開けさせるつもりだ。
「どっ、けーーーー!!!」
初めて聞こえたその音は、思っていたより高かった。
が、その勢いは両者の接触寸前で削がれる。フードが少し持ち上がる。一瞬チラリと見えたその奥には、見開かれた目があった。
「どうしました?来ないんですか?来ないですよね。だって、予想外でしたよね?キードが発動しないなんて」
狼狽えるように固まったパーカーを、勝ち誇って見下す。
「前回恥ずかしい思いをさせられたのでね、こちらだって対策のひとつぐらい立ててきますよ。ふふふ、今着てるこの服、実は少し仕掛けがしてあるのですよ。これツナギの作業服なのですが、着た後、ジッパーを接着剤で固めたのです。これなら開けませんね。なんたって、脱げるようにできてないんだもの。これであなたの奥の手は完封なのです!あ、脱ぐ時どうしよう」
「ぐぬぬぬ」
ダッ
フードは引き返した。
が、
「残念!既に包囲済みです!」
「よかった、ちゃんと待機してたのです」
その先は横向きに停まったワゴン車が塞いでいる。パーカーの足が止まる。
「ちなみに既に応援を呼んであるので、私を突破したところで無意味なのです。さあ、大人しくお縄につくのです!」
しかし、パーカーは再度車の方へ走り出した。そして、おもむろに袖を伸ばしたと思うと、ワゴン車の後ろ側の扉が左右両方とも開いた。だってそういう能力だし。そして、その勢いのまま包囲網にできた穴に飛び込む。後部座席のシートを飛び越えて、向こう側に前回り受け身で着地、即座に駆け出す。
「ああ!その手があったのです」
「ちょっと、関心してる場合じゃないでしょ。早く追いかけなきゃ!」
「はっ!そうなのです。まてー!」
榠樝さんも遅れて駆け出し、同じように穴に飛び込む。が、ジャンプ力が足りずにシートに寝転がってしまった。
「もう、なにしてんの!」
理香さんが運転席から降りて走り出した。起き上がった榠樝さんも続く。まだ、パーカーは見える。

ここからはただの追いかけっこだった。もともとパーカーより二人の方が速かったのだ、ついには追いついた。その頃には三人ともバテバテで、合流した他の事務所メンバーに支えられながらでないと歩けなかった。
「やっ、やった、やったのです。、ついに捕ま、捕まえたの、です。ぼ、僕が!この僕が!」
「す、すごく、嬉し、そうだね。最後、スパート、無かったらきっと、逃げられてたよ。ナイス、ファイト、ははは」
「それ、それほど、でも。ふふふ。………本当に、あなたに頼んで良かったです、理香。ありがとうございました」
「どうしたの急に」
「いえ、なんでもないのでーす!ふふふ」
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