上 下
14 / 51
シーズン1

第14話 どうして……必要なんですか?

しおりを挟む
「よ! きてたか。コウモリねえちゃん」
 あかいオープンカーは、校門こうもんてすぐのところにまっていた。
むかえにてくれるなんて意外いがいです」
「あたりまえだろ!? お前はオレにりがあるからな。スジはとおしたうえで、あとから全額ぜんがくキッチリはらってもらう」
「え?」
「え? じゃねえよ!! コイツの修理代しゅうりだいだよ、修理代!!」
 そうって、便利べんりさんはオープンカーをポンポンとたたいた。
 追手おってられてベコベコになったボディが痛々いたいたしい。
「ゎ、わたしが払うんですか!?」
昨日きのうも言ったろ。お前がいなけりゃ、コイツがひどいにあうこともなかった。だからお前のせい。修理代もお前ち」
「そんな……。お仕事しごと代金だいきん全部ぜんぶ、払ってあるんじゃないんですか?」
「それは、運転手うんてんしゅはなしだろ? 契約けいやくの通り、仕事はしてやるよ。ただ、コイツの修理代はべつだ。これはオマエの仕事をやる上で発生はっせいした必要経費ひつようけいひ。別料金りょうきんだ」
「そんなおかね持ってません、ただの中学生ちゅうがくせいですよ、わたし!」
るかよ。だまされてきたいのはこっちだ。ったとき賞金しょうきん出るだろ? それでチャラだ。とにかく、なにが何でもこの『鳥獣イソップ・祭礼ハント』とやら、最期さいごまでやりとげてもらう」
 たしかにやりとげたいのはわたしもおなじだ。
 何が何でも逃げ切って、コウモリおんなはきれいさっぱりやめにしたい。
「……わかりました。よろしくおねがいします」
「オーケー。じゃ、れよ」
 
 乗りんだわたしは後ろのせきのせまいシートにふかくもぐり込んだ。
 オープンカーはずかしい。人目ひとめ直接ちょくせつさってくるようにおもえてしまう。
 れば、前列ぜんれつ助手席じょしゅせきはずいぶんとゆったりとしている。おまけに空席くうせきだ。しかも、何やら紙袋かみぶくろかれている。
 ぎゃくなんじゃないだろうか、やとぬしと紙袋の席。
「な、なんだよ……。やらねえぞ!」
 わたしの視線しせんさきたしかめた便利屋さんがこえを上げた。
 なんのことだろう? と、思った矢先やさき、その正体しょうたいがわたしのはなとどいた。
 にくまんのにおいだ。
 ぐううううううううっ! たり前のようにわたしのおなかった。
「くっそ!」
 便利屋さんはハンドルをたたいてくやしがった。 

 くるますべるように坂道さかみちくだっていく。
「ところで、今朝けさの車のやつ、知りいか?」
 片手かたてで肉まんをべながら便利屋さんがく。
「へ?」
 わたしはモグモグしながら聞きかえした。
「お前、あさったろ? あいつのいえ
 犬上いぬかみくんの事だ。そんなところから見てたのか。
小学校しょうがっこうの時の同級どうきゅう生です」
「ふん。なんかおっかねえ奴らのようだが、ナニモンだ?」
「……わかりません」
 犬上くんの家がどういう家なのか。結局けっきょくのところ、さっぱりわからない。
「なんだよ、知らねえのかよ。たえ黒服くろふく出入でいりしてるから、何かと思えば、前の警察けいさつのおえらいさんの家だとか言うし……」
「え……? そうなんですか?」
 警察の偉いひとかれにそんな親戚しんせきがいるなんて。
本当ほんとうに知らねえんだな」
「す、すみません」
「あやまんなよ。で、だ。何も知らないのに、なんのようだったんだ?」
「しばらくあそこでお世話せわになるかもしれません」
「えぇ。なんとなく、オレはおき合いをしたくねえヤツらなんだが……。どっか、ヨソで世話になれるトコ、ねえのかよ」
「ありません。それに、わたしにだって事じょうがあるんです」
 便利屋さんは、犬上くんのおねえさんの事は知らない。かくすつもりはないけれど、わざわざ言うのもなんだろう。
 それに、もっと言いにくい事がほかにもあった。
「あの……昨日のバイクの人の事なんですが」
 わたしは入学にゅうがくしきの前にあった『事件じけん』のことを便利屋さんに話した。
「はあ? 同じ学校がっこう!? あのおっかねえトリ姉ちゃんともか!? クソっ! また面倒めんどうな……。りてえのに降りられねえ!」
 便利屋さんはあたまかかえた。

 山手やまて立入禁止たちいりきんしかれていた。
 やっともどって来れた……。
 自分じぶんの家の階段かいだんのきしむおとがこんなにもくものだと思ったことはない。
 家にかえってきた目的もくてきは、生活せいかつ用品ようひん着替きがえを持ち出すこと。
 電気でんき水道すいどうもまだまったままだ。
 行き先はまってないけど、ここにいるわけにもいかない。
 トランクを玄関げんかんまでおろして、自分の荷物にもつをつめ込んでいく。 
「ほー。それにしても見事みごとだな。話の通り、いろの付いたふくが一着もねえじゃねえか」
 いっしょにはいってきた便利屋さんが声をあげた。
 トランクのなかには個性こせいのないグレーの服ばかりがならんでいる。
「み、見ないで下さい! 失礼しつれいですよ」
「ふん。でも、なあ。確かにその服じゃ、何か言いたくもなるわな」
「…………」反論はんろんができない。
「だろ? オマケに、その前髪まえがみだ。この上なくコウモリだぞ、お前」
「それは……」
「なんだよ、言ってみろよ」
「どうしても切れないんです」
「はあ? 切りたいのに、切れねえ? 意味いみがわからねえ」
「はずかしいからです。かおを見られるのが。服がグレーなのも目立めだつのがいやだから」
「そんな理由りゆうかよ?」
「わたしにとっては、むかしからのだい問題もんだいなんです!」
「昔からって、れいの『事故じこ』の話か」
「そうです。あの事があってから、わたしは、小学校でも逃げてばかりで……」
「ふうん」便利屋さんは、あきれたようなためいきをついた。
「……便利屋さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
「な、なんだよ、ド真剣しんけんな顔をして」
友達ともだちとか仲間なかまとか……って必要ひつようですか?」
「――な。何、馬鹿ばかな事聞いてんだ! おれはただの便利屋だぞ! お前のおやでもなければ、教師きょうしでもねえ! そんなむずかしい事、こたえられるわけがねぇだろ!」
 そう言うと便利屋さんは玄関のドアをひらけた。
「さっさと着替えろよ、車でってる!」

 ひとりのこされたわたしは、ため息をついた。
 便利屋さんが言った通りだ。わたしは一体いったいだれに、なにを言ってしいんだろう。
『おしゃれしなさい』
 おばあちゃんはそう言っていた。
 だけど、本当にして欲しいことはきっとちがうんだろう。
『いっぱい友達をつくりなさいな』
 目立つのが嫌で、人前ひとまえに出たくないのは『のろい』のようなもの。
 逃げ切ることが出来できれば、それが解かれる――。
 わらにもすがりつきたい。それが自分の本心ほんしんなのかもしれない。

「おう、わったか?」
「はい……。ごめんなさい。へんなこと聞いて」
「ふん。ま、俺もわるかったよ。だけど、答えなんか知らねえ。自分でさがすんだな」
「はい」
「お前、結構けっこう度胸どきょうもあるし、ただのコミュ下手へたなコウモリ女ってわけじゃなさそうだ。だから逃げきれよ、最後さいごまで」
「はい!」
 わたしは車に乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...