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シーズン1
第12話 どこかでお会いしましたっけ!?
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鳳雛学園――市の南部の丘の上にある私立校。小中高大の一貫校であり、地元ではちょっと変わった学校、ってことで知られている。
どうしてなのか?
それはこの学校の誕生の地がここ、横浜ではないからだ。横浜どころか、日本ですらない。この学校は二十年ほど前、海外から当時の生徒ごと横浜に引っ越してきたのだという。今でも生徒の八割は外国籍の人なのだそうだ。
わたしと犬上くんは、この学園の中等部、定員五十名の編入枠に合格したのだ。
車から降ろしてもらって徒歩で校門の中に入ると、入学式のにぎわいがそこにあった。 ちょっと見渡しただけで髪の色、瞳の色、飛び交う言葉も何もかもバラバラだ。誰が目立つということもない、この場所。
わたしがこの学校を選んだのは、前髪が長くても、友達がいなくても、ここなら目立つような事にはならないだろう、と思ったからだ。
案内板によれば入学式は、大講堂で行われるらしい。
わたしは案内に従って大講堂へと向かった。
渡り廊下を歩いているとき、〝それ〟が目に入った。
校舎の向こう側に、人がたくさん集まっている。
なんだろう? と、思うまもなく、その人だかりが割れ、そこから一人の人物がこちらに向かってやってくるのが見えた。
「いい気になるなよ! 飛べないくせに!」
人だかりの中から誰かがさけんだ。どう聞いてもケンカのすてゼリフだ。
それを無視しながら、こちらに向かって来たのは、女子生徒!?
長い黒髪、前を見据えた意志の強そうな瞳。その人が目の前を横切っていく。
――って、こ、こ、この人、もしかして!?
「あなた、昨日の……!」
向こうも気がついたのだろう、目を丸くして驚いている。
間違いない! あのバイクの追撃者だ。
逃げも隠れもできない距離。わたしはただ、固まるしかなかった。だけど……。
え!? 笑った?
何か言いたげだった口を閉じると、追手の娘はそのまま校門の方へと歩いて行った。
わたしはホッと胸をなでおろした。
な、なんだったんだろう? 絶対、見間違えじゃないし、絶対、バレてたはずだ。
「新入生の方ですか?」
「ひゃっ!?」追手のことでパニックになっていたわたしの後ろから声がした。
驚いて振り向くと、そこには男の人が一人、立っていた。
――外国の人だ。ブラウンの髪、優しそうな表情。年齢は二十代後半くらい。
スーツにネクタイ。格好からして、先生なのかな?
「大講堂はあちらです。もうすぐ式が始まりますよ。急いで!」その先生が言った。
「はい」
返事をすると、わたしは大講堂へと向かった。
階段のある半円形の大講堂。並んでいる生徒たち。前の列の端には犬上くんの頭が見えている。あの女子生徒は――いないみたいだ。
まだ心臓がドキドキしている。まさか、追手の娘が、同じ学校だったなんて……。
式が始まり、誰かのお話。誰かの挨拶。プログラムは進んでいく。
人がたくさん集まる場所は好きじゃない。早く終わらないかなあ。
そして、やっと最後の『讃美歌の斉唱』になった。
普通の学校で言うところの校歌にあたるものなのかな?
プログラムに書かれている歌詞は外国語だ。読み方もメロディもわからない。
てきとうに口をパクパクさせてればいいや……。わたしは思った。
起立の号令がかかる。皆が立ち上がる。わたしも立ち上がる。
曲が始まり、口を開く。
目の前の景色がぐにゃりと曲がり、ゆっくりと傾いていった。
どうしてなのか?
それはこの学校の誕生の地がここ、横浜ではないからだ。横浜どころか、日本ですらない。この学校は二十年ほど前、海外から当時の生徒ごと横浜に引っ越してきたのだという。今でも生徒の八割は外国籍の人なのだそうだ。
わたしと犬上くんは、この学園の中等部、定員五十名の編入枠に合格したのだ。
車から降ろしてもらって徒歩で校門の中に入ると、入学式のにぎわいがそこにあった。 ちょっと見渡しただけで髪の色、瞳の色、飛び交う言葉も何もかもバラバラだ。誰が目立つということもない、この場所。
わたしがこの学校を選んだのは、前髪が長くても、友達がいなくても、ここなら目立つような事にはならないだろう、と思ったからだ。
案内板によれば入学式は、大講堂で行われるらしい。
わたしは案内に従って大講堂へと向かった。
渡り廊下を歩いているとき、〝それ〟が目に入った。
校舎の向こう側に、人がたくさん集まっている。
なんだろう? と、思うまもなく、その人だかりが割れ、そこから一人の人物がこちらに向かってやってくるのが見えた。
「いい気になるなよ! 飛べないくせに!」
人だかりの中から誰かがさけんだ。どう聞いてもケンカのすてゼリフだ。
それを無視しながら、こちらに向かって来たのは、女子生徒!?
長い黒髪、前を見据えた意志の強そうな瞳。その人が目の前を横切っていく。
――って、こ、こ、この人、もしかして!?
「あなた、昨日の……!」
向こうも気がついたのだろう、目を丸くして驚いている。
間違いない! あのバイクの追撃者だ。
逃げも隠れもできない距離。わたしはただ、固まるしかなかった。だけど……。
え!? 笑った?
何か言いたげだった口を閉じると、追手の娘はそのまま校門の方へと歩いて行った。
わたしはホッと胸をなでおろした。
な、なんだったんだろう? 絶対、見間違えじゃないし、絶対、バレてたはずだ。
「新入生の方ですか?」
「ひゃっ!?」追手のことでパニックになっていたわたしの後ろから声がした。
驚いて振り向くと、そこには男の人が一人、立っていた。
――外国の人だ。ブラウンの髪、優しそうな表情。年齢は二十代後半くらい。
スーツにネクタイ。格好からして、先生なのかな?
「大講堂はあちらです。もうすぐ式が始まりますよ。急いで!」その先生が言った。
「はい」
返事をすると、わたしは大講堂へと向かった。
階段のある半円形の大講堂。並んでいる生徒たち。前の列の端には犬上くんの頭が見えている。あの女子生徒は――いないみたいだ。
まだ心臓がドキドキしている。まさか、追手の娘が、同じ学校だったなんて……。
式が始まり、誰かのお話。誰かの挨拶。プログラムは進んでいく。
人がたくさん集まる場所は好きじゃない。早く終わらないかなあ。
そして、やっと最後の『讃美歌の斉唱』になった。
普通の学校で言うところの校歌にあたるものなのかな?
プログラムに書かれている歌詞は外国語だ。読み方もメロディもわからない。
てきとうに口をパクパクさせてればいいや……。わたしは思った。
起立の号令がかかる。皆が立ち上がる。わたしも立ち上がる。
曲が始まり、口を開く。
目の前の景色がぐにゃりと曲がり、ゆっくりと傾いていった。
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