上 下
7 / 53
シーズン1

第7話 飛んだなああっ!!

しおりを挟む
「きゃああっ!」
 あつかぜせ、わたしは空中くうちゅうばされた。
 いてないよ、追手おってにこんなことできるなんて!
 吹き飛ばされながらわたしはおもった。
 くやしい、このままわりたくない!
 そうねがったとき――からだ自然しぜんうごした。
 りょうひろげ、風をつかんでろす!
 ふわりと体ががる。飛んでる!? わたし、飛んでる!
「くそぉおお! 飛んだなああっ!!」
 追手のさけぶ。
ちろぉ――――っ!」ふたたび風がた。
 よけるなんて出来できるはずがない。くろつばさに風をまともにけてわたしは吹き飛ばされた。
「きゃああっ!!!」
 ドスン、ゴロゴロゴロッ! わたしは芝生しばふの上をころがった。
「きゃ!?」
「な、なななななななあんだあああ!?」
 芝生のよこのベンチにすわっていたカップルが飛びあがっておどろいた。
 そりゃそうだ。制服せいふくたコウモリおんなってきたのだもの。
「な、なななな?」
 カップルは、白黒しろくろさせている。
「あ、あ スミマセンっ……」
 わたしはかおかくしてはしり出した。
 うしろでは、ウオオオオオオオン! バイクが再始動しどうするおとがした。
 いそがないと、あっといういつかれる。翼をたたんでかるくなったうでるう。
 公園こうえん入口いりぐちえてきた。くるまが一だいまっている。あかいオープンカーだ!
 たすかった……!? そう思った瞬間しゅんかん、車が動き出した。
「ええっ!? なんで!?」
 わたしは無我夢中むがむちゅう便利べんりさんの車を追いかけた。
 下りざかあしが追いつかない。それでも、げる。まえへ、逃げるんだ!
 風をつかんで、前へ──! わたしの体がき上がる。
 ドサッ! 音をててわたしはオープンカーの後部こうぶ座席ざせきに飛びんだ。
「……ってててて!」
「お、おお前──! なななんなんだ!!!」
「なんで!? なんで、逃げるんですか!?」
るか! あと3ふんくらい自分じぶんでなんとかしろ!」
「3分もですか!?」
「うるせぇ! ってえか! お前、なんでそこにってる!?」
「わたし、飛べるんです! この翼で!」
 わたしは、ばたばた翼を振ってそうこたえた。
「はあ!? なら飛んでにげろよ!! 降りやがれ!」
いやです! 便利屋さんこそ、助けるつもりがないのになんでここに来たんですか!?」
「知らねえよ! お前、変身へんしんしてから性格せいかくわってねえか!? 大体だいたい、お前がけたら修理代しゅうりだいが出ねえだろうが! コイツの!!」
 便利屋さんはそううと車のボディをポンポンとたたいた。
 ごん! ごん! ひどい音がした。
「あーっ!? くそったれ!」
 バイクの追手だ。追いついて来て、またもやキックをれたらしい。
 便利屋さんはたまらずハンドルをった。車は広いとおりにおどり出る。
 それをっていたかのように、もう一台のエンジン音がせまってきた。やまの上で見かけたバギーカーだ。
あねさん!」
大丈夫だいじょうぶですか!?」
 バギーにはおとこ二人ふたり乗っている。
「姐さんって言うなー! ハツ、ガツ! はさちよ!」
 バイクとバギーは二手ふたてに分かれ、オープンカーの後ろをならんで走る。
「ハツ! つかまってろよ!」運転席うんてんせきの男が叫ぶ。  
 ガゴッ! バギーがオープンカーに体当たいあたりする。
「やめろおっ!! やめてくれえええっ!」
 便利屋さんは、半泣はんなきでアクセルをみ込んだ。
 2台の車とバイクは山手やまてかう坂をかけのぼる。 
「くそ! なんでおれの車がこんな目にあわなきゃいけないんだよ!! お前のせいだ!」
「なんでわたしのせいなんですか!? ったり、ぶつけたりはあのひとたちでしょ!?」
「うるせえ! お前がいなけりゃ、コイツがベコベコになることなんかなかった! だからお前が弁償べんしょうしろ!」
「えええっ!? こんなのなおせるおかねなんかありません!!」
「知るか! 最後さいごまで逃げ切れば、賞金しょうきん出るだろ! だから、逃げろ! 俺の車のために絶対ぜったい、逃げ切れ!」  
「姐さん! のこりあと30びょうです!!」
「くっそう! 今日きょうはもうダメか!?」バイクの追手が舌打したうちする。
「せっかく一番いちばんクジをいたのに、あの飛鼠コウモリ女! 飛べるクセに、車になんか乗って! ゆるさない!」
 まばゆいひかりがバイクの追手をつつみこむ。
「わあっ! ダメ!」
 〝緋色ひいろの光〟をかんじて、わたしはこえをあげた。
 ビョオオオオオオッ! オープンカーに風がおそいかかる。
「うわわわわ! なんだ、なんだ!?」
 便利屋さんはハンドルをまわして、オープンカーをなんとか立て直す。
「あいつも、お前の同類どうるいか!?」
 バックミラーを確認かくにんした便利屋さんが聞く。
「知りません! それより、なんでわざわざオープンにしてるんですか!?」
 わたしはシートにしがみつきながら文句もんくを言った。
「うるせえ! 俺の勝手かってだ!」便利屋さんがハンドルを切る。
「姐さんあと五秒です!」
「これで、終わりよっ!!」
 バイクの追手がひときわつよくはばたいた。風がこっちめがけて迫ってくる。
「ひゃあああ!!!!」
「うわあああ!!!!」
 オープンカーは風にあおられ、ガードレールにぶつかった。
「きゃあああっ!」
 わたしはオープンカーからほうり出された。
 つ、翼を! わたしはばたこうと前を見た。
 目の前にあったのは、キラキラとかがや横浜港よこはまこう。まるでほしうみだ。
 わたしのまわりにはなにもない。あるのは無数むすうの光だけ。なんて、きれいなんだろう。
 だけど、たかい。高すぎる。
 げ出されたのは山手のがけの上。はるか下には建物たてもの屋根やねが並んでいる。
「ひゃああああっ!」 
 〝あおい光〟がし、わたしの意識いしきうすれていった。
    *      *
ポンプぽんぷ放水ほうすい確認!」「よし!」
 あたりには消防士しょうぼうしの叫び声が飛びっている。
 灰色はいいろかみ少年しょうねんはなてんに向け、においをいだ。
 ガスのにおい、もののけるにおい、たくさんの人間にんげんのにおい。
 だけど、そのなかさがしているにおいが見つからない。
(そんな……バカな!?)
 いつだってこのあたりまでくれば、探し出せた。
 とお記憶きおく刺激しげきする、あのにおい。それがいま、まるごとえている。
 かれを走らせるにはそれで充分じゅうぶんだった。
月澄つきすみ……」彼は再び走りだした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱
児童書・童話
『彼女の”みる目”に間違いはない』 七瀬雪乃は、骨董品が大好きな女の子。でも、生まれたときから”物”に宿る付喪神の存在を見ることができたせいで、小学校ではいじめられていた。付喪神は大好きだけど、普通の友達も欲しい雪乃は遠い私立中学校に入ることに。 今度こそ普通に生活をしようと決めたのに、入学目前でトラブルに巻き込まれて”力”を使ってしまった。しかもよりによって助けた男の子たちが御曹司で学校の有名人! 普通の生活を送りたい雪乃はこれ以上関わりたくなかったのに、彼らに学校で呼び出されてしまう。 「俺たちが信頼できるのは君しかいない」って、私の”力”で大切な物を探すの!?

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

昨日の敵は今日のパパ!

波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。 画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。 迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。 親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。 私、そんなの困ります!! アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。 家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。 そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない! アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか? どうせなら楽しく過ごしたい! そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。

十歳の少女の苦難

りゅうな
児童書・童話
 砂漠の国ガーディル国の姫マリンカ姫は黒魔術師アベルの魔法にかけられて、姿は十歳、中身は十七歳の薬作りの少女。 マリンカは国から離れて妃の知り合いの家に向かう途中、牛男が現れた。牛男は大国の王子だと自ら言うが信用しないマリンカ。 牛男は黒魔術アベルに魔法をかけられたと告げる。 マリンカは牛男を連れて黒魔術師アベルのいる場所に向かう。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

完璧ブラコン番長と町の謎

佐賀ロン
児童書・童話
小野あかりは、妖怪や幽霊、霊能力者などを専門にする『包丁師』見習い。 ある夜、大蛇を倒す姿を男の子に見られてしまう。 その男の子は、あかりが転校した先で有名な番長・古田冬夜だった。 あかりは冬夜から「会って欲しい人がいる」と頼まれ、出会ったのは、冬夜の弟・夏樹。 彼は冬夜とは違い、妖怪や幽霊が視える子どもだった。 あかりは、特殊な土地によって引き起こされる事件に巻き込まれる…。

処理中です...