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第百七十八話『私たちの幕引き』
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――正直なところ、そこから先のことは記憶が曖昧だ。声を出しているのはあたしの口なはずなのだけれど、だけどどこかあたしの声じゃないみたいで、あたしとは全然違う所から声が聞こえてくるような気がして。……不思議と、嫌な気持ちはしなかった。
隣に立つ犀奈は、あたしの言葉に迷うことなく言葉を返してくる。マローネに危険が及ぶ事を避けたいエリーと、エリーが一人で生贄になるぐらいだったら死んでやると自分を人質にとるマローネ。お互いに議論はするけれど、その決着は決まっている。『お前が一緒に居てくれなきゃ意味がない』『生きてても死んでるのと変わらない』と、そう吠えられたらエリーは何も言えなくなってしまうんだ。
マローネと犀奈は、よく似ている様で少し違う、だけど、こういう所はおんなじだ。一番いてほしい時に横にいて、おまけに一番欲しい言葉をくれる。……きっと犀奈だって、紡君のことを好きだった――いや、きっと今でも好きなはずなのに。本当だったら犀奈がいるはずの位置にあたしがいることを、決して最初から歓迎していたわけではないはずなのに。
それでも、それでも犀奈は笑顔を絶やさずに傍にいてくれる。……その在り方にあたしが何度救われたのか、きっと犀奈は知らないだろう。それでいいし、これからもそうであってほしい。本当に身勝手な話だけれど、犀奈ともずっと仲良くして居たい。そんなことを言ったら怒られてしまうかもしれないけど。
『……な、そろそろ諦めろ。ボクは何としてでもお前と一緒に贄になる、でなきゃ死ぬ。どうするかはお前に任せるぜ、お姫様?』
『……本当にズルい人ですね、あなたは』
完全にねじ曲がった台本はそれでも本筋通りの結論へとたどり着いて、あたしは泣きながら笑みを浮かべる。嬉しさも申し訳なさも、あたしの中には混在しているのだ。本当に相手の事を思うならもっとできることがあったんじゃないか、これが最善ではないんじゃないか。そう思いながらも、自分の事を思ってくれる人が居ることが嬉しくて仕方がない。
『……その代わり、約束してくださいね。これで私とあなたが揃って生き残ったら、どんな形で在ろうとこれからずっと一緒に居てくれるって』
『当然だろ、そのためにボクは頭を捻ってたんだ。……死ぬも生きるも、お前が一緒じゃなきゃもう意味がねえ』
エリーの願いに笑顔で応え、二人は揃って向き直る。……そして、生贄の時が来る。
どちらともなく手を繋ぎ、スライドしてくる大道具と荒ぶるライトアップが恐るべき存在を演出する。それが二人の姿を覆い隠して、災いが彼らを贄に鎮まっていく。目と鼻の先まで近づいていた終わりが、二人の犠牲によって遠い未来へと離れて行く――
『……ぷ、は』
『……はあ、はあ、はあっ……』
贄を求める恐ろしい存在が去った後に、二人の生贄が寝転んでいる。一人は片腕を失い、もう一人は片目の光を失い。……けれど、それでも命は取り落とさなかった。硬く繋いだ手だけは、たとえ相手がどんな存在で在ろうと絶対に譲ってやらなかった。
『……これで……お前の役割はなくなった……そう、だよな……』
ボロボロになりながらも誇らしげな様子でマローネが呟き、繋がれた手を力強く握りしめる。あたしは――エリーは、その手をしっかりと握り返して。
「はい。……死ぬ理由を探して生きていく理由なんて、もう私にはどこにもありません』
涙ぐみながらそう答えると同時、幕が音を立てながらゆっくりと下りてくる。――迷いぶつかりながら進んでいった二人の物語は、ここで一区切りを迎えた。
隣に立つ犀奈は、あたしの言葉に迷うことなく言葉を返してくる。マローネに危険が及ぶ事を避けたいエリーと、エリーが一人で生贄になるぐらいだったら死んでやると自分を人質にとるマローネ。お互いに議論はするけれど、その決着は決まっている。『お前が一緒に居てくれなきゃ意味がない』『生きてても死んでるのと変わらない』と、そう吠えられたらエリーは何も言えなくなってしまうんだ。
マローネと犀奈は、よく似ている様で少し違う、だけど、こういう所はおんなじだ。一番いてほしい時に横にいて、おまけに一番欲しい言葉をくれる。……きっと犀奈だって、紡君のことを好きだった――いや、きっと今でも好きなはずなのに。本当だったら犀奈がいるはずの位置にあたしがいることを、決して最初から歓迎していたわけではないはずなのに。
それでも、それでも犀奈は笑顔を絶やさずに傍にいてくれる。……その在り方にあたしが何度救われたのか、きっと犀奈は知らないだろう。それでいいし、これからもそうであってほしい。本当に身勝手な話だけれど、犀奈ともずっと仲良くして居たい。そんなことを言ったら怒られてしまうかもしれないけど。
『……な、そろそろ諦めろ。ボクは何としてでもお前と一緒に贄になる、でなきゃ死ぬ。どうするかはお前に任せるぜ、お姫様?』
『……本当にズルい人ですね、あなたは』
完全にねじ曲がった台本はそれでも本筋通りの結論へとたどり着いて、あたしは泣きながら笑みを浮かべる。嬉しさも申し訳なさも、あたしの中には混在しているのだ。本当に相手の事を思うならもっとできることがあったんじゃないか、これが最善ではないんじゃないか。そう思いながらも、自分の事を思ってくれる人が居ることが嬉しくて仕方がない。
『……その代わり、約束してくださいね。これで私とあなたが揃って生き残ったら、どんな形で在ろうとこれからずっと一緒に居てくれるって』
『当然だろ、そのためにボクは頭を捻ってたんだ。……死ぬも生きるも、お前が一緒じゃなきゃもう意味がねえ』
エリーの願いに笑顔で応え、二人は揃って向き直る。……そして、生贄の時が来る。
どちらともなく手を繋ぎ、スライドしてくる大道具と荒ぶるライトアップが恐るべき存在を演出する。それが二人の姿を覆い隠して、災いが彼らを贄に鎮まっていく。目と鼻の先まで近づいていた終わりが、二人の犠牲によって遠い未来へと離れて行く――
『……ぷ、は』
『……はあ、はあ、はあっ……』
贄を求める恐ろしい存在が去った後に、二人の生贄が寝転んでいる。一人は片腕を失い、もう一人は片目の光を失い。……けれど、それでも命は取り落とさなかった。硬く繋いだ手だけは、たとえ相手がどんな存在で在ろうと絶対に譲ってやらなかった。
『……これで……お前の役割はなくなった……そう、だよな……』
ボロボロになりながらも誇らしげな様子でマローネが呟き、繋がれた手を力強く握りしめる。あたしは――エリーは、その手をしっかりと握り返して。
「はい。……死ぬ理由を探して生きていく理由なんて、もう私にはどこにもありません』
涙ぐみながらそう答えると同時、幕が音を立てながらゆっくりと下りてくる。――迷いぶつかりながら進んでいった二人の物語は、ここで一区切りを迎えた。
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