174 / 185
第百七十三話『あたしは見つめる』
しおりを挟む
自分が何者で何になっていくのか、きっとエリーは分かっていた。自分自身が行きつく結末は何があっても変わらないことを覚悟していた。……変えようとして抗っても変わる規模のものじゃないことを、理解してしまっていた。
きっと、エリーはあたしよりずっと頭がいい。自分に何が起きてるのか、自分がどんな役割を背負っているのか。自分がわがままを言う事で何が起きてしまうのか、エリーは役目を果たすずっと前から分かっていた。
それがいいことなのか悪いことなのか、あたしには分からない。頭が良ければ全部が丸く収まるってわけじゃないだろうし、かと言って何も分からないままでいるのが正しいわけでもないだろう。……ただ、エリーは少し悲しくなってしまうぐらいに頭が良かったというだけの話で。
あたしに比べて、エリーが背負ってるものは大きすぎたってのもきっとある。ただ一人の問題で収められるあたしの問題と違って、エリーが背負っているのは舞台となっている国全体に関係することだ。一人のワガママが、結果的にたくさんの犠牲を生むことにだってなりかねない。
もしあたしがそんな役割を背負ってしまったら、どうするのだろうか。……『助けて』と、手を伸ばすことが出来るのだろうか。
『……最後の最後まで、ふざけたことを言いやがって』
一度舞台袖に引っ込んだあたしは、独り舞台に立つマローネを、犀奈を見つめる。犀奈が纏っているのは、あまりに素直な怒りだ。建前も何もない、心からの不快感だ。……それがエリーに対する思いやりから来ているものであることに、彼女は果たして気づいているんだろうか。
『世界の為とかこの国の為とか、分かったことばかり言って。自分の事なんて全く考えてねえ、自分の願いを一度も口にしたことがねえ。……『生まれた意味を知りたい』なんて大嘘だ、諦める理由を探して逃げ回ってるだけじゃないか』
自分には生きた意味があった、だからここで終わっても仕方がないんだ。そう自分に言い聞かせて、エリーは自らを犠牲にする道を歩こうとしている。……少なくとも、マローネの眼にはそう映っているんだろう。
誰かのためばかりで、自分の心を殺す。それが正しい時だってきっとあるだろうけど、マローネにとってそれは絶対に正しくないことだ。……彼女の目標は、エリーを何としてでも連れ戻すことにある。
『分かったような口を聞きやがって、アイツは頭のいい馬鹿だ、大馬鹿だ。……お前と生きていきたいって願う人間がいるってことを、何も理解しちゃいねえ』
部隊の中心に立ち、マローネは強気に吠える。やりきれない思いを体全体に乗せて、強く強く宣言する。……たとえ自分自身が割り切って諦めていようとも、自分だけは諦めてやらないのだと。
その姿を見て、ズクリとあたしの中で何かが疼く様な気がする。……マローネの姿に、なぜか紡君の姿がダブった。
クリスマスの日に小説を見に行ってほしいと、そう願った紡君の表情。今までで見てきたどんな表情よりも勇ましく男らしかったその顔を、あたしは今でも覚えている。あたしが思っているよりもずっとずっと、紡君はあたしの問題を解決するために全力だった。
その姿を、決意をまだエリーは知らない。知ってしまった時に、エリーはいったい何を思うのだろうか。喜ぶのか悲しむのか、それもまだ分からないままだ。……初めて他の人から『生きる』ことを望まれたエリーは、一体何を思うのか。
それがこの舞台の山場であり、もっとも感情をぶつけ合わなくてはならないところだ。……犀奈が『台本通りでなくてもいい』と言ってくれたのは、きっとこの部分でもある。犀奈の想いに、あたしもまっすぐに返さなければいけないんだ。
『考えろ。……多分、制限時間はそう長くない』
切羽詰まった様子で呟いて、犀奈は舞台袖へとはけていく。……それと入れ替わるように、あたしはゆっくりと舞台の中心へ歩いて行った。
きっと、エリーはあたしよりずっと頭がいい。自分に何が起きてるのか、自分がどんな役割を背負っているのか。自分がわがままを言う事で何が起きてしまうのか、エリーは役目を果たすずっと前から分かっていた。
それがいいことなのか悪いことなのか、あたしには分からない。頭が良ければ全部が丸く収まるってわけじゃないだろうし、かと言って何も分からないままでいるのが正しいわけでもないだろう。……ただ、エリーは少し悲しくなってしまうぐらいに頭が良かったというだけの話で。
あたしに比べて、エリーが背負ってるものは大きすぎたってのもきっとある。ただ一人の問題で収められるあたしの問題と違って、エリーが背負っているのは舞台となっている国全体に関係することだ。一人のワガママが、結果的にたくさんの犠牲を生むことにだってなりかねない。
もしあたしがそんな役割を背負ってしまったら、どうするのだろうか。……『助けて』と、手を伸ばすことが出来るのだろうか。
『……最後の最後まで、ふざけたことを言いやがって』
一度舞台袖に引っ込んだあたしは、独り舞台に立つマローネを、犀奈を見つめる。犀奈が纏っているのは、あまりに素直な怒りだ。建前も何もない、心からの不快感だ。……それがエリーに対する思いやりから来ているものであることに、彼女は果たして気づいているんだろうか。
『世界の為とかこの国の為とか、分かったことばかり言って。自分の事なんて全く考えてねえ、自分の願いを一度も口にしたことがねえ。……『生まれた意味を知りたい』なんて大嘘だ、諦める理由を探して逃げ回ってるだけじゃないか』
自分には生きた意味があった、だからここで終わっても仕方がないんだ。そう自分に言い聞かせて、エリーは自らを犠牲にする道を歩こうとしている。……少なくとも、マローネの眼にはそう映っているんだろう。
誰かのためばかりで、自分の心を殺す。それが正しい時だってきっとあるだろうけど、マローネにとってそれは絶対に正しくないことだ。……彼女の目標は、エリーを何としてでも連れ戻すことにある。
『分かったような口を聞きやがって、アイツは頭のいい馬鹿だ、大馬鹿だ。……お前と生きていきたいって願う人間がいるってことを、何も理解しちゃいねえ』
部隊の中心に立ち、マローネは強気に吠える。やりきれない思いを体全体に乗せて、強く強く宣言する。……たとえ自分自身が割り切って諦めていようとも、自分だけは諦めてやらないのだと。
その姿を見て、ズクリとあたしの中で何かが疼く様な気がする。……マローネの姿に、なぜか紡君の姿がダブった。
クリスマスの日に小説を見に行ってほしいと、そう願った紡君の表情。今までで見てきたどんな表情よりも勇ましく男らしかったその顔を、あたしは今でも覚えている。あたしが思っているよりもずっとずっと、紡君はあたしの問題を解決するために全力だった。
その姿を、決意をまだエリーは知らない。知ってしまった時に、エリーはいったい何を思うのだろうか。喜ぶのか悲しむのか、それもまだ分からないままだ。……初めて他の人から『生きる』ことを望まれたエリーは、一体何を思うのか。
それがこの舞台の山場であり、もっとも感情をぶつけ合わなくてはならないところだ。……犀奈が『台本通りでなくてもいい』と言ってくれたのは、きっとこの部分でもある。犀奈の想いに、あたしもまっすぐに返さなければいけないんだ。
『考えろ。……多分、制限時間はそう長くない』
切羽詰まった様子で呟いて、犀奈は舞台袖へとはけていく。……それと入れ替わるように、あたしはゆっくりと舞台の中心へ歩いて行った。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる