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第百六十六話『僕たちとビラ配り』

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 文化祭。普段からゆるっゆるな方ではあるわが校も、文化祭となればそれはもう緩いなんて次元を飛び越えたぐらいにはっちゃけた雰囲気が包み込んでいる。まだ開催前だってのに校門をくぐったところでは宣伝ビラが何枚か押し付けられるし、何なら辺りを見回せば開場はまだなのかとうずうずしているような大人たちの姿も何人か見つけることが出来た。秋も深まってきた頃で結構寒いだろうに、楽しみの前にはそんなこと関係なくなってしまうようだ。

「お祭りが始まった、って感じだね。去年もこれぐらいビラ配りの人が居たっけなあ……?」

「そうなのかい? 私が前にいたところはそんなに派手な文化祭をやるわけでもなかったから、この規模には驚いてるんだけどさ」

「大丈夫だよセイちゃん、僕も驚いてる。……ビラってさ、こんなにぐいぐい押し付けられるものだったんだね」
 
 そんな学校の中を、僕は主演の二人と並んで歩いている。校門をくぐってまだ十メートルも移動していないはずなのだけれど、もう僕たちの手の中には大量のビラが乗っかっていた。

 去年登校してきた時にはそうでもなかったはずなのだけれど、今年のぐいぐい押してくる感じは尋常じゃなかったな……。これも千尋さんやセイちゃんが目立つからなのかもしれないし、逆に去年の僕が目立たなすぎだったとも言えるかもしれない。後ろから入ってくる生徒たちにも結構な勢いでビラ配りが群がっているのを見ると、後者の方が可能性としては高そうだ。

 まあ、去年の文化祭に関しては本当に『一応出た』って言うのがしっくりくるぐらいには関与してなかったしね。やったことと言えば設営とか配置に少し意見しただけで、中心に立っていたのは今のビラ配りさんたちみたいなノリノリの集団だった。

 一年たった今僕もノリノリで盛り上げる側に回っているんだから、つくづく縁って言うのは不思議なものだ。なんだかんだ文化祭を一番盛り上げるのは千尋さんたちだと、そう確信している僕がいる。

「そういえば、あたしたちのクラスはビラ配りとかしてないんだよね。……お客さん、来てくれるかな?」

「大丈夫だよ、ビラ配りに割く時間の分まで使ってクオリティの高い告知看板が出来てたから。アレを見れば興味がわくって人もいるだろうし、何より公演は三回あるからね」

 文化祭を回る時間が削れてしまうからあんまり多すぎるのも良くないと思っていたのだが、千尋さんたちの意欲もあって三回公演に落ち着いている。十時からと十二時からと十四時からそれぞれ三十分、体育館は演劇場へと姿を変えるわけだ。

「時間をおいてるから口コミは確実に広がっていくと思うし、何ならリピーターさんとかがいる可能性だって十分に考えられると思うんだ。それぐらいクオリティの高い劇になったって確信してるからね」

 紆余曲折合って公演は無料と言う形に落ち着いたけれども、あの演技は間違いなく無料で見れる範疇の物を超えている。『所詮お遊戯レベル』だなんて舐めた先入観とともに身に来れば、二人の姿に間違いなく度肝を抜かれること請け合いだろう。……と言うか、そうなるところを少し見てみたいとすら思うし。

「最低限の宣伝と高いクオリティの作品を担保できれば、こっちから押し付けるような宣伝はしなくても十分効果が見込める。……少なくとも、僕はそう信じてるよ」

「そこら辺の広告戦略にもつむ君は関わってたもんね。……実の所、一番頭脳労働をしているのはつむ君だったりするんじゃないかい?」

 僕の顔を覗き込みながら、セイちゃんはどことなく嬉しそうに笑う。前に周りからの評価の話をしたときもそんな表情をしていたし、きっとみんなと一緒に何かをする僕を見て思う所もあるのだろう。……それを具体的に掘り起こすのは、なんというか野暮な気がしないでもないけれど。

「さて、とりあえず教室でゆっくりしようか。この様子じゃそこ以外ロクにのんびりは出来なそうだ」

 下駄箱を目の前にしてセイちゃんがそう提案してきたので、僕と千尋さんは首を縦に振る。……始まる前からすでに賑やかな雰囲気を浴びながら、僕たちの文化祭当日は幕を開けた。
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