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第百五十一話『セイちゃんたちの本命』
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『目は口程に物を言う』なんてことわざがあるけれど、今ばかりは言葉の方がよっぽどはるかに雄弁だ。千尋さんがこぼした称賛の言葉を皮切りにして、二人のテンションはどんどんと膨れ上がっていった。
「まさか清楚系がここまで似合うとはね……。派手なのよりはマッチするだろうと思ってそういうの多めで見繕っては来たんだけれど、まさかここまで装飾少なめでも映えるとは思ってなかった」
「『とりあえずこれで行ってみるか』ぐらいのノリでやってこれだもんね……。あたし的な本命が一個あるんだけど、それを合わせてみるのが少しだけ怖くなっちゃったかも」
どこかの伝統工芸品のように絶えず首を上下させながら、セイちゃんと千尋さんはただひたすらに勝算の言葉を口にする。二人のフィルターがかなり現実を過大評価させているとしか思えないのだけれど、笑われたり変な表情をされるよりは褒められる方が僕も嬉しいからこれでいいんだろう。……いや、ここまでべた褒めされるとむしろ恥ずかしさが勝つみたいな部分はあるのだけれど。
「つむ君つむ君、次はこれを当ててもらっていいかい? 実際に合わせてみないと印象が分かるわけもないってことが今確定したし、ちょっと微妙だと思ってたやつも今一度判断しなくちゃいけなくなったからね」
「うんうん、やるしかないね。折角フリータイムで取ってるんだし、たっぷり時間使って合わせちゃおう!」
そんな言葉を皮切りに二人から次の衣装が差し出され、カラオケの中で簡易的なファッションショーが幕を開ける。ここまで楽しそうにやられると僕もだんだんと乗ってきて、気が付けばすっと衣装を体に当てていた。
一つ衣装を変えるたびに歓声が飛び、それぞれに違った称賛の言葉が二人だけとは思えない熱量で浴びせられる。その一つ一つにセイちゃんの豊富な語彙力が使われているのは何となく無駄遣いのような気がしないでもないのだけれど、楽しそうだからいいんだろう。ラブコメ書いてるって話だし、これがモチーフになったシーンが書かれるとか言われたら少しだけ複雑だけど。
セイちゃんの続刊を買う事に少しだけの怖さを感じながら、ファッションショーはどんどんと進んでいく。だんだんと服を抑える手つきにも慣れてきて、二人のお願いに応えるままに僕はどんどんと衣装を切り替えていった。
「……さて、とりあえず候補はこれぐらいかな……。ここで選別するのはあまりにも惜しいけど、どうしても九種類の服全部を着て撮影するのも難しいしなあ」
「そうだね……。一つの衣装の方が統一感出るし、これは何とか他の事に使うしかないかあ」
「……その他の事、僕関連の事じゃないよね?」
名残惜しそうに選ばれなかった衣装を見つめる二人を見つめて、僕は恐る恐る問いかける。今回は演じるための衣装、おまけにセイちゃんと千尋さんの二人しか見ないって条件が付いてるからぎりぎりどうにかなるけれど、他の所でこの衣装たちを着ている自分を想像するのは結構難しかった。
「うーん、つむ君にはもっとそういう道を進んでいってほしい気持ちはあるんだけど……」
「こればかりは紡君の気持ち次第だからね……。これから少しずつ慣れて行ってくれたら嬉しい、かな?」
そんな僕に対して、二人は少し複雑そうな表情を浮かべながら答える。……もしかしたら、僕とオシャレ……と言うか女装の縁はこれから先も続いていくのかもしれない。二人に見せる分には別にいいから、千尋さんが言うように、後は本当に慣れだけなのかもしれない。
「……さて、それじゃあ最後の一着行こうか。これが二人の思う一番いい奴なんだよね?」
その未来を少し想像しつつ、僕は話を前へと進めていく。その確認に二人が頷いたのを確認して、僕は最後の一着、ここまで当ててこなかった奴に手を伸ばした。
それは黒をベースにデザインされた、いわゆるゴスロリめいた装飾が施された衣装だ。かといって派手派手しいわけでもなく、素人目にもいい塩梅のデザインがされているのが分かる。二人が本命に選ぶのもうなずけるななんて思いながら、僕はそれを体に合わせてみて――
「……わあ」
「これは、ちょっと想像以上だったなあ……」
――聞こえてきた二人の声が、その感覚の正しさを保証してくれているような気がした。
「まさか清楚系がここまで似合うとはね……。派手なのよりはマッチするだろうと思ってそういうの多めで見繕っては来たんだけれど、まさかここまで装飾少なめでも映えるとは思ってなかった」
「『とりあえずこれで行ってみるか』ぐらいのノリでやってこれだもんね……。あたし的な本命が一個あるんだけど、それを合わせてみるのが少しだけ怖くなっちゃったかも」
どこかの伝統工芸品のように絶えず首を上下させながら、セイちゃんと千尋さんはただひたすらに勝算の言葉を口にする。二人のフィルターがかなり現実を過大評価させているとしか思えないのだけれど、笑われたり変な表情をされるよりは褒められる方が僕も嬉しいからこれでいいんだろう。……いや、ここまでべた褒めされるとむしろ恥ずかしさが勝つみたいな部分はあるのだけれど。
「つむ君つむ君、次はこれを当ててもらっていいかい? 実際に合わせてみないと印象が分かるわけもないってことが今確定したし、ちょっと微妙だと思ってたやつも今一度判断しなくちゃいけなくなったからね」
「うんうん、やるしかないね。折角フリータイムで取ってるんだし、たっぷり時間使って合わせちゃおう!」
そんな言葉を皮切りに二人から次の衣装が差し出され、カラオケの中で簡易的なファッションショーが幕を開ける。ここまで楽しそうにやられると僕もだんだんと乗ってきて、気が付けばすっと衣装を体に当てていた。
一つ衣装を変えるたびに歓声が飛び、それぞれに違った称賛の言葉が二人だけとは思えない熱量で浴びせられる。その一つ一つにセイちゃんの豊富な語彙力が使われているのは何となく無駄遣いのような気がしないでもないのだけれど、楽しそうだからいいんだろう。ラブコメ書いてるって話だし、これがモチーフになったシーンが書かれるとか言われたら少しだけ複雑だけど。
セイちゃんの続刊を買う事に少しだけの怖さを感じながら、ファッションショーはどんどんと進んでいく。だんだんと服を抑える手つきにも慣れてきて、二人のお願いに応えるままに僕はどんどんと衣装を切り替えていった。
「……さて、とりあえず候補はこれぐらいかな……。ここで選別するのはあまりにも惜しいけど、どうしても九種類の服全部を着て撮影するのも難しいしなあ」
「そうだね……。一つの衣装の方が統一感出るし、これは何とか他の事に使うしかないかあ」
「……その他の事、僕関連の事じゃないよね?」
名残惜しそうに選ばれなかった衣装を見つめる二人を見つめて、僕は恐る恐る問いかける。今回は演じるための衣装、おまけにセイちゃんと千尋さんの二人しか見ないって条件が付いてるからぎりぎりどうにかなるけれど、他の所でこの衣装たちを着ている自分を想像するのは結構難しかった。
「うーん、つむ君にはもっとそういう道を進んでいってほしい気持ちはあるんだけど……」
「こればかりは紡君の気持ち次第だからね……。これから少しずつ慣れて行ってくれたら嬉しい、かな?」
そんな僕に対して、二人は少し複雑そうな表情を浮かべながら答える。……もしかしたら、僕とオシャレ……と言うか女装の縁はこれから先も続いていくのかもしれない。二人に見せる分には別にいいから、千尋さんが言うように、後は本当に慣れだけなのかもしれない。
「……さて、それじゃあ最後の一着行こうか。これが二人の思う一番いい奴なんだよね?」
その未来を少し想像しつつ、僕は話を前へと進めていく。その確認に二人が頷いたのを確認して、僕は最後の一着、ここまで当ててこなかった奴に手を伸ばした。
それは黒をベースにデザインされた、いわゆるゴスロリめいた装飾が施された衣装だ。かといって派手派手しいわけでもなく、素人目にもいい塩梅のデザインがされているのが分かる。二人が本命に選ぶのもうなずけるななんて思いながら、僕はそれを体に合わせてみて――
「……わあ」
「これは、ちょっと想像以上だったなあ……」
――聞こえてきた二人の声が、その感覚の正しさを保証してくれているような気がした。
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