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第百五十話『僕は合わせてみる』

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「出来合いの物はどうしても試着が難しいからね。そこに関しては一長一短だし、文句をつけることは出来ないけど」

「袋入りの宿命、みたいなところはあるよね……。それ含めてもいいものだな―とは思うけど」

 きっと店の中で一番大きなものであろうレジ袋からいくつも衣装の入った袋を取り出しながら、二人はまるで世間話かのように言葉を交わす。……それを見ている僕にとってはまるで非日常の光景なのだけれど、多分二人にその自覚はないらしい。

 相当お財布には余裕をもって出てきたようで、結局セイちゃんたちはあのお店にあったほとんどのドレス衣装を買い込んでいった。小説家としての活動がうまく行っていること自体はいいことなのだろうけれど、それで得たお金の使い道がこれで本当にいいのだろうか。

(……多分、いいんだろうなあ)

 あの店で見た勢いのある答えを思い出して、僕は一つ息を吐く。裏を返せばそれだけ文化祭に本気でいてくれているという事なのだろうけれど、少しベクトルが違っているような気がしないでもないのは僕の気のせいだろうか。

 そんなことを考えているうちに、カラオケのテーブルの上に購入した衣装が全て出揃う。十――とまでは流石に行かなかったけれど、両手の指でギリギリ収まるぐらいの数の衣装が並んでいた。

 試着が出来ないならどこで試してみるんだという疑問があったが、それを解決するという意味ではカラオケボックスは最適解と言ってもよかった。『着替える時どうするんだ問題』だけは未だに解決していなかったが、『とりあえず服の上から当ててみて感触を確かめたい』だけらしいから問題はない……二人が言うには、だけども。

「さて、それじゃあお楽しみの合わせタイムだね。ここなら私たち以外の人も来ないし、つむ君の可愛くなった姿が人目に晒されることもない」

「だね。きっと紡君はすごくかわいくなると思ったんだけど、変な人に絡まれないかどうかだけが不安だったんだ」

 お互いにうんうんと頷き合いながら、二人はカラオケボックスに向かった判断を称賛しあう。……なんだろう。普段から仲がいいのはもちろんの事なんだけど、今日はいつも以上に通じ合っているというか、同調度が半端ないような気がする。

「さてさて、まず最初のはー……っと」

 あれこれと眼を滑らせながら一つの衣装へとピントを合わせ、袋がピリッと開かれる。その中からお目見えしたのは、いかにも童話のお姫様が着るようなフリル付きの、そして純白のドレスだった。

 ウェディングドレスとはまた少し印象が違うけれど、それでもかなり清楚な……と言うか、おしとやかな印象がある服なことには変わりがない。出来合いの衣装だと思えないぐらいには綺麗で、僕の考えている物語の雰囲気を壊すことのない衣装だった。

「……これ、コスプレとかいう領域を超えてない……?」

「もちろん、それが分かってるから私たちもあそこに向かったんだし。どれがつむ君に似合うかじゃなくて、似合う事は前提でどれが一番かを悩むためにこれだけの量を買い込んできたんだからね」

 自分が褒められているときのように誇らしげな様子でしわを伸ばしながら、セイちゃんは僕の方へとその服を差し出してくる。今来ている服の上から当ててどんな感じ化を見てみるというのが、二人の言う所の『合わせ』だという事なのだろう。

 着替えるのは恥ずかしくても、服の上から当てるぐらいだったら心理的なハードルもない。セイちゃんから服を受け取り、おぼつかないながらもどうにかこうにか服を手で押さえながら合わせてみると――

「……お、おおお……?」

 その様子を見た二人の目が、なんだかよく分からない光を帯び始める。それがどんな意味を持つのか僕は今一つ読み切ることが出来なかったのだけれど、すぐにその真相は明らかになる。

「……あたしたちの眼は、どうやら間違ってなかったみたいだね……」

 いかにも感慨深そうにしみじみと呟く、千尋さんの声によって。
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