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第百四十八話『僕と雑貨屋』
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「……さて、と」
かなり上機嫌なセイちゃんに連れられて、僕たちは大きな店の前にたどり着く。そこは服屋……ではなく、いろんな商品が集まる雑貨屋のようなところだった。
「……『さてと』って、衣装選びがここでできるの?」
「出来るとも、ここの品ぞろえはとんでもないからね。簡易的な衣装を探すならきっとここが一番さ」
「うん、あたしもそうだと思う。舞台は現代じゃないってことだけ聞いたし、それならこのお店の方がイイもの見つけられるんじゃないかな?」
首をかしげる僕に、セイちゃんと千尋さんは口々に応える。その反応を見る限り、どうやらこのお店はかなり有名なようだ。……なんだろう、少し悔しいような気がする。
「つむ君のオシャレをお手伝いすると言っても、衣装ばかりはつむ君仕様で作るわけにはいかないからね。他のアクセサリーとか化粧とかは何とか自力で集めるとして、衣装はここでそれっぽいのを探そうって寸法さ」
「……確かに、そういう事なら……?」
僕と千尋さんじゃ衣装のサイズはもちろん違ってくるし、なんなら僕が一度着た衣装を千尋さんが着るなんてことが起こればクラスでとんでもない反発が飛んでくるだろう。今のところ衣装はクラスの皆に合わせるしかないし、クラスの皆との関係性は付かず離れずをキープしなくてはならないものだ。
「まあ確かに、ファンタジー味のある服ってなるとあるとしても値段は張るだろうし……。簡易的な物ならこういう所で大丈夫なんだろうな」
「そういう事。ささつむ君、とりあえず入って慣れてみるのが一番だよ」
「そうだね。このお店は直接自分の眼で確かめて慣れていく方がイイかも」
顎に手を当てて考え込む僕を後押しするかのように、またも二人の意見が揃う。そこまで熱心におススメされてしまっては、いつまでも尻込みしているわけにはいかなかった。
女装とかは完全にセイちゃんの趣味が絡んでる部分だろうけど、これが文化祭の成功のために必要なことは間違いないし。ここまで来たら腹を括ってやりきって見せろと、多分そういう事なんだろう。
「……うん、分かった。じゃあ行こうか、二人とも」
「さすがつむ君、話が分かるね。……それじゃあ行こうか、このあたり最強の雑貨屋に」
「うん! 紡君の事、目一杯可愛くしちゃおう!」
僕が頷くのを待っていたかのように、千尋さんとセイちゃんは軽やかな足取りで店の入り口の方へと歩いていく。大きな自動ドアの上にくっつけられた青い服を着たカモメのイラストが笑顔を浮かべ、僕たちを出迎えていた。
――そしてドアの向こうに広がる景色を見た瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは『無秩序』だった。
別に治安が悪いとかじゃない、ただ並べられている商品が多岐に渡りすぎている。本来一緒に並ぶはずのないものが並び、当たり前のように値札が付いている。……正直、初見には辛いぐらいの情報量がそこにはあった。
「ふふ、凄い光景だろう? 取材としていくのはあまりにも色が強すぎるけど、こうやって遊びに行ってみる分には悪くないよね」
「そうだね。でも、あんまり全体の配置が変わってないのはありがたいかも。……ほら、例えばあそこに――」
セイちゃんの言葉を引き取りながら千尋さんはあちこちに視線を回し、やがてそれは一つの場所へと止まる。そこに並べられているのは、どうやら服のようだった。
……だけど、何となくいつも見るようなのと様相が違うように思える。アレは服と言うよりは、どっちかって言うと完成済みの衣装のようで。……もっと言うなら、コスプレのように見えて――
「ああ、変わらずあってくれてよかった。……それじゃあ、行こうか?」
千尋さんに誘導されてその一角を見つけたセイちゃんが、嬉しそうに笑った。
かなり上機嫌なセイちゃんに連れられて、僕たちは大きな店の前にたどり着く。そこは服屋……ではなく、いろんな商品が集まる雑貨屋のようなところだった。
「……『さてと』って、衣装選びがここでできるの?」
「出来るとも、ここの品ぞろえはとんでもないからね。簡易的な衣装を探すならきっとここが一番さ」
「うん、あたしもそうだと思う。舞台は現代じゃないってことだけ聞いたし、それならこのお店の方がイイもの見つけられるんじゃないかな?」
首をかしげる僕に、セイちゃんと千尋さんは口々に応える。その反応を見る限り、どうやらこのお店はかなり有名なようだ。……なんだろう、少し悔しいような気がする。
「つむ君のオシャレをお手伝いすると言っても、衣装ばかりはつむ君仕様で作るわけにはいかないからね。他のアクセサリーとか化粧とかは何とか自力で集めるとして、衣装はここでそれっぽいのを探そうって寸法さ」
「……確かに、そういう事なら……?」
僕と千尋さんじゃ衣装のサイズはもちろん違ってくるし、なんなら僕が一度着た衣装を千尋さんが着るなんてことが起こればクラスでとんでもない反発が飛んでくるだろう。今のところ衣装はクラスの皆に合わせるしかないし、クラスの皆との関係性は付かず離れずをキープしなくてはならないものだ。
「まあ確かに、ファンタジー味のある服ってなるとあるとしても値段は張るだろうし……。簡易的な物ならこういう所で大丈夫なんだろうな」
「そういう事。ささつむ君、とりあえず入って慣れてみるのが一番だよ」
「そうだね。このお店は直接自分の眼で確かめて慣れていく方がイイかも」
顎に手を当てて考え込む僕を後押しするかのように、またも二人の意見が揃う。そこまで熱心におススメされてしまっては、いつまでも尻込みしているわけにはいかなかった。
女装とかは完全にセイちゃんの趣味が絡んでる部分だろうけど、これが文化祭の成功のために必要なことは間違いないし。ここまで来たら腹を括ってやりきって見せろと、多分そういう事なんだろう。
「……うん、分かった。じゃあ行こうか、二人とも」
「さすがつむ君、話が分かるね。……それじゃあ行こうか、このあたり最強の雑貨屋に」
「うん! 紡君の事、目一杯可愛くしちゃおう!」
僕が頷くのを待っていたかのように、千尋さんとセイちゃんは軽やかな足取りで店の入り口の方へと歩いていく。大きな自動ドアの上にくっつけられた青い服を着たカモメのイラストが笑顔を浮かべ、僕たちを出迎えていた。
――そしてドアの向こうに広がる景色を見た瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは『無秩序』だった。
別に治安が悪いとかじゃない、ただ並べられている商品が多岐に渡りすぎている。本来一緒に並ぶはずのないものが並び、当たり前のように値札が付いている。……正直、初見には辛いぐらいの情報量がそこにはあった。
「ふふ、凄い光景だろう? 取材としていくのはあまりにも色が強すぎるけど、こうやって遊びに行ってみる分には悪くないよね」
「そうだね。でも、あんまり全体の配置が変わってないのはありがたいかも。……ほら、例えばあそこに――」
セイちゃんの言葉を引き取りながら千尋さんはあちこちに視線を回し、やがてそれは一つの場所へと止まる。そこに並べられているのは、どうやら服のようだった。
……だけど、何となくいつも見るようなのと様相が違うように思える。アレは服と言うよりは、どっちかって言うと完成済みの衣装のようで。……もっと言うなら、コスプレのように見えて――
「ああ、変わらずあってくれてよかった。……それじゃあ、行こうか?」
千尋さんに誘導されてその一角を見つけたセイちゃんが、嬉しそうに笑った。
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