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第百三十六話『僕たちは気配を感じる』
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「……そういえば、もう少しすると文化祭が始まるって聞いたんだけどさ」
そんな風にセイちゃんが切り出してきたのは、九月ももう少しで終わろうという時の事。クリスマスデートを提案しセイちゃんと作戦会議をしてから、大体二週間ぐらいが経ったときの事だった。
僕と千尋さん、そしてセイちゃんは中庭のベンチに腰掛け、最近少し冷たくなっていた風を感じながら弁当を食べている。基本的には学食に人が集まるという事もあって、わざわざ手作りの弁当を作って中庭で食べようという人はそんなにいない様だった。
最初は教室で食べてたんだけど、そうすると周囲からの視線が凄まじいんだよね……まるで僕の事なんて認識すらしていないような態度で皆近づいてくるし、色々と話しかけたり勝手にご飯に同席しだしたりするし。……正直、セイちゃんが最近千尋さんに並ぶぐらいのクラスのアイドルになりつつあるような気がしてならない。
セイちゃん自身が『人の都合を押しのけてまで話そうとしてくる人と関わる必要はない』ってスタンスでいる以上、それはきっと杞憂だけで終わるんだろうけどね。基本的には誰にでも優しく在ろうとする千尋さんと、交流のない人にはとことん冷たくあたるセイちゃんは色々と対照的だ。
問題があるとすれば、セイちゃんのそんな一面すら『塩対応なのがイイ』とか言い出す人が居ることなんだけど……。まあ、それは個人の自由の範囲として許すべきなのかもね。
「何か出し物をするってのは当然あるだろうけど、このクラスのメンバーで何ができるか分かったものじゃないのがね……正直、私はあまり乗り気じゃないんだよ」
「あー、犀奈は確かに色々と難しそうだね……。クラスの皆ももう少し距離を取ってというか、常識的な接し方をしてくれればいいんだけど」
水稲の中身を飲み干しながら愚痴をこぼすセイちゃんに、千尋さんは困ったような笑みを浮かべる。それは、少なからず同じ悩みを抱えているからこそ出てきた言葉のようなものに思えた。
有名税なんて言葉があるけど、セイちゃんや千尋さんはそれでお金を稼いでるってわけでもないからね……。ただとっても美人さんで、それが嫌でも周りの注目を稼いでしまう。言い換えるなら、この学校の生徒がミーハーってことになるのかもしれない。
「今のところ悪印象がないのが君たち二人と桐原君なんだけど、あの子も二人に失礼なことをしたって話だろう? ……そうなると、本当に私はどう文化祭を愉しんでいいかが分からないな……」
「ごめんね、ほんとは桐原君とも仲良くできたらいいんだけど……。普段から集まってくる人以上に、あの人にはどう接したらいいか分からなくて」
信二の名前が出た瞬間、千尋さんは微妙な表情を浮かべて言葉を濁らせる。夏休みを経ても変わらず大人しいままだった僕の元友人は、クラスの中でも何とも言えない立ち位置に落ち着いていた。
別に友達がいないってわけじゃないんだけれど、どこかクラスの雰囲気から浮いているような。……あえてそれに交わらないことを選んでいるような、そんな気がする。それが一体何を思っての事なのか、それが分からないのが一つ問題ではあるんだけど――
「文化祭――かあ」
私立高という事も相まって、この学校の文化祭は本当にバラエティ色が強い。申請さえすれば基本的に何でもできるし、学校側もそれを魅力として押し出している節がある。言うなれば、生徒の自主性が相当強いのだ。
それはつまり、普段セイちゃんや千尋さんに向いている視線がそのままウチのクラスの出し物に強く影響を及ぼしてしまう危険性もはらんでいる。……というか、どう足掻いても数の暴力でそうなる未来しか見えなかった。
「僕たち三人で楽しめたらいいけど、それも難しいだろうしね。……千尋さん、多分もう文化祭の先約がどうのこうのって周りから言われてるでしょ?」
「うん、紡君の言う通り。……もちろん一緒に居る時間は取れるけど、三人一緒に回る時間ってのはちょっと少なくなっちゃうかも」
僕が確認すると、千尋さんは申し訳なさそうに肩をすぼめながらそう呟く。千尋さんの人気を考えればそれもしょうがない話ではあるのだけれど、改めて考えると悲しい話だ。……少なくとも、小説とかで見るような煌びやかで『ザ・青春』って側面だけじゃあいられない。
「……なんというか、色々としがらみが多い文化祭になりそうだね……。良くも悪くも、忘れられない思い出がたくさん増えることになりそうな気がするよ」
そんな僕の内心をくみ取ったかのように。セイちゃんは大きくため息を一つ。――ラブコメの定番でもある『文化祭』の足音は、大量の不安とともに僕たちに近づいてきていた。
そんな風にセイちゃんが切り出してきたのは、九月ももう少しで終わろうという時の事。クリスマスデートを提案しセイちゃんと作戦会議をしてから、大体二週間ぐらいが経ったときの事だった。
僕と千尋さん、そしてセイちゃんは中庭のベンチに腰掛け、最近少し冷たくなっていた風を感じながら弁当を食べている。基本的には学食に人が集まるという事もあって、わざわざ手作りの弁当を作って中庭で食べようという人はそんなにいない様だった。
最初は教室で食べてたんだけど、そうすると周囲からの視線が凄まじいんだよね……まるで僕の事なんて認識すらしていないような態度で皆近づいてくるし、色々と話しかけたり勝手にご飯に同席しだしたりするし。……正直、セイちゃんが最近千尋さんに並ぶぐらいのクラスのアイドルになりつつあるような気がしてならない。
セイちゃん自身が『人の都合を押しのけてまで話そうとしてくる人と関わる必要はない』ってスタンスでいる以上、それはきっと杞憂だけで終わるんだろうけどね。基本的には誰にでも優しく在ろうとする千尋さんと、交流のない人にはとことん冷たくあたるセイちゃんは色々と対照的だ。
問題があるとすれば、セイちゃんのそんな一面すら『塩対応なのがイイ』とか言い出す人が居ることなんだけど……。まあ、それは個人の自由の範囲として許すべきなのかもね。
「何か出し物をするってのは当然あるだろうけど、このクラスのメンバーで何ができるか分かったものじゃないのがね……正直、私はあまり乗り気じゃないんだよ」
「あー、犀奈は確かに色々と難しそうだね……。クラスの皆ももう少し距離を取ってというか、常識的な接し方をしてくれればいいんだけど」
水稲の中身を飲み干しながら愚痴をこぼすセイちゃんに、千尋さんは困ったような笑みを浮かべる。それは、少なからず同じ悩みを抱えているからこそ出てきた言葉のようなものに思えた。
有名税なんて言葉があるけど、セイちゃんや千尋さんはそれでお金を稼いでるってわけでもないからね……。ただとっても美人さんで、それが嫌でも周りの注目を稼いでしまう。言い換えるなら、この学校の生徒がミーハーってことになるのかもしれない。
「今のところ悪印象がないのが君たち二人と桐原君なんだけど、あの子も二人に失礼なことをしたって話だろう? ……そうなると、本当に私はどう文化祭を愉しんでいいかが分からないな……」
「ごめんね、ほんとは桐原君とも仲良くできたらいいんだけど……。普段から集まってくる人以上に、あの人にはどう接したらいいか分からなくて」
信二の名前が出た瞬間、千尋さんは微妙な表情を浮かべて言葉を濁らせる。夏休みを経ても変わらず大人しいままだった僕の元友人は、クラスの中でも何とも言えない立ち位置に落ち着いていた。
別に友達がいないってわけじゃないんだけれど、どこかクラスの雰囲気から浮いているような。……あえてそれに交わらないことを選んでいるような、そんな気がする。それが一体何を思っての事なのか、それが分からないのが一つ問題ではあるんだけど――
「文化祭――かあ」
私立高という事も相まって、この学校の文化祭は本当にバラエティ色が強い。申請さえすれば基本的に何でもできるし、学校側もそれを魅力として押し出している節がある。言うなれば、生徒の自主性が相当強いのだ。
それはつまり、普段セイちゃんや千尋さんに向いている視線がそのままウチのクラスの出し物に強く影響を及ぼしてしまう危険性もはらんでいる。……というか、どう足掻いても数の暴力でそうなる未来しか見えなかった。
「僕たち三人で楽しめたらいいけど、それも難しいだろうしね。……千尋さん、多分もう文化祭の先約がどうのこうのって周りから言われてるでしょ?」
「うん、紡君の言う通り。……もちろん一緒に居る時間は取れるけど、三人一緒に回る時間ってのはちょっと少なくなっちゃうかも」
僕が確認すると、千尋さんは申し訳なさそうに肩をすぼめながらそう呟く。千尋さんの人気を考えればそれもしょうがない話ではあるのだけれど、改めて考えると悲しい話だ。……少なくとも、小説とかで見るような煌びやかで『ザ・青春』って側面だけじゃあいられない。
「……なんというか、色々としがらみが多い文化祭になりそうだね……。良くも悪くも、忘れられない思い出がたくさん増えることになりそうな気がするよ」
そんな僕の内心をくみ取ったかのように。セイちゃんは大きくため息を一つ。――ラブコメの定番でもある『文化祭』の足音は、大量の不安とともに僕たちに近づいてきていた。
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