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第八十六話『僕は見抜かれる』
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「ごめんね照屋君、お父さんの悪酔いにつき合わせちゃって……」
「大丈夫だよ、別に迷惑だとかは思ってないし。むしろ賑やかでいいお父さんだと思うな」
酔った末に眠りこけた新谷さんの隣で頭を下げ続ける亜子さんに、僕は笑顔を返しながら続ける。近くの流しでは千尋さんがコップに水を汲んでいて、叩きおこしてでも酔いを醒まさせる準備は万端と言ったところだ。
「普段はあんなペースでお酒を飲まないんだけど、ちーちゃんが来るといつもこうなっちゃって。……まあ、それにしたって今年はとんでもない飲みっぷりだったけど」
「がぶがぶ飲んでその分酔ってたからね……。後でお母さんに怒られたりしないの?」
その僕の問いに、亜子さんは無言で応える。それが何の答えを示しているのか、僕は不思議と確信することが出来た。……多分、酔いが醒めた新谷さんにはキツイ折檻が待っていることだろう。
「でもまあ、こうやって素直に酔えるのはすごくいいことだと思うけどね。うちのお父さん、お酒は飲むけどよって喋るようになったりとかはしないタイプだから」
酒を飲んでいなくても寡黙で、僕に対してほとんど何も言おうとしないのが僕のお父さんだ。小さい頃はそれに憧れる時期もあったけれど、今はそれをいいことだとは思えない。沈黙は金だなんて言うけれど、金も過ぎれば毒となるようにしか感じられなかった。
「裏も表もなくて本音でぶつかってくれるの、僕としては嬉しいからね。……何をしても何も言ってくれないの、安心感よりも先に怖さが先に来ちゃうからさ」
何をしても自分が放置されてしまっているような、諦められてしまっているような不安感。怒られているうちが花という言葉は本当なのだろうと、僕はお父さんの姿を見て痛感した。
「……照屋君、優しい人なんだね。ちーちゃんが好きになったの、何となくわかるかも」
「……今のやり取りで?」
僕としてはただ本音を話しただけなのだけれど、それが亜子さんの琴線に触れたらしい。認めてくれるのは嬉しいけれど、やはりどこか戸惑いがあるのは否定できなかった。
「分かるよ、優しい人なんだなってのが伝わってくるし。人のことを否定せずに受け入れるのもちーちゃんの好みって感じ。あの子、皆に過剰なぐらいに好かれることに悩んでたみたいだから」
少し表情を曇らせながら、水道付近で色々と作業をしている千尋さんの方へと亜子さんは視線を向ける。感情がはっきりと前に出てくるところは、家族の共通点だと言ってもよさそうだった。
「……あのね照屋君、聞いてほしいんだ。去年までのちーちゃんの事」
僕と視線を合わせて、頼み込むように亜子さんはそう口にする。その言葉の重みは、きっと僕が想像しているよりもはるかに大きくて――
「……分かった。聞くよ、君が抱えてるもの」
そう答える以外、僕に選択肢はないも同然だった。
「大丈夫だよ、別に迷惑だとかは思ってないし。むしろ賑やかでいいお父さんだと思うな」
酔った末に眠りこけた新谷さんの隣で頭を下げ続ける亜子さんに、僕は笑顔を返しながら続ける。近くの流しでは千尋さんがコップに水を汲んでいて、叩きおこしてでも酔いを醒まさせる準備は万端と言ったところだ。
「普段はあんなペースでお酒を飲まないんだけど、ちーちゃんが来るといつもこうなっちゃって。……まあ、それにしたって今年はとんでもない飲みっぷりだったけど」
「がぶがぶ飲んでその分酔ってたからね……。後でお母さんに怒られたりしないの?」
その僕の問いに、亜子さんは無言で応える。それが何の答えを示しているのか、僕は不思議と確信することが出来た。……多分、酔いが醒めた新谷さんにはキツイ折檻が待っていることだろう。
「でもまあ、こうやって素直に酔えるのはすごくいいことだと思うけどね。うちのお父さん、お酒は飲むけどよって喋るようになったりとかはしないタイプだから」
酒を飲んでいなくても寡黙で、僕に対してほとんど何も言おうとしないのが僕のお父さんだ。小さい頃はそれに憧れる時期もあったけれど、今はそれをいいことだとは思えない。沈黙は金だなんて言うけれど、金も過ぎれば毒となるようにしか感じられなかった。
「裏も表もなくて本音でぶつかってくれるの、僕としては嬉しいからね。……何をしても何も言ってくれないの、安心感よりも先に怖さが先に来ちゃうからさ」
何をしても自分が放置されてしまっているような、諦められてしまっているような不安感。怒られているうちが花という言葉は本当なのだろうと、僕はお父さんの姿を見て痛感した。
「……照屋君、優しい人なんだね。ちーちゃんが好きになったの、何となくわかるかも」
「……今のやり取りで?」
僕としてはただ本音を話しただけなのだけれど、それが亜子さんの琴線に触れたらしい。認めてくれるのは嬉しいけれど、やはりどこか戸惑いがあるのは否定できなかった。
「分かるよ、優しい人なんだなってのが伝わってくるし。人のことを否定せずに受け入れるのもちーちゃんの好みって感じ。あの子、皆に過剰なぐらいに好かれることに悩んでたみたいだから」
少し表情を曇らせながら、水道付近で色々と作業をしている千尋さんの方へと亜子さんは視線を向ける。感情がはっきりと前に出てくるところは、家族の共通点だと言ってもよさそうだった。
「……あのね照屋君、聞いてほしいんだ。去年までのちーちゃんの事」
僕と視線を合わせて、頼み込むように亜子さんはそう口にする。その言葉の重みは、きっと僕が想像しているよりもはるかに大きくて――
「……分かった。聞くよ、君が抱えてるもの」
そう答える以外、僕に選択肢はないも同然だった。
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