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第五章『遠い日の約定』
第三百八十四話『盲信の輪』
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一人の男が高らかに声を上げたのをきっかけとして、俺たちの左右からたくさんの人が俺たちを囲むように現れる。その服装も性別もそれぞれまちまちだったが、ぱっと見でその人たちがさっきの男たちと同じ、ベルメウで暮らす人々なことは何となく理解できた。
その数は十を超え二十を超え、三十に届くのではないかと思うぐらいにどんどんと増えていく。時間が経てばたつほどその数が増えていく以上、ここで立ち止まるのは得策ではないだろう。
「……レイチェル、早速頼っていいか?」
俺たちを挟み込むように増えていく人々を見やりながら、俺は隣に立つレイチェルに声をかける。『約定』のことを思うとあまり消耗させたくはないが、俺一人でここまでの多人数を相手にすることはまず不可能だ。
できないことはできないでもいい、その代わり自分にできることは全力で受け持つ。それが『夜明けの灯』の本来の形であり、一番強みが出せるやり方だ。……少しだけ忘れかけてしまっていたのが恥ずかしくなるぐらい、当たり前の話でもある。
「うん、どんどん頼ってくれていいよ。……あの人たち、多分あたしたちの味方じゃないんだよね?」
「ああ、残念なことにな。本当は助けたいけど、あっちから邪魔してくるって言うなら遠慮する理由はねえ」
どんどんと増えていく集団から発される言葉の数々は、さっきの男と似たような盲信を感じさせる。どんな過程を経ればただの一般人をここまでコントロールできるかは分からないが、話し合いで解けるレベルの誤解じゃないのは事実だ。……それが解けることがあるとすれば、この盲信を与えた奴を殺したときしかあり得ないだろう。
だが、俺とレイチェルだけで襲撃者の殲滅ができるかと言えば無理にもほどがある。……故に、ここは逃げの一手。戦略的撤退の名において、尻尾を巻いて逃げ出させてもらおう。
それを無力の証明だという奴も『夜明けの灯』のリーダーとして相応しくないと揶揄する奴も、この街には一人もいない。……俺たちの仲間にそういう事をいう奴はいないと、レイチェルは断言してくれたのだから。
「レイチェル、お前の魔術で右か左のどっちかに風穴を開けて突破したい。……行けるよな?」
「うん、任せて。……あたしが魔術を練習してきたのはこういう時の為なんだって、最近やっとわかったから」
俺の頼みを二つ返事で引き受けて、レイチェルはペンダントを強く握りしめる。……その両側からは、眼を血走らせた人々の突き刺すような視線が向けられていた。
「……俺の……家族の、明日……‼」
「捕らえる、捕らえる……死にたく、ない……‼」
じりじりと追いつめるように距離を近づけてくる人たちの目に宿っているのは、あまりにも純粋で切実な生存への願望だ。俺たちを倒すことでこの襲撃は終わると信じ、生きて平和な明日を迎えようと血眼になっている。
だが、それは襲撃者によって植え付けられた大きな間違いだ。……揃って首元に刻まれた薄黄色の文様が、この人たちがさっきの男と同じ間違いを犯していることを裏付けさせてくれる。
ここまでたくさんの人に刻んでいることを考えると、襲撃者がこのあたり一帯を制圧したのは洗脳の魔術によるものだと考えていいだろう。そうして強引に支配下に置いた者たちを本命の探し物に使う、何とも合理的なやり方だ。
「……俺たちは明日を掴む。自分のために、家族のために。――そして、魂をなげうって俺たちに敵の居場所を伝えてくれた同志のために」
詰め寄るペースをコントロールしていた一人の男が、俺たちを鋭い眼で睨みつけながらまるで呪文のように呟く。『死にたくない』という意思が、戦いに慣れていないであろう人たちの足を前へと動かしていく。そのゆっくりとした雰囲気はまるで、張り詰めた糸が切れる一歩前のように思えて――
「――行くぞ、皆ッ‼」
「レイチェル、今だ――‼」
戦士の如く勇ましい男の咆哮と、レイチェルに指示を出す俺の叫びが重なり合って街の中に響き渡る。その直後、レイチェルは足を地面に叩きつけながら声を張り上げた。
「……守り手様、あたしに力を貸して‼」
レイチェルを一番近くで見守ってきた存在を迷うことなく信じて、レイチェルはまっすぐに敵を見据える。その思いに応えるかのように、通りを一陣の風が吹き抜けた。
レイチェルの意志によってそれは一度束ねられ、そしてすぐに敵を撥ねつける旋風へと変化を遂げる。……数十人の息を合わせた攻勢も敵わず、周囲に立っていた俺たち以外の人間は全て吹き飛ばされた。
「ナイスレイチェル、最高の仕事だ! ……さて、今の内にできる限り距離を取るぞ!」
その圧倒的な防御力に舌を巻きつつ、俺はこの包囲網を突破するべく地面を蹴り飛ばす。そうしてある程度スピードが付き始めたその時、隣を走っていたレイチェルが俺の手を取った。
「マルク、そのまましっかり握ってて! ……この人たちの事、一気に飛び越えるから!」
戸惑う俺にそう宣言すると、レイチェルはひときわ強く地面を蹴り上げる。その一歩とともに吹き抜けた追い風が、俺たちを一息に空中へと誘った。
風の球体を使って安定的に空を飛ぶリリスとは違い、レイチェルのそれは踏み込みに風の補助を組み合わせて大跳躍する瞬間出力に特化したやり方だ。どちらが優れているなんてことはおいそれと言えることではないにしても、とにかく急を要するこの状況の中ではレイチェルの一手がこれ以上なくありがたかった。
一時的にとはいえ空を飛べば当然目立つのは避けられないが、この一帯にいる人間すべてが敵だと判明してしまった以上そんなことを気にする必要はない。あれだけ多くの人間に捕捉されたのだ、今更それが一人や二人増えたところで困ることがあるものか。
「――お願い、着地もうまく行って!」
空中を走るような軌道で移動する俺たちの眼下に、硬い石畳の地面がどんどんと迫ってくる。足からとはいえそのまま着地すれば大ケガは免れなかったが、ちょうどいいタイミングで足元から吹きあがった風が俺たちの着地を考えうる限り最もスムーズに成功させてくれた。
「これで大分距離も取れた、かな……!」
「ああ、俺が思ってた以上の大仕事だ! できることなら、このままこの一帯を抜けさせてほしいところだけどな……‼」
必死に立ち上がって追いかけてくる人々の姿を尻目に、俺たちは通りを風に乗って走り続ける。身体能力が強化された人々は十分な速度で俺たちを追いかけてきていたが、それでも追い風に乗ったレイチェルの方がさらに早かった。
どれだけの広さにいた人たちにあの文様を刻んだかは分からないが、それでも都市全域という事はあり得ないはずだ。とりあえずあの面々を振り切って、文様が刻まれてない人が居るところまで逃げ込む。それさえできれば、俺たちも少しは腰を落ち着いて味方を探すことが出来る――
「――土よ、荒れ狂いやがれッ‼」
そう思った矢先、荒々しい詠唱とともに生まれた土の壁が俺たちの前方に立ちはだかる。明確に足止めを目的とした無骨な建築物を前に、俺たちは一時停止を余儀なくされた。
「ち、無謀に突っ込むなんてことはしねえか。そうしてくれたらお前たちは今頃土に溺れてたところなんだが」
順調だと思ったとたんに現れた新たな障害に俺が内心舌打ちをしていると、近くの店の中からそれ以上に大きな舌打ちをしながら一人の影が現れる。腰に差したショートソードに、身軽さと最低限の防御性能を兼ね備えたチェストプレート。……極めつけはこの土魔術、こいつは間違いなく冒険者だ。
この土魔術を俺たちのために使ってくれるなら、背後から迫ってくる人々も完全にシャットアウトすることが出来るだろう。それが実現するならこれ以上なくありがたいことだが、残念ながらその想像が実現する可能性はゼロだと言ってもよかった。
「……冒険者まで、何の抵抗もできずに囚われたってのかよ……‼」
気だるげに、しかし明確な敵意を持って俺たちを睨みつけてくる男の首元には、開かれた本を模した薄黄色の文様がしっかりと刻まれている。……それは、多少なり実力があるはずの冒険者でさえも敵の手の内に落ちていることの証左だった。
「レイチェル、他の道を探すぞ。屋根の上とか裏路地とか、ここを抜けるルートはほかにも――」
「おっと、それは却下だ。『絶対にこの防衛ラインを死守しろ』って、我らが指揮官から仰せつかってるからな」
迂回してルートを抜ける選択を取ろうとしたその瞬間、それを阻むかのように左右を高い土の壁が塞ぐ。リリスやツバキが居れば話は別なのだろうが、俺とレイチェルだけでこの壁を力任せに破壊するのはまず不可能だと見てよかった。
「……俺たちを倒したところで襲撃は終わらねえ――って言っても、信じてくれないんだろうな」
「当然だろ、俺たちが信じるべき人はとっくに決まってる。明日を笑って迎えたいと思う奴らなら、誰だって指揮官の言葉を信じてるだろうさ」
ダメもとで発してみた言葉にも、冒険者の男はただ肩を竦めるばかりだ。戦いに慣れているからなのか今までの奴らよりは話が通じるものの、根本的な考え方の部分でどうしても一致していない。明日を掴むための条件が、俺たちとこいつらで致命的にすれ違っている。
「さて、目一杯足止めさせてもらうぞ。俺はまだ、生きてやらなきゃなんねえことが山ほど残ってるんだからな」
話は終わりだと言わんばかりに肩を竦めると同時、男は土塊でできた弾丸を構える。前と左右を高い壁で囲われた以上退路は背後にしかないが、その背後からは男の仲間たちが追いかけてきている。ここで苦戦するようなことがあれば、俺たちは挟み撃ちにされておしまいだ。
現状で切れる手札があまりに少ないのだとしても、この戦いを正面から受けて立つ以外に選択肢はない。この決断が最善でないのだとしても、最善を探して迷う時間すら今は惜しかった。
「ああ、分かった。話し合っても分かり合えないなら、力ずくで倒してもらうしかねえな」
心を奮い立たせながら宣戦布告を受けて立ち、男の不遜な笑みを睨み返す。目の前に立ちはだかる壁は、見た目以上に高く険しかった。
その数は十を超え二十を超え、三十に届くのではないかと思うぐらいにどんどんと増えていく。時間が経てばたつほどその数が増えていく以上、ここで立ち止まるのは得策ではないだろう。
「……レイチェル、早速頼っていいか?」
俺たちを挟み込むように増えていく人々を見やりながら、俺は隣に立つレイチェルに声をかける。『約定』のことを思うとあまり消耗させたくはないが、俺一人でここまでの多人数を相手にすることはまず不可能だ。
できないことはできないでもいい、その代わり自分にできることは全力で受け持つ。それが『夜明けの灯』の本来の形であり、一番強みが出せるやり方だ。……少しだけ忘れかけてしまっていたのが恥ずかしくなるぐらい、当たり前の話でもある。
「うん、どんどん頼ってくれていいよ。……あの人たち、多分あたしたちの味方じゃないんだよね?」
「ああ、残念なことにな。本当は助けたいけど、あっちから邪魔してくるって言うなら遠慮する理由はねえ」
どんどんと増えていく集団から発される言葉の数々は、さっきの男と似たような盲信を感じさせる。どんな過程を経ればただの一般人をここまでコントロールできるかは分からないが、話し合いで解けるレベルの誤解じゃないのは事実だ。……それが解けることがあるとすれば、この盲信を与えた奴を殺したときしかあり得ないだろう。
だが、俺とレイチェルだけで襲撃者の殲滅ができるかと言えば無理にもほどがある。……故に、ここは逃げの一手。戦略的撤退の名において、尻尾を巻いて逃げ出させてもらおう。
それを無力の証明だという奴も『夜明けの灯』のリーダーとして相応しくないと揶揄する奴も、この街には一人もいない。……俺たちの仲間にそういう事をいう奴はいないと、レイチェルは断言してくれたのだから。
「レイチェル、お前の魔術で右か左のどっちかに風穴を開けて突破したい。……行けるよな?」
「うん、任せて。……あたしが魔術を練習してきたのはこういう時の為なんだって、最近やっとわかったから」
俺の頼みを二つ返事で引き受けて、レイチェルはペンダントを強く握りしめる。……その両側からは、眼を血走らせた人々の突き刺すような視線が向けられていた。
「……俺の……家族の、明日……‼」
「捕らえる、捕らえる……死にたく、ない……‼」
じりじりと追いつめるように距離を近づけてくる人たちの目に宿っているのは、あまりにも純粋で切実な生存への願望だ。俺たちを倒すことでこの襲撃は終わると信じ、生きて平和な明日を迎えようと血眼になっている。
だが、それは襲撃者によって植え付けられた大きな間違いだ。……揃って首元に刻まれた薄黄色の文様が、この人たちがさっきの男と同じ間違いを犯していることを裏付けさせてくれる。
ここまでたくさんの人に刻んでいることを考えると、襲撃者がこのあたり一帯を制圧したのは洗脳の魔術によるものだと考えていいだろう。そうして強引に支配下に置いた者たちを本命の探し物に使う、何とも合理的なやり方だ。
「……俺たちは明日を掴む。自分のために、家族のために。――そして、魂をなげうって俺たちに敵の居場所を伝えてくれた同志のために」
詰め寄るペースをコントロールしていた一人の男が、俺たちを鋭い眼で睨みつけながらまるで呪文のように呟く。『死にたくない』という意思が、戦いに慣れていないであろう人たちの足を前へと動かしていく。そのゆっくりとした雰囲気はまるで、張り詰めた糸が切れる一歩前のように思えて――
「――行くぞ、皆ッ‼」
「レイチェル、今だ――‼」
戦士の如く勇ましい男の咆哮と、レイチェルに指示を出す俺の叫びが重なり合って街の中に響き渡る。その直後、レイチェルは足を地面に叩きつけながら声を張り上げた。
「……守り手様、あたしに力を貸して‼」
レイチェルを一番近くで見守ってきた存在を迷うことなく信じて、レイチェルはまっすぐに敵を見据える。その思いに応えるかのように、通りを一陣の風が吹き抜けた。
レイチェルの意志によってそれは一度束ねられ、そしてすぐに敵を撥ねつける旋風へと変化を遂げる。……数十人の息を合わせた攻勢も敵わず、周囲に立っていた俺たち以外の人間は全て吹き飛ばされた。
「ナイスレイチェル、最高の仕事だ! ……さて、今の内にできる限り距離を取るぞ!」
その圧倒的な防御力に舌を巻きつつ、俺はこの包囲網を突破するべく地面を蹴り飛ばす。そうしてある程度スピードが付き始めたその時、隣を走っていたレイチェルが俺の手を取った。
「マルク、そのまましっかり握ってて! ……この人たちの事、一気に飛び越えるから!」
戸惑う俺にそう宣言すると、レイチェルはひときわ強く地面を蹴り上げる。その一歩とともに吹き抜けた追い風が、俺たちを一息に空中へと誘った。
風の球体を使って安定的に空を飛ぶリリスとは違い、レイチェルのそれは踏み込みに風の補助を組み合わせて大跳躍する瞬間出力に特化したやり方だ。どちらが優れているなんてことはおいそれと言えることではないにしても、とにかく急を要するこの状況の中ではレイチェルの一手がこれ以上なくありがたかった。
一時的にとはいえ空を飛べば当然目立つのは避けられないが、この一帯にいる人間すべてが敵だと判明してしまった以上そんなことを気にする必要はない。あれだけ多くの人間に捕捉されたのだ、今更それが一人や二人増えたところで困ることがあるものか。
「――お願い、着地もうまく行って!」
空中を走るような軌道で移動する俺たちの眼下に、硬い石畳の地面がどんどんと迫ってくる。足からとはいえそのまま着地すれば大ケガは免れなかったが、ちょうどいいタイミングで足元から吹きあがった風が俺たちの着地を考えうる限り最もスムーズに成功させてくれた。
「これで大分距離も取れた、かな……!」
「ああ、俺が思ってた以上の大仕事だ! できることなら、このままこの一帯を抜けさせてほしいところだけどな……‼」
必死に立ち上がって追いかけてくる人々の姿を尻目に、俺たちは通りを風に乗って走り続ける。身体能力が強化された人々は十分な速度で俺たちを追いかけてきていたが、それでも追い風に乗ったレイチェルの方がさらに早かった。
どれだけの広さにいた人たちにあの文様を刻んだかは分からないが、それでも都市全域という事はあり得ないはずだ。とりあえずあの面々を振り切って、文様が刻まれてない人が居るところまで逃げ込む。それさえできれば、俺たちも少しは腰を落ち着いて味方を探すことが出来る――
「――土よ、荒れ狂いやがれッ‼」
そう思った矢先、荒々しい詠唱とともに生まれた土の壁が俺たちの前方に立ちはだかる。明確に足止めを目的とした無骨な建築物を前に、俺たちは一時停止を余儀なくされた。
「ち、無謀に突っ込むなんてことはしねえか。そうしてくれたらお前たちは今頃土に溺れてたところなんだが」
順調だと思ったとたんに現れた新たな障害に俺が内心舌打ちをしていると、近くの店の中からそれ以上に大きな舌打ちをしながら一人の影が現れる。腰に差したショートソードに、身軽さと最低限の防御性能を兼ね備えたチェストプレート。……極めつけはこの土魔術、こいつは間違いなく冒険者だ。
この土魔術を俺たちのために使ってくれるなら、背後から迫ってくる人々も完全にシャットアウトすることが出来るだろう。それが実現するならこれ以上なくありがたいことだが、残念ながらその想像が実現する可能性はゼロだと言ってもよかった。
「……冒険者まで、何の抵抗もできずに囚われたってのかよ……‼」
気だるげに、しかし明確な敵意を持って俺たちを睨みつけてくる男の首元には、開かれた本を模した薄黄色の文様がしっかりと刻まれている。……それは、多少なり実力があるはずの冒険者でさえも敵の手の内に落ちていることの証左だった。
「レイチェル、他の道を探すぞ。屋根の上とか裏路地とか、ここを抜けるルートはほかにも――」
「おっと、それは却下だ。『絶対にこの防衛ラインを死守しろ』って、我らが指揮官から仰せつかってるからな」
迂回してルートを抜ける選択を取ろうとしたその瞬間、それを阻むかのように左右を高い土の壁が塞ぐ。リリスやツバキが居れば話は別なのだろうが、俺とレイチェルだけでこの壁を力任せに破壊するのはまず不可能だと見てよかった。
「……俺たちを倒したところで襲撃は終わらねえ――って言っても、信じてくれないんだろうな」
「当然だろ、俺たちが信じるべき人はとっくに決まってる。明日を笑って迎えたいと思う奴らなら、誰だって指揮官の言葉を信じてるだろうさ」
ダメもとで発してみた言葉にも、冒険者の男はただ肩を竦めるばかりだ。戦いに慣れているからなのか今までの奴らよりは話が通じるものの、根本的な考え方の部分でどうしても一致していない。明日を掴むための条件が、俺たちとこいつらで致命的にすれ違っている。
「さて、目一杯足止めさせてもらうぞ。俺はまだ、生きてやらなきゃなんねえことが山ほど残ってるんだからな」
話は終わりだと言わんばかりに肩を竦めると同時、男は土塊でできた弾丸を構える。前と左右を高い壁で囲われた以上退路は背後にしかないが、その背後からは男の仲間たちが追いかけてきている。ここで苦戦するようなことがあれば、俺たちは挟み撃ちにされておしまいだ。
現状で切れる手札があまりに少ないのだとしても、この戦いを正面から受けて立つ以外に選択肢はない。この決断が最善でないのだとしても、最善を探して迷う時間すら今は惜しかった。
「ああ、分かった。話し合っても分かり合えないなら、力ずくで倒してもらうしかねえな」
心を奮い立たせながら宣戦布告を受けて立ち、男の不遜な笑みを睨み返す。目の前に立ちはだかる壁は、見た目以上に高く険しかった。
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