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第四章『因縁、交錯して』
第三百二十話『相次ぐ来客』
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「――生憎だけど、あの子はまだ今日も寝てるよ。体力も魔力も使い果たした上にあんなケガをしてるんだ、少し考えればわかる話だろう?」
扉の向こうに立っているであろう来客に、ツバキは呆れた様な口調で返事をする。その声色にはどことなく疲れが見えていて、ツバキがうんざりし始めているのが何となくわかった。
と言うのも、この半日でこの手の来客がもう何度も訪れているからだ。古城の襲撃がひとまずの収束を見てから一日が明けた今日の朝早くから、この部屋の中に踏み込もうとしてくる輩は後を絶たなかった。
『許可がなければ誰も部屋には入ってこれない』とバルエリスがいつだか保証してくれたように、俺たちが拒絶することでここまでの来客はすごすごと帰っていった。何事もなく行けば今来ている奴もそうなるはずなのだが、今回の奴は少しばかり粘り強いようだ。
「……お礼の言葉が言いたいなら今ここで口頭で言ってくれ、後で本人に伝えておくから。はあ、それじゃ目的は果たせないからせめて一目見るだけでも……? お断りだよ、今の彼女に負担しかかからないことをどうしてする必要があるのさ」
かなりの時間食い下がってくる客を前にだんだんとツバキの声がゆっくり冷えていって、呆れと言うよりは軽蔑を多分に含んだ調子へと変化し始める。……その様子を見て、だらりとベッドに腰掛けていたリリスがゆっくりと立ち上がった。
そのままつかつかと歩いて行って、扉の向こうの人物と押し問答を繰り返しているところに合流する。そのまますっとドアの近くまで身を寄せると、最小限のモーションでドアに拳を力強く叩きつけた。
「さっきから聞いてれば、随分と自分の理屈ばかりで食い下がるじゃない。相手がツバキみたいな優しい子だからまだ無事でいられるけど、これ以上我儘を言うならそれなりのリスクを払ってもらうわよ」
けだるげな、そしてドスの利いた声色でリリスがそういうと、宿の中の空気が少しばかり緊張する。隣に立つツバキが苦笑しているのに気づいているのかいないのか、リリスは顔の見えない相手に対して強気にこう付け加えた。
「ああ、どうしてもこの部屋の中に入りたいって言うなら一つだけやりようがあったわ。……今ここで私たちにこっぴどく制圧されて、患者としてこの部屋の中に運び込まれてしまえばいいのよ」
あの子が目覚めるまで、この部屋は臨時の病室でもあるんだからね――と。
何一つ冗談だと思えないような口調でそう告げた瞬間、部屋の隅にもたれかかっていたメリアが面食らったように息を吹き出す。かなり大げさなリアクションではあったが、今部屋の外にいるであろう人の立場を思えばまあそれも仕方がない話ではあった。
しばらく沈黙が続き、ドアの近くに立っているリリスとツバキの二人だけが来客の返事を受け取る。部屋に降りた微かな沈黙を破ったのは、心底失望したようなリリスのため息だった。
「……その程度の覚悟なら最初から素直にそう言いなさい、時間の無駄でしかないわ。下で順番待ちをしてる人がもしもいたら、同じことを伝えてくれる?」
それだけ言い残して、ツバキとリリスは足早に扉の傍を離れて行く。ツバキのやんわりとした皮肉交じりの拒絶には耐えられるタイプの来客だったが、やはり直接的な武力をちらつかせられると相手も動くに動けないってことなんだろうか。
「……お客さん、納得して帰ってくれたか?」
「納得したかどうかはともかく、あの手の輩が来ることは少なくなるでしょうね。ツバキの断り方は優しすぎるのよ」
「うん、今回ばかりはボクだけじゃ言いくるめられなかったかもしれなかった。加勢してくれてとっても助かったよ、ありがとうね」
ツバキからの感謝をスンと鼻を鳴らして受け取ると、リリスは視線をある一つのベッドに向ける。そこに横たわってすうすうと規則的な呼吸を繰り返している銀髪の少女――バルエリスこそが、来客がこぞってこの部屋を訪れる共通の目的だった。
だが、アイツらは彼女のことを『バルエリス』とは呼ばない。その代わりに、奴らは揃いも揃ってへりくだった様子でこう呼ぶのだ。王国を支える名家の後継ぎ――『アネット・レーヴァテイン』と。
あの古城でも何度か周りからそう呼ばれていたからそっちが本名だってのはほぼ確定的なことではあるのだが、貴族社会に疎い俺たちからしたらその名前がどれだけ凄い影響力を持つのかは未だに不明なままだ。だから俺たちとしても早めに目覚めてほしいものだが、そうも言えないぐらいにバルエリスはひどく消耗していた。
体力も魔力もほとんど枯渇してた上に、魔術神経もとんでもなくボロボロになってたからな……あの場に治癒術師であるリリスが居なければ、間違いなくバルエリスは衰弱して死ぬ以外なかっただろう。あの惨状にギリギリのところで間に合えたことだけは、不幸中の幸いだと言ってもよかった。
まあ、他のことについてはふがいない結果に終わっちまったけどな。……アグニを取り逃したことについては、後でちゃんと頭を下げて謝らねえと。
「……というか、ここに来る奴ら全員負傷者に対するマナーってものがなってないのよね。自分の事情とか願望しか考えてなくて、相手の容態とかを気遣いもしない。バルエリスが貴族を嫌う理由、ようやくはっきり分かった気がするわ」
「ああ、揃いも揃ってとんでもない利己主義者ばかりだね。準備の場があんな風になってしまうのも納得だよ」
ベッドに思い切り倒れ込みながらリリスが大声で来客に対する愚痴をこぼすと、それに同調してツバキも大きな声を出す。時間をかければいいところの一つは出てくるものだと思っていたのだが、事帰属に関してはそんなわけでもなさそうだった。
と言うのも、ここまでこの部屋を訪れているのは全員昨日のパーティに参加していた貴族たちだ。『レーヴァテイン』という家名の持つ威光はよっぽど強いのか、彼らは揃いも揃って『アネット・レーヴァテイン』とフルネームを律儀に呼んで少女の顔を一目見ようとして来ていた。
見まいに来るってこと自体は思いやりのある行動なのだが、奴らが見舞いに来ようとしているのはレーヴァテイン家とやらにコネを作りたいからだ。バルエリスのことを真剣に見舞いたいならば、あんな大ケガの翌日がそれにふさわしくないことぐらい少し考えれば分かることだしな。アイツらがやっているのは言わば徒競走、誰が一番最初にこの部屋に入れるかってのをゴールに設定して貴族同士の間で競っているに過ぎない。
バルエリスから聞いた貴族の権力闘争のことを思えば、死ななかったことに不満を覚えている奴らすらいたっておかしくはないんだからもう嫌になるってものだ。俺も一度言葉を交わして来客を追い返したが、そいつの声色も『ゴマをすっている』と言う言葉の模範例として採用できそうなぐらいにへりくだっていたし。
もしもバルエリスが自分の正体を明かさないままで戦いを終えていたら、これだけの人が来ることは絶対になかっただろう。多分アイツら貴族に一人の人間を見舞っているなんて感覚はなくて、その人間が纏っている『レーヴァテイン家』って属性だけが大事なんだ。
「……恩知らずと言うか、ただの馬鹿どもというか」
二人に続いて大きくため息を吐いて、俺は貴族と言う生き方を最大限に軽蔑する。完全に意見が一致した俺たち三人の姿を、この中だと唯一貴族との接触がないメリアが疑問を込めた目で見つめていた。
「……姉さんたち、貴族が嫌いになるようなことをそんなに体験してきたの……?」
「ええ、それはもう嫌になるほどに経験してるわよ。今までもついさっきも、ね」
「そうだよメリア、アレは絶対に理解できない類の人種さ。しばらくすればメリアも分かるよ」
至極真剣な目つきでそんな答えが返ってきて、メリアはキョトンとした表情を浮かべている。言いたいことは大体全部二人が言いきってしまったから、俺はただ苦笑を浮かべるばかりだった。
それにメリアがさらに困惑を深めていると、宿のドアが控えめにノックされる。……それは、今日になってから突然よく聞くようになった来客の合図だった。
「……はあ、あれだけ脅しても来る馬鹿ってのはいるのね。メリア、今回はあなたが追い返してきてくれる?」
「え、僕で大丈夫なのかい?」
「大丈夫じゃなかったら私が出向くからいいわよ、せっかくの機会だから貴族がどんな人種かってのを実際に体験してきなさい」
絶対に嫌になるから――と、リリスは言葉巧みにメリアを追い払う役目に任命する。ツバキからストップが入るかとも思われたが、姉はただ微苦笑を浮かべて弟を見守るばかりだった。
「……分かった、何かあったら手助けしてよ?」
「ああ、そこは約束するよ。困っている弟を助けるのは姉の務めだからね」
念を押すようにそんなやり取りを姉と交わしてから、メリアは体をゆっくりと起こしてドアの下へと歩いていく。普段は軽やかな足取りが妙に重たいように思えるのは、きっと気のせいじゃないんだろう。
「……いったい何の御用件ですか、お見舞いなら今はできないって今まで来た人にも散々伝えてきたはずですが――」
いやいやと言った様子でドアの前に立ち、メリアは来客と会話する。平時なら最悪にもほどがある来客対応だが、今この時だけはそんな反応こそが正解だ。これですぐ引き下がってくれるような相手だったならば、メリアとしても気が楽なんだろうが――
「――は、違う? レーヴァテイン様に見舞いに来たわけじゃない……?」
「……え?」
突然あっけにとられたようにオウム返しするメリアに、リリスの間の抜けた声が重なる。……それは、今までになかった例外だった。
「はい……ええ、そういう事なら。少しだけ待っていてくださいね」
戸惑いを隠しきれないといった様子でしきりに首を縦に振りながら、メリアはゆっくりと俺たちの方に視線を戻す。そして、そのままの様子で控えめに俺たちを手招きすると――
「――皆、ちょっとこっちに来てくれる? 誇り高き王国騎士の団長が、僕を含めた四人に対して聞きたいことがあるんだってさ」
――言っている自分自身も事態をよく呑み込めていないような口調のまま、俺達にそう説明した。
扉の向こうに立っているであろう来客に、ツバキは呆れた様な口調で返事をする。その声色にはどことなく疲れが見えていて、ツバキがうんざりし始めているのが何となくわかった。
と言うのも、この半日でこの手の来客がもう何度も訪れているからだ。古城の襲撃がひとまずの収束を見てから一日が明けた今日の朝早くから、この部屋の中に踏み込もうとしてくる輩は後を絶たなかった。
『許可がなければ誰も部屋には入ってこれない』とバルエリスがいつだか保証してくれたように、俺たちが拒絶することでここまでの来客はすごすごと帰っていった。何事もなく行けば今来ている奴もそうなるはずなのだが、今回の奴は少しばかり粘り強いようだ。
「……お礼の言葉が言いたいなら今ここで口頭で言ってくれ、後で本人に伝えておくから。はあ、それじゃ目的は果たせないからせめて一目見るだけでも……? お断りだよ、今の彼女に負担しかかからないことをどうしてする必要があるのさ」
かなりの時間食い下がってくる客を前にだんだんとツバキの声がゆっくり冷えていって、呆れと言うよりは軽蔑を多分に含んだ調子へと変化し始める。……その様子を見て、だらりとベッドに腰掛けていたリリスがゆっくりと立ち上がった。
そのままつかつかと歩いて行って、扉の向こうの人物と押し問答を繰り返しているところに合流する。そのまますっとドアの近くまで身を寄せると、最小限のモーションでドアに拳を力強く叩きつけた。
「さっきから聞いてれば、随分と自分の理屈ばかりで食い下がるじゃない。相手がツバキみたいな優しい子だからまだ無事でいられるけど、これ以上我儘を言うならそれなりのリスクを払ってもらうわよ」
けだるげな、そしてドスの利いた声色でリリスがそういうと、宿の中の空気が少しばかり緊張する。隣に立つツバキが苦笑しているのに気づいているのかいないのか、リリスは顔の見えない相手に対して強気にこう付け加えた。
「ああ、どうしてもこの部屋の中に入りたいって言うなら一つだけやりようがあったわ。……今ここで私たちにこっぴどく制圧されて、患者としてこの部屋の中に運び込まれてしまえばいいのよ」
あの子が目覚めるまで、この部屋は臨時の病室でもあるんだからね――と。
何一つ冗談だと思えないような口調でそう告げた瞬間、部屋の隅にもたれかかっていたメリアが面食らったように息を吹き出す。かなり大げさなリアクションではあったが、今部屋の外にいるであろう人の立場を思えばまあそれも仕方がない話ではあった。
しばらく沈黙が続き、ドアの近くに立っているリリスとツバキの二人だけが来客の返事を受け取る。部屋に降りた微かな沈黙を破ったのは、心底失望したようなリリスのため息だった。
「……その程度の覚悟なら最初から素直にそう言いなさい、時間の無駄でしかないわ。下で順番待ちをしてる人がもしもいたら、同じことを伝えてくれる?」
それだけ言い残して、ツバキとリリスは足早に扉の傍を離れて行く。ツバキのやんわりとした皮肉交じりの拒絶には耐えられるタイプの来客だったが、やはり直接的な武力をちらつかせられると相手も動くに動けないってことなんだろうか。
「……お客さん、納得して帰ってくれたか?」
「納得したかどうかはともかく、あの手の輩が来ることは少なくなるでしょうね。ツバキの断り方は優しすぎるのよ」
「うん、今回ばかりはボクだけじゃ言いくるめられなかったかもしれなかった。加勢してくれてとっても助かったよ、ありがとうね」
ツバキからの感謝をスンと鼻を鳴らして受け取ると、リリスは視線をある一つのベッドに向ける。そこに横たわってすうすうと規則的な呼吸を繰り返している銀髪の少女――バルエリスこそが、来客がこぞってこの部屋を訪れる共通の目的だった。
だが、アイツらは彼女のことを『バルエリス』とは呼ばない。その代わりに、奴らは揃いも揃ってへりくだった様子でこう呼ぶのだ。王国を支える名家の後継ぎ――『アネット・レーヴァテイン』と。
あの古城でも何度か周りからそう呼ばれていたからそっちが本名だってのはほぼ確定的なことではあるのだが、貴族社会に疎い俺たちからしたらその名前がどれだけ凄い影響力を持つのかは未だに不明なままだ。だから俺たちとしても早めに目覚めてほしいものだが、そうも言えないぐらいにバルエリスはひどく消耗していた。
体力も魔力もほとんど枯渇してた上に、魔術神経もとんでもなくボロボロになってたからな……あの場に治癒術師であるリリスが居なければ、間違いなくバルエリスは衰弱して死ぬ以外なかっただろう。あの惨状にギリギリのところで間に合えたことだけは、不幸中の幸いだと言ってもよかった。
まあ、他のことについてはふがいない結果に終わっちまったけどな。……アグニを取り逃したことについては、後でちゃんと頭を下げて謝らねえと。
「……というか、ここに来る奴ら全員負傷者に対するマナーってものがなってないのよね。自分の事情とか願望しか考えてなくて、相手の容態とかを気遣いもしない。バルエリスが貴族を嫌う理由、ようやくはっきり分かった気がするわ」
「ああ、揃いも揃ってとんでもない利己主義者ばかりだね。準備の場があんな風になってしまうのも納得だよ」
ベッドに思い切り倒れ込みながらリリスが大声で来客に対する愚痴をこぼすと、それに同調してツバキも大きな声を出す。時間をかければいいところの一つは出てくるものだと思っていたのだが、事帰属に関してはそんなわけでもなさそうだった。
と言うのも、ここまでこの部屋を訪れているのは全員昨日のパーティに参加していた貴族たちだ。『レーヴァテイン』という家名の持つ威光はよっぽど強いのか、彼らは揃いも揃って『アネット・レーヴァテイン』とフルネームを律儀に呼んで少女の顔を一目見ようとして来ていた。
見まいに来るってこと自体は思いやりのある行動なのだが、奴らが見舞いに来ようとしているのはレーヴァテイン家とやらにコネを作りたいからだ。バルエリスのことを真剣に見舞いたいならば、あんな大ケガの翌日がそれにふさわしくないことぐらい少し考えれば分かることだしな。アイツらがやっているのは言わば徒競走、誰が一番最初にこの部屋に入れるかってのをゴールに設定して貴族同士の間で競っているに過ぎない。
バルエリスから聞いた貴族の権力闘争のことを思えば、死ななかったことに不満を覚えている奴らすらいたっておかしくはないんだからもう嫌になるってものだ。俺も一度言葉を交わして来客を追い返したが、そいつの声色も『ゴマをすっている』と言う言葉の模範例として採用できそうなぐらいにへりくだっていたし。
もしもバルエリスが自分の正体を明かさないままで戦いを終えていたら、これだけの人が来ることは絶対になかっただろう。多分アイツら貴族に一人の人間を見舞っているなんて感覚はなくて、その人間が纏っている『レーヴァテイン家』って属性だけが大事なんだ。
「……恩知らずと言うか、ただの馬鹿どもというか」
二人に続いて大きくため息を吐いて、俺は貴族と言う生き方を最大限に軽蔑する。完全に意見が一致した俺たち三人の姿を、この中だと唯一貴族との接触がないメリアが疑問を込めた目で見つめていた。
「……姉さんたち、貴族が嫌いになるようなことをそんなに体験してきたの……?」
「ええ、それはもう嫌になるほどに経験してるわよ。今までもついさっきも、ね」
「そうだよメリア、アレは絶対に理解できない類の人種さ。しばらくすればメリアも分かるよ」
至極真剣な目つきでそんな答えが返ってきて、メリアはキョトンとした表情を浮かべている。言いたいことは大体全部二人が言いきってしまったから、俺はただ苦笑を浮かべるばかりだった。
それにメリアがさらに困惑を深めていると、宿のドアが控えめにノックされる。……それは、今日になってから突然よく聞くようになった来客の合図だった。
「……はあ、あれだけ脅しても来る馬鹿ってのはいるのね。メリア、今回はあなたが追い返してきてくれる?」
「え、僕で大丈夫なのかい?」
「大丈夫じゃなかったら私が出向くからいいわよ、せっかくの機会だから貴族がどんな人種かってのを実際に体験してきなさい」
絶対に嫌になるから――と、リリスは言葉巧みにメリアを追い払う役目に任命する。ツバキからストップが入るかとも思われたが、姉はただ微苦笑を浮かべて弟を見守るばかりだった。
「……分かった、何かあったら手助けしてよ?」
「ああ、そこは約束するよ。困っている弟を助けるのは姉の務めだからね」
念を押すようにそんなやり取りを姉と交わしてから、メリアは体をゆっくりと起こしてドアの下へと歩いていく。普段は軽やかな足取りが妙に重たいように思えるのは、きっと気のせいじゃないんだろう。
「……いったい何の御用件ですか、お見舞いなら今はできないって今まで来た人にも散々伝えてきたはずですが――」
いやいやと言った様子でドアの前に立ち、メリアは来客と会話する。平時なら最悪にもほどがある来客対応だが、今この時だけはそんな反応こそが正解だ。これですぐ引き下がってくれるような相手だったならば、メリアとしても気が楽なんだろうが――
「――は、違う? レーヴァテイン様に見舞いに来たわけじゃない……?」
「……え?」
突然あっけにとられたようにオウム返しするメリアに、リリスの間の抜けた声が重なる。……それは、今までになかった例外だった。
「はい……ええ、そういう事なら。少しだけ待っていてくださいね」
戸惑いを隠しきれないといった様子でしきりに首を縦に振りながら、メリアはゆっくりと俺たちの方に視線を戻す。そして、そのままの様子で控えめに俺たちを手招きすると――
「――皆、ちょっとこっちに来てくれる? 誇り高き王国騎士の団長が、僕を含めた四人に対して聞きたいことがあるんだってさ」
――言っている自分自身も事態をよく呑み込めていないような口調のまま、俺達にそう説明した。
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