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閑話 ギルバートの手記 3

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 謎の言葉を残して、ソウイチは眠った。
 マジでどういうこと?
 ソウイチは「愛ってなに?」って言ったよな?
 疑問符がついていたよな?

 混乱したまま書いても無駄だ。一度、冷静になろう。

 なれるわけないだろ! (走り書き)



 時間をおいても落ち着かないが、さっきよりはマシ。再開する。
 まずは、今日の出来事を振り返ろう。

 オレのキスで目覚めたソウイチから思いがけないことを聞かされた。
 ティレニアだ。
 ソウイチにコンタクトしてきたのだ。
 得られた情報は有益だった。
 ソウイチに必要なものは、西にあるらしい。恐らく、海を渡るだろうな。行ったことのない場所へは転送魔法が使えない。高速飛行でなら、半日ってとこだろう。
 半日も離れるのは危険だ。連れて行くか? いや、精神的疲労を強いるのは避けたい。
 どちらにせよ、タイミングは選ばなければならない。この件は一旦、保留。

 ティレニアはこの世界の創造に関することも話した。
 ※この世界の仕組みを知るヒントになるかも。
 それと、アイツ、ソウイチのことを愛し子と呼んだ。ティレニアはソウイチのことを気に入っているようだけど、これには参った。
 案の定、信者を集めてしまった。
 エルフ族のフローリン。彼は友人だ。オレが勇者だった頃に戦って、当然、オレが勝った。エルフ族は戦線を離脱したが、フローリンはオレと前魔王との戦いを見届ける為、同行した。その間に仲は深まったとは思うが、オレが魔王になったことで関係が変わってしまった。
 魔族社会は弱肉強食だから仕方がない。魔王という役を演じなくてはならない時もある。

 ※ティレニア神がソウイチを愛し子と呼んだことにより、国内外問わず、影響は今後も拡大するものとみなす。かの国の動向に注意。

 エルフ族は3日後に来る予定だった。ティレニアのパワーワード効果で、秒で来たな……。
 彼らには食料を提供してもらう。オレは魔王になってから身体が魔族化してるようで、恐らく断食しても数年は平気だ。
 だが、ソウイチは違う。魔素を注ぐ必要はあるものの、それ以外はただの人間だ。バランスの良い食事を摂らせたい。
 エルフ族は最悪のメシマズだけど、食材の種類が豊富だ。きっとソウイチの気に入るものもあるだろう。

 ソウイチはエルフ族の用意した食材に興味を示した。
 自ら調理を始め、若いエルフに教える。
 楽しそうだった。
 嬉しそうだった。
 オレに流れてくるソウイチの感情とその表情は一致していた。
 幸せそうに笑っていた。
 ソウイチが笑うと、オレも幸せな気分になる……。

 ※というか、寧ろ、オレの為だけにメシを作ってくれ! これ重要!



 今日から農地開墾作業を始める。
 森を切り拓くのは、環境破壊か? まあ、住処を追われた生物もいるだろうな。だからこそ、それだけの価値のある事業にしてみせるさ。
 アサギはソウイチをよく見ている。しっかりサポートしている。
 ソウイチに絆されなければ動かないアインハルトとは違って、アサギはかなり頼りになる。それだけに、他種族とのトラブルが多いのは問題か……。
 アサギは悪魔族の中でもかなりの高位だ。あの若いエルフどころか、ウンディーネでさえ到底敵わないだろう。それでもケンカを売るのはなぜか。賢い猫は爪を隠すもの。アサギは中位程度の悪魔族、と彼らには見えている。
 これはオレも容認している。ソウイチの護衛に中位悪魔しかいないからと、ソウイチに手を出すようなバカは必要ない。
 オレの統治下にあるすべての魔族に厳命しているから、そんな事態にはならないと思うのだが、問題はソウイチだ。いや、ソウイチが悪いってことじゃあない。寧ろ、その逆だ。

 ウンディーネに対するソウイチの反応は、羞恥心だった。
 これには焦った。ソウイチはウンディーネを女性として見ている。
 ちなみにオレは初対面のアイツをモンスターだと思って討伐しようとしたんだけど……。だって、見た目がスライムっぽいじゃん? 仕方ないよね。
 ソウイチは悪魔族、ゴブリン族、エルフ族、そして精霊までも、その見た目に関わらず人として接する。初対面で敵対心や嫌悪感を示したことはないと思われる。
 どんな見た目をしていようと、ソウイチの態度は変わらない。誠実なんだ。度胸があるのか、それともちょっと変わっているのか。
 誠実な人間ってのは人に好かれやすいが、魔族は誠実さより、強さが重要なのだ。ソウイチが魔法も剣術も使えないと知られれば、創造主への信仰心が希薄な者は行動するかもしれない。
 ソウイチは誠実だが、他人を信じやすく、どこかぼんやりしていて情に流されやすい。絶対に騙されるタイプだ。今まで詐欺被害にあったりしなかったのだろうか?
 まあ、オレがいる限り、誰にも手出しさせないさ。

 だから、というワケではないんだけど、ソウイチとウンディーネの握手を阻止した。
 アサギからの思念を使った知らせを受け、現場に急行した。
 怒りが抑えられなかった。皆が怯えていることはわかっていたけど、ソウイチが男であるオレより、女の姿をしたウンディーネを選ぶのではないかと不安になった。
 まさかあり得ない、そう思っていても、ソウイチはあり得ないがあり得るんだ。

 この時の焦燥感は何だったのか、今ならわかる。

 ソウイチと他者との接触禁止。
 ガキみたいなわがままに思われたかもしれないが、いや、実際そうなんだけど……、なにか漠然とした不安がオレを責め立てていたんだ。

 日没をもって、労働作業は中断される。

 その晩、ソウイチと話し合った。
 ソウイチは女性が好きということもないようだ。何度も確認したから、間違いない。
 そして、ソウイチの台詞は刺さった。
 信じてほしい、と言われて見つめ合って、ソウイチの真剣な表情に嘘も隠し事も見えない。ソウイチはオレと正面から向き合っているのだと感じた。
 オレの不安は解消された。
 とはいえ、無条件降伏はしない。
 ソウイチには接触した個所とその人物の報告を義務付ける。
 こういう遊びも必要だろ? まあ、オレ得なんだけどね。

 魔王になった影響か、オレの身体が強靭化している。食事や睡眠は必要としなくなったし、余程のことがないかぎり、疲れない。働き放題だ。
 だが、オレはソウイチの膝を枕に久しぶりの睡眠をとった。あまりにも気持ち良くて5分、いや8分は眠っていた。
 幸せな時間だ。
 ソウイチを独占できる。
 キスをしてくれる。
 ソウイチの身体はキスひとつで溶ける。
 そして、喜びの感情が流れてくる。
 愛し合っている、そう確かめ合う時間なのだ。

 ソウイチの身体は本当に美しい。細いけど引き締まっていて、余計な肉がない。6パックはシンメトリーだし、浮き出た腹直筋のラインはセクシーだ。
 今日は少し無理をさせた。好きなだけイかせてあげたいんだけど、射精したら眠っちゃうし、我慢してもらう。
 アナルの開発はヤバかった。ソウイチが可愛くてエロすぎて、無理矢理にでも突っ込みたい衝動を抑えるのに必死だった。
 指を曲げることさえ躊躇う。ソウイチの嫌がることはしたくない。
 当然だ。そんなことをすれば闇落ちする。
 わかっているけど、大切にしたい気持ちと壊したい衝動が入り混じっている。
 よく理性を保ったもんだ。オレはオレを褒めるぜ!

 ソウイチの手コキ、マジで最高!
 溶け顔見ながらイくのヤバい! ハマりそう! (走り書き)

 この時は幸せに満ちていた。

 ソウイチは射精したら眠る。今回もそうだ。
 汗も涙も涎も、精液も垂れ流したまま、うとうとしている。
 ソウイチのすべてが愛しい。

 ソウイチは眠る直前に言った。

「愛ってなに?」

 声はとても小さいし、掠れていたし、滑舌も怪しかったけど、確かにそう聞こえた。
 どういう意味?
 愛を知らない?
 愛してるって通じない言葉?
 オレはソウイチがなにを伝えているのかわからないが、漠然とした不安は消えていなかったのだと気づいた。
 だが、その不安の正体をなんとなくわかった気がする。
 手で掬い上げた水が指の間をすり抜けて零れる。掴んでも、掴んでも、得られない。オレのものにはならない。
 ソウイチに感じている不安は、そういうことなのかもしれない。
 オレの言葉はソウイチをすり抜けている?
 強く抱きしめても、セックスをしても、消えない不安はオレを焦らせる。ただの握手に嫉妬するぐらい心が狭くなる……。

 ソウイチはいつものように身体を魔法で整え、あらゆる結界を施したベッドの中央で眠っている。
 いびきはしない。寝言も言わない。
 ただ、人形のように眠る。
 髪を撫で、頬を撫で、キスをする。
 こんなに離れ難い夜はないだろう。
 朝になったら、ソウイチの真意を確認しよう。
 それまでは、無心で働こう……。
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