上 下
3 / 10

風土病にはご用心3

しおりを挟む

 近場の山といっても、結構遠いんだよ。目の前に見える小山。でも、周りは果てしない麦畑。遠くがよく見える自然豊かな田舎。

 そう田舎なんだよね。多分かれこれ1~2時間は歩いている。でも、まだ麓にも着いてない。
暗くなる前にとは言われたものの、これは行って帰って来るだけで、家に着く頃には、完全に日が落ちてると思うんだよね。

 昔にお母様が取りに行ったとはいえ、女一人で向かう所じゃないよね。そこの所も詳しく聞きたかったけど、時間もないし詳しくことは聞けずじまい。


 また暫く歩くことでようやく目指すべき山の麓に到着した。お天道様が真上にあるので、もう12時になったんだよ。山中では、休憩するのに良い場所があるかどうかは分からないので、ここで一息お昼休憩である。

 走ってはいないけど、長時間の歩行で足はちょっとくたびれてるんだよ。お父様の命の掛かっている状況なので、弱音は吐かないが、休むべき時はしっかりと休む。

 ここからの山登りが今日の本番である。

「マッシュ兄さんもキャロットちゃんも簡単に摘めるものを持ってきたのでどうぞ。」

「あの短い時間でよくこれだけ作ったね。ありがとうあかね。」

 そう言って、マッシュ兄さんは、トンカツを挟んだ丸パンをガブリと齧りつく。

「お姉様、ありがとございます。私はこれを頂きますわ。」

 フルーツと砂糖がほぼ入ってない、生クリームで作ったフルーツサンドを少しずつ挟んでキャロットちゃんが食べ始める。

「ここで一息着いたら、一気に薬草を取りに行くぞ。二人とも大丈夫か?なんならここで待っててもいいんだぞ。」

「マッシュお兄様。私は、大丈夫ですわ。日頃、学校の鳥人や獣人のお友達と遊んでますもの。このくらい全然大丈夫ですわ。」

 えぇー、キャロットちゃんが勇ましいわ。お姉ちゃん眩しくて目が潰れそう。私は、正直毎日そこまで体力を使ってないので、多分着いて行くのがやっとなんだよね。

 山で体力不足で、足を引っ張るよりかは、ここで待って、最後に一緒に帰った方が、みんなにとっていい気はするけど………。

「私も少し休憩すれば大丈夫だよ。足手纏いになる様だったら置いてって大丈夫だし、私もお父様の為に頑張りたい。」

「アカネ、もし、登っている先で辛かったら言ってくれ。その時は僕がなんとかするから。」

「えぇ、マッシュ兄さん。その時はお願いしますわ。」

  こんな時ティムがいてくれれば、ペガサスの姿になってビューンと飛んでいけるんだけど。あいにく、故郷で家族に捕まったみたいで帰ってこれないんだよね。

 そんなこと言ってるから体力つかないんだよね。ははっ、もう少し体力つけなきゃ、いざという時に本当に足手纏いになっちゃうわ。

 「さっお昼も食べたし、もう一踏ん張りするぞ。」

 マッシュ兄さんの一声で、私達は、山に入って行った。

 山道のない獣道を歩いていく。マッシュ兄さんは、なんでそんなにすらすらと地図を見ながら歩いて行けるのだろう?

 目印なんて、そんなに見当たらないのに。わたしは、マッシュ兄さんの後を追いかけるだけで精一杯である。足元は、土と葉っぱで埋まっている為、足が埋まり、ふわふわとして、また少し滑りやすくなっているので、注意しながらあるかないと危険なんだよね。

 これが平野育ちと山育ちの差なのだろうか?キャロットちゃんもマッシュ兄さんと同じく足を取られることなくすいすいと進んでいく。

「おっと」
  
 ちょっと考え事をしていたら、足元が掬われ、バランスを崩してしまったが、後ろから

「お姉様大丈夫ですか。」

 キャロットちゃんが支えてくれたので、転ぶこともなかった。

「うん、キャロットちゃんが支えてくれたおかげで大丈夫だよ。ありがと。」

  なんとか二人にフォローしてもらいながら山道を進んできたんだけど……

「あった。あったよ。アカネ。ほらあそこに母さんが言ってた薬草が。」

 マッシュ兄さんの指刺す方向には、切り立った崖とその棚に咲いている小さな花。あの花の葉っぱが今回手に入れるべきもの。

 話には聞いていたものの、あの絶壁は私には登れない。鳥人なら、スーッと飛んでプチっと取って終わりなんだけどなー。


「マッシュ兄さん。お願いしますね。」

「あぁ、任せとけ。二人はここで待っててくれ。」

  マッシュ兄さんがロッククライミングばりになにもない絶壁をゆっくりと上に上がって行く。分かる人には、手をつく場所や、足をかけてもいい場所が分かるみたいだけど、私にはさっぱり分からない。

「アカネお姉様。もしもの時に備えて、下で待機してましょう。」

「そうだね。」

 荷物は、移動メインを考えてあまり持ってきていない。ローブも有れば命綱になったかもしれないけど、あいにく家には、該当する長さのものはなかったし。ちょっと薄手のシーツを持ってくるのがせいぜいだったんだよね。

 クッション性や強度を考えれば毛布なんだけど、そのボリュームを持って移動は流石に難しいので断念した。

 私とキャロットちゃんは、マッシュ兄さんが運んできた薄手のシーツを広げて下で広げて待ち構えようとした。

 この時、中央から後ろにバックなんてしなければよかったかも。まさかそこにあんなものがあるなんて………
 
 後ろに、一歩ずつ下がり、シーツが張るまで下がっていく。

 何歩目か後ろに下がった時、足が地面を踏む感覚がなく、そのまま、バランスを崩してしまった。

「きゃっ」

   気づいた時にはもう遅い。落ち葉で縦穴が隠されていたみたいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子

深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……? タイトルそのままのお話。 (4/1おまけSS追加しました) ※小説家になろうにも掲載してます。 ※表紙素材お借りしてます。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています

窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。 シナリオ通りなら、死ぬ運命。 だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい! 騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します! というわけで、私、悪役やりません! 来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。 あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……! 気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。 悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

処理中です...