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第十二話「青狼と龍鳳」
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一
竜蟠虎踞(りゅうばんこきょ)の地・金陵。
この地を得た元璋は「応天府」と改称し、天下制覇のための拠点と定めた。
元璋が江南の地で死闘を繰り広げていた頃、中原では新たな動きが起こりつつある。紅巾本軍と蒙古軍との間に熾烈な戦いが展開されつつあった。
トクト亡き後の蒙古軍は国家挙げての紅巾討伐に乗り出せないでいた。朝廷に統御する力なく、軍閥が各自の都合によって紅巾軍と戦っているからである。
そうした軍閥の中で最も力のあった人物は山西閥のチャガンティムールであった。
彼は朝廷への忠義心篤く、度々麾下の兵を紅巾軍追討に遣わしていた。
かつて濠州攻略に加わっていた王保保はチャガンの甥であり、陳埜先を助けるべく南下したマンジハイヤも山西閥に属している武将であった。
このチャガンを故トクトは無二の盟友と位置付け、誰よりも重用した。保保もトクトに一目置かれた青年であり、直々に兵法を伝授されていた。
チャガンには李思斉(りしせい)という義兄弟がいる。
彼は代々、沈丘(ちんきゅう)を治めてきた土豪で、若き頃は勇猛果敢でその武名を称えられた猛将であった。
去る至正十二年に義兵を募り、チャガンと連携して瞬く間に反乱軍を鎮圧してしまったのである。この時、二人は意気投合して、思斉を兄、チャガンを弟として義兄弟の契りを交わしたのであった。
それから四年後の至正十六年。兵乱は収束するどころか、益々悪化してきている。チャガンと思斉は休む間もなく日々戦場に赴いていた。
その年の冬、保保が慌ただしくチャガンの執務室に飛び込んできた。
「義父上」
保保はそうチャガンのことを呼んだ。
この年の春、保保はチャガンの養子となり、蒙古族らしく「ココ・ティムール」という名を頂戴したのである。
チャガンの部屋に入ると、すでに思斉が酒を酌み交わしていた。
「これは伯父上」
慌てて無礼を詫びようとすると、手を振って笑った。
「そなたとわしは伯父・甥の関係ではないか。そう改まるな」
チャガンも上機嫌であった。
「保保、何を慌てているのか」
ココは咳払いをしながらかぶりを振った。
「義父上、それがしはチャガンティムールが子・ココティムールでございます」
「そうであったな。で、そのココティムール様が、一体なにを慌てておいでか」
「せっかくの宴に不愉快な話ではございますが……」
「白蓮の輩か」
なるほど、たしかに不愉快な話であった。
チャガンは盃を置き、険しい表情をした。思斉は目を据わらせながら、ココの報告に耳を傾けた。
「昨年のことですが、濠州の賊徒・郭子興が亡くなりました」
「その跡を息子の郭天叙、義弟の張天祐が継いだとのことだったが……」
さすがにチャガンは名将と謳われるだけあって、情勢に詳しい。
「その両名はそれほどの者ではないのですが……」
「では誰が問題だと申すのじゃ」
思斉は酒を口にしなから、「恐るべき者」の名を聞きたがった。
「それは郭子興の娘婿、朱元璋です」
「朱元璋?」
「もとは諸国を放浪する乞食僧でしたが、濠州で頭角を現し、今ではこの者が実権を握っているとのことです」
チャガンは盃をココに手渡し、酒を注いでやった。
「江南の義兵元帥・陳埜先の求めでマンジハイヤとアルクゥイの両名を遣わしたはずだ」
「義父上の命に従い、両名を江南に差し向けたのですが……」
「まさか?」
「陳埜先は討死。采石鎮、太平、そして金陵まで朱元璋に奪われてしまいました」
驚愕すべき内容にチャガンは絶句した。
チャガンは状況を熟知している。金陵の重要性、そして埜先こそ江南における元朝の要であることを――。この二つを失うということは江南全てを賊徒の手に委ねたことを意味し、容易ならざる事態であった。
「ただでさえ張士誠(ちょうしせい)(九四)や方国珍(ほうこくちん)どもが跳梁跋扈しているというのに、朱元璋なる者までが台頭するとは……」
このチャガンのうめきに思斉も同意した。今、何かしらの手を打たなければ、元朝にとって取り返しのつかないことになるであろう。
思斉は盃を置き、提案をした。
「賢弟よ。この李思斉が南征しても良いぞ」
この提案に対し、ココは難色を示した。
「伯父上のお気持ちはありがたいのですが、懸念すべきことがあります。どうやら来夏あたりに、亳州(はくしゅう)の劉福通が北伐と称して北上を企んでいるようです」
「北伐とは、邪教の親玉風情が笑止千万な物言いをする」
「紅巾賊は勢いを得て各地で官軍を打ち破っております。かの者どもにまず鉄槌を下すことが先決かと」
「鼠の親玉を退治せよ、ということか」
思斉は再び酒を注ぐと、一気に飲み干した。ココはチャガンの前に膝間つき、山西閥が今後成さなければならない方策を進言した。
「国難にあたって我らは臥薪嘗胆、苦渋の決断をせねばなりませぬ」
「臥薪嘗胆……それは何だ」
この問いにココはしばらく口を閉ざし、やがて声を低くして答えた。
「ポロ・ティムールとの和睦です」
その名を耳にした途端、チャガンの顔色が変わり、思斉は烈火の如く怒り狂った。
「気は確かか、保保。ポロ・ティムールは彼奴の父・ダシバートル以来の宿敵ぞ。そのことを忘れたのか?」
「忘れるはずがありません。我が実父も、かの者に命を奪われたのですから」
釈然とせぬ――我が案ながら、ココも不快感が拭いきれない。
ポロ・ティムールとはチャガンと肩を並べる大軍閥の首領である。二代にわたって山西閥と抗争を続けており、ココの実父はポロの父・ダシバートルのため謀殺されていた。
「私(わたくし)において許せぬ仇ですが、私憤で国家の大事をないがしろにすることは出来ませぬ」
ココは拳を震わせながら、うつむいた。
ポロは不倶戴天の敵であるが、今は蒙古人同士が争っている場合ではない。紅巾本軍が北伐を企んでいる今、一致団結して、これを防がねば元朝は滅びてしまう。内輪揉めをした挙句に国家を滅ぼすなど末代までの恥であった。
「だがな。こちらがその気になっても奴は傲慢な男だ。あの者が応じるものか」
「ご懸念には及びませぬ。実は大都の皇太子殿下より令旨を賜っております」
チャガンが驚き、ココの手元を見ると皇太子の令旨がそこにあった。
――用意周到な奴だ。
我が養子ながら何と手際の良い奴かと、片腹痛くもあり、感心もした。
「そなたの思うようにすれば良いだろう。ポロの許に参るが良い」
ようやく許可を得たココは満面に笑みを浮かべ、拱手の礼を取った。
「さればすぐさま出立いたします」
「待て」
チャガンはココを呼び止め、厩から選りすぐりの駿馬十頭を与えてやった。蒙古族にとって馬は命同然に大切なもので、チャガンの馬は至宝といっても過言ではなかった。
「このような駿馬をいただけるとは……」
「早合点いたすな」
チャガンは悪童のような顔つきで笑みを浮かべた。
「貸してやるだけだ。無事話をつければ呉れてやるが、失敗すれば返してもらう」
「ご懸念には及びません。むざむざポロにこの駿馬を呉れてはやりませぬ。ポロが申し出を断ればこの駿馬で翻弄し、瞬く間に彼奴の首を刎ねてやります」
「その壮気や佳し。征け、ココ・ティムール」
再度、ココは拱手するや駿馬に跨り、ポロの陣営へ急ぐのであった。
二
トクトの失脚後、紅巾本軍は急激に勢力を拡大させていた。
遡ること至正十五年二月。福通は杜遵道と諮り、韓林児を正式に皇帝として即位させて、国号を「大宋」、元号を「龍鳳」とした。
職制も整えられた。
最高位の右丞相には遵道、副宰相にあたる平章政事には福通が任命された。
紅巾本軍――すなわち龍鳳政権は順風満帆かと思われたが、決してそうではない。建国早々いきなり内部抗争が起こしていたからだ。
韓山童亡き後、紅巾軍を実質指揮してきたのは福通であった。だが福通にとって釈然としないことがある。建国してみると、今まで下位にあった遵道が首位になってしまっていた。
――誰のおかげで大宋国が成り立っていると思っている。
福通は自分を出し抜いた遵道に強い敵愾心を抱いていた。
龍鳳政権の中枢には福通の息がかかった者が多数いる。
枢密院に属された劉六は福通の実弟であり、言うまでもなく福通党である。劉六もこの人事に納得しておらず、兄以上に遵道を深く恨んでいる。
「兄貴、杜の野郎をこのままにしておくのか」
「少し学があるから、図に乗っていやがる」
福通は不気味に笑みを浮かべながら、己の手を見つめた。妙な癖で、人を殺す時は決まってこのような行動を取る。弟である劉六はよく心得ていて、嬉しげにうなずいた。
それから数日後。
右丞相・遵道は王宮参内の帰り道、暴漢によって撲殺される事件が発生した。
「国家の柱石たる杜丞相を、どこの誰が殺めたのだ」
これが事件を耳にした福通の第一声であり、小明王の前で号泣した。だがそんな福通を誰もが白々しくその様子を眺めていた。
――福通以外、誰が遵道を殺すものか。
小明王以下、宮廷の誰もがそのように思っている。いや当の福通が誰よりもこのような空涙でごまかせるなど思ってはいなかった。
福通は無学である。だが知識人から多くの話を聞き、生きる糧とする耳学問を心得ている。
――要は馬を鹿と皆が申せばそれで良いのさ。
号泣しつつ、したたかに福通はそう考えていた。
福通が真似たのは始皇帝の死後、権勢をほしいままにした宦官・趙高であった。趙高は鹿を馬だと言い張り、正直に馬と答えた者を反対派として抹殺した。この故事を福通は参考にしたのである。
――趙高は秦王によって誅殺されたのです。
学者はそのように教えてくれたが、同じ末路をたどらない絶対の自信が福通にあった。
――趙高は所詮朝廷の寄生虫だが、俺は徒手空拳で国家を興した英雄だ。
寄生虫と言うならば、皇帝と仰ぐ小明王こそがそうであった。その寄生虫を使って自分を追い落とそうとした遵道など殺されて当然なのだ。
遵道の死後、丞相位は空席となった。
福通は平章政事のままであったが、丞相不在の今、政権の実質的な指導者は彼であった。その命はすなわち小明王の勅命であり、以後異を唱える者はいなくなったのである。
龍鳳政権は着実にその勢力を拡大させている。そして遂に一大決心を福通は宣した。
「中原克服」
そう大書された大旗を作り、諸臣諸将を宮殿に召集した。
龍鳳政権の宮殿は亳州近郊にあった鹿邑(ろくゆう)・太清宮の木材を転用して建造されたものである。その宮殿に皆を集めた福通は小明王に出師の表を提出し、北伐の許しを請うた。もっとも請うた、という形を取っているが、小明王に拒否権などない。
「亜父(あほ)」
福通は小明王をはじめ、諸将にそう呼ばせた。
亜父とは「父に次ぐ」という意味で、家臣に与えられる最高の尊称である。かつて楚の項羽が軍師・范増に与えた称号であった。福通は何事につけても故事を真似たがる。だがこの亜父号に学識ある者は、
――ごろつきが亜父とは恐れ入る。
と、ひそかに嘲笑していた。
小明王は人間として福通を認めてはいない。だが不服な表情ははばかられた。
――感情を表せば人が死ぬ。
小明王も人である以上、好悪の感情がある。だが少しでも福通に悪感情を示すと、必ず小明王の妃や侍女、知人などが暗殺されるのである。いつしか小明王は穏やかな笑みを浮かべることしか出来なくなっていた。紅巾軍にあって彼ほど人間らしい生き方を否定された者はいない。
「亜父の国を想う心、朕は嬉しく思う。思うように蒙古討伐の兵を出すが良い」
この言葉に福通は恐縮し、勅命として北伐を全軍に通達した。
勅命が下った。
すぐさま軍勢が整えられ、亳州より北伐軍が出陣することとなった。
軍は大きく三手に分けられている。
第一手は関先生(かんせんせい)、破頭潘(はとうはん)を大将とし、山西・河北方面へ。
第二手は白不信(はくふしん)、大刀劫(だいとうごう)、李喜喜(りきき)を大将とし、陝西方面へ。
第三手は毛貴(もうき)を大将とし、山東方面へと進発させた。
北伐軍の士気高く、全て朱色に覆われている。
――威容とは、まさにこのこと。
この時ほど福通の心が満たされたことはなかった。このような軍勢を動かせるなど何と男冥利なことか。福通は得意満面に北伐の大義を諸将に説いた。
「我らは長らく蒙古どもに虐げられてきた。だが弥勒様は大宋の末裔たる小明王陛下を地上にお遣わしになり、蒙古に鉄槌を下す北伐軍を授け賜うた。靖康の屈辱(北宋滅亡)を今こそ注ぐのだ。目指すは大宋――いや我ら中華の国都・開封だ」
将兵たちは口々に「万歳」と声を上げ、士気を高揚させた。
七月。北伐軍は打倒蒙古を目指して北上を開始したのである。
三
蒙古打倒、克服中原を目標に北伐軍が進発した頃。
大都では不穏な空気が流れていた。もっともその大都に皇帝の姿はなかった。なぜなら避暑のために上都に行幸していたからである。反乱軍が大挙して北上していると言うのに信じられない話であった。
都には十九歳となる皇太子・アユルシリダラが留守を任されていた。彼は才気煥発で、文武両道に秀でている。父帝と違い、憂国の志篤く、将来を嘱望されている皇太子であった。
亡きトクトも皇太子に期待を寄せ、学問の師を選んで侍講させた。また時には自らが兵法を説いたため、皇太子はトクトを終生の師として仰いだ。ココも同じ門下生として、親友同然の仲となっている。
そのココから龍鳳政権の動きが知らされたのである。
――これは容易ならぬ。
その知らせを耳にしたアユルシリダラは表情を一変させた。
「丞相をこれへ」
すぐさま宦官のブブハに命じ、丞相の太平を呼び寄せたのである。
太平は皇帝より大都留守を命じられ、何事においても皇太子は丞相と相談しなければならず、皇太子の独断は厳しく禁じられていた。
半刻ほど後、ようやく太平がブブハの案内の許、参上した。皇太子は、待てしばしが効かない性格で、丞相の顔を見るやにらみすえた。
「卿は南方の変事を存じおるか」
何とも傲慢な尋ね方で、太平はむっとした。
皇太子は老臣たちに嫌われている。その理由は才気にあふれているが、皇太子はしばしば人を見下す言動があったからで、老臣たちはこの若者を避けてきた。太平もまたその一人であったが、面従腹背で、この時も不快でありながら慇懃に頭を下げた。
「余の盟友ココ・ティムールによれば、紅巾賊どもが大軍をもって北上を開始したと云うぞ」
「仰せの如く、賊どもが動き始めたようで……」
「それを知りながら軍を動かさないとは、どういう理由か」
「このことはすでに上都の陛下に奏上いたしておりまする」
「父君は何と仰せか?」
「畏れながら、天下の兵権は陛下お一人に帰するもの。殿下とて陛下のお許しがなければ一兵たりとも軍を動かすことはできませぬ。殿下のお役目は都の守り。そのこと努々お忘れなきよう」
この言葉に皇太子は気色ばんだ。丞相といえども家臣の分際であり、何たる物言いをするのかと、直情型の皇太子はむき出しの殺意を示した。
「丞相閣下」
側に控えていたブブハは太平に対し、その無礼をたしなめた。
――くちばしの黄色い小僧と人外の者(宦官)が烏滸がましいことを。
丞相は冷たい視線でにらみ、そして威嚇した。
「余を誰と心得る。ブブハよ、一つ申し置く。己が何であるかを考えよ。余は陛下の命によって天下国家を担う丞相。殿下の覚えめでたかろうとも、人ならぬ宦官であることを忘れるなッ」
この一喝にブブハは恐れおののき、その場にひれ伏してしまった。その様子を皇太子はただ憮然とした面持ちでにらみすえるしかなかった。
「……丞相よ。卿は清廉潔白にして文武両道、天下の大事を託すに足る人物だ。このアユルシリダラも丞相の如き人物にならねばと、日々精進しているつもりだ」
太平は面を伏せながら、皇太子が何を言わんとしているのか耳をすませた。
「先年のことだが、丞相トクトを罠に仕掛けた奸臣ハマが余を担ぎ、父君廃立を企てた。しかし卿は身を挺してハマを弾劾し、君側の奸を取り除いてくれたことがあった。卿こそ社稷の臣と申すにふさわしい」
太平は首をかしげた。急に自分を持ち上げて何を言いたいのか、よくわからなかったからだ。
「だが丞相よ。卿について妙な噂を耳にした」
「噂ですか……。丞相たる者、噂などに惑わされては社稷を護ることができませぬゆえ、気に留めておりませぬ」
「そうであるな。だがな、その噂はただならぬ内容なのだ。なんでもハマを誅したのは、忠心からではなく、彼に代わって朝廷を牛耳ろうという野心ではないかといったものでな」
「埒もない。はてさて殿下は何を仰せになりたいのですか?」
「言葉が過ぎたようだ。卿に私心などなく、ただ大元のために尽くしてくれていることは衆知のこと。その無私無欲の丞相に聞きたいことがある。丞相にとって大事なるは国家なのか、それとも皇帝であるか」
「英明なる殿下にはおわかりのはず。国家とはすなわち天子様であり、天子様は国家。上下などござりませぬ」
「申す通りだ。皇帝とはすなわち国家である。だが国家たる皇帝ゆえ、乱行は許されぬのではないか」
丞相は答えない。いや答えられなかった。皇帝を批判することは死を意味する。丞相は言うまでもないが、皇太子とて廃立されてもおかしくはない大逆の罪であるのだ。だが皇太子は言葉を止めなかった。
「野には賊がはびこり、朝にあっては奸臣が群がる。しかし父君は祭事に気を取られ、民の辛苦を顧みようとせず、国費を費やして各地に壮大な宮殿や寺院を建築されておられる」
「陛下には陛下のお考えあってのことでしょう」
丞相は努めて穏やかな口調でなだめようとしたが、皇太子の批判は止まらない。
「陛下は殿下のお父上なれども天命を享けし天子様でござりますぞ。父子の情に甘え、陛下を悪し様に申されるのは、不孝かつ不忠でございましょう。天下大乱の今こそ、陛下をお支えし、朝廷を一つにまとめるべきではござりませぬか」
この諫言に皇太子は口をつぐんだ。だがこの沈黙は説伏されたためではなかった。
「卿は安史の乱は知っているか?」
「唐朝を滅亡に導いた兵乱のこと、幼子でも存じております」
「父君はさしずめ、玄宗皇帝であらせられるな。その上、楊貴妃などよりも始末の悪いラマの教えに憑かれておる」
丞相は顔色を変えた。下手なことを言えば、それこそ身の破滅へと繋がってしまう。ここは口をつぐむしかない。
「余は安史の乱に立ち向かわれた粛宗皇帝に倣わんと欲している」
粛宗とは玄宗に代わって即位し、安史の乱に立ち向かった皇帝である。唐が乱後も百五十年ほど持続したのは粛宗の功績であった。
丞相は顔面蒼白ながら皇太子の発言に呆れ果てている。粛宗は父帝から位を譲り受けたと言うより半ば奪い取ったのだ。すなわち皇太子は堕落した父帝を追放または隠退させることを示唆しているのである。
――何たる厄災か。
このような場に身を置いたことを丞相は嘆いた。だが嘆いて何も言わなければ、皇太子の謀反を認めたことになってしまう。満面に冷や汗をたらしながら丞相は皇太子に詰め寄った。
「……道を違えてはなりませぬ」
これは丞相の保身であった。
――私は皇太子を諌めた。謀反を企むのは皇太子の独断。
もし大事になってもそう弁明が出来る。そうした計算が丞相にはあった。だが皇太子の気迫は丞相の保身を許さなかった。
「道を違えるとは異なることを。このままでは大元が滅びてしまうと申しておるのだ。トクト丞相を見よ。あれほど父君に忠義を尽くし、国家を想った人を、ハマのような奸臣の言を入れて殺されてしまった。子の情として偲びないが、父君には国家を支えるお力はない」
そう述べると、佩剣を抜いて座っていた椅子を一刀両断した。
――皇太子の悪癖が出た。
丞相は両断された椅子を見ながら、顔を青ざめさせた。皇太子は優秀であるが、自信過剰でよく暴走をする。この性格のため、彼は生涯幾度となく失敗するのだが、この時も周りが見えなくなっていた。
「このお話、聞かなかったことにいたしましょう。では……」
礼もなく去ろうとした丞相に皇太子は剣の切っ先を丞相の喉元に押しつけた。
「このまま生きて帰れると思うてか」
「ご無体な……」
それまでおびえていた丞相の眼ににわかに殺気が復した。
――むざむざ殺されてなるものか。
いかに貴族化したとは言え、太平もまた蒙古族である。何もせず命を取られるまで何もしないほど腰抜けではなかった。
――これはまずい。
さすがに宦官ブブハもこの状況に危機を感じ、抱きつくようにして皇太子を止めた。そして口早に退出するよう丞相にうながしたのである。
「離せ、離せッ」
皇太子は幾度も叫んだが、ブブハは離さなかった。丞相も皇太子などと斬りあいなどしたくはない。渡りに船とばかりに、その場を去っていったのである。
「ブブハッ」
皇太子は怒り心頭となった。なぜ止めたのかと怒鳴りつけたが、ブブハは床に額をすりつけながら意見を述べた。
「畏れながら丞相に殿下の志は通じませぬ」
「何?」
「燕雀に鴻鵠の志はわからぬもの」
この言葉に、ようやく皇太子は落ち着きを取り戻した。
ブブハは皇太子の性格を熟知している。何しろ皇太子が産まれた時から側に仕えているのだ。そのため激昂した彼を鎮めるには、英邁さを褒めてやれば良いことを知っていた。
「だが、このまま太平を捨ておく訳には参らぬ」
「御意。丞相……いえ、かの太平めは殿下の大業をさえぎる者」
「ならばどうすれば良い」
「丞相の首をすげ替えれば良いのです。太祖皇帝(チンギスハーン)の御世より大元を支えてこられました名門のソシカン様こそ、輔弼の臣かと思われます」
ブブハの眼光は怪しく光らせながら、恐ろしげな進言をしている。邪魔な太平を誅殺し、丞相を交替させてしまえば皇帝廃位も夢ではないと、そそのかしているのである。
だが皇太子とて丞相を抹殺することは容易ではない。抹殺に成功しても、下手人が皇太子とわかれば、大逆の者に皇位継承は許されないからだ。思い悩む皇太子にブブハは一人の女性に相談するよう勧めた。
「殿下のことをご理解される方が、都におわします。母君にご相談されてみてはいかがでしょうか」
ブブハは皇太子の母・奇皇后の名を挙げたのである。皇太子は妙案だとうなずき、母后に相談することにした。
奇皇后とは皇太子の母――すなわち国母として畏敬の念を抱かれるべき女性であった。だが彼女の出身がその権勢に翳りを与えている。
彼女の出自は高麗、すなわち元朝の属国が母国であった。
皇帝トゴンはその昔、流罪同然で高麗にいたことがあり、その頃に彼女を見初めたのである。トゴンは幾度も暗殺されそうになっていたが、その都度助けたのが彼女であったのだ。
だが蒙古貴族に属国の娘などを皇后として敬うなど滑稽そのものであり、白眼をもって対した。このことが皇后の反骨精神に火をつけ、それはいつしか大いなる志に変じて彼女を突き動かしたのである。昔日の元朝を取り戻させたい――皇后の想いは、そのまま息子に引き継がれ、母子揃って憂国のために狂奔する日々を過ごしていた。
「トクトを見出したのは皇后だ」
トゴンはトクトのことを思い出すたびにそうつぶやいた。その言葉通り、皇帝とトクトを結びつけたのは彼女であり、皇太子の教育を託したのもまた皇后であった。だがトクトは失脚し、それをトゴンは傍観した。
――陛下に見込みはない。
上昇志向の皇后が落胆したのも無理はなかった。トクトを見殺しにして、その後は賢臣を見出すことなく、ただラマ教を妄信し続けている。その間、紅巾賊どもが跳梁し、滅亡の足音が日々大きくなっているのだ。
このままでは亡国の皇后になる――これほど彼女にとって屈辱的なことはない。そうなれば属国の皇后が国を滅ぼしたと誹謗されるに違いないからだ。
「丞相は無為無策。君側の奸を取り除きたいのですが……」
息子の皇太子が相談に来ると、皇后は間髪入れず賛同した。
「陛下は心優しきお方。その御心に付け入る君側の奸が太平です。陛下のため、大元のために天誅を与えるべきでしょう」
陰謀の宮廷にあって暗殺のための大義などはすぐに考え出されるものである。天下を采配する丞相の暗殺など至難の業だと、誰もがそう思っていたが、そうではなかった。
まさに元朝は末期的症状を呈していた。陰謀が陰謀を生み、暗殺に対して暗殺で対抗する。
――朝廷は狂っている。
このことを皇帝も皇后も、そして皇太子も考えはしなかった。
頭脳明晰でありながらラマ教に走り、ひたすら現実逃避する皇帝。
学識豊かな才女であるため、夫帝に失望し、息子と共謀する皇后。
国を憂う気持ちは人に劣らぬが、そのために国の規律など無視してしまう皇太子。
時は今、紅巾本軍が龍鳳政権を樹ち立て、北伐軍を進発させているのである。宮廷内で暗殺を繰り広げている場合ではないはずであった。だが末期的政権というものは理想も野望などあらゆる人間の感情を陰謀に変えてしまう。
かくして丞相・太平は暗殺された。いや暗殺というより虐殺に近い。
私邸に強盗が闖入し、家族もろとも殺されてしまったのである。
――天下を采配する丞相が惨殺された。
この事件は大都にいる全ての者に暗澹たる気持ちを抱かせた。
――誰がやったのか。
その答えは明白であった。皇太子と丞相の仲が険悪であることは衆知のことであり、丞相が死ねば誰が権勢を握るのかを考えれば皇后も一役買っているに違いない。だが事件の真相は闇に葬られた。
「これは白蓮教を狂信する輩が襲ったのであろう」
この見解を示したのは太平の死後、丞相に就任したのはソシカンであった。
もちろん誰もソシカンの言葉を信じなかったが、と言って異論も出なかった。異論を唱えることはすなわち死を意味することであり、命を懸けてまで真相を暴こうとする者は誰もいなかった。かくして皇太子一派の目論みは成功したのである。
「太平が殺された……」
丞相・太平の殺害は皇帝がいる上都に知らされた。だが皇帝は何の興味も示さなかった。
「丞相を殺めた者は見つけ出さねばなりませぬ」
語気を荒げて進言したのは皇帝側近のロテシャであった。
彼は名門貴族であり、太平とは同志であった。だが皇帝はラマの神事に没頭し、振り向きもしなかった。ロテシャはなおも詰め寄ったが、皇帝は息一つ乱さない。
――このお方は生きておいでなのか?
そう思わずにいられないほどこの皇帝には生気というものがなかった。
――このお方を頼っても詮無きことか。……しかし太平殿を殺めたのは皇太子と皇后以外にはおらぬ。
ロテシャはそう確信している。丞相暗殺は国家転覆の大罪である。これを機に皇太子と皇后を追い落とす絶好の機会であった。
「……ロテシャよ。新しくソシカンが丞相になったのであろう。それで良いのではないか」
「そのソシカンでございますが、陛下はご存知ないのですか」
「何をだ」
「そのソシカンこそ太平丞相暗殺の首謀者と大都で専らの噂でございます」
「噂で新丞相人を裁けと申すのか?」
ロテシャはなおも食い下がろうとしたが、皇帝は顔を向けようとはしてくれなかった。
トクト失脚後の皇帝は病的なまでに無気力になってしまっている。皇帝が無気力であるならばいっそ――ふとロテシャは逆手に取ることを思いついた。
――丞相暗殺も気に止めないのなら、仇を討っても良いということか。
そのようにロテシャは考えたのである。
皇太子が皇帝よりも優秀であることは百も承知であった。だが皇太子の力量などどうでも良い話であった。むしろ優秀ゆえ皇太子は老臣たちから忌み嫌われたと言える。
――あの傲慢な顔つきも気に入らないが。
ロテシャは皇太子の生意気な表情には辟易していたが、それ以上に認められない訳がある。
――所詮、属国の血筋ではないか。
ロテシャもまた皇后・皇太子母子をそのような目でしか見ていなかったのだ。噂に過ぎないが、皇后は己の国を支配した蒙古を恨んでいると云う。
高麗には「恨(ハン)」の文化があり、小中華の思想もある。
征服者である蒙古人を高麗の人々は心底からさげすんできた。さげすみはどんなに取り繕っても相手に伝わるものである。軽蔑を有する者に報いるには軽蔑がなされる。そのため蒙古人の高麗人に対する感情はどこまでも冷淡に満ちていた。その軽蔑すべき高麗人の娘があろうことか皇后となったのである。さらにその血を受け継ぐ皇太子が代々の蒙古貴族たちを力で抑えようとすれば反発がない方が不自然であった。
――あの母子を追い落とそう。
その気運は早くからあったが、そのためには大きな障害を取り除かなければならない。 その障害とは元朝最大の軍閥・チャガンであった。
――されど兵を持つ者には歯が立たぬ。
兵力を持たないロテシャが正面切ってチャガンを倒すことなど考えられない。さらに言えばチャガンの左右には有能なる養子のココと、武名高き思斉がいて、ロテシャには手も足も出なかった。
――だが獰猛な犬に人が手を下すまでもあるまい。
兵力はないがロテシャには陰謀の才がある。何もロテシャが兵を挙げる必要はない。朝廷の力を使い、チャガンに対抗する者をけしかけてやれば良いのだ。そのチャガンに対抗する者こそポロ・ティムールであった。
――敵の敵は味方とは良く言ったものよ。
ロテシャは不気味な笑みを浮かべて虚空を見つめた。
四
――俺はドン・キホーテだな。
もしココが三百年後に登場する小説を知っていたなら、自身をそう表現したかもしれない。ドン・キホーテは理想と現実の区別がつかずに生きていく人物であるが、ココもまたそうであった。
トクトと共に夢見た蒙古帝国の再興に命を懸けているが、堕落した元朝の前にあってココの努力など虚しいものがあった。
ココは夢想家であったのか、と言えばそうではない。むしろ誰よりも元朝の実力を理解しており、再興は天に唾する行為に近いことも認識していた。
――その点、陛下は明晰でいらっしゃる。
皮肉を込めてココは皇帝の聡明さを怨嗟した。皇帝は陰謀渦巻く朝廷など立ち直すことが出来ないことを知っている。
ただひと時、そんな皇帝も夢想したことがあった。トクトが黄軍を興して朝廷を改革しようとした時である。だがそのトクトが死んだ以上、誰もこの斜陽の国家を支える人材はいないのだ。
――ココ・ティムールがいるではありませぬか。
ココはそう叫びたい。だが皇帝は、
――その方では無理だ。
と、腹立たしいまでに冷静に答えるに違いない。だがココは全ての人に嘲りを受けようとも、トクトから受け継いだ夢を捨てたくはなかった。
――夢のために命を懸ける男は何と愚かなことか。されど大望を無くした者など男ではない。
ココはかたくなに、そう信じている。そんなココを養父のチャガンや亡師のトクトは好ましく思い、大きな期待を寄せていた。
ココに期待するチャガンであったが、悪い予感を抱いていた。
元朝にあってチャガンやココのような夢を抱く者は漏れなくトクトと同じ道を歩んできたからである。
――だがそれで良い。
時代が悪いと言ってしまえば楽であろう。現に皇帝はそのようにしている。だがいかなる世であれ生を享けた以上、困難に立ち向かうが人生ではないか。まこと不器用であったが、この父子こそ元朝最後の輝きとして天が遣わした光明であったのかもしれない。
さてポロ・ティムールであるが、彼もまたチンギスハーン以来の名家である。
亡父・ダシバートルは代々蓄えた財力を背景に私軍を結成し、各地の反乱を鎮圧した。また自勢力拡大のため、トクトの南征に協力したこともある。
トクトの死後は勢いづいた反乱軍や台頭し始めたチャガン軍と干戈を交えながら、元朝における二大軍閥として成長を遂げた。そのダシバートルも先年、病没し、軍団はその子・ポロに継承されたのである。無類の戦上手で、ダシバートルも晩年は全てを彼に委ねていた。
ポロには大きな野望がある。己の軍団を強大にし、あわよくば大元皇帝ではなく、蒙古帝国の大ハーンになりたいと願っていたのである。
途方もない野望であるが、どこまでも本気であった。そんなポロの許にロテシャの密使がやって来たのである。
――千載一遇とはこのことか。
ポロは思わずほくそ笑んだ。
――愚者は英雄を生み出す親よ。
野望を遂げるためには愚かな者共の強欲こそ必要であった。もしロテシャが真の策謀家であったなら、ポロを使わなかったに違いない。
ロテシャは前門の虎を追い出すために後門から狼を招き入れる愚に気付かなかったのである。狂喜乱舞したい気持ちを抑えながら、神妙な顔つきでポロはチャガンを討つことに同意をした。
――この機に邪魔なチャガンを打ち滅ぼしてくれる。
ポロは眼光を妖しく光らせながら、ロテシャの密使を上都へと戻した。
このような情勢の中。折悪しくココがポロの陣中に現れた。ポロの家臣たちは、
「玉を砕く好機ですぞ」
と、色めき立った。当然ココを捕らえるのかと思ったが、意外にもポロは家臣たちを制止した。家臣たちは眉をひそめたが、ココを鄭重にポロの許に案内をした。どうにもポロの言動を理解するには一筋縄ではいかない。
ポロの許に足を進めるココは悠然としている。無論いつ危害が加えられるかわからないため、警戒は怠ってはいない。
――ポロもただの食わせ者ではないようだ。
ロテシャより密使が来たことをこの時ココは知らなかった。だがそのようなことがあってもおかしくないことは十分に予想をしている。
――食わせ者だからこそ話が出来る。
ココはしたたかにもそのように考えていた。
「王保保殿、であったかな」
ポロは笑みを浮かべながらポロに椅子を与えた。
「今はココ・ティムールでございます」
ココは拱手し、椅子に腰をかけることを遠慮した。
「ココ・ティムール……。蒼き狼らしき佳き名だな」
「過分なるお言葉、かたじけない」
「若いながらも歴戦の強者だと聞いたが、噂に違わぬようだ」
「若輩者を、おからかいになりますな」
「いやはやチャガン殿のご子息はご謙遜をなさる」
ポロは部屋中に鳴り響くような声で笑った。
「ところでココ殿よ。古来より我が民族が愛してきた酒はお好きか」
「……馬乳酒ですね。はい。好物でございます」
ポロは家臣たちに自家製の馬乳酒を持ってこさせた。
「我が軍勢だが……ココ殿は強いと思われるか」
「言わずもがな」
「やはり口が上手い。わしはご覧の通り、ただの武骨者。大した宝もないが、一つだけ自慢出来る物がある。何かおわかりかな」
「軍でござりましょう?」
「そうだ。何ゆえ我が軍が強いか。それはわしが長年探求して参った馬乳酒があるからじゃ」
ココはいかにも感心したような表情で身を乗り出した。
「我が酒を飲めば、兵たちに力がみなぎる。そのため、いかなる敵も打ち倒すことが出来る。ココ殿よ。チャガン殿は馬乳酒をお造りになるのか」
「我が義父は不調法者ゆえ、酒を造ることなど出来ませぬ」
「ほう。ではココ殿は?」
同じくと苦笑しながらかぶりを振った。
「ならばココ殿に我が自慢の酒を進ぜよう」
にこやかに話してはいたが、このことは容易ならざることであった。
両者は依然仇敵同士である。蒙古において仇敵を毒殺することなど日常茶飯事であった。チンギスハーンの父もまた毒殺されたことを知らぬ蒙古族は誰もいない。
――どうするか。
これほどココの器量を試すに最適な方法はなかった。
飲むことを拒めば疑うのかと言いがかりをつけて殺してしまえる。緊張した雰囲気の中、ココは杯を受け取るとにこやかに笑みを浮かべた。
「ほう。これは良き香りでございますな」
そう言うや躊躇なく飲み干してしまったのである。
大胆不敵――ポロを初め、彼の家臣たちもこの若者の度胸に舌を巻いた。
「何たる美味か。今まで口にした馬乳酒など比べ物にならない。なるほど名高きポロ将軍の軍勢が強いのも道理でござる」
「名高き、のう。巷ではわしの馬乳酒を飲むは命懸けと申しているようであるが……君はひょっとして不用心なのかな」
「命懸け……なるほど。これほどの美味ならばやむをえぬかもしれぬ。何とも恐ろしき銘酒でござるな」
ココはわざと愚鈍を装い、もう一杯馬乳酒を飲み干した。ココは杯を椅子の上に置くと、真顔になって尋ねた。
「されど、この美味なる酒をいつまで造ることが出来ますかな」
「それはどう言う意味かな?」
「国滅びて酒がありて何の意味がござりましょう」
「これはまた大げさな仰せじゃ。尋ねるが、それはどの敵のことかな。聡明なる君にご教授願いたい」
「将軍のお言葉とは思えませぬ。古来より二方に敵を迎えるな、と申します。これまで不幸にも蒙古人同士で干戈を交えて参りました。しかし南人どもがそれに乗じて北上を続けております。賊どもに大元を侵されること、将軍は悔しくはござりませぬか」
ポロは目を閉じながらココの話に耳をかたむける。
「呉越も危急の時は同じ舟に乗るもの。それとも意地を張って南人如きに船を覆されてもよいと思われますか」
「呉越同舟……のう」
「くだらぬ内輪揉めをして南人に付け入れられるは千載の恥辱。怨讐を越えて賊を平らげるか、それとも蒙古人同士で争って国を滅ぼすか。いずれが将軍にとって益になるのか、自明の理でございましょう」
ポロは盃を置くと、しばらく無言となった。そして睨むようにココの顔を凝視した。
「ココ殿よ……。わしはのう。そこもとの父・チャガン・ティムールこそ――」
大きく息を吐き、口を開いた。
「もっとも恐るべき男だと思うてきた。だが……違うようだ」
「仰せの通り、真に倒さねばならぬのは南人どもです」
喜色を浮かべてうなずくと、ポロは「違う、違う」と言って手を振り、哄笑した。
「どこまでもとぼけるなよ。若僧」
ココは不敵な笑みを浮かべて、深々と頭を下げた。
「まあ良い。そなたのような者を相手にしつつ、賊と戦うも骨が折れる。まずは賊どもを成敗せねばなるまい。よかろう。このたびは、そなたの名を挙げてやる」
ココは勢いよく立ち上がり、染み入るような笑みを浮かべて礼を述べた。
笑みというものに男の器量がわかる――これは経験から学び取ったポロの人物選定術であった。
――この若造より奥深き笑みを見たことがない。
ポロはロテシャ如き小者と組み、眼前の若者と戦う不利を計算したのである。
かくしてココは不可能と思われたポロの説得に成功し、団結して龍鳳軍に立ち向かうことになった。
五
北伐軍は破竹の勢いで侵攻している。
各地の蒙古軍に統制がなく、龍鳳軍の姿を見ると戦いもせずに逃げ出す始末であった。そのため亳州には連日連夜、朗報が届けられ、宮廷は大いに沸いた。
福通は得意の絶頂であった。そして勝報を聞くたびに手放しで喜んだ。しかし福通が具眼の士であれば、この勝利に酔いしれることはなかったに違いない。
たしかに龍鳳軍は連戦連勝であったが、蒙古軍最大のチャガンとポロの軍勢と未だに干戈を交えていなかったからである。言わば雑魚ばかりを追い回しているに過ぎなかった。また北伐軍には戦略意識がなく、ただ前に進んでいるだけであった。
城を奪っても保持せず侵攻するため、北伐軍が去った後は蒙古軍に城を奪回されてしまう。そのため補給路の確保が難しくなり、薄氷の上を進むような危うい進撃となってしまっていたのだ。
三軍の中で唯一、戦略眼を有していたのは毛貴だけであった。
彼も当初、他軍同様進軍し続け、ついに大都に迫ることが出来た。しかし皇太子・アユルシリダラ率いる守備軍に補給路を断たれそうになったために、撤退を余儀なくされた。
撤退後は済南に赴き、その地を拠点と定めることにしたのである。
だがこの発想は毛貴本人のものではなかった。かつて濠州で王を僭称していた趙均用の献策によるものであった。均用は長らく内紛を繰り返した結果、濠州を捨てざるを得ず、亳州に身を寄せていたのである。
路頭に迷いかけていた毛貴に均用はすり寄って、あれこれと進言したのである。
「趙公は天が遣わされた我が軍師よ」
毛貴は良く言えば素直であり、悪く言えば単純な人物であった。
――これは使える。
均用は毛貴を選んだ我が目に狂いがないことを確信していた。
「肝要なのは人を得ることです」
毛貴は身を乗り出すようにしてうなずいた。なるほど均用のような軍師が一人でも多くいてくれたなら何と心強いことか、毛貴に異論はない。
「どうやって人を集めるのか」
「賓興院(ひんこういん)を作り、賢人や豪傑を求めるのです」
毛貴はただ目を丸くしてうなずくしかない。
「今一つ。食は得ることが何よりも大切ですので、屯田をいたしましょう」
均用には苦い経験があった。
それは濠州での失敗で、あの時は食糧難のため兵を解散する羽目になってしまった。同じ過ちを繰り返さないためにも兵たちに田畑を耕させて食糧難に備えようと考えたのである。これらの策はすべて成功し、毛貴は大いに喜んだ。そのため均用の地位は上昇し、軍中で並び立つ者がいないほど権勢を高めたのであった。
だが毛貴は知らなかった。
均用の真の狙いは毛軍を乗っ取ることにあった。だが未だ均用は本性を現すことなく、良き軍師として振る舞い続けている。
至正十八年春。
いくつか不安材料を鑑みることなく、龍鳳政権は得意の絶頂にあった。
第一軍の関先生が皇帝の滞在する上都を攻め、一部の宮殿を焼き払った。皇帝は夜陰に紛れて大都へ脱出した。
第二軍の白不信たちは陝西を攻略し、有力な義兵元帥・田豊を降伏させ、勢力を拡大させた。
――次はいよいよ開封だ。
福通は意を決し、ついに開封攻略軍を発したのである。
かつて北宋時代の都であった開封は南人にとって象徴的な街であった。福通が気負い立つのも無理もなかった。
この開封を守るは竹貞(ちくてい)という将であったが、無能な官吏で、劉軍が迫ると慌てて城を捨てて逃げ去ってしまった。ここに龍鳳政権は漢民族として二百年ぶりに国都を取り戻すことに成功したのである。
開封に入城した福通は、
「大業成就、大業成就」
と感涙しながら、何度もそう叫んだ。福通はすぐさま亳州から小明王を呼び寄せ、開封を龍鳳政権の都と定めたのである。
「起義以来ようやくにして天下に安寧をもたらした」
連日連夜祝宴が開かれ、我が世の春よ――龍鳳政権の者たちは誰しも浮かれていたが、その実情は極めて危険なものであった。
勝利をつかんだ以上、兵士たちに恩賞を与えなければならない。だが浮かれきっていた福通たちは無造作に恩賞を与え、足りなければ開封やその付近で略奪したものをそれに当てた。開封の人々は失望し、わずか数日間で怨嗟の声が広がる始末であった。さらに恐ろしい力が政権を転覆させるべく、開封を狙っていたのである。
龍鳳政権の乱痴気(らんちき)騒ぎを冷徹に見る男たちがいた。
一人はポロ・ティムール。
もう一人はチャガン・ティムール父子と李思斉。
そして毛貴麾下の趙均用であった。
均用は二度の失敗から、勝利に酔いしれることの恐ろしさを熟知している。福通は浮かれに浮かれて、己の立場が累卵の如く危ういことをまるで理解していなかった。
「チャガン・ティムールやポロ・ティムールがこの好機を逃すはずあるまい。虎と鷹は歯牙を秘しているが、気付いたが最後。大宋国は滅び去るであろう」
均用はそのように予言した。そのことを主である毛貴には秘していたが、ただ一言だけ忠告をした。
「開封からの召集は病と称して辞されよ。龍が沼沢に潜むは、機を見て空高く舞うため。軽挙妄動はお控えあれ」
均用に全幅の信頼を置く毛貴は異論を挟むことはなく、その言に従った。
その頃、ココは多忙を極めていた。
いかに連携を結んだとは言え、チャガンとポロ両軍の関係が友好的になったわけではない。ココの巧みな交渉術でポロを動かし、そしてチャガンはそれに従って軍勢を動かしたのである。
開封は龍鳳軍の手に落ちたが、ココの望むところであった。
「わざと開封を彼奴らに渡しましょう」
龍鳳軍が北上する中、ココはそう提言していたからである。つまり開封を龍鳳軍壊滅の好餌にしようと言う訳であった。
開封は流通の都として栄えてきた街である。だが流通は物資だけではない。人間、すなわち敵軍もまた入りやすく、防御の街ではなかった。
また流通をもって支えられているということは、物資を蓄え生み出す街ではないということである。つまり守りがたく、そして兵糧を蓄えることが困難で、籠城に不向きな城であった。その城にまんまと龍鳳軍は入り込んでしまったのである。そうとも知らず、開封は歓楽に包まれている。
――愚かな連中だ。
ココはほくそ笑んだ。
「開封を取り囲むのは、今です」
ココはすぐさま使者を立て、ポロ軍に開封を取り囲むよう依頼した。
ポロも開封がどのような城なのかを知っている。さらに龍鳳軍はご丁寧にも財物を運び込んでくれている。いわば宝の山が眼前に広がっている。ポロは思わず舌なめずりをした。
ポロ軍は元朝にあって精鋭であった。軍資も豊かで、かつて濠州を苦しめた将軍筒も装備されており、他にも強力な火器を備えている。
一方チャガン軍は屈強の騎兵を擁しており、その士気はどの軍勢にも劣らない。ココは騎兵隊の将帥に抜擢された。
夜半。開封の龍鳳軍はすっかり油断していた。連日の戦勝祝いを催したために、戦いが終わったと誰もが錯覚して、見張りまでが熟睡する有り様であった。
「宝の山が寝息を立てておるわ」
ポロは少年のようにつややかな顔つきで、軍勢に突撃を命じた。
首領のポロも勇んでいたが、兵士たちは、はちきれんばかりに攻める時を待ち焦がれていた。
――轟ッ。
天地が裂けるような爆音と共に、将軍筒が開封城を襲った。
――雷か、夢か?
襲われた城兵たちは何が何だかわからず逃げ惑った。
規律が失われた龍鳳軍の正体は食い詰めた貧民たちであり、一旦恐怖にさいなまれると、収拾がつかなくなる。混乱の極みに達する開封にチャガンの騎兵が襲ってきた。
「我らは蒼き狼の末裔ぞ。食い詰めた烏合の衆など蹴散らせッ」
ココは剣を振るい、麾下の兵どもを鼓舞した。対して福通も懸命に兵を励ました。
「餓えた狼が跳梁しているに過ぎぬ。我らは王師。王者の威をもって彼奴らを蹴散らすのだ」
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開封での戦いは虐殺と言っていいほど凄惨で、一方的なものであった。機敏に動くチャガン・ポロ両軍は各個撃破し、福通は兵力を逐次投入するという愚行を犯してしまった。
「わしは何をやっておるのかッ」
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だが蒙古軍は容赦しなかった。将軍筒は絶え間なく開封に打ち込まれ、屈強の騎兵が人を狩るように次々と龍鳳兵を殺していった。
一気に殲滅という方法をなぜかココは取らなかった。
「なぜ情けをかけるのか」
直情型の思斉が露骨に不満の色を浮かべて詰め寄ったが、無論ココは情けをかけたわけではない。
「膿は一気に搾り出すべきです。この者共を餌に各地の白蓮教共を誘き寄せるのです」
龍鳳軍は各地に展開している。それらをいちいち殲滅して時間をかければ、トクトと同じく、翻弄され、やがて宮廷内の反勢力によって足元がすくわれかねない。ココは烏合の龍鳳軍よりも君側の奸を警戒していた。
年明けて至正十九年。
龍鳳軍の荒廃ぶりは目も当てられないほどひどいものであった。
福通は巻き返しを図り、幾度も蒙古軍を襲撃したが連敗を重ね、日々脱走兵が増えていった。それらの者を捕らえては見せしめで斬首するという悪循環に陥っていた。さらにその間、搾取され続ける開封の人々も龍鳳軍に不満を抱き、城内の様子はココたちに全て漏れていた。
「三軍を開封に呼び寄せるのだ」
福通は狂乱しながら三軍に下知したが、これこそココの思うつぼであった。各個撃破され、その都度龍鳳軍の士気は低下していくのである。
そして五月。
「頃合でござる」
ココはチャガンに総攻撃を進言した。チャガンは言に従って開封総攻撃をついに命じたのである。
「開封に巣食う南人どもを皆殺しにせよ」
かくしてチャガン軍は開封に猛攻を加え、龍鳳軍は完膚なきまでに打ち破られたのであった。
落城寸前の開封にいた龍鳳軍の食糧は底を尽き、矢は果て、刀も折れてしまっている。
――もはやこれまで。
福通はどうしようもないことを悟るや、ある決意をした。
――ここで全軍が滅びれば天下の凶事である。ならば……。
福通が考えた非情の決意とは、自身と小明王以外の者を放棄して開封を脱出することであった。
――大宋は自分と小明王さえいれば永遠に持続するのだ。
実に身勝手な考えだが、本気で福通はそのように考えたのである。自分たちを生かすことが天下の大事であり、他の者の犠牲など小さなものだと解釈している。福通は病的なまでに自身を肥大化させていた。
――だが兵たちを鼓舞せねば。
脱出する前日、福通は急遽、諸将を集めた。
「我ら大宋の命運は尽きた。我らは誇りを懸けて最後の最後まで戦うのだ。蒙古どもを一人でも多く道連れにしてやろう」
そのように激励し、宝庫を開放して全ての兵士に宝物を呉れてやったのである。
兵士たちは自棄になり、目を血走らせながら最期の仇花を咲かせてやろうと誓い合った。
ところが明朝、兵たちは唖然とさせられる。
福通が小明王を伴って、わずか百騎ばかりで開封から脱出し、安豊(あんぽう)へと逃亡してしまったのである。
さすがのことにココも我が耳を疑ったが、福通は全軍を見捨てて脱出したのは本当であった。
――白蓮教どもは人でなしか。
将領として心得なければならないのは、配下の者を守ることである。だが福通は将として、いや人としての心得さえ投げうって逃げ去ったのである。
阿鼻叫喚――王と主将を失った開封はまさに地獄であった。
ある者は福通を罵り、ある者は号泣し、ある者は正気を失うなど目も当てられないほど開封は混乱した。
包囲しているチャガン軍は総攻撃を加え続けた。開封は陥落し、兵も諸将も全員処刑されてしまったのである。
無残であったのは小明王の家族たちであった。
小明王の母・楊太后や妃たちは何も知らされておらず、城に取り残されていた。当然ながら彼女たちも首を刎ねられてしまった。
この小明王と福通の人非人な振舞いに天下の恨みを買った。安豊に逃れた小明王と福通は捲土重来を期したが、兵が集まらず安豊一城を守ることが精一杯となってしまったのである。
中央軍が崩壊した頃、済南の毛貴は開封から転戦してきたポロ軍の猛攻に耐えていた。 だがここでも人でなしの行為が繰り広げられた。
――今こそ好機。
困窮する今こそ役立たずの毛貴ではなく自分が必要であるはずだ――均用はそのように考えて、毛貴を謀殺したのである。
「再びこの均用が世に立つ時が来たのだ」
均用は「無能」な毛貴を嘲笑したが、世は甘くはなかった。裏切りは裏切りを呼ぶものらしい。毛貴はたしかに無能であった。だが麾下の将兵に優しく、彼自身が素直な人柄であったので人望を得ていた。均用もそんな毛貴に拾われて重用された身でありながら平然と裏切ったのである。そんな彼を毛軍の将兵は許すはずがなかった。
毛軍を乗っ取って一月。
均用は諸将を集め、元軍討伐を軍議にて話し合った。その夜、将兵の心をつかむために宴を開いた。諸将は表面的には楽しく過ごしていたが、ひそかに均用暗殺を目論んでいたのである。
宴もたけなわになり、均用がしたたかに酔っている。そこに毛貴の腹心であった牛立二(ぎゅうりゅうじ)が均用の前に仁王立ちとなった。
均用は身体を左右に揺らせながら、
「無礼講とは申せ、主である俺の前にそのように立つのは無礼であろう」
と叱咤したが、立二は憮然とした表情のまま、にらみすえている。
「俺たちは毛公の恩顧を受けた。毛公こそが我らの主。だがそなたは恩顧を受けながら人にあるまじき行為をした。裏切り者は天の咎を受けなければならん」
そう怒号を発すると、立二は均用を蹴り飛ばした。
均用は驚き逃げようとしたが、酔っているため上手く立つことが出来ない。さらに周りの兵が全て裏切って足を抑えつけた。
立二は冷ややかな笑みを浮かべて、均用の顔に唾を吐きかけた。
「あの世で毛公に謝ってくるがよい」
均用は顔面蒼白で、もはや策士の面影はなかった。ただ身を震わせながら、
「お、俺を失えば、お前たちは路頭に迷うぞ」
と叫んだが、兵たちからはただ嘲笑して罵声を浴びせた。
立二は斧をつかむと、命乞いする均用の首を容赦なく刎ねてしまったのである。徐州で挙兵し、濠州などで武名を挙げた均用であったが、その最期はみじめであった。
「もはやこれまで。我らは趙均用の首をもって降伏しよう」
立二がそう叫ぶと、毛軍の兵たちは歓呼の声を挙げた。
ここにまた一つ紅巾軍の勢力が消滅し、天下を制したと目された龍鳳軍は、春の淡雪の如く、その勢力を急激に衰退させてしまったのである。
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荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
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