朱元璋

片山洋一

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第八話「西風北風」

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   西風北風

   一

 まだ寒風が吹き荒む二月末。朱元璋は定遠一帯と大軍を掌中にした。そんなある日、馮国用が突如暇乞いを願い出たのである。
 湯和は、
「妙山(みょうざん)(国用の号)殿は公子に不服がおありか」
 と、真面目な顔つきで心配をした。
「滅相もない。定遠を治められた今、我が軍に必要なのは人です。数多の賢人が野に下っております。その賢人たちに公子の陣に加わるよう、声をかけたいのです」
「賢人が野に……」
 湯和はしきりと感嘆の声を上げた。かくして国用は出立することになったが、
「馮兄弟は我が両手。一日も早く戻られよ」
 と、元璋は本気で懇願した。
「過分なるお言葉、痛み入ります。ですが我ら兄弟をそのように評せられるとは、公子は天下の広さをご存知ではありませぬ。我らが星の光ならば、定遠には月の如く光り輝く才覚をお持ちの方が隠れておられます」
「その御仁の名は?」
「今は伏せておきましょう。そのお方は大器であらせられますが、少々変わりたるお方。あからさまに遇せば、きっとへそを曲げられましょう。それに公子は大事を成すにあたって千愚の中に一賢を見出され、かつ千賢の中の一愚を見抜かねばなりませぬ。常に虚心を心掛けられ、玉を玉と見る目を養われまするよう」
 柔和な話し方であったが、その言葉は厳しいものであった。元璋はこの言葉を心に刻みつけ、賢人を見抜く目を養うべく精進することを誓った。

 国用はその日のうちに陣を後にしたが、その際、弟を呼び付けて釘を刺した。
「お前は様々な方を存じている。しかし知らぬ振りをせよ、口を挟むな。大業が成るか否かは公子の択人(たくじん)による。それに、だ」
 国勝は兄の苦笑した顔を見ながら、何を言わんとしているのか、すぐにわかった。
「それに――この国勝如きに人の善し悪しがわかるわけがない、と仰せになりたいのでしょう」
 わかっていれば良い、と弟の肩を叩いた。
「兄者は口に蜜を、腹に剣をお持ちじゃ」
「気性が違えども兄弟よな」
 兄は愉快そうに笑いながら、足早に陣を去っていった。

 それから一ヶ月が過ぎ去った。
 朱軍の急成長を聞きつけ、日々各地から若者たちが募兵に応じて陣を訪れる。
 馮家が加担していることも大きかった。馮家と昵懇の土豪たちが有為の人材を推挙し、朱軍はこれを快く受け入れた。元璋は土豪たちの連携を濠州時代以上に深めていった。
 朱軍は治安維持のために働き、兵糧や武具は土豪たちに提供させたのである。兵に対しては厳格な軍律を定め、略奪暴行に及んだ者は容赦なく斬首とした。その結果、民は朱軍に深い信頼を寄せるようになっていくのである。朱軍が急速に正規軍として確立していった背景には徐達と馮兄弟の活躍は見逃すことは出来ない。朱軍は紅巾の一軍には違いなかったが、その中身は一線を画するようになっていたのである。
 そんなある日のことであった。異様に髭が長く、背丈の高い男がひょっこり陣門を叩いた。陣門にたどり着くや、
「喉が渇いた。酒を所望する」
 と、門番に酒を出すよう要求した。
 ――いかなる客も鄭重にもてなすべし。
 そのように厳命を受けている門番たちは戸惑いながらも酒を用意した。
 男は奪い取るように杯を受け取ると一気に飲み干した。飲み終えると、礼の一つも言わずにそのまま帰ってしまった。次の日も同じで、酒を飲み干し黙って帰っていく。そして三日目も同じように門前に現れた。
「奇妙な男が連日酒をねだりに参ります」
「酒をねだりに?」
 門番の表現も可笑しかったが、徐達は何よりもその人物に興味を抱いた。
「明日参ると申しておりましたが……追い返しましょうか」
「わざわざ軍門に酒を求めるとは面白いではないか。明日はこの徐達がもてなすことにしよう」
 翌朝。規則正しくその人物はやって来た。
「酒をもらおう」
 その態度は悠然としており、将である徐達を見ても変わらない。男は徐達に酒を注がせて一気に飲み干した。
「もう一杯いかがです」
 徐達がにこやかに勧めようとしたが、男は無愛想にかぶりを振り、その日はそのまま帰ってしまった。
 その翌日。再び現れ、同じように酒を一杯臓腑に流し込んだ。
「折角お越しになられたのです。陣中にておくつろぎになられては?」
 そのように徐達が勧めると、わずかに目許を笑ませて、そのまま去っていった。
 ――そうだ。明日は公子に出迎えていただこう。
 わずか二日であったが、徐達はこの人物は只者ではないとにらんでいる。ならば元璋自ら出迎えるべきであろう。その翌日は徐達の進言通り、元璋自らが酒瓶と杯を携え、その人物を待ち受けた。
「酒をもらおう」
 毎朝と同じ言葉を男は繰り返す。
「私はこの軍の主でございます。折角のお越し、陣中でおくつろぎあれ」
 元璋は徐達と同じように勧めた。
 いつもならここで男は帰るはずなのだが、この日は違っていた。
「好、好」
 短くそううぶやくと、遠慮なく陣中に足を進めた。
「陣中のことゆえ何もござりませぬが……」
 元璋はにこやかに語りかけても男はわずかながらうなずくのみである。
「よろしければ食事もご用意しておりますが、いかがでしょう」
「……食事は結構」
 男は初めて笑みを浮かべたが、どうにも不敵であり、威圧感すら感じる。
「それよりも眠くなった。床をご用意いただきたい」
さすがに元璋も唖然とした。だが男は手に持った盃を床に放り出すや、大きなあくびをした。
 ――傍若無人とはこのことだ。
 徐達は笑いをこらえ、湯和はあまりの無礼さに立腹していた。だが元璋は恭しく拱手すると、徐達に寝床を用意するよう命じた。男は朝にも関わらずそのまま翌朝まで起きることはなかった。
 翌朝。同じ刻限に男は元璋の前に現れた。
「では酒のご用意を……」
 元璋がそう言いかけると、意外や酒はいらぬと手で制した。
「今日は朱将軍と天下について語り合いたい。士たる者、国家を語るに酒食は無用」
 と、昨日までとは別人のように真剣な面持ちで答えたのである。
 元璋はすぐさま香を焚かせた。
「この朱元璋にご教示いただけるとのこと、ありがたき幸せ。先生の御名をお教えいただければ、なお幸甚」
「私は定遠の野人にて李善長(りぜんちょう)、字は百室(ひゃくしつ)と申します」
「李先生、でございますね。ようこそ我が陣にお越しくださいました」
 元璋は立ち上がると、慇懃に頭を下げ、そして恭しく拱手の礼を取った。
「さて朱将軍。貴方はこの善長に何をお聞きになりたいのです」
 何とも奇妙なことであった。そもそも善長が語り合いたい、と言っているのに、何を聞きたいのかなど本末転倒も甚だしかった。だが元璋は頓着せず、真剣な面持ちで着座し、そして尋ねた。
「四方で戦が起こっております。いつになれば、この混乱は収まりますか」
「将軍は漢の高祖(劉邦)をご存知か」
「暴秦と凶楚を倒し、漢四百年の世を築かれた方です」
「左様。高祖は楚の覇王(項羽)に敗れること九十九回。しかし垓下の一戦で大勝を得て泰平の御世を築かれました。その高祖は平民の出でありながら、貴族であった覇王を破ることが出来たか、おわかりか」
「是非ご教授を――」
「覇王は万夫不当の武人にて見識もあり、かつ人を慈しむ人物であった。一方、高祖は若き頃よりただの無頼漢。儒者と見るやその冠に小水をするなど、およそ素行の悪しき者だったとのこと。ではそのような高祖が何ゆえ、天下を征することが出来たのか」
 元璋は無言でかぶりを振った。 
「ただ一つ覇王をはるかに凌駕する才をお持ちであったのじゃ」
「一つの才?」
「有能な人物を用い、そして使いこなす才である。宿敵の覇王は軍師でもあり、父代わりでもあった范増一人さえも使うことが出来なかった。一方、高祖は度量広く、張良、蕭何、韓信の三傑のみならず、あらゆる者の才を引き出した。才があれば、たとえ素行が悪かろうと素性が卑しくともすべて用いた。また――」
 善長は立ち上がると、やや語気を強めた。
「民を慈しみ、むやみに人を殺めたりはしなかった。そのため人民は争って高祖を援け、やがて帝業を成さしめた」
 言葉を少し止めると、熱い眼差しを向け、大きく手を広げた。
「今、天下は蒙古の悪政に倦み、民は苦しみもだえております。まさに蒙古の世は瓦解寸前。これは暴秦が世を乱していたことと通じます。さて将軍にお尋ねしたい。将軍はいかなる家柄の出でございましょう」
「家柄と言えるものは何ひとつござりませぬ。濠州を漂っていた無頼の者でしたので」
「それは良きかな」
 善長は微笑しながら手を叩いた。
「高祖もまた平民でありましたぞ。さらに言えば将軍の生まれし濠州と、高祖が生まれし沛は近い。この善長が見るに濠州の山川に雲気が漂い、天下を併呑しようといたしております。この濠州より立ち籠める雲気をあまねく天下に広めるは高祖と同郷で、同じく平民の出たる将軍以外、誰もおりませぬ」
「先生は……この元璋に高祖皇帝を倣えと仰せか」
「高祖のように大きな度量にて賢人を招き、不殺不奪を掲げて人民を安んじれば、おのずと天下は定まると言うもの」
 圧巻と言うべきか。善長は全身全霊をかたむけて語っていたのか、すっかり汗だくとなっていた。この熱意に当てられたのか、元璋はしばらく体を凝固させて微動だにしなかった。しばらくすると満面に笑みを浮かべ、手を震えさせながら善長の手を取った。
「先生の教えは無明長夜に光明を得たようなもの。これこそ天の思し召し。先生には是非とも我が陣にお留まり願いたい」
「この私を召抱えたい、と仰せか」
「私が先生と出会えたことは天命でありましょうが、先生がこの陣に足を踏み入れたのもまた天命でござりましょう。先生を軍師に迎えなければこの元璋は天の咎を受けましょうが、先生もまた――」
 軍師にならねば同じこと、と言葉にはしなかったが、元璋の表情ははっきりとそのように語っていた。善長はしばらく眼前のあばた顔を凝視していたが、やがて何かを悟ったらしく、穏やかな表情で微笑した。
「長き雌伏でござった。百年の間、ひたすら雌伏の時を過ごして参りました。我が家は郷紳(きょうしん)の家柄。大宋の頃は一族挙げて天朝にその身を捧げて参りました。不才の身ながらこの李善長にもその血が流れており、民を思うものの何も出来ぬこと百年。辛くみじめでござった」
 善長はそう言うと涙を流し始めた。
 宋朝は科挙に合格した官僚、すなわち士大夫と呼ばれる秀才たちによって運営されてきた。郷紳とは、その士大夫を何代にもわたって輩出してきた家柄で、官職を辞した後も地方と朝廷の橋渡しとなった。そのためその影響力は大きく、郷紳の家であることはこの上もない誇りであった。
「今まさに地の利、人の和を得つつある。そして朱将軍という方が遣わされたということは天の時を得た証拠でござりましょう」
 善長の表現はどうにも大げさなものであったが、不思議と彼の口から発せられると真実のように聞こえた。
「ならばもはや迷うことはござりませぬ。将軍――」
 そう叫ぶと、善長は膝間ついた。
「この身を将軍に捧げましょう。宋朝の如く天下万民が安穏に暮らせる世をお造りくださりませ。その大業のために粉骨砕身、お仕えすることをここに誓いまする」
「先生」
 感動は伝染するものなのか――元璋もまた満面を涙に濡らせ、強く善長の手を握り締めた。
 かくして李善長は元璋に仕えることになった。仕えるや否や、元璋は善長を掌書記(しょうしょき)に任命した。この役職は軍全体の調整役であり、言わば朱軍の軍師筆頭に相当するものであった。善長を軍師に迎えたことは朱軍にとって大きな意味を持った。郷紳である李家は未だ定遠地域に深い影響力を有している。また善長の名は稀有な賢人として知れ渡っていたため、彼が加わったことは朱軍の未来が保障されていると人々に思わせたのである。そのため野に隠れていた賢人たちは争って朱軍にその身を投じるのであった。
 それから半月後。ようやく国用が帰陣した。
「おお。ようやく李先生が立ち上がられましたな」
 国用は善長の顔を見るや、包み込むように手を握った。
「妙山先生に感謝せねばなるまい。天の御心をこの善長に伝えてくださったのだから」
 善長は少年のように無垢な笑みを浮かべている。国用が強く推薦した賢人こそこの李善長であり、元璋は見事この偉いなる賢人を見出すことが出来たのである。だが朱軍が安穏と留まることは出来ない。次なる攻略地は定遠の東南に位置する滁州(ちょしゅう)であった。

   二

「まるで火が消えたようだ」
 近頃の濠州はどうにも寂しい。
 元気な男どもがいなくなってしまったことも大きいが、それだけではなかった。
「やはり鈴陶様だよなァ」
 誰となしに鈴陶が笑わなくなったことが原因ではないかと、郭軍ではささやかれていたのである。
 鈴陶はいかなる困難、例えば蒙古襲来といった生死に関わる危機でさえ、常に笑って明るさを振りまいてきた。ところが元璋たちがいなくなってからは人が変わったように笑わなくなっている。見ようによっては泣いているのではないかと思えるほどその表情は暗い。
 ――どうかしている。
 鈴陶自身が誰よりも己の変化に戸惑っていた。
 笑い声にこそ吉あり。これは彼女が自然と身につけた信条であった。だが、どんなに心励まそうともどうにも笑みが出ず、笑えない自分にいらだちよりも悲しみを感じてしまうのであった。
 ――病ではあるまいか。
 そのようにも思ったが、どうやらそうでもないらしい。病にしてはあまりにも食欲旺盛で、身体のどこも辛くはなかったからだ。

「何とかならんのか」
 郭子興は食事をしながら、小張夫人に懇願した。
「私は何も言えませんよ」
 夫人はにべもなくそう答えたのは、女子が戦について余計な口出しをすることを禁忌としているからである。
「政の話ではない」
「何をお悩みなのですか。……まさか、また?」
 そう言うと、夫人はにわかに眼光を鋭くした。
「違う、違う。あの色白の女子とは手を切った」
 子興は意に反して夫人の話題が妾に向いていることに動揺した。だがこの弁明は藪から蛇を出す行為であった。
「先日縁を切ったあの妾は色黒であったような……」
「うむ、ああ、色黒であったな、あの女子は……」
 しどろみどろになっている夫の様子を見て他にも数多の妾がいることを夫人は推察した。だがどうもそのような話をしたいのではないらしい。もう少し夫を懲らしめたかったが、本題に戻すべきだと夫人は考えた。
「何とかならんか、とは何のことです」
 渡りに船とばかり、子興はそれよ、そのことよと口早に何度も繰り返した。
「鈴陶のことだ。なんで笑わなくなった?」
 それがどうしたという顔の夫人に子興はいらだった。
「あの娘が笑わぬと、気が滅入って力が出んのだ」
「たしかに……」
 夫人はうなずきながら、くすっと笑った。鈴陶はいつまでも童のようで騒がしい、困ったものだと、夫人はいつも思っていた。だが不思議なことに、こうも静かになられると生活に張りがなくなることを想像しておらず、今の静けさに夫人はより困惑するようになっていた。
「笑っている場合ではないぞ」
「そうですね。笑い事ではありませぬ。ですが……」
 夫人は言葉を途切らせ、笑みを浮かべた。
「ご懸念には及びませぬ。じきにあの娘の笑みをご覧になることが出来ましょう。間もなく戻って参りますので」
 なおも子興には意味がわからなかった。だが夫人は微笑するのみで答えようとはしなかった。

「どういうことです?」
 夫人が部屋を出ると、娘の芙蓉が嬉しそうな面持ちで待ち受けていた。
「立ち聞きをするなんて、はしたない」
 夫人は怖い顔つきで芙蓉の無作法をたしなめた。だが義理とは言え、芙蓉は鈴陶の妹である。興味のあることから後に退かないところはそっくりであった。
「女子はね。数多の妾を作る頑固者でも、あばた顔の鬼殿でもね。いなくなれば心に穴が空くもの」
 そういうことよ、とつぶやくとそれ以上は何も語ろうとしなかった。童女である芙蓉にはまだわからないでいたが、気がつくと夫人はいつの間にか部屋から姿を消していた。
 ――私にも覚えがある。
 夫人は廊下を歩きながら、自身の若き頃を思い出していた。
 ――甘酸っぱい想い出とはよく言ったもの。
 殿方に熱き想いを抱いた思い出は歳を経ても色濃く脳裏に残っている。相手は誰であるかを口にするなど野暮というものであろう。男と違って女子はいつまでも相手のことを執着しないが、かすかであるがその頃の感情が懐かしく感じることもある。
 つまるところ、鈴陶もようやく妻となったということであろう。夫を想い、会えないがため、鈴陶は元気を失くしているに相違ない。だが彼女の心を癒す処方箋が時を置かず戻ってくるはずである。
 その処方とは朱軍に使いとして出向いている鄧愈(とうゆ)であった。
 鄧愈とは改名後の友徳のことである。蒙古襲来で父と兄を失った後、鄧家を継いだ折に名を愈と改めたのである。字は以前と同じく伯顔のままである。
 元璋は濠州を出る際、郭軍との連携を取るために鄧愈を使い番として子興に推挙したのである。当初子興は、
「伯顔は若いすぎる」
 と言って、反対した。だが元璋は言葉を尽くして彼を起用する利を説いた。
「伯顔は若年であります。ですが幼き頃より父兄に従って戦場を駆け巡っており、機を見る才覚で彼を超える者は我が軍にはおりませぬ。敵少なしと見て侮らず、多しと見てひるまず。また勇猛で意思が強い反面、考え方が柔軟であり、主命に対して従順です。伯顔に足りないのは、年齢と名声の二つのみです」
 こうまで説かれては子興も反対することが出来ず、鄧愈を登用することに賛同した。
 抜擢された鄧愈は見事に期待に応えて、郭朱両軍の連携に欠かすことの出来ない存在となっている。その鄧愈が明日、濠州に戻ってくるのである。当然、元璋の近況も聞けるはずであった。 
 鄧愈が濠州に入ったのは早朝のことであった。当主となり、かつ重要な役目を戴いているためであろうか、彼の顔つきは凛としており、すっかり童臭は抜けきっていた。戻るや否やどこにも寄らず、まず子興に朱軍からの報告と見聞してきた情報を報告する。その後、女性たちにも色々と伝えることが習慣化していた。
「ご無事で何より」
 鄧愈の顔を見るや鈴陶は一気に鬱屈した表情を吹き飛ばした。昔から郭軍において鈴陶は人気者であったが、鄧愈も彼女の笑顔が好きな一人であった。
「鈴陶様の笑顔を見るのが濠州に戻る一番の楽しみです」
 と、いつも相好を崩し、安堵の息をつくのである。
 郭軍の者は鈴陶に笑みが戻ったことに安堵の息をついたが、ただ一人そうでない人物がいた。子興であった。あれほど鈴陶が笑わないことに困じていたくせに、一人鬱屈した顔を崩さない。
「国瑞はもう動き始めているのか」
「滁州攻略をお考えです」
「定遠を手に入れたばかりだと言うのにか」
「二万以上の兵を養うには定遠だけでは難しいのでしょう。滁州攻略は朱軍維持のためには必須だと拝察いたします」
「維持……のう」
 子興は暗い表情をして、髭をしごいた。朱軍に対して不満を感じていたのではない。不安を感じていたのである。朱軍はあくまで郭軍の衛星的な軍勢のはずである。もちろん朱軍に力があるからこそ、濠州における郭軍も安泰であった。だが力をつけすぎては、主従逆転が起きかねないし、乱世であれば下剋上など日常茶飯事であったから、子興の不安は当然のものであった。
 また子興は心のどこかで自由に羽ばたこうとする元璋が妬ましかった。自身は相変わらず身動きも取れず、孫徳崖たちに圧迫され続けている。もはや自力でこの状況を打破することは不可能であった。人一倍自尊心の強い子興にとって乞食坊主であった男に頼りきらねばならない自分が嫌で嫌で仕方がなかったのだ。この複雑な気持ちを察する者は少なく、ほとんどの者はただ子興が気難しくなったとしか感じていない。
 だが鈴陶は何となくだが、義父の複雑な気持ちを理解していた。理解していたからこそ、夫の置かれている立場が微妙なものであることもよく識っている。
 ――人がどう言おうとも義父様は大好き。
 鈴陶は困った義父であったが、凛然とした義母の二人の組み合わせが好きで仕方がない。育ててくれた恩は言うまでもないが、凹凸のように性格が違う二人が支え合っている姿が鈴陶は憧れた。
 ――私と国瑞様もかくありたい。
 常にそのように思っている。その義父が夫に疑心暗鬼を抱くことは鈴陶にはたまらない。この気持ちを鈴陶は顔を見ながら元璋に伝えたかった。元璋の話を聞く間は笑みが沸きあがるようであったが、それが過ぎれば会えないという寂しさで再び彼女から笑みが去ってしまう。
 ――国瑞様にお会いしたい。
 鈴陶のこの想いは日を重ねるごとに強まっていくのであった。
  
 鈴陶が元璋に想いを募らせていた頃。子興にとってのっぴきならない事件が起きた。 それは郭軍の後ろ盾であった彭大が急逝したのである。
 元璋が濠州を出てから諸将は相争い、慢性的な内乱が続いている。彭大・子興派と趙均用・孫徳崖派が二派に分かれ、以前にも増して相争っていた。その彭大がいなくなったのである。彭軍そのものはまだ崩壊していなかったが、問題はその後継者であった。跡を継いだ早住(そうじゅう)は凡庸極まりない男で、とても均用たちと渡り合うことは出来ない。乱世において凡庸なる者を主とする軍勢は必ず滅びてしまう。
 晴天の霹靂に子興は恐怖したが、右往左往している訳にもいかず、まずは早住と改めて盟約を結ばなければならない。
 この危機に子興の義弟・張天祐は亳州の劉福通に救援を求めることを主張した。彼は紅巾軍宗家と強い繋がりがあり、このように主張したのは当然のことであった。だが言葉に出さないが、この考えに子興は否定的であった。
 ――劉福通は名うての狐だ。狐が益なき我が軍のために援軍など送るはずがない。
 そう分析していたのである。
 乱世において念頭に置かねばならない概念がある。それは利害が一致しなければ誰も動いてくれないということであった。義も利もなく他者のために己の命を賭すは酔狂者しかいない。とりわけ福通は利に聡く、義を欠く男である。郭軍は確かに紅巾軍であるが、それを言うなら均用や徳崖たちもまた紅巾軍で、彼らが紅巾本軍に背いているならともかく、不利を承知で郭軍を援ける利など福通に全くない。
 このような足し算・引き算も出来ない天祐は乱世を生き抜く能力がないと言わざるを得なかった。だがあえて引き止めなかったのは、何もしないよりはやった方がましだと思ったからである。
 ――手と言えば、劉福通に頼るよりも良き案がある。
 その案とは濠州を捨て、元璋を頼ることである。だがそれは業腹であった。
 ――何が悲しくて拾い上げて育てた奴に頼らなければならぬのだ。
 子興は依怙地になっていた。理性において朱軍に助けを求めなければならないことは百も承知である。だが子興の面子が彼の理性を妨害した。自尊心は人を強くするものだが、面子は人を悪しき方向に導くものである。なすべき道を自覚しながら子興は無意味な葛藤で悩み続けるのであった。

「このままではいけない」
 一人裁縫をしながら鈴陶は何度もごちた。かたわらにいた養子の朱英は、
「何がいけないのですか?」
 と尋ねた。だが鈴陶の心ここにあらずで、答えようとしない。
「男はつまらない意地を張る」
 嘆息しながら首をかしげている。
 朱英は聡い。養子となって半年、養母の性格をよく理解していた。
 鈴陶は英明で自制心もあり、朱英は誰よりも尊敬している。だがどうにも困った性格を義母は有している。何か思いつくと矢も盾もなく突発してしまうのだ。彼女の突発的な行動で幾度も大変な目に遭ってきたことかわからない。そのため朱英は養母の言動に目を光らせていた。
 鈴陶はじれったかった。なぜ義父は素直に元璋を頼らないのか。このままでは滅びるしかなく、死して意地を通して何になると言うのか。
 ――そういえば義母様が仰っていた。
 鈴陶は義母が話していたことを思い出した。男が厄介なのは意地を張ってしまう時である。そうなると理など消し飛び、全てをぶち壊してしまう。そうした時に非を唱えて訴えることほど危険なことはないということであった。
 ――ましてや義父様だ。
 子興ほど強情な人はいない。義父の意地を守り、かつその窮地を救うにはどうすれば良いか。鈴陶は考えに考えた。そして一つの方策が脳裏に浮かんだ。
 ――そうだ。義父から頼めないなら、国瑞様から頼み込むようにすれば良いんだ。
 鈴陶は顔を輝かせながら、勢いよく立ち上がった。
 来た――。
 この瞬間、朱英は警戒した。また養母がとんでもないことを思いついたに違いないからだ。
「英」
 鈴陶は声を弾ませながら、朱英を呼んだ。
「これから国瑞様の許へ参ります」
「これからですか?」
 そらきた――朱英は心の中で叫び声を上げた。
 濠州から元璋の許に行くなど危険極まりない。ましてや今は緊迫時である。だが鈴陶にそのような理屈は通らなかった。
「郭家は窮地に陥っています。ですが義父様はつまらない意地にとらわれて国瑞様に頼れない。ならばこの私が国瑞様に懇願すればいいのです」
 鈴陶はすっかり自分の案に酔い、興奮しきっている。話しながらすでに旅支度を始めており、朱英をあわてさせた。
「郭元帥がこのようなこと、お許しにはなりませんよ」
 朱英は懸命に諌めたが、鈴陶は弾けるように笑った。その笑顔は良妻賢母ではなく、朱英と同年代の童女と変わりがなかった。
「義父様どころか、誰も許すはずがないでしょう。心配は無用です。母は邸を抜け出す名人ですよ。それにこのような……」
 と言いかけて、あわてて手で口を押さえた。
 義父を助けるため――理由こそ大人じみたことを口にしている。だが本心は子供のように冒険心に満ちあふれていた。
 ――かような楽しきことを止めてなるものですか。
 そう言いかけていたのだが、さすがに子供の前では恥ずかしかった。
 だが鈴陶の大人としての自制心はここまでであった。こうなるともう誰にも止めることなど出来ない。困惑する朱英を引きずるように出立の手伝いをさせるのであった。
「義父様のため」
 そう言ってはいる。だが朱英の眼にはそのように映らなかった。どう見ても楽しんでいるように思えて仕方がない。
「女の姿では目立ってしまうわね」
 そう言ったかと思うと、どこからか兵士の鎧を拝借してきた。そして早々と鎧姿になると嬉しげに朱英に感想を求めたりした。
 ――もう手に負えない。
 朱英はただ困惑するしかなかった。

 鈴陶が喜び勇み、朱英が困惑していたその頃。鄧愈は急ぎ出立の準備を整えていた。一刻も早く子興の窮状を元璋に知らさなければならなかったからだ。事態は切迫しているため、随行する兵を十名に絞った。仰々しく出立すれば必ず均用の妨害を受けるからで、選りすぐりの十名を選んだのだが、点呼してみると二人多かった。不思議に思い目を凝らしてみると、鄧愈は飛び上がらんばかりに驚いた。その二人は甲冑姿の鈴陶と、庶民姿の朱英であったのだ。
「お、お戯れを――」
 鄧愈は戦場において常に冷静沈着な男であったがが、この時は狼狽せざるをえなかった。
「時が惜しい。さ、参りましょう」
 そう叫ぶや、颯爽と馬に飛び乗った。鈴陶は幼時より乗馬が得意であり、男も顔負けであった。朱英もまた鈴陶の手ほどきを受け、子供ながら見事な馬術を心得ていた。
「遊びではないのですよ」
「私は真剣です。それに伯顔殿も私の馬術をご存知でしょう。ご懸念には及びませぬ」
「そういうことではござりませぬ」
「ではどういうことなのですか。妻が夫に義父を援けるようお願いすることがいけないことなのですか」
 鈴陶は口達者である。彼女の理屈にかかっては口下手な鄧愈は太刀打ち出来ない。昔から鈴陶は言い出したら聞かない女(ひと)である。いつまでもここで押し問答を続けるであろう。困惑する鄧愈に構わず、鈴陶はしつこく食い下がった。
「女子は目立つと申されるのでしたら、このように甲冑を身にまとっています。足手まといと申されるなら伯顔殿、今から馬を駆けさせて、どちらが早いか競争してみますか?」
 しばらく押し問答が繰り返されていたが、やがて鈴陶はこのままだと埒が明かないと、鄧愈にあることをささやいた。
「皆は知らぬことですが……」
 鈴陶は言葉を途切らせ、周囲を見回す。
「これは義父の密命です」
 鄧愈は我が耳を疑った。まさか――そんな表情をしながら鈴陶の顔を凝視する。
「郭軍を救うは朱軍あるのみ。しかし義父には元帥としての体面があります。表立って頼み込むわけに参らず、この鈴陶を見込んで密命をお与えになられたのです」
 鄧愈は若いが、真偽を見極める能力を有している。
 ――嘘偽りに相違ない。
 すぐさま鄧愈はそのように判じた。だが鈴陶もこのような嘘が見抜かれることはよくわかっている。だが彼女の覚悟は嘘を嘘だと言わしめる空気を封殺してしまっていた。
「どうにもこうにも……」
 鄧愈は嘆息しながら眼を閉じると、やがて腹を抱えるようにして大笑いした。
「鈴陶様には敵わぬ」
 そう叫ぶや、自身の馬に飛び乗った。
「何をぐずぐずなさっておられる。一刻も猶予はないのですよ」
 すでに鄧愈の顔から笑みは消え去っている。
「鈴陶様のわがままは周知のこと。郭元帥もあなた様の手綱を引くことは出来ませぬからなァ」
「はい。そうですともッ」
 鈴陶はにこやかに笑みを浮かべ、何度も頭を下げた。 
 鄧愈にはある思惑が浮かんでいた。元璋に援けを請うことはたやすい。いや元璋のことだから、すでにその準備を整えているかもしれない。
 問題は子興であった。元璋から助けさせてほしいと願い出てもへそを曲げてしまう危険性があった。だがここであえて鈴陶を暴走させてしまえば事態は好転するかもしれなかった。子興自身も制御するに難しい人物だが、その子興がもっとも手を焼いたのは他でもない鈴陶であった。幾度彼女の言動に子興が振り回されたかわからない。
 つまり鈴陶が勝手に元璋に頼み込んでしまえば、子興も、「鈴陶め」と苦笑して受けるのではあるまいか。恐らくは鈴陶のことだから、そのことを計算に入れてこんな無茶をしているに違いなかった。ならばこのまま彼女の我侭に振り回されようと、鄧愈は鈴陶の「奇策」に乗じようと決意したのであった。

   三

 鈴陶は自分でも困じるほど天性の悪戯者である。
 ――どうせなら国瑞様を驚かせてやろう。
 滁州に近づくにつれ、そのようなことばかり考えるようになっていた。
 至正十四年八月。
 朱軍は黒先鋒・花雲の活躍で滁州を陥落させ、拠点をそちらに移している。鈴陶たちがたどり着いたのは八月下旬のことで、滁州陥落から間もない頃であった。
 明日には滁州という距離で宿を取ったのだが、そこで鈴陶は女性装束を手渡された。ここまで来れば兵士の格好をする必要がなかったからである。ところが鈴陶は着替えようとはしなかった。
「この格好を見たら国瑞様、どう仰るかしら」
 くすくす笑いながら、鄧愈と朱英に訊いてみた。
 ――まったくこのお方は……。
 いつもなら鈴陶様らしい、と苦笑して終わるのだが、非常時ゆえ鄧愈は困じ果てた。
「今は危急の時。朱公子を驚かせている場合ではありませぬ」
 そう説諭したが、鈴陶はにこにこ笑うのみで言うことを聞かない。結局そのまま滁州に入城することになってしまった。

 鈴陶たちは滁州へ入城した。
 ――濠州とは大違い……。
 内輪揉めで混乱しきっている濠州と比べ、ここ滁州はまるで違っていた。兵の統率は厳粛であり、民たちは穏やかに日常を営んでいる。とても半月前に占領した街だとは思えなかった。
「伯顔殿。滁州とは良き街のようですね。人心は穏やかで、濠州とはまるで違います」
「滁州は濠州などより豊かな地ではありますが、人心の荒廃ぶりはひどいものでした」
「とてもそのようには見えない」
「全ては朱公子が定めし軍律あってのこと」
「軍律?」
 小首をかしげながら、改めて街の様子を観察してみた。なるほど兵は懸命に軍律を守ろうとし、そのため民衆は安心して生活を続けることが出来るようであった。
 ――それにしても……。
 我が主殿は並々ならぬ手腕をお持ちだ、と鈴陶は素直に感心した。
「公子の周囲には良き方々が大勢いらっしゃいます」
 鄧愈は笑みを浮かべながら、そのように語った。
 わずか二十四名で飛び出した連中が万を超える軍勢を結成し、かつ短期間で民心を安定させるなど、たしかによほどの人材が元璋の周囲にいなければ為せぬことであった。
 しかし、と鈴陶は思う。優秀な人材と言うならは子興の許にも、亳州の紅巾本軍や、蒙古軍にも数多いる。だがその人材の能力を最大限に発揮させ、思うがまま使いこなす主はどこにもいないのではないか。朱軍は軍律があるがため、という見方もある。それを言うならどの軍勢でも軍律を定めているが、軍律とは名ばかりでほとんどは守られることなく略奪暴行は日夜繰り返されている。
 ――濠州での惨状は眼をおおいたくなる。
 略奪の場を見るたびに鈴陶の心は重く辛くなる。
 ――国瑞様が卓越している所はきっとこれなんだ。
 鈴陶はふとそんな気がした。
 元璋は武芸においてはどちらかと言えば人に劣る。学問もとても秀逸ではない。では何が卓越しているのか。それは配下の者たちの特性を本質的に理解し、そして引き出す所であった。
 ――取り柄に見えないけど……。
 このような才覚を鈴陶は他に見たことはなかった。ひょっとすればこの稀有な才覚をもって元璋は乱世を生き抜くことが出来るのではないかと、馬を進めながら、そのように考える鈴陶であった。

 元璋の邸は中心部に位置する知府(ちふ)(知事)邸にある。そこを邸兼司令部として活用していた。知府邸に近づくにつれ、どうしてここまで軍律を順守させることが出来るのか、その謎を解く事件に鈴陶は遭遇した。
 どの城にも市が開設されている。滁州に開かれており、最も人が多く集まる場所であった。市は商売の要であるが、同時に見せしめのために刑場としての役割も課せられている。鈴陶が入城した日が、奇しくもその処刑の日であったのだ。
 鈴陶は乱世に生まれた。また実父や義父は侠客であったため、幼い頃より鈴陶は人の死を何度も目の当たりにしてきた。
 ――いつ見ても嫌なもの。
 鈴陶が最も嫌うのは人の死であり、感情を抑えられる歳になっても慣れることは出来なかった。特に無抵抗となった人を公開の場で殺害することには怒りすら感じてしまう。だが知府邸に行くためには市場を通り、刑場の前も通らなければならない。露骨に嫌悪感を抱いた表情をしながら、鈴陶は刑場付近に足を踏み入れた。
 ――嫌だ、嫌だ。
 なるべく見ないように顔を背けていたが、ふと足を止めた。
「伯顔殿。滁州は今、国瑞様がお治めになっているのですね。まさかとは思いますが……この処刑は国瑞様の仰せ付けではないでしょうね?」
 この問いに鄧愈は驚いた。当然ではないかと、答えようとしたが、鈴陶の表情を見て口をつぐんだ。
「伯顔殿?」
 ――国瑞様がそんなことを命ずるはずがない。
 まるで祈願するように鈴陶の眼が元璋の命でないことを願っていた。だが鄧愈の答えは彼女の期待を裏切った。
「お気持ちは察しますが、軍律を犯す者が斬首されるは当然のこと。この刑もまた軍律に背いた咎でござりましょう」
 鈴陶は酢を飲んだような顔をした。そして咄嗟に馬から飛び降りると、見物していた初老の男性をつかまえて訊いてみた。一体誰が何の罪で斬首されるのかを。
「滁州攻めで功績のあった胡大海(こたいかい)将軍の御子息様だよ。何でも禁令に背いて酒宴を開いたそうで、そのため斬首されるとのことさ」
 ――宴をしたから斬首?
 鈴陶には信じられなかった。聞けば胡大海という人物は定遠攻略以来、数々の武功を挙げた部将だと云う。また滁州攻めでは内部撹乱を起こさせた功績を認められ、朱軍で重きを成している。それほどの将軍の息子をたかが酒を飲んだだけで斬首するとはどうかしているのではないかと鈴陶は戦慄を覚えた。
「伯顔殿。禁酒を命じ、背く者あれば斬首なんて烏滸なることを国瑞様がお命じにはなっていませんよね?」
 鈴陶はすがるような気持ちで、問い詰めた。鄧愈はしばらくうつむいていたが、無言でかぶりを振った。
「嘘ですッ」
 切るような口調で鈴陶は否定した。しかし鄧愈は再びかぶりを振って、全ての命令は元璋の責任において発布されていると説明した。
「鈴陶様は呉の呂蒙をご存知でしょうか」
「呉の帝・孫権に仕えた武将でしたね」
「公子は民の笠を無断で借り、呂蒙に斬首された同郷同姓の者の話をよくなされます。軍律は人によって定められるが、人によって曲げることはならぬ、と」
 鈴陶は理性においてはその通りだと思った。いかに功績のある将軍であろうと禁令に背けば厳罰に処さなければ軍律など有名無実になる。また軍律を厳守させることにより軍を取りまとめ、かつ民を守ることも出来る。短期間で滁州を治めるにはこの方法しかないのかもしれなかった。だが理解は出来ても納得は出来ない。
 ――人は生かしてこそ意味がある。
 これは鈴陶が持ち続けた信念で、終生曲げることはなかった。かつて人々から鬼として恐れられた元璋を懸命になって救ったことがあるが、それもこの信念あってのことである。
 法を破った者を罰するは仕方がない。だが簡単に命を奪っては、人々の間に暗い影を落とすことになる。血で人を縛る者は止めどなく人を殺していくことになるのだ。
「こうしてはいられない」
 鈴陶は兜を脱ぎ捨てると、人波をかき分けて刑場に向かった。
「鈴陶様?」
 鄧愈は眼を白黒させて身体を凝固させた。やがて彼女がこの処刑を中止させようとしていることがわかると、飛び上がらんばかりに驚いた。
「なりませぬッ」
 何としても留めようとしたが、鈴陶は振り払った。
「義母上ッ」
 朱英も必死になって腕をつかんだが、鈴陶はそれでも止まらなかった。
「離しなさいッ。貴方は伯顔殿と先に邸に向かいなさい。かような物、子供が見るものではない」
 朱英は一瞬体を強張らせたが、再び彼女の腕をつかみ続けた。
 ――こんな刑、私が止めてやる。
 鈴陶は敢然と刑場に足を進める。壇上では刑吏が声高に罪状を読み上げていた。罪状が読み終わると、いよいよ斬首となるのだ。大刀を手にした大男が壇上に登り、大海の子・仲烈の首に刃を当てた。その瞬間であった。
「お待ちなさいッ」
 刑場に響き渡るような大声が刑吏たちの手を止めさせた。仲烈に集中していた耳目は当然、声の主である鈴陶に向けられ、周囲は俄然ざわめき始めた。
「狼藉者を取り押さえよ」
 刑を妨害された刑吏は憤然と鈴陶を捕縛するよう命じた。
 まさかこの狼藉者がこの城の奥方であることなど露知らず、捕吏たちは一斉に鈴陶に襲いかかった。
「待てッ。このお方は、このお方は――」
 鄧愈は必死になって鈴陶の前に割って入った。
「これは鄧将軍。将軍といえども、かかる無法は許されませぬぞ。我らは軍律に沿って刑を執行する者。軍律を軽んじなさるのか」
「貴公の申されることはもっともだ。だがこの方に手出しはならぬのだ」
 この鄧愈の態度に刑吏たちは首をひねった。一体この女は何者なのか。何ゆえここまでかばい立てをするのか。どちらにせよ鈴陶が只者ではないということだけは刑吏たちにも理解出来た。手を引くか否か――刑吏たちが迷ったその瞬間。雷鳴の如き怒声が彼女の行動を断ち切った。鈴陶が驚き振り返ってみると、声の主は元璋本人であった。
「鈴陶」
 世にも恐ろしげな――。そんな表現しか思い浮かばないほど元璋の表情は恐ろしく、鈴陶は思わず身を震わせた。
「誰の許しを得て参ったのか。それだけでなく、罪人を助けようとは言語道断」
「ですが国瑞様、些細なことで命奪うはあなた様のためになりませぬ。人無くしてどうしてこの乱世を生きていくのですか」
「要らざることを申すな。軍律はいかなる者も背くことは許されぬ。そもそも禁酒を命じたのは滁州の食が少なく、民の暮らしが成り立たなかったためだ。しかるにその者は父の武勲に甘え、平然と酒宴を催した。たとえ大海がわしに背こうとも、わしは軍律に背くことは出来ぬ」
 そう言い放つと、捕吏たちに鈴陶を逮捕するよう命じた。鈴陶はなおも泣き叫び抵抗したが、元璋は一切耳を貸さなかった。仲烈は間もなく首を刎ねられ、刑場の露となって消えた。鈴陶は唇を噛みしめ、己の無力を嘆くしかなかった。
   
「国瑞様はお変わりになったのだろうか」
 あれから毎日。鈴陶は虚ろな眼をしながら日に何度もつぶやいた。捕縛されたものの、知府邸にてすぐに釈放された。しかし鈴陶はほとんど食事を摂ろうとしなかった。あれほど賑やかな彼女であったが、人が変わったように口数もめっきり減ってしまった。終日庭に出てぼんやりと池を眺め続けることもあった。
 ――あんなにお会いしたかったのに……。
 濠州を出た時に抱いていたあの熱情も今はすっかり消え、今は元璋の顔も見たくはなかった。
鈴陶は読書好きで、幼い頃から様々な書に目を通してきた。その中に孫子の兵法もあり、いかに軍律が大切なのか、よく理解している。孫子も王の寵妃を斬ることで軍律の厳しさを説いたが、元璋の行為はまさにそれに倣ったものであった。
 だがやはり、己の感情がどうしても理屈についていかない。鈴陶は無類の人間好きで、死ぬその瞬間まで命を遣いきらねばならないと考えている。元璋は理でもって物を考え、鈴陶は情によって物を考える。理と情は相反するもので、分かち合うことは簡単なことではない。
 滁州に入城してから早くも数日が過ぎ去った。しかしこの間、元璋は一向に顔を出さず、鈴陶はついに熱を出して寝込んでしまった。
「軍務が多忙ゆえ」
 これが会えない理由であると言うが、それは言い訳に過ぎなかった。
 ――もっとも……。
 最初の三日間であれば、どんなに元璋が熱望しようとも鈴陶の方が断っていたであろうが。それにしても、と鈴陶は考える。いかに我が意に背いたからと言って、病身の妻を一度も見舞わぬとはどういう料簡であろうか。
 ――見限られたのね……。
 そんな暗く湿った不安が鈴陶の脳裏に過る。それまでの鈴陶では考えられないことだが、彼女はすっかり拗ねてしまったのだ。このことに最も当惑したのは近侍している侍女であった。
「私のことは、ほっといて」
 ほおを膨らませる姿はとても成熟した女性には見えなかった。だがそんな彼女の心を癒してくれる者たちがいた。それは朱英と見知らぬ二人の少年であった。
 一体誰なのか、見当が付かなかった。だが鈴陶は大の子供好きであり、いつしか心のしこりを朱英たちが取り除いてくれたのである。
 彼女の世話をしたのは子供ばかりではない。これまた見覚えのないうら若き女性が二人、甲斐甲斐しく仕えてくれたのだ。子供たちと女性たちの看護で鈴陶の熱は引いた。だが彼女には熱よりも性質の悪い病を蔵している。
 好奇心である。一体この子たちと娘たちは何者なのか。多少体調不良であっても、鈴陶の好奇心が元気を取り戻させた。子供たちの正体は探求するまでもなくすぐに判明した。
「朱公子の甥君で、このたび、ご養子になさりました」
 尋ねられた侍女はすぐさまそのように答えた。一人は元璋の長兄の子・朱仲児(しゅちゅうじ)、もう一人は姉の子・李保児であった。二人とも両親を亡くし、元璋を頼ってやって来たのだった。またしても親族を亡くしたことを元璋は嘆き、この孤児たちを手元で育てようと養子に迎えたのである。
 子供たちのことはわかった。ではあの若き女性二人は一体誰なのであろうか。
 ――姪にしては……。
 妙齢の女性ばかりであった。それに姪にしてはどうにも色香が漂いすぎている。甥たちについて侍女たちの返事は明朗であったが、彼女たちのことになると途端にどもり出した。
 ――まさか……。
 鈴陶は首をかしげた。鈴陶は女性としてはひどく鈍感であった。だがそれでも彼女にも女性の直感というものがある。あの娘たちの正体を考えると心に暗く重い空気が流れ始めるのであった。
 床上げをしたのはそれから二日後のことであった。もっと寝込んでやろうかと思ったが、彼女の活発さがそれを許さなかった。床上げした鈴陶は忙しい。子供たちの世話や、邸内の家事など、濠州の時以上に走りに走り回った。しかし心は今一つ晴れない。どうにもあの女子たちのことが引っ掛かっていたかららだ。
「ああ、駄目だッ」
 さらに二日が過ぎた頃、鈴陶は両腕を突き上げ大声で叫んだ。
 疑問に思ったことをそのままにしておく――。彼女にとってこれほど苦痛なことはない。
 ――侍女たちに聞いても埒が明かない。
 いくら奥の者に聞いても無駄ならば表の者に聞くしかない。そこで鈴陶は湯和を初め、顔見知りの男たちに片っ端から問い質した。誰もが事情を知っているのか当惑してしかと答えなかったが、中でも正直者の湯和の動揺ぶりは滑稽でさえあった。
「わ、わしは何も知りませぬ。全ては国瑞殿にお聞きあれ」
 と、逃げるようにして走り去ってしまったのだ。
 ――やっぱりそうか。
 この態度で鈴陶は確信した。あの二人は元璋の妾に違いあるまい。確信するや、そのことを問い質したかった。だが元璋は一向に奥に来る気配を見せない。
 ――逃げるとは卑怯な。ならば……。
 業を煮やした彼女はおとなしくしている訳がなく、ただちに行動に移った。侍女たちが止めるのも聞かず、鈴陶は執務室に向かったのである。

 執務室は知府邸の東棟であり、朱軍の軍事・政治は全てここで執り行われる。
 この日も徐達、善長、湯和、馮兄弟、そして鄧愈が詰め、協議をしていた。その場に猛然と鈴陶が乱入してきたのである。
 一同は驚き、一斉に彼女の方に顔を向けた。内心がどうであれ、元璋は努めて冷静さを装っている。
「大事な話をしているのだ。わからぬか」
「わかっております。ですが私もお話しせねばならぬ大事がござります」
 大事とは何か、と元璋は首をかしげた。
「義父のことでござります」
 そう言うと、元璋は面倒そうな表情で手を振った。
「伯顔から話は聞いておる。今話し合っておるのはそのことだ。舅殿にはこの滁州にお移りいただくつもりだ。女子のそなたが口を出すことではない」
 そう答えると、執務室から出るよううながした。だがこの態度に鈴陶はむっとした。口を開けば「女子」と言動を封じ込め、数日間逃げるように会いに来ない元璋に腹が立って仕方がなかった。
「国瑞様のお考え、よくわかりました。なるほど、女子はただ奥向のことだけをやっておれば良いとお考えなのですね。では表向きに口を出さぬことにいたしましょう。ただし。奥向きのことに国瑞様は一切口を挟まれませぬよう」
 この剣幕に元璋は困惑し、思わずうなり声を上げてしまった。
「奥に今、女子二人がおりまするなァ。侍女たちに聞いても誰も答えようとはしませぬ。はてさて一体何者なのでしょうか?」
 一旦言葉を止め、元璋をにらみすえつつ、不敵な笑みを浮かべた。
「かように得体の知れぬ者を奥に置くわけに参りませぬ。早速追放いたし、場合によっては杖罰を与えます。何におびえておられるのか存じませぬが、国瑞様が何もお話しにならない以上、当然のことでござりましょう」
 この言葉に元璋はすっかりうろたえてしまった。
「実は……」
 ついに観念をしたのか、元璋は恐る恐る、
「かの者どもは我が側室である)
 と、白状したのである。
 一人は蔡(さい)氏、もう一人は梁(りょう)氏と言って、どちらも滁州で勢力を持つ土豪の娘たちであった。彼女たちの実家はこの地域で力を持つ土豪たちであり、滁州を鎮定するためにはやむをえない「措置」であったと云う。
 ――抜け抜けと……。
 何と見苦しい言い訳であることか。鈴陶にとってこれだけでも業腹であったが、さらに逆撫ですることを元璋は明かした。
「蔡氏は子を身籠っている」
 鈴陶の顔は蒼白となった。人はあまりに衝撃的な事実を知ると、血が引くものらしい。
 その場に卒倒しそうになったが、自身を叱咤して倒れまいと気を確かにした。努めて冷静に――わずかながら残っていた理性が彼女を諭したが、無駄な努力であった。
「国瑞様ッ」
 鈴陶は乱心した。
「二人のこと、そして身籠りし子のことなど鈴陶は存じませぬ。かの者どもをどうしても留めおくと申されるのでしたら、この鈴陶を離縁してくださりませ。子一人産めない妻など糟糠の如く、お捨てになれば良いのです」
 もはや恥も外聞もなかった。誰はばかりなく、声を荒げに荒げた。鈴陶が怒り狂ったのには理由がある。妾を作られたことは当然腹立たしいし、この期に及んで言い訳をする元璋が憎らしくて仕方がなかった。
 ――これほど想っているのに。
 濠州で日々元璋を想い続けていた自分は何であったのか、それが情けなかったのである。また彼女の心を乱したのは、いまだ自分が生んでやれない元璋の子供を見ず知らずの女たちに先を越されたのも情けなかった。
 ――なぜ子を成すことが出来ないのか。
 夫を恨むわけにもいかず、天に不服を言い立てることもいかず、ただ自分を責め立てるしか鈴陶には手立てがなかった。それだけに他の女子に先を越され子が成されるのが悔しくて仕方がなかったのだ。
 ――妻とは名ばかりだ。
 鈴陶は心の中で叫んだ。そう思えば思うほど止めどなく涙があふれ出て、その始末に彼女は当惑した。だがここで泣き崩れるような鈴陶ではなかった。満面を涙で濡らしながらも、その姿勢はあくまで攻撃的であった。
「三人の子は命に代えても守り育てます。あの子たちは私を母として慕い、私もあの子たちを愛しく思っております。あなた様のような薄情な方に一人たりともお渡しいたしませぬ。ですが――」
 たじろぐ元璋に構わず、さらに詰め寄った。
「あの妾のことは存じませぬ。この鈴陶の目が届かぬ所でお囲い遊ばせ」
「ま、待て。それは困る」
 元璋は満面に汗を掻きながら、鈴陶の手を握った。しかしその手を鈴陶は払いのけ、一喝した。
「奥の主はこの鈴陶。国瑞様が口出しされることではござりませぬ。将外にありて君命にも従わざることあり――。あなた様の大好きな孫子もそう仰っているではありませぬか。朱家の軍律にあくまでも背かれるのでしたら……」
 自分を追い出せば良い、と憤然と啖呵を切ったのである。戦や政において人々を畏怖させる元璋も、つむじを曲げた鈴陶には手をこまねくしかなかった。
「天徳、軍師殿。かかる時はどうすればいいのか」
 これには徐達と善長は何も答えられない。
 夫婦喧嘩は犬をも食わず。言葉にこそ出さないが、二人はご勝手にどうぞと言わんばかりに苦笑してかぶりを振るばかりであった。
 狼狽しきった元璋に止めを刺したのは湯和であった。湯和は鈴陶を頭領の義娘というより妹のように思い慈しんできた。その愛おしき妹を深く傷つけた元璋が許せなかった。
「おい、重八。すべてお前が悪い。英雄色を好むと申したいのであろうが、鬼とも芋ともつかぬ醜男がよくも妾などこさえたものだ。良いか。邸を出ていくのは鈴陶様でもなければ、二人の妾でもない。お前が出て行けば良いのだ」
 身も蓋もない痛烈な言葉であった。元璋はただうなだれる他ない。
「本日の軍議はこれまで――」
 善長は努めて冷静に振舞い、解散するよう一同に目配せした。だが一言だけ男の先輩として一言だけ忠告をと思い、足を止めた。
「大事を成すに内助の功は必要不可欠。奥方様を大事になされませ」
 元璋は大きく嘆息し、幼子のように素直にうなずいた。
 それにしても、と元璋は思う。悋気に走った女子の何と恐ろしげなことだ――元璋は生まれて初めてそのように思い知らされたのであった。

 ――私は知らぬッ。
 そう啖呵をきった鈴陶であったが、朱家の正妻で「知らぬ」と言って何もしないことは許されなかった。正妻たる者は側室を管轄することが義務であり、古より多くの女たちはこのことで苦渋を舐め、悔し涙を流し続けてきた。鈴陶もまたその数多の妻たちと同じ悲しみを味わねばならなかった。
 だがそんな鈴陶の苦渋をよそに、義父の命運は繋がれた。子興と郭軍を滁州に迎えることが決定し、その旨が濠州に伝えられたのである。
 時に至正十四年秋のことであった。
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