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第十五話 それぞれの道

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「お、俺たちゃ、あの直経とかいうジジイに騙されただけです! 殿下から直接、指示を……」

山形にまで送られた上に鞭で身体中を叩かれた下級武士たち。

彼らが嘘を吐く理由。
吉川広家に一族を人質に取られており、嘘を吐いても吉川家と疎遠である最上義光にバレはしないと鷹を括っていた。
しかし、そんなことは義光も配下の光安も見抜いている。


「阿保どもめ。殿下の使いならば、容易く事をなしておる。その上、秀包や信親、宗茂を襲ったりせぬわ」
義光は怒りを言葉に込めて、そう話す。
光安は義光に言う。
「全くその通りに。すでに京で見かけた者に話を聞いたところ、内府や吉川広家という名前を聞いたとのこと」
義光は呆れたようなため息を吐く。
「愚かよな……」
「はい、誠に」


義光の独り言が続く。
「奴らが口にした……遠藤直経。織田徳川軍数万を手下10人ほどで相手して、本陣まで雪崩れ込み、乱戦に紛れ行方がわからぬようになった男らしいな」

義光は全て悟り、微笑む。

「面白い……最上義光、この戦いに参加させてもらうぞ」

光安も頷く。

配下の一人が走ってやってきた。

「駒姫から文が……」

義光は目を丸くさせて、配下から文を奪い、読み始める。

「は、はよ! 見せい! ん? 小早川秀包が美しいとな!? ワシ、嫉妬してまう! 淀様と北政所様と毎日書物を読んだり、遊んで美味いもん食って……羨ましいのぉ!」

光安はきょとんとしながら義光を見つめる。

義光は恥ずかしそうに咳払いをしながら、言う。

「うむ……では、評定でもするかの?」

光安は冷酷な義光の人間味ある部分に嬉しくなり、微笑む。

一方、京では秀吉が防衛省に近い組織を作るということで、中心メンバーとなる

島津豊久、立花宗茂、小早川秀包、真田信繁、長宗我部信親


彼らが組織作りについて意見を出し合い、予算やヨーロッパ諸国の最新武器輸入について話し合った。
座長として石田三成の兄で五奉行に近い存在の正澄が堺からやってきた。
現在、彼は堺商人たちと豊臣政権の仲介役となっている。

「いやはや、殿下の命令とは言え、ワシには荷が重いわぁ……で、皆は何処におる?」

正澄は小姓に尋ねるが、すぐにわかってしまう。
なぜか?

鉄砲の音だ。

秀包と島津豊久がヨーロッパの最新式の短筒を試し撃ちしていた。

「さすが、秀包どん! わっぜ上手いでごわすな。敵になりとうないわ」

秀包は剣術と砲術は戦国時代でも抜けていた。
しかも、集中力が高まると全てが視界に入るという天才肌である。
あるアスリートが言っていた話だが、集中力が高まると視界では確認できないもの……背後の景色や数秒先の出来事まで見えたという。

言わば、秀包の銃撃や斬撃は自ら当てにいくのではなく当たっていることが始まりなのだ。
豊久もそれに近く理解はできる。
逆に信親や宗茂は理解ができない。
もちろん、四人の友情は確かなものであるが、友人の一人である信親は秀包の見える世界に興味がある。
史実の秀包は大津城攻めで感情的となり失態を犯すが、この世界線では……またその時に話そう。

一方の信繁は二人に興味はなく、堺の商人や鉄砲鍛冶に量産できるか尋ねていた。

「ワシも負けられんでごわすな!」

豊久も的の中心を射抜き、信繁に尋ねる。

「どうじゃ? 先ほどの石打ち式は量産できるか?」

「できる……が、特殊な石が使われており、明から大量に持ってこれるのであれば配備できるであろう」

「そうか。あの銃は火縄ではないから、固まって撃つことができる。まぁ火縄の方が威力はあるが……」

豊久は石打ち式銃で的を当てながら話を続ける。

「内府殿と秀頼様。もし、争えばどちらにつく?」

その場にいた全員がピクリと動く。

豊久は無邪気な口調のまま話し出す。

「何かおかしいと思わんのか? ここんところ、宇喜多、上杉……そして、ウチ。みんな家臣が反乱起こしてて、まず内府殿、そして、五奉行の誰かが仲裁に来やがる。内府殿は事前に何か起こるの知らんでごわすか?」

その場にいる誰もが何も言えない。
口を発してはならない。
史実では朝鮮の役と秀吉の横暴から反乱が起こっていた。
しかし、この世界では五奉行の上に豊臣秀長、前田利家、半兵衛らが相談役として機能し、朝鮮の役もない。
反乱が起こる理由がないのだ。
しかし、ここで内府こと徳川家康の名前を出せば反乱分子と看做されるだろう。
秀長が体調不良となり、秀吉は律儀者と言われる家康への依存が強くなっており、傍にいるのは彼である。
彼が秀吉に進言すれば、すぐにでも、その家は終わるだろう。
竹中半兵衛も信頼は置かれているが、前に出るというタイプの人間ではなく、一家臣として座っている。
しかし、家康に野心はない。
自分がまとめ上げなければならない使命感によるものだ。
それは周囲の人間たちに祭り上げられているまで……の話ではあるが。

「はは! それは勘違いだ! 豊久」

リーダー格である立花宗茂が笑いながら話す。

彼は家康が動くならば正当性があるはずで権力欲で動くわけではないと思い、

ーー今の徳川家臣も黒田親子も秀吉に義理があり、豊臣家の存続のために動いている。

宗茂はそれを理解した上で

ーー豊家のための政治工作である

と思っている……いや、思いたいのだ。

だが、豊久は懐疑の眼差しを徳川家に向けている。
正直に言うと、豊臣も徳川も島津に対しては冷遇をしており好きではない。
ただ、石田三成や今いる仲間たちに対しては友情と義理があり仕方なく豊臣側にいるだけである。

「そうじゃ! 豊久は考え過ぎじゃ! 我らは課せられたことを熟すのみやろ!?」

秀包の少年のような澱みのない笑み。

周囲は明るくなる。

そこへ石田正澄がやってきた。

「お、やっておるのぉ!」

正澄のもとに彼らは集まり、話し合いが始まろうとしていた。

「今日は近江より凄い砲術使いを連れてきたぞ!」

正澄の隣、そこには小柄で見たことない銃を持つ男が立っていた。


そして、佐和山城。

「三成……誠か? 酔狂であるぞ」

大谷吉継が石田三成に尋ねる。

周囲は人払いされており、島左近と三成の父である正継の四人しかいない。
吉継は三成の言葉に驚き、汗を流していた。

続く

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