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第三十八話 裏切り

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徳川家康に井伊直政、松平忠吉部隊の全滅の全滅よりも小早川秀秋軍の戦線離脱が先に伝えられる。

「小早川秀秋隊が戦線離脱!」

家康は怒りのあまり、口から血を流す。

「池田輝政、浅野幸長、山内隊を宇喜多秀家と石田三成隊に向けよ」

中山道方面には徳川秀忠、毛利秀元軍がいる。
それだけで六万くらいとなる。
彼らに長宗我部と九州軍を任せ、その他の軍で石田三成の首を狙わせる。


総力戦となり始めていた。

全体の士気を考えて、本多忠勝は松平忠吉、井伊直政の戦士は公にしていない。
徳川一族が討たれたとあらば、毛利は西軍につくだろう。

宇喜多秀家と福島正則両軍が入り乱れていた。

ーー井伊直政はいない?

福島正則は直政の戦死は知らず、彼の軍と合流できるものだと思っていた。

しかし、いないことに気づく。

ーーワシ、一人で宇喜多秀家と戦えと?

勇将である秀家と百戦錬磨の明石全登が指揮する大軍。
勝てるわけはない。

前線を指揮する全登が正則軍が崩れ始めていることに気づく。

ーーこれは勝った!

全登は勝利を確信した。
前田利益との連携も上手くいき、正則は撤退準備を開始する。

「退け!」

しかし、宇喜多秀家はこの好機を逃さない。

「ははは! おもしれぇ!」

崩れいく福島正則配下の可児才蔵が一人奮戦し、次々に秀家軍の兵士を打ち破っていく。

「同意よ! 才蔵!」

前田慶次が才蔵の前に現れる。

「久しぶりにやるか!?」

慶次は槍を才蔵に向ける。

「アンタか? いいね。気持ちが乗るぜ!」

慶次が馬から降りて、構える。

二人は一騎打ちを了承し、轟音を響き渡らせる激しい撃ち合いを繰り出した。

背後から狙えばどちらかの首級は挙げられるかもしれない。
しかし、間に入れないほどの威圧。


「ガハハ! やっぱり楽しいね! 戦はこうじゃなきゃな!」

慶次は槍を素早い突きを繰り出し、才蔵はそれをかわしていく。

足軽たちはそれを凝視している。

ーーすげぇ。目では見えない。

人の動体視力の限界を超えた技。
それをかわす才蔵。

しかし、才蔵は血を口から出して膝をつく。

全ての突きをかわせず、腹部から血を流している。

「歳はとりたくないもんだねぇ……」

才蔵が背負っていた笹が美しい音を奏で、地面に落ちていく。

「まったくだ」

慶次はすぐさま才蔵の首を切り落として、配下に渡す。

「可児才蔵殿、戦死と伝えよ」

慶次はそれだけを伝えると、また戦場の中に入っていく。


崩れ始めた福島軍は後退し、壊滅するのを待つだけとなった。

東軍にはある秘策がある。
小早川、井伊軍が壊滅することも計算の中にはあったのだ。
その秘策まで、忠勝は動くことはできない。


一方、中山道でも激戦は繰り広げられていた。

毛利秀包、立花宗茂が上手く連動し、織田信包も先に降伏した秀信の分も戦い抜いている。

しかし、毛利軍は全く動かない。

長宗我部盛親が使者を送るが、

「飯を食っている」

と返されるのみ。

毛利勝永と薄田兼相は安国寺恵瓊に言う。

「いくら言っても毛利は動きません。安国寺恵瓊殿は至急大坂城にお帰りいただき、秀頼殿をお守りください」

恵瓊は頷く。

ーーどうせ、ワシは外交僧にしか過ぎん。戦で死ぬくらいなら帰ろうて。

彼は1000人くらいの兵士を二人に預けて戦場を離れる。

彼らは長宗我部軍と合流し、8000人近い勢力となり毛利の動きを監視していた。

立花宗茂と毛利秀包という武に長けた武将ではあるが、榊原康政が率いる徳川勢を倒すことはできない。

ーーなぜ、毛利秀元は動かぬ!

立花宗茂の苛立ちは募っていく。

秀元さえ動けば勝てる。

しかし、さらに事態を悪化……いや、絶望的なことが起こる。


「毛利秀元殿! 謀反にございます!」
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