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第二十八話 騙し討ち
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京極高次は西軍の諸将たちの元を離れ、大津城に戻る前に自身が寝泊まりしている屋敷に戻った。
彼は周囲には話していないが、東軍に寝返るつもりでいて、すでに計画を進めていた。
ーー勝つのは徳川。
高次は強い意志を持っている。
ーー蛍大名と呼ばれていたが、それを挽回する好機。徳川家康に恩を売れば大大名となれる。
そんな中、一人の男が彼のもとにやって来た。
「お忙しい中、申し訳ござらぬ」
法正が屋敷内にやって来て話をしたいと聞き、高次は彼を招き入れる。
少しの世間話の後、法正が周囲を見渡しながら話し出す。
「おや、高次殿は伏見城攻めには参加されぬと?」
痛いところを突いてきた。
西軍と戦うことになるのだ。今は兵士を減らすわけにはいかない。
高次は全く表情を変えずに話し出す。
「はい。大谷吉継殿と前田攻めをする時のために今は温存しようと考えております。大津にて休み、士気を高めようかと」
「なるほど、左様ございますか……それより、知っておりますか?」
「何でございますか?」
高次からの問いに法正は冷静に耳打ちで話し出す。
「結論から申しますと、その決断すれば貴方様は死にます」
高次は法正を睨みつける。
「おぬし……」
法正は彼を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて去っていく。
ーー気づかれているのか? いや、三成は愚直な人間だ。此奴は気づいても、三成は気づくわけなどない。
高次自身は完璧な計画だと思っており、家臣にさえ本心は伝えていない。
翌朝、彼は赤尾伊豆守たち重臣を連れ、大津城に帰城しようと歩いていた。
ーー生意気なことを……
高次は西軍連中を舐めていた。
ーー愚直な奴らばかりよ。
しかし、彼は法正という男に恐怖した。
そのことが、彼のプライドを傷つけ、苛立ちを増幅させていく。
ーー何が、「死ぬ」のだ? 勝てば一番最初に法正の首を……
パーン
火縄の音?
伊豆守たちが周囲を見渡す。
次の瞬間、京極高次は身体中の力が抜けるような感覚に襲われ、気がつけば地面に這いつくばっていた。
ーーいったい何が?
そして、彼は自身の頭部から流れる赤い液体を見て理解する。
「血が……撃たれたのか?」
高次の視界が次第に狭くなっていく。
近くにいた複数の部下たちが言う。
「おのれ! 井伊直政め! 我らが西軍につくと知り、殿を」
ーー井伊直政だと!? そのようなわけはない。目を覚ませ!
しかし、高次は法正に急所をピンポイントで撃たれていて声が出ない。
「伊豆守……おぬしまで……」
高次の配下である赤尾伊豆守が言う。
「今の西軍には勝てませぬからな! 京極家のため……ゆっくりお眠り下さいませ」
ーー此奴らもおのれ……計りおったか!
赤尾伊豆守は歴戦の武将であり、三成の配下にいる白い死神と呼ばれる平兵衛のことに気づいている。
ーー三成の目は誤魔化せても左近、十郎、法正、北政所の目は誤魔化せない。ここからは態度を鮮明にせねば、加藤嘉明殿、細川忠興殿のように死神に討たれるであろう。
伊豆守たちは大声でわざとらしく、井伊直政配下の犯行だと叫んでいく。
そして、蛍が失意の中、光を失っていく。
平兵衛が三成の前にやって来て、全て報告する。
「終わりました」
その一言で三成は全てを察した。
「左様か」
高次暗殺計画は以前から進められていた。
十郎や平兵衛は高次が大津に帰る経路を賊や林業を営む人間たちに聞いており、三成もすでに赤尾伊豆守から情報を聞き出していた。
井伊直政に濡れ衣を着せるには高次が西軍に所属しているという事実も好都合であり、信憑性を持たせた。
家康は部下を信用しており直政を疑うことはなかったが、二人とも明らかな焦りを表情に示すようになる。
これにより、九州軍と小野木重次率いる軍勢4万を阻むものはいなくなり、史実より大規模な戦いとなるのであった。
彼は周囲には話していないが、東軍に寝返るつもりでいて、すでに計画を進めていた。
ーー勝つのは徳川。
高次は強い意志を持っている。
ーー蛍大名と呼ばれていたが、それを挽回する好機。徳川家康に恩を売れば大大名となれる。
そんな中、一人の男が彼のもとにやって来た。
「お忙しい中、申し訳ござらぬ」
法正が屋敷内にやって来て話をしたいと聞き、高次は彼を招き入れる。
少しの世間話の後、法正が周囲を見渡しながら話し出す。
「おや、高次殿は伏見城攻めには参加されぬと?」
痛いところを突いてきた。
西軍と戦うことになるのだ。今は兵士を減らすわけにはいかない。
高次は全く表情を変えずに話し出す。
「はい。大谷吉継殿と前田攻めをする時のために今は温存しようと考えております。大津にて休み、士気を高めようかと」
「なるほど、左様ございますか……それより、知っておりますか?」
「何でございますか?」
高次からの問いに法正は冷静に耳打ちで話し出す。
「結論から申しますと、その決断すれば貴方様は死にます」
高次は法正を睨みつける。
「おぬし……」
法正は彼を小馬鹿にしたような笑みを浮かべて去っていく。
ーー気づかれているのか? いや、三成は愚直な人間だ。此奴は気づいても、三成は気づくわけなどない。
高次自身は完璧な計画だと思っており、家臣にさえ本心は伝えていない。
翌朝、彼は赤尾伊豆守たち重臣を連れ、大津城に帰城しようと歩いていた。
ーー生意気なことを……
高次は西軍連中を舐めていた。
ーー愚直な奴らばかりよ。
しかし、彼は法正という男に恐怖した。
そのことが、彼のプライドを傷つけ、苛立ちを増幅させていく。
ーー何が、「死ぬ」のだ? 勝てば一番最初に法正の首を……
パーン
火縄の音?
伊豆守たちが周囲を見渡す。
次の瞬間、京極高次は身体中の力が抜けるような感覚に襲われ、気がつけば地面に這いつくばっていた。
ーーいったい何が?
そして、彼は自身の頭部から流れる赤い液体を見て理解する。
「血が……撃たれたのか?」
高次の視界が次第に狭くなっていく。
近くにいた複数の部下たちが言う。
「おのれ! 井伊直政め! 我らが西軍につくと知り、殿を」
ーー井伊直政だと!? そのようなわけはない。目を覚ませ!
しかし、高次は法正に急所をピンポイントで撃たれていて声が出ない。
「伊豆守……おぬしまで……」
高次の配下である赤尾伊豆守が言う。
「今の西軍には勝てませぬからな! 京極家のため……ゆっくりお眠り下さいませ」
ーー此奴らもおのれ……計りおったか!
赤尾伊豆守は歴戦の武将であり、三成の配下にいる白い死神と呼ばれる平兵衛のことに気づいている。
ーー三成の目は誤魔化せても左近、十郎、法正、北政所の目は誤魔化せない。ここからは態度を鮮明にせねば、加藤嘉明殿、細川忠興殿のように死神に討たれるであろう。
伊豆守たちは大声でわざとらしく、井伊直政配下の犯行だと叫んでいく。
そして、蛍が失意の中、光を失っていく。
平兵衛が三成の前にやって来て、全て報告する。
「終わりました」
その一言で三成は全てを察した。
「左様か」
高次暗殺計画は以前から進められていた。
十郎や平兵衛は高次が大津に帰る経路を賊や林業を営む人間たちに聞いており、三成もすでに赤尾伊豆守から情報を聞き出していた。
井伊直政に濡れ衣を着せるには高次が西軍に所属しているという事実も好都合であり、信憑性を持たせた。
家康は部下を信用しており直政を疑うことはなかったが、二人とも明らかな焦りを表情に示すようになる。
これにより、九州軍と小野木重次率いる軍勢4万を阻むものはいなくなり、史実より大規模な戦いとなるのであった。
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