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第十四話 豊臣家の人々①

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石田正澄は使者が来た意味を察して顔面が蒼白となり、道頓はその意味を察して呟く。

「ちょっと準備がありますさかい……せや、邸宅の奥に行きなはれ。今は誰もおりまへん」

道頓は平兵衛たちに屋敷の奥に行くように促した。
彼は一介の民間人であり、彼自身もその"機密"は知ってはいけないと思い、あえてそこを離れた。

「絶対権力者である秀吉の死」

それは豊臣家の終焉を意味する。

なぜなら、支える柱がまだ元服していない子供。
誰かが中心となって支えなければいけない。

果たして、どうなるのか?

正澄、孫市は大阪に戻り、十郎と平兵衛は佐和山に急いで帰る。

案の定、豊臣家周囲には動揺が走る。

頼るべき秀吉の重臣豊臣秀長、蜂須賀小六、竹中半兵衛はもうこの世にいない。
黒田官兵衛も九州に追いやられ、息子の長政共々、豊臣家に対する恨みはあるだろう。

頼るべき柱のない権力者は滅びるしかない。

豊臣家……秀吉の正妻である北政所はいつか来る運命と覚悟していた。
微笑み、秀吉と過ごした日々を思い出し何も変わらない生活をしていた。
自分と秀吉は過去にしか存在せず、この後の未来などには興味がない。
もはや、歴史の当事者ではなくなっていたのだ。


しかし、一方の淀君はガタガタと震えた。

彼女は秀頼を生んでしまったことにより、当事者にならざるを得なくなった。
秀吉の死後、皆、破滅の臭いを察知して自分の元を去っていく。

ーーまたあの時のように……

彼女は炎上する城の中で大切な人を亡くしている。
誰を信じるべきか、否か……彼女の中で一人の男を思い出す。

石田三成だ。


三成は平兵衛たちを呼び寄せ、大坂に向かうことを告げた後にこう呟いた。

「……あの時、百万石もらうべきだったな」

彼は秀吉から何度も百万石の加増の打診を受けていたが、それを断っていて、それについて、今、激しい後悔をしている。

百万石あれば5万人くらいの兵士を動員し、豊臣家を守ることができた。

しかし、今動員できるのは1万人に満たない。

三成もまた徳川家康や前田利家に頼るしかないのだ。

それ故に今やることは一つ。
彼らを味方につけ豊臣家を守ること。
それには五奉行、五大老の連携を密にせねばならない。

ーー太閤殿下がお亡くなりになったこと。すぐに世間に知れ渡るだろう。それまでに秀頼様を守れる体制を整えねば。


三成は蒼天を見ながら、次の一手を考えていた。

佐和山城。

「あのお爺ちゃん死んだん?」

"さな"と名付けられ、三成の養女となった少女。
彼女は悲しそうな表情を浮かべながら平兵衛と十郎を見た。

寡黙な平兵衛は、さなを安心させようと微笑み、頭を撫でた。

十郎は平兵衛とさなを優しく見つめ、

「安心してください。あの人が遺したものは私たちが護ります……そして、あなたのことも」

と言った。

端で聞いている左近、勘兵衛、そして、戦に秀でた猛将・前野忠康たちは強く頷いた。

混乱している豊臣家とは違い、石田三成たちは硬く団結している。

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