地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

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5章 獣鬼

獣鬼

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獣鬼

新宿歌舞伎町のコマ劇場の前で、髪の短い男が
毛皮のショートコートを素肌に着て歩いていた
その男は有名人であるらしく、道行く女性たちが
振り返ったり写メールで写真を撮っていた
その時。突然男は一緒にいた男に向かって言い出した。

「痛てて」
「ん?どこが?」
「あちこち」
そう言って毛皮のチャックを下ろそうとした
「あれ」
痛みに耐えながらチャックを下ろし
続けたがピクともしなかった
男の額に汗が浮かび上がってきた、
そして苦痛で男が地面に倒れ転がり回った。

その後はジュルジュルとストローでジュースを
飲むような音がすると
「大丈夫ですか?」
一緒に居た男が近づいて手を触れると
体をピクピクと痙攣させそして、
袖口とウエストから真っ赤な血が流れた

翌日、礼司は南里病院の903号室に
浜田を見舞っていた
「まだ、意識が戻らないのか?」
「ええ」
一緒に病室に入って来た女医が言った

「原因は?」
礼司が尋ねると
「わかりません、何の異常もありません」
その女医は向うの世界の由美になんとなく似ていた
「あの~先生」
礼司は胸章の川島の苗字を見ながら

「はい」
「まさか由美さんて言うんじゃないでしょうね」
「そうです。どうして?」
「いや、ちょっと知り合いに似ていたから」
「確かに、由美さんに似ているね」
魔美が礼司の腕を突っついた

「浜田どうした、目を覚ませよ」
礼司が浜田の耳元で囁いた
すると、礼司が持っていた根付が光りだした
「何かの合図か」
礼司が浜田の顔に根付をかざすと、
浜田が顔を左右に振りゆっくり目を開けた

「先生目を覚ました」
「はい、上の先生を呼んできます」
川島は病室を出た
礼司が浜田の顔を覗きこむと
「ああ、隊長」
「隊長?」

「思い出しました。夜野隊長」
「久しぶりだな」
「はい」
「お前は向うで死んだのか?」
「いいえ」
浜田は首を横に振った

「浜田さん、大丈夫?」
魔美がニッコリ笑った
「実は向うの世界でクーデターが起ったんです」
「クーデター?」
「はい、国民は知りませんが」

「なんか解かるよ」
「それで隊長に会うために命を懸けてきました」
「それで、用件は?」
「隊長、もう一度我々の世界に来ていただけないでしょうか」
「何のために?」
「我々は命を狙われていて、
和久井警視正の指示で仮死状態になったのです」

「どうしてお前達が命を狙われたんだ?」
「SSATはヒーローだからです」
「なるほど、SSATの名前を使って
警察を誰かが掌握したのか?」
「その通りです、政治もです」
「政治もか?」

「はい、今までの政治家、役人は小さな犯罪で
次々に逮捕されクリーンな国づくりと言う名目で
警察官、法曹界のOBで作られた正議党という
新党が国会の過半数を握ったのです」

「なあ、浜田それもいいじゃないか、
腐った政治家と役人がいなくなって」
「いいえ、新しい法案ですべての個人情報を
国が管理することになってしまうのです」
「なるほど、もしその情報が海外に
流れたら日本は終わりだな」

「はい、日本は乗っ取られます」
「うん、他の川島、沢村、山野、白尾は」
「私と数日遅れで全員こちらへ飛ばされたと思います」
「うん」
「それで、隊長と我々で作戦を立てて
向うの世界へ乗り込みたいのです」


「たった六人で世の中を変えられると思うか?」
「はい、隊長がいれば」
「あはは、俺を買い被っていないか?」
「そんな事ありません」
「それで、浜田勝算はあるのか?」
「はい、向うの世界でクーデターが起こる前に移動するんです」
礼司は魔美のほうを見て言った

「え?魔美そんな事できるのか?」
「かなり、難しいけど可能だよ」
「どうして?」
「鬼の世界は3つの世界をつないでいるし、
時間の観念がないから何かのパワーで
時間をさかのぼれば可能だと思う」

「何かのパワーって?」
「夜野さんと五人のパワーかな」
「ん?」
「大丈夫よ、京都から1分で帰って来たんだから
パワーはついているから」
「わかった、浜田 とりあえずこの世界で残りの
四人を探し出すことから始めなくてはな」

「はい、警察の情報を駆使してあたりを付けてみます」
「うん、俺や浜田のように顔、
体型は同じだろうから外国人は考え難いな」
「そうですね、免許の写真から探し出しましょうか?」
「あはは、何千万人もの人の顔をチェックできるか?」

「む、無理です」
「顔、体型が同じだと言うことは環境が
近いということだ。俺以外は」
「そうね、夜野さんは警察とTVマンだからね」
「あはは」
浜田は夕方に退院した。

その夜の午前1時過ぎ銀座八丁目近くの寿司屋の前
戸が開くと板前と次にホステスが出てきた
その女性はシルバーフォックスのロングコートを着ると
後から出てきた恰幅の良い男性に
「先生、ご馳走様でした」
「いやいや」
板前は二人に頭を下げ
「ありがとうございました」と言った
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