地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

文字の大きさ
上 下
4 / 53
2章 汗鬼

汗鬼

しおりを挟む
午後5時の青山墓地は夕方の交通渋滞を避けるための礼司の昼寝の時間だった。
コツコツ、助手席の窓が叩かれた
「ん?魔美か?」
目を開けて音の方向を見ても誰もいなかった
礼司が倒したシートを起こすと車の外にぼんやりと
見覚えのある老人の姿が見えた

「おじいさんなんの用ですか?」
「よかった、私が見えますね」
「ええ、まあ」
「実はお願いがありまして」
「ちょっと待ってくれ、霊の相談に乗ってもね、金にならんし」
「いやいや、私はまだ生きている」
「おいおい、また生霊か」礼司はつぶやいた

「今日の夜12時までに信濃町の方へ来てくれないか」
「はい」
「その時あんたの経費は出そう」
「それで用件は?」
「私の命は今日か明日だ」
「それで」
「それが私の娘達の相続でトラブルが起きている」
「遺書でも書けばいいだろう」
「それがその遺書が、熱海にある私のマンション、
パークマンション823号室の文箱に入っていてな、
その文箱が明日売られてしまう」

「あはは、それなら娘に言えばいいじゃないか」
「それは無理だ、私は今危篤だ」
「な、なんで、それで」
「その遺書を持ってきて欲しい」
「鍵は?」
「暗証番号だから大丈夫だ」
「何番ですか?」
「32194だ」
「みにいくよか、憶えやすい」
「頼みましたよ」
そう言って老人は消えた


「ところで信濃町って広いじゃないか」
礼司は青山の骨董通りを走らせると入り口にさっきの
老人の写真が飾ってある青川堂という骨董店を見つけた

「ああ、どっかで見たことがあると思ったら鑑定家の中丸さんか、なるほど」
礼司は、「ま、信じてやるか」そう言って熱海に向かって車を走らせた
熱海のパークマンションに着いたのは3時間後の8時過ぎだった
熱海の海沿いにあるリゾートマンションは豪華でも人気が無かった
「おお、ここだ。32194」
ボタンを押すと玄関が開き礼司はエレベーターで8階へ上がった
暗証番号を入れドアを押すと簡単に開き部屋の電気をつけて靴を脱いだ


「お邪魔します、机はどこだ?」
リビングを通って一番奥にある和室に文机があった
「あった」礼司が引き出しを引いて開けてもそこには何も無かった。
「じいさん無いじゃないか、もし無かったら会社になんて言えば良いんだ」
礼司は部屋にあるあちこち骨董品を物色を
しているうちに鬼のノブに似た根付、
小柄を見つけた

「これって?鬼のノブ似ているなあ」
礼司は根付をしみじみと見てポケットに入れた
「ひょっとしたら、からくりの机か?」
礼司は机の三段ある引き出しの真ん中を引いて、
下を引いて戻し一番上を引くと
2重底の部分があき遺書が出てきた

「これだ」礼司は急いで遺書を持って店の外に出てタクシーに乗った
「後3時間20分、間に合うな」
途中渋滞にぶつかり11時30分に中丸邸に着いて呼び鈴を鳴らした
「どちら様ですか、只今取り込んでいますので」
「すみません、ジャパンテレビの夜野と申します。先生が危篤と聞きまして
預かっているものをお持ちしました」

「少々お待ちください」
「声の女性がドアを開けた」
「あっ、夜野です」
「はい、お久しぶりです、先生は?」
礼司は奥の寝室へ通された、そこには二人の娘と
その娘婿と中年の男性が三人居た

「先生、遺書を持ってきました」
その声で酸素吸入を受けた中丸が突然目を開いて礼司の遺書を受け取った
「幸恵、恭子これが私の最後に書いた遺書だ」
そう言って二人にそれを渡し中丸は再び昏睡状態に陥った。
礼司はウロウロしていると中年男性が近づき
「ありがとうございました。弁護士の沢田でございます」


「はあ、夜野です」
「つかぬ事をお伺いしますが、どうしてあなたが先生の遺書を?」
「ああそれは、昔中丸先生と鑑定団の仕事をして面識があったんですよ。
それが偶然タクシーに乗せちゃってその時預かりました」
礼司は自分が嘘をつくのが下手だと思ったが事実はもっと嘘に近かった。

「そうでしたか、ありがとうございます」沢田は封筒を礼司に渡した。
「ありがとうございます」
「でもおかしいなあ、どうして危篤のことを?」
「あはは」礼司は急いでタクシーに戻った
それから二日後中丸新之助は逝った。
遺書の内容も知らない礼司にとってそれがどうなったか知る由も無かった

その夜、青山墓地にタクシーを止めていると中丸の霊が後ろのシートに座った
「お陰で助かったよ、ありがとう」
「ああ、いいですよ。お金になったから」
「長女の娘婿が強欲でな、もめていたんだ」
「まあ、この世に未練なく成仏してください」

「そうだな」
「あそうだ、根付と小柄もらいましたけど」
「ああ、いいよ。たいした価値はないから」
「ありがとうございます」
「じゃあ、またな」
「いいえ、もう会いません。あはは」
中丸は静かに消えていった


新宿から私鉄に乗って20分ほどの距離にある駅の西口に降りると目の前
に5階建のビルがあった
そのビル全部がスポーツクラブで
1階はプール2階はロッカールームとバス
3階はスタジオ
4階はジム
5階体育館と豪華な施設で夜12時まで営業し
昼間は近隣の老人がコミュニケーションを兼ねて
集まり夕方は会社帰りのサラリーマン、
OLがトレーニングに通う人気の場所だった。

ある日の午後、サウナルームに60歳過ぎの5人の男性が入っていた。
毎日通う顔見知りで10程度の時間でも声を掛け合って話をしていた
「じゃあ、お先に暑い、暑い」男は尻に敷いたタオルを持ち
ドアを押した。

「あれ、開かない」そう言って体重をかけて押したがびくともしなかった
熱くなっている木のドアに肩をぶつけても何の反応も無かった
「開かないんですか?」
「はい」
5人の男達は一緒になってドアを押してもそれは開かなかった
最初の男性がサウナに入ってすでに20分以上立っており
体中から汗がふきだして、めまいを起こしていた。

「非常ベル!!」一人はそう言ってボタンを押した。
まもなくスタッフが駆けつけドアを引いても開かず
ガラス窓をハンマーで叩き割った瞬間、もの凄い風圧が出た、
すると重く閉ざされたドアが軽く開いた
中に閉じ込められていた男性は、サウナルームから運び出され
水をかけられ救急車の到着を待った
そのサウナルームはカラカラに乾いていた

礼司は1日置きに中野新橋自宅近所の
スポーツクラブにトレーニングに行っている。
ジムではちょっと有名なマッチョな礼司は常連の男達とは顔見知りで
「こんにちは」
真っ黒に焼けたボディビルダー風のイケメンの男が声をかけてきた

「こんにちは」
「あの、いい体していますね」
「あはは、暇なもので」
「いいえ、形より何か早そうな筋肉していますね」
そう言って礼司の肩をなでた

「おいおい、そっちの人かよ」
礼司は気味が悪くなってスタジオに向かった
普段はウエイトトレーニングと有酸素運動と
2時間のメニューをこなす礼司は
エアロビクスをする事は無いのだが、
唯一このスーパーエアロをやることにしていた
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/3/15:『きんこ』の章を追加。2025/3/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/14:『かげぼうし』の章を追加。2025/3/21の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/13:『かゆみ』の章を追加。2025/3/20の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/12:『あくむをみるへや』の章を追加。2025/3/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/11:『まぐかっぷ』の章を追加。2025/3/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/10:『ころがるゆび』の章を追加。2025/3/17の朝4時頃より公開開始予定。 2025/3/9:『かおのなるき』の章を追加。2025/3/16の朝8時頃より公開開始予定。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...