カイリの白馬の王子様

不遜な孫

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 何時間かぶりに意識が浮上すると、自室とは違う部屋に座っている。
 腕は自由が効かず、どうやら縛られているらしかった。
 周りには数人の子供が立って見下ろしていた。

「よォ、新入りクン」

 単なる挨拶にも滲み出る刺々しさ。
 この動物的な目付きをした長身の少年が、今こうなっている原因なのは明らかだ。
 彼は子供たちの中では権力がある方なのだろうし、新入りに対する洗礼か何かで連れて来られたのかもしれない。
 ……それをするにはかなり今更感があるが。

「随分仕事の遅いガキ大将だな」
「あぁー!? 勝手に喋ってんじゃねーよ!」

 返事をしたのは、取り巻きの一人だった。直後に頭を蹴られる。
 他の子供も、次々と新入りを殴ったり蹴ったりする。
 ガキ大将は自らの手を汚す気はないのか、近くに置かれていた椅子に足を開いて座った。

「ぐっ……うっ……」

 新入りはされるがままで、特に抵抗らしい抵抗もしなかった。
 手加減をされているわけではないだろうが、対して痛いと感じない。
 ある程度体に傷を付ければ終わるのだから、止めさせるにしても無駄な労力だ。

「やっぱお前、気にくわねぇわァ……」

 見物していたガキ大将が立ち上がり、新入りの腹に蹴りを入れて床を転がす。
 繰り返し蹴られては壁にぶつかった体は、服を脱いだら痣だらけに違いない。
 微動だにしない新入りを執拗に痛め付けるガキ大将・リクトの執念に、子供たちも徐々に引いていく。
 目障りな新入りを少しばかり懲らしめてやろうという軽い気持ちには見えず、リクトからは新入りへの恨みが感じられた。

 リクトは新入りに馬乗りになって顔を殴る。
 子供たちは後ろでおろおろと顔を見合わせた。
 するとそこに、カイリがノックもせずに入ってくる。

「リクト……!? 新入り君に何してるの!?」
「あァ、カイリィ……」

 リクトは飽きたかのように新入りを放り、カイリの手首を掴む。
 そして子供たちに指図しながら、カイリの手を引いて部屋を出ていった。

「お前らァ、そいつ見とけ」

 解放はされないのかと、新入りはうんざりする。
 カイリを連れていったが、何をするのだろうか。
 その疑問の答えはすぐに分かった。

◇◇◇

「ちょ、リクト! 新入り君が……」

 新入りに暴行を加えていた部屋の隣……リクトの部屋に連れ込まれたカイリ。

「ほら、カイリ。お前好きだろこういうの」

 狼狽えるカイリに、リクトは何食わぬ顔で袋を渡してくる。
 袋の中には、袋菓子や生菓子が入り交じっていた。

「今はそんな場合じゃないよ……」

 カイリが菓子を断ると、リクトの表情が笑顔のまま固まった。
 嫌な予感に唾を飲んだカイリを、間髪入れずに押し倒す。
 片腕を押さえつけ、性急に下を脱がした。

「やめっ……離して!」

 暴れたところで、リクトは簡単にカイリの動きを封じて裸にする。
 身体を二つに折り畳むが如く脚を開かされ、身動きを取れなくされた。

「うっ、う!?」

 リクトとの行為でカイリが反応を示すことは少なかった。
 毎回声も出さずにやり過ごしていたのだ。
 しかし、今回ばかりはそうはいかない。

「い、いや……!」

 根元までズッポリと挿入され、叩くようにバチュバチュと腰を振られる。
 乱暴で、リクトの欲望を発散する為だけの動きだ。
 カイリは必死に手を伸ばし、リクトの顔を引っ掻く。
 顔から血を流しながらもカイリを犯し続けるリクトは、完全に理性を失っていた。

 恐ろしい光景に、カイリが目を閉じる。
 下半身の異物感が消えて目を開けると、視界からリクトが消え失せていた。
 正面には新入りが立っている。

「えっ、新入りく……」
「行くぞ」

 新入りがカイリの手を取る。リクトとは違い、強く握って引っ張ったりはしない。
 だがカイリは新入りについて歩く。
 部屋はどこかと聞かれ、反対側の隅だと言うとそこに連れて行かれた。

 部屋に入ったカイリは、シャツ一枚だけのまま床に座り込む。
 リクトのお下がりの、カイリには大きいシャツだった。

「ねぇ、新入り君。なんか話してよ」
「……何も話すことは」
「じゃあ、ここに来る前のこととか」

 新入りは少し考え込み、ゆっくりとした口調で話し始める。
 時折止まりながらの話は、いきなりすらすら話せる軽い内容ではなかった。

「俺は、ここに来る前も違法ブリーダーの所に居て……でも楽しかった、と思う。ウルフって奴が居て、皆を纏めてた。名前っつーかあだ名付けるのはあいつの役割で、俺も付けられたよ」
「なんて?」
「もう、名乗っていいのか分からねぇ」

 新入りは適当なはぐらかし方をしなかった。
 『ウルフ』に貰った名前はしっかりと新入りの中に残っていて、大事に思っているのだ。
 俯いた新入りは、更に語る。

「俺は、ウルフが大事な人を失っても、なにもしてやれなかった。ウルフはあんなに苦しんでたのに。あいつの気持ちを分かってやることもできねぇんだ。前まで自分が何を考えて生きてたのか、思い出せねぇんだ。何かあったらどうしてたとか、俺はどうするっていうのも」
「新入り君……」

 新入りも新入りで、どこかが壊れてしまっている。
 あまりに痛々しくてカイリは新入りの背中を擦るが、顔を上げた新入りには、思いの外弱気さがなかった。

「俺はどうしようもねぇけどさ。お前はここに居ちゃ駄目だよな」

 カイリに向かって、新入りが初めて笑う。
 カイリという動力を見つけた新入りは、漸く本来の彼に戻りつつあった。
 その言葉は眩しくて力強くて、カイリは目眩がする。
 何故なら、今まで生きてきて、誰もカイリをここから連れ出そうとはしなかったのだ。


 新入りに蹴飛ばされ、一人取り残されたリクトは、唇が切れるほど噛み締めていた。

「カイリは、俺のものだ……!」

 無理矢理絞り出した声は、おどろおどろしく濁っている。
 生まれた時から、カイリはリクトのものだった。
 否、リクトの為に生まれてきたのがカイリなのだ。
 リクトはそう教えられてきた。

 だから、どんな手を使ってもカイリを新入りに渡しはしない。
 リクトにしてみればカイリの所有権は当然の権利で、奪われる前に殺すのも辞さないのは当然の行動だった。

 覚醒した新入りと発狂したリクトがぶつかり合うのは、必然としか言いようがない。
 リクトの狂気に匹敵する何かを、新入りはカイリによって得た。
 劣勢を気取るのも白々しいくらいに、新入りの全身に力が満ちている。
 カイリは新入りの穴を埋め、同時にリクトを摩耗させる魔性の存在と化していたのだった。
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