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最終話 魔王と勇者、家族になる
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数ヵ月後、無事に回復したマリーは魔王城で仕事復帰した。
当初はリハビリを兼ねていたが、医師による完治の診断とともにメイド見習いからメイドへと昇格した。
魔王の午後のティータイムの給仕役を任されたが、魔王の隣に座って一緒にお茶とお菓子を楽しむのは以前のままだ。
そんな以前と同じ日常に戻ったある日のこと。
人間界の聖女が魔王城に転がり込んできた。
「私、もう限界ですっ!どうかこちらに置いてくださいませ!」
謁見の間で魔王に頭を下げる聖女。
大厄災の怪物に関わる一連の対応で調整役となった聖女は、とうとうストレスが爆発してしまったらしい。
「ここにおるのは別にかまわぬのだが、そなたほどの存在が去るのを人間界の大神殿が許さぬのではないか?」
魔王が問うと聖女が答えた。
「大厄災の怪物については後処理はほぼ完了しておりますわ。それに勇者と違って聖女は複数おりますの。みんな最高位の私にはまだ及ばずとも数でどうにかできますでしょうし、いずれそれぞれが実力を身につければ何の問題もございませんわ」
「そうか、ならば滞在を許そう」
魔王がうなずくと聖女は深々と礼をした。
「お許しいただき本当にありがとうございます」
「そしてここからが本題なのですが、私を魔王様の妻にしていただけませんでしょうか?」
「「 はぁ?! 」」
聖女の爆弾発言に魔王とマリーは同時に声を上げた。
「私、自分達のことしか考えないような人間の男どもにはほとほと愛想がつきましたの。その点、魔王様は大局を見据えて冷静に動き、事態を見事収束させましたわ。さらに多くの者に慕われる人徳に加え、かつては敵であった人間界の勇者であるローズ…いえ、マリーを我が子のように慈しむ寛大さ。魔王様こそ最高の殿方ではございませんか」
真剣なまなざしで言葉を紡ぐ聖女。
魔王はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「よし、そなたを妻に迎えよう」
「「「 え~っ?! 」」」
マリーを含めて謁見の間に居合わせた全員が驚いた。
「マリーに関してしばらく文のやりとりなどをしておったが、聡明で度胸もあり、心優しい女だと感じておったので別に拒む理由もあるまい。ただ、婚姻にあたっては1つだけ条件がある」
「なんでございましょう?」
聖女が真剣な表情で問う。
「マリーを我らの娘とすることだ」
「あら、私達はずいぶんと気が合いますこと。それは私からお願いしようと思っていたことですわ」
笑顔で魔王に答える聖女。
マリーはそんな2人のやりとりを見て目を丸くしていた。
やがて魔王に手招きされて聖女とマリーは魔王の両脇に立つ。
そして2人の肩を抱き寄せて魔王が宣言した。
「皆のもの、正式な祝いはいずれ行うこととするが、今日からこの2人は我の妻と娘だ。よろしく頼むぞ」
沸きあがる歓声と拍手の中、聖女とマリーは深々と頭を下げた。
さまざまな準備に時間を費やして1年ほど経った頃、魔王と人間界の聖女は正式に結婚した。
魔王城で盛大な結婚式が行われ、魔界のみならず人間界からも要人達や勇者パーティの面々が訪れて祝福した。
夫婦の養女となった少女の可憐さも参列者の注目を集めていたが、その少女が人間界の勇者であることを知るのはごく一部の者達だけだった。
こうして魔界にも人間界にも平和が訪れた。
大厄災の怪物を退治した魔王も、妻と娘にはめっぽう甘くて弱い…と魔界のみならず人間界でも広く知られるようになるのはもう少し先の話である。
「マリー、そろそろ午後の茶の時間にするので、いつものように我が妻も呼んできてくれるかの」
「はい、お父様!」
<完>
当初はリハビリを兼ねていたが、医師による完治の診断とともにメイド見習いからメイドへと昇格した。
魔王の午後のティータイムの給仕役を任されたが、魔王の隣に座って一緒にお茶とお菓子を楽しむのは以前のままだ。
そんな以前と同じ日常に戻ったある日のこと。
人間界の聖女が魔王城に転がり込んできた。
「私、もう限界ですっ!どうかこちらに置いてくださいませ!」
謁見の間で魔王に頭を下げる聖女。
大厄災の怪物に関わる一連の対応で調整役となった聖女は、とうとうストレスが爆発してしまったらしい。
「ここにおるのは別にかまわぬのだが、そなたほどの存在が去るのを人間界の大神殿が許さぬのではないか?」
魔王が問うと聖女が答えた。
「大厄災の怪物については後処理はほぼ完了しておりますわ。それに勇者と違って聖女は複数おりますの。みんな最高位の私にはまだ及ばずとも数でどうにかできますでしょうし、いずれそれぞれが実力を身につければ何の問題もございませんわ」
「そうか、ならば滞在を許そう」
魔王がうなずくと聖女は深々と礼をした。
「お許しいただき本当にありがとうございます」
「そしてここからが本題なのですが、私を魔王様の妻にしていただけませんでしょうか?」
「「 はぁ?! 」」
聖女の爆弾発言に魔王とマリーは同時に声を上げた。
「私、自分達のことしか考えないような人間の男どもにはほとほと愛想がつきましたの。その点、魔王様は大局を見据えて冷静に動き、事態を見事収束させましたわ。さらに多くの者に慕われる人徳に加え、かつては敵であった人間界の勇者であるローズ…いえ、マリーを我が子のように慈しむ寛大さ。魔王様こそ最高の殿方ではございませんか」
真剣なまなざしで言葉を紡ぐ聖女。
魔王はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「よし、そなたを妻に迎えよう」
「「「 え~っ?! 」」」
マリーを含めて謁見の間に居合わせた全員が驚いた。
「マリーに関してしばらく文のやりとりなどをしておったが、聡明で度胸もあり、心優しい女だと感じておったので別に拒む理由もあるまい。ただ、婚姻にあたっては1つだけ条件がある」
「なんでございましょう?」
聖女が真剣な表情で問う。
「マリーを我らの娘とすることだ」
「あら、私達はずいぶんと気が合いますこと。それは私からお願いしようと思っていたことですわ」
笑顔で魔王に答える聖女。
マリーはそんな2人のやりとりを見て目を丸くしていた。
やがて魔王に手招きされて聖女とマリーは魔王の両脇に立つ。
そして2人の肩を抱き寄せて魔王が宣言した。
「皆のもの、正式な祝いはいずれ行うこととするが、今日からこの2人は我の妻と娘だ。よろしく頼むぞ」
沸きあがる歓声と拍手の中、聖女とマリーは深々と頭を下げた。
さまざまな準備に時間を費やして1年ほど経った頃、魔王と人間界の聖女は正式に結婚した。
魔王城で盛大な結婚式が行われ、魔界のみならず人間界からも要人達や勇者パーティの面々が訪れて祝福した。
夫婦の養女となった少女の可憐さも参列者の注目を集めていたが、その少女が人間界の勇者であることを知るのはごく一部の者達だけだった。
こうして魔界にも人間界にも平和が訪れた。
大厄災の怪物を退治した魔王も、妻と娘にはめっぽう甘くて弱い…と魔界のみならず人間界でも広く知られるようになるのはもう少し先の話である。
「マリー、そろそろ午後の茶の時間にするので、いつものように我が妻も呼んできてくれるかの」
「はい、お父様!」
<完>
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