勇者は獲物を逃がさない

中田カナ

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第2話 事情

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「私が勇者パーティのサポートですか?それっていったいどういうことなんでしょうか?」

「旅は順調に進んでいたと思われたのだが、初めての野営でトラブルがあったらしくてな、近くの村まで戻ってきてしまったそうなのだ。現在もまだその村に留まっている」
「え~と、それってつまり野営のスキルがないとかってことなんでしょうかね?」
「そういうこともあるのかもしれんが、まだ詳細な情報がなくて正確な原因は不明だ」

 私はちょっと考えて宰相閣下に聞いてみた。
「でも確か冒険者ギルドだったら、そういうのを専門に担当する支援職の人とかいるんじゃなかったでしたっけ?」
「依頼はしたが断られた。冒険者ギルドは、今回の勇者パーティの選定で不正が行われたと主張しているのだ」

 なんか予想外の発言が出てきたんですけど。
「そうなんですか?」
「…否定できたらよかったんだがな。王族や貴族が自分の子供達に箔をつけたくて、選定役の神殿幹部に袖の下を渡していたことはすでに判明している」
 苦虫を噛み潰したような顔ってこういうのなんだろうな~と宰相閣下を見ながら思う。

「え~と、そんな方々で魔王討伐とかできるんですか?」
「もちろんそれなりの実力があった上でのことだが、討伐は二の次で参加することに意義があるというかなんというか…」
 そのあたりは深くつっこんではいけないな、と私は判断した。


「ま、それはさておいて、どうして私なのでしょうか?貴族の方々のお世話ならもっと適した方がいると思うのですが?」
「勇者パーティとお近付きになりたい連中は山ほどいる。だが、この国の貴族にも派閥というものがあってだな、ヘタな人選は騒動の元になりかねんのだよ」
 宰相閣下も大変なんだなぁ。

「なるほど。平民で、下っ端とはいえ一通りのことはできるからこの私…ということですかね?でも、私の勤務先である職員寮の方は大丈夫なんですか?ただですら人手不足なのに」
 宰相閣下はため息をついた。

「ああ、もちろん猛反発を食らったとも。君はずいぶんと頼りにされているようだな。こちらとしても無理を言うので、君の不在の間の人員はなんとか確保すると約束した」
「なんだ、もうそこまで話は進んでたんですね。あ、でも旅ってことは実質無休じゃないですか。今の仕事は忙しいながらも休日はちゃんと確保できてたんですけど」
 すまなそうな表情になる宰相閣下。
「大変申し訳ないのだが、そのあたりは報酬で対応するしかないと考えている」


 私は少し考えてからずうずうしいことを思いつき、にっこり笑顔で宰相閣下に言ってみた。
「しかたないのでそれでよしとしますが、無事に戻ってきたら宰相閣下にご褒美をおねだりしてもいいですか?」
 宰相閣下もしばし考えていたようだったが、最後には折れた。
「本当に物怖じしない娘だな。わかった、私に出来ることであれば対応させてもらおう」
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