聖女は職業選択の自由を行使する

中田カナ

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第2話 しょうがないなぁ

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「す、すまなかった。お前の事情も知らず、いきなり勝手なことを言ってしまって」
 すっかりビビってる第三王子殿下。そういえば私より年下なんだっけ。

 今までこういう女に会ったことがないのだろう。まぁ、庶民でもそうそういないとは思うけど。
「それじゃ、この話はなかったってことで」
「待て!」
 さっさと逃げるに限ると思い、テラスから出て行こうとすると殿下に呼び止められた。

「勇者には勇者のやらねばならぬことがある。そのためには聖女であるお前が必要だ。報酬ならなんとかしてみせる。だから俺に協力して欲しい」
 振り返って殿下を見る。真剣なまなざしだ。
 ったく、しょうがないなぁ。

「ちゃんと納得できる報酬を提示してもらえなければ私は動きませんよ」
「わかった」
 うなずく殿下。

「それから魔王退治とかおっしゃいましたけど、まさか勇者様がぞろぞろと王家の家来を連れ歩くおつもりですか?私は王宮のメイドになる前に冒険者稼業も少々やっておりましたので、旅も狩りもそれなりに慣れておりますけれど、殿下は大丈夫ですの?」
 実は今も冒険者ライセンスは返上しておらず、それなりに高ランクだったりする。
 少々やりすぎて目立ってしまったので、ほとぼりを冷ましたくてメイドに転職したってのもあるんだけどね。

「もちろん家来など連れて行かない。だが旅や戦闘に慣れていないのは事実なので、これから訓練するつもりだ」
 よしよし、ちゃんと自覚があるようでよかった。

「それでは魔王討伐の旅に出るまでは王宮のメイドとして働かせていただきます。それでよろしいですね?」
「わかった」


 それから半年ほどかけて第三王子殿下はいろいろと準備を進めていた。
 魔王討伐の旅の報酬は、私の夢だったカフェの開業資金ということで落ち着いた。店舗兼自宅の設計図はすでに出来ていて、どこに作るかはまだ検討中だ。

 今日は旅に出る前の打ち合わせなのだが、なぜか困った表情の殿下が目の前に座っている。
「聖女であるお前は見つかったが、仲間となるべき賢者がまだ見つからなくてな」

 なんだ、そんなことか。
「私、賢者だったら知ってますよ」
「えっ?!」
 殿下が驚いた表情になる。

「殿下が勇者の仲間を感じられるのと同様に私にもわかりますからね。王宮のメイドになる前にたまたま遭遇したのですが、魔道具オタクのひきこもりで『魔王討伐とか面倒だからアンタらに任せる』と申しておりました」
「なんだと?!」

「たぶんすでに居所を変えてると思いますから、探すのは困難だと思いますよ」
 嘘だけどね。
 あいつは辺境の地にそれなりの規模の研究施設を作り上げていたから、間違いなく転居などしていないはず。まぁ、口止め料として高機能のマジックバッグをいただいてるから殿下には教えないけどね。

「それじゃ俺とお前で行くしかないということか」
「そうですね、やめておきますか?」
「いや、必ず行く!」
 ちっ。

「あ、それから2人きりだからって私に手を出したりしないでくださいね」
 急に顔が赤くなる殿下。
「こ、これでも王族だ。女性に無体なことなどしない!」
 ふふふ、年下くんはかわいいねぇ。
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