剣聖は勇者を口説きたい

中田カナ

文字の大きさ
上 下
1 / 3

第1話:魔王討伐パーティ

しおりを挟む
「いい加減にしてください!私には好きな人がいるって何度も言ってるでしょう?!」

 今日も今日とて魔王討伐パーティの女勇者を口説こうとしたのだが、予想通りいつもの返事が返ってきた。

「だが、お前の男はどこか遠くにいるんだろ?そんな奴より近くにいる俺の方がいいじゃないか」
「だから、そういう問題じゃないんですってば!あの人とは将来を誓い合った仲なんですから」

「じゃあ何でお前は魔王討伐なんかに行くんだよ?そいつと仲良くしてりゃいいじゃねぇか」
 小柄な女勇者が俺を見上げてにらむ。

「私達が一緒になるためには魔王を討伐しなきゃならないんです!お願いだからしばらく私に話しかけないで!」
 女勇者は野営のテントにもぐりこんでしまった。

 見た目がいいだけじゃなく、腕も立つし度胸もあっていい女なんだがなぁ。料理は壊滅的だけど。



 女神様より剣聖の加護を受けた俺は、王宮騎士団に入って実戦でも活躍してきたが、どうにも集団行動や上下関係というものに馴染めず、騎士団を辞めて冒険者になった。剣の腕前のおかげで食うには困らないし、仕事もそれなりに選べるから気楽でよかった。

 だが、冒険者ギルドを通じて国から極秘任務である魔王討伐の一員に加わるよう要請されてしまったのだ。国からの依頼は断れないというルールがある。

 魔王討伐パーティは、剣も魔法も使える女勇者、防御や治癒などを担当する聖女、ちょっとした攻撃魔法と空間魔法が使える荷物持ちの男、そして俺の全部で4人。俺は魔法を使えないので、バランス的には魔法使いもいるといいと思うのだが、適任者がいなかったのだろうか?


「剣聖様、あんまり勇者様にちょっかい出さない方がよろしいと思いますわ。ほら、荷物持ちの方がにらんでいますわよ」
 聖女にたしなめられ、ふと荷物持ちの男を見るとすぐさま視線をそらされた。

「どうも気にくわねぇんだよな、このパーティは」
「どうしてですか?」
 聖女が小首をかしげる。

「何かはわからねぇが、俺達に知らされてねぇことがあるだろ。そもそも魔王討伐が極秘任務ってのもおかしい。昔は王都で派手な壮行パレードをやったとか聞いてるぞ」

 小さくうなずく聖女。
「私も今回は剣聖様と同様に違和感を感じておりますわ。おそらく国としては何か隠したいことがあるのでしょうね」

 聖女は大神殿に勤めていたが、なにやら事情があったとかで現在は大神殿を離れて冒険者として登録している。お互いに特定のパーティには加わらず、単独行動かサポートメンバーとして動くのが基本だが、何度も仕事で組んだことがあるのですっかり顔なじみだ。

「まぁ、俺達はやれることをやるだけだがな」
「そうですわね」



 襲ってくる魔族達をなぎ倒しながら旅は進み、とうとう魔王城にたどりついた。

 魔王城の内部でも戦いは繰り広げられたが、いよいよ謁見の間にいる魔王と相対することとなった。
 いかにも魔王らしく、黒い冠をかぶって黒いマントを羽織り、大きな黒い杖を持っている。
 だが、想像していた魔王とはどうも違っていた。

「なんか貧相な男だよなぁ」
 ずいぶんと痩せていて顔色もよくない。
 顔立ちそのものは男前の部類に入るのだろうが、その眼は赤く光っている。


「魔王!その人を返してよ!」

 そう叫んだ女勇者は涙を流していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガラポン勇者は突き進む

中田カナ
ファンタジー
選ばれし勇者と聖女は聖杯を取り戻す旅に出る。(全6話) ※小説家になろう・カクヨムでも掲載しています

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する

白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。 聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです

山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。 今は、その考えも消えつつある。 けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。 今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。 ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...