雑用係の旅は続く

中田カナ

文字の大きさ
上 下
8 / 9

第8話 凱旋

しおりを挟む
 さて、そろそろ冒険者ギルドに顔を出さないと。

「今までお世話になりました。それから昨日のシュークリーム、とても美味しかったです」
「ははは、あれくらいならいつでもご用意しますよ。用がなくてもぜひ遊びに来てください。本当におつかれさまでした」
 勇者様とよく似た笑顔に送り出された。



 冒険者ギルドの受付嬢が笑顔で出迎えてくれた。
「長旅おつかれさまでした!ギルドマスターがすぐに会いたいそうです」
 有無を言わさず一番奥のギルドマスターの部屋に連れて行かれる。

「本当にご苦労だった。そして誰も引き受けなかったことを押し付けてしまい、大変申し訳なく思っている」
 元冒険者で体格のいいギルドマスターが頭を下げる。
「いえ、いい経験をさせていただいたと思っています」

「ギルドの取り分からいくらかお前にまわすつもりだ。さて、これからどうするつもりかな?」
「まずは午後の凱旋パレードを見物して、しばらくはゆっくり休もうと思ってます。孤児院にも顔を出したいですしね」
 ギルドマスターは小さくうなずいた。

「そうか。では今日の昼食は私が奢ろう。そして午後はこのギルド前でパレードを見るといい。街の中心部よりは観客が少ないだろうから観やすいと思うぞ」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
 そのまま分厚いステーキで有名な食堂に連れて行かれた。

 ギルドマスターと比べたら半分以下の量のお肉ですっかり満腹になった私は、ギルドマスターと並んでパレードの到着を待っていた。
 思っていたより人が多いが、街の中心部はこんなものではなかったらしい。

「お、来たようだな」
 背が高いギルドマスターが遠くを見ながら言った。


 さて困ったな。
 私は背が低いので、このままじゃ何も見えないかもしれない。

「あの、ギルドマスター。私、ギルドの2階の部屋から見てもいいですか?」
 すでに2階の窓からはたくさんの顔が見えている。
 あそこにもぐりこませてもらおう。

「ん?ああ、背が低くて見えないのか。よし、俺が肩車してやろう!」
「はぁ?!」

 ギルドマスターがしゃがむと、そばにいたこれまた元冒険者のサブマスターがひょいと私を持ち上げ、ギルドマスターの肩に乗せてしまった。
 ギルドマスターが立ち上がると一気に視線が高くなる。

「降ろしてくださいっ!子供じゃないんですから肩車なんておかしいでしょう?!」
「ははは!細かいことは気にするな。それよりお前は軽すぎじゃないか?昼に食った肉も少なかったしな。もっと肉を食わせないといかんなぁ」
 体格のいいギルドマスターは私がジタバタしてもびくともしない。

 そうこうしている間にパレードが来てしまった。

 パレードで使われるのは屋根がなくて華美な装飾が施された馬車である。
 笑顔の王太子殿下夫妻や無表情の宰相様を乗せた馬車の後は、討伐の証明である魔王の角を載せた馬車が通っていき、いよいよ魔王討伐パーティを乗せた馬車が近付いてきた。

 これが見納めだからしっかり目に焼き付けないと。
 ジタバタするのも忘れて見ていると、馬車の上の人物と目が合った。

「見つけたっ!!馬車を停めてくれ!」
 勇者様が叫んだ。

「えっ?」
 パレードのためゆっくりと移動していた馬車は冒険者ギルドの真正面で停止する。
 勇者様が魔術師様に何か合図をすると、私の身体はギルドマスターの肩の上からふわりと空中へ浮き上がった。

「え、ちょっと?!」

 馬車の上にいる魔術師様の杖の動きに合わせて私の身体は空中を移動していく。
 見物客達の視線が集まるけれど、今はそれどころじゃない。

 そしてぽすんと勇者様の腕の中に降ろされた。

「よし、捕まえたっ!」

 一仕事終えた魔術師様はふぅ~と息を吐き、賢者様と聖女様は満面の笑みを浮かべている。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ダイヤモンドは語らない

中田カナ
恋愛
声を出せない私は魔道具とともに当たり前の日常を生きていく。(全6話) ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

計算できないこともある

中田カナ
恋愛
計算の加護を持つ私は王宮からスカウトされた。(全8話) ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

雇われ妻の求めるものは

中田カナ
恋愛
若き雇われ妻は領地繁栄のため今日も奮闘する。(全7話) ※小説家になろう/カクヨムでも投稿しています。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

悪役令嬢に転生したので、推しキャラの婚約者の立場を思う存分楽しみます

下菊みこと
恋愛
タイトルまんま。 悪役令嬢に転生した女の子が推しキャラに猛烈にアタックするけど聖女候補であるヒロインが出てきて余計なことをしてくれるお話。 悪役令嬢は諦めも早かった。 ちらっとヒロインへのざまぁがありますが、そんなにそこに触れない。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

あなたのその目に映るのは

中田カナ
恋愛
下っ端メイドの私は視力を失った旦那様の目を務める。(全6話) ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています

処理中です...