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第4話 休息
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勇者様はこのパーティのまとめ役として皆のことをよく見ている。
聖女様が各地の聖堂での祈りや癒しの活動がしやすいよう配慮しているし、賢者様が移動中に気になる植物を見つければ時間も取った。
魔術師様は無口だけれど、何か主張したいことがある時は勇者様が一番早く気付く。
そして一番下っ端の私のこともちゃんと見ていてくれていた。
いつものように朝食の呼びかけをするとみんなが集まってくる。
「どうした?顔色がよくないみたいだな」
勇者様が私の顔を見るなりそう言った。
「へっ?そうですか?」
目が覚めた時点でちょっとだるいかな~とは思ってたけど、朝食の準備で動きまわってたらすっかり忘れていた。
剣を握る人らしいごつごつした勇者様の手が私の額に触れる。
あ、ひんやりしてちょっと気持ちいいかも。
「少し熱があるようだな」
顔をしかめた勇者様がすぐに聖女様を呼び、癒しの魔法をかけられる。
「疲れがたまっているようですわね」
実は今まで聖女様の癒しをずっと辞退していた。
私はあくまで雑用係なので、聖女様の力を無駄に使わせたくなかったからだ。
「よし、今日は移動しないことにする。だからお前はしっかりと休め」
昨日のうちに用意しておいた昼食のバスケットを聖女様に預けると、勇者様にテントへと押し込まれた。
聖女様の癒しの魔法でもう楽になった気がするけど、のそのそと寝袋にもぐる。
「おい、入るぞ」
勇者様が私のテントに入ってくる。
今日は天気もよいのでテントの出入り口は開けっ放しにしている。
「申し訳ありません。私のせいで予定を変更させてしまって」
「気にするな。むしろかなり早いペースで来たから、このあたりで一休みするもいいだろう。賢者は植物採取に出かけ、聖女は近くの滝で瞑想するそうだ。魔術師の奴は釣り竿を持って川へ行ったぞ。今日の夕食は川魚だな」
魔術師様は釣り好きで、魚を捌くのは私より上手いくらいだ。
「これからはお前にも毎日聖女に癒しの魔法をかけてもらうからな」
そう言いながらあぐらをかいて座る勇者様。
枕元に飲み水を置いてくれた。
「あの、でも、私なんかにもったいないです」
「お前だってこのパーティの一員だ。お前がいろいろやってくれるおかげで俺達は自分のやるべきことに集中できる。それにお前の料理はどこの店よりも美味い。あれが食えなくなるのは困るからな」
頭をなでてくれる。
「…ありがとうございます」
「さて、少し休むといい。聖女の癒しで一眠りすればもう回復しているはずだ」
「あ、あの!」
立ち上がろうとする勇者様を思わず呼び止める。
「どうした?」
「…申し訳ありません。やっぱりいいです」
子供みたいなことを言おうとしてしまっていて、ちょっと恥ずかしくなる。
「言いたいことがあれば遠慮せず言えといっただろう?ほら、言ってみろ」
勇者様は怒ってはいないみたいだ。
ダメでもともと、正直に言ってしまおう。
「あの、もしよければもうしばらくここにいてくださいませんか?人の気配がある方がなんだか安心できるんです」
孤児院の大部屋暮らしが長かったせいか、誰かの気配がある方が落ち着くのだ。
そんなことを思ってしまうのは、やはりちょっと気が弱っているのかもしれない。
「なんだ、そんなことか。わかった、眠るまでいてやるから安心しろ」
座りなおして微笑む勇者様。
引き止めてしまったから、何か話さなければ。
「あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私、普段は風邪もひかないくらい丈夫なんですけど、新しい環境に慣れてきた頃にいつも熱を出しちゃうんですよね。気が緩んじゃうんでしょうか?」
勇者様がそっと頭をなでてくれる。
「そうか。だったら、この旅暮らしに慣れた証拠と思えば悪くはないかもな」
勇者様はご自分のことを話してくれた。
伯爵家の三男として生まれたけれど、剣術も魔法も2人の兄より能力が上で、成長するにつれてギクシャクするようになり、しまいには家を飛び出したとのこと。
「俺は兄上達のことが好きだし、兄上達が俺を好きなのもよくわかってる。だが、人の気持ちというのは単純にはいかないものでな…」
私には兄弟はいないけれど、孤児院でも冒険者の活動でも人間関係でうまくいかないのをいろいろと見てきた。
「いつか…みんな仲良くなれるといいですね…」
頭をなでてくれる勇者様の手の温かさでいつの間にか眠りに落ちていた。
聖女様が各地の聖堂での祈りや癒しの活動がしやすいよう配慮しているし、賢者様が移動中に気になる植物を見つければ時間も取った。
魔術師様は無口だけれど、何か主張したいことがある時は勇者様が一番早く気付く。
そして一番下っ端の私のこともちゃんと見ていてくれていた。
いつものように朝食の呼びかけをするとみんなが集まってくる。
「どうした?顔色がよくないみたいだな」
勇者様が私の顔を見るなりそう言った。
「へっ?そうですか?」
目が覚めた時点でちょっとだるいかな~とは思ってたけど、朝食の準備で動きまわってたらすっかり忘れていた。
剣を握る人らしいごつごつした勇者様の手が私の額に触れる。
あ、ひんやりしてちょっと気持ちいいかも。
「少し熱があるようだな」
顔をしかめた勇者様がすぐに聖女様を呼び、癒しの魔法をかけられる。
「疲れがたまっているようですわね」
実は今まで聖女様の癒しをずっと辞退していた。
私はあくまで雑用係なので、聖女様の力を無駄に使わせたくなかったからだ。
「よし、今日は移動しないことにする。だからお前はしっかりと休め」
昨日のうちに用意しておいた昼食のバスケットを聖女様に預けると、勇者様にテントへと押し込まれた。
聖女様の癒しの魔法でもう楽になった気がするけど、のそのそと寝袋にもぐる。
「おい、入るぞ」
勇者様が私のテントに入ってくる。
今日は天気もよいのでテントの出入り口は開けっ放しにしている。
「申し訳ありません。私のせいで予定を変更させてしまって」
「気にするな。むしろかなり早いペースで来たから、このあたりで一休みするもいいだろう。賢者は植物採取に出かけ、聖女は近くの滝で瞑想するそうだ。魔術師の奴は釣り竿を持って川へ行ったぞ。今日の夕食は川魚だな」
魔術師様は釣り好きで、魚を捌くのは私より上手いくらいだ。
「これからはお前にも毎日聖女に癒しの魔法をかけてもらうからな」
そう言いながらあぐらをかいて座る勇者様。
枕元に飲み水を置いてくれた。
「あの、でも、私なんかにもったいないです」
「お前だってこのパーティの一員だ。お前がいろいろやってくれるおかげで俺達は自分のやるべきことに集中できる。それにお前の料理はどこの店よりも美味い。あれが食えなくなるのは困るからな」
頭をなでてくれる。
「…ありがとうございます」
「さて、少し休むといい。聖女の癒しで一眠りすればもう回復しているはずだ」
「あ、あの!」
立ち上がろうとする勇者様を思わず呼び止める。
「どうした?」
「…申し訳ありません。やっぱりいいです」
子供みたいなことを言おうとしてしまっていて、ちょっと恥ずかしくなる。
「言いたいことがあれば遠慮せず言えといっただろう?ほら、言ってみろ」
勇者様は怒ってはいないみたいだ。
ダメでもともと、正直に言ってしまおう。
「あの、もしよければもうしばらくここにいてくださいませんか?人の気配がある方がなんだか安心できるんです」
孤児院の大部屋暮らしが長かったせいか、誰かの気配がある方が落ち着くのだ。
そんなことを思ってしまうのは、やはりちょっと気が弱っているのかもしれない。
「なんだ、そんなことか。わかった、眠るまでいてやるから安心しろ」
座りなおして微笑む勇者様。
引き止めてしまったから、何か話さなければ。
「あの、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。私、普段は風邪もひかないくらい丈夫なんですけど、新しい環境に慣れてきた頃にいつも熱を出しちゃうんですよね。気が緩んじゃうんでしょうか?」
勇者様がそっと頭をなでてくれる。
「そうか。だったら、この旅暮らしに慣れた証拠と思えば悪くはないかもな」
勇者様はご自分のことを話してくれた。
伯爵家の三男として生まれたけれど、剣術も魔法も2人の兄より能力が上で、成長するにつれてギクシャクするようになり、しまいには家を飛び出したとのこと。
「俺は兄上達のことが好きだし、兄上達が俺を好きなのもよくわかってる。だが、人の気持ちというのは単純にはいかないものでな…」
私には兄弟はいないけれど、孤児院でも冒険者の活動でも人間関係でうまくいかないのをいろいろと見てきた。
「いつか…みんな仲良くなれるといいですね…」
頭をなでてくれる勇者様の手の温かさでいつの間にか眠りに落ちていた。
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