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第3話 野営
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いよいよ町や村もまばらになり、野営暮らしが始まった。
最初にこの件の話があった時、
「魔王討伐パーティを支援するのは王宮にいる有能な人達がよいのでは?」
とギルドマスターに質問したことがある。
確かに有能な人はたくさんいるが、彼らは魔王領に満ちている魔素に身体が慣れていないのだそうだ。
その点、冒険者は日頃から魔素の多い魔の森やダンジョンで慣れている。
私も冒険者になったばかりの頃はよく魔素酔いにかかったけど今は平気だ。
そして魔王討伐パーティの面々は、身体に紋章が浮かび上がった時点で魔素への耐性ができるらしい。
野営は慣れているので、いつもどおりてきぱきと行う。
全員が洗浄魔法を使えるので、風呂や洗濯の必要がないから、むしろ普段より楽かもしれない。
さらに食事の後片付けは勇者様が手伝ってくれる。
「あの、勇者様?これは私の仕事なんですから、どうかゆっくり休んでください」
「気にするな。片付けくらいなら俺も冒険者稼業で慣れている。それに2人でやれば早く終わるだろう?」
いくら言ってもやめてくれない。
そしていつの間にかそれは日常となってしまった。
今日も雑談しながら後片付けをする。
「それにしても、お前の料理は本当に美味いよなぁ。俺、料理だけはいくら習ってもダメなんだよ。真剣に作ったのに『これは魔獣除けに使えそうですね』って言われたこともある」
「あはははは!」
いったいどんなのを作ったんだ?
「その点、お前はすごいよな。材料だって限られてるはずなのに、いつもうまくやってるしさ」
「調理は冒険者として登録する前から孤児院でずっとやってましたからね。大人数や限られた材料でやりくりするのは慣れてるんですよ」
驚いたような表情になる勇者様。
「…そうか。その、もし答えたくなければそれでもいいんだが、親のことは知っているのか?」
別に気にしてもいないので、知っていることをそのまま答える。
「赤ん坊の頃に孤児院の前に置き去りにされていたそうです。手がかりになるようなものは何もなかったそうですが、髪の色から北の地方から来たのでは?と言われたことはありますね」
私が生まれた頃は北の地方で不作が続き、土地を離れる者も多かったらしい。
そして黒髪は北の地方ではめずらしくないが、他ではかなり少ないのだ。
「…すまない。つらいことを聞いてしまって」
申し訳なさそうな顔をした勇者様に謝られたので笑って答える。
「別に気にしてないので平気ですよ。それに孤児院での生活は豊かではなかったけど楽しかったですから。そうそう、今回の報酬は孤児院の修繕費用にあてるつもりなんです。直す作業はできるだけ自分達でやるので、私も一緒にやる予定なんですよ」
勇者様はまだ浮かない表情をしている。
「あの、どうかしましたか?」
「…ギルドマスターから聞いた。引き受け手がいなかったこの仕事を半ば強引にお前に押し付けたと。俺も冒険者だからわかる。報酬は高額だが拘束される期間を考えれば避けたがるのも当然だ。だから申し訳なくて…」
なんだ、そんなことか。
「確かに通常の冒険者としての活動の方が稼げる可能性が高いでしょうが、それって確実とはいえないでしょう?拘束期間は長くても確実に報酬が入るからこちらを選んだだけです。だから押し付けられたなんて思ってませんよ」
「そう言ってもらえると少しは気が楽になるな。よし、この件が無事に片付いたら俺も孤児院にいくらか寄付させてもらうことにしよう」
勇者様に頭をなでられる。
「さて、片付けも終わったな。いつも早起きしてるんだから早めに寝ろよ」
最初にこの件の話があった時、
「魔王討伐パーティを支援するのは王宮にいる有能な人達がよいのでは?」
とギルドマスターに質問したことがある。
確かに有能な人はたくさんいるが、彼らは魔王領に満ちている魔素に身体が慣れていないのだそうだ。
その点、冒険者は日頃から魔素の多い魔の森やダンジョンで慣れている。
私も冒険者になったばかりの頃はよく魔素酔いにかかったけど今は平気だ。
そして魔王討伐パーティの面々は、身体に紋章が浮かび上がった時点で魔素への耐性ができるらしい。
野営は慣れているので、いつもどおりてきぱきと行う。
全員が洗浄魔法を使えるので、風呂や洗濯の必要がないから、むしろ普段より楽かもしれない。
さらに食事の後片付けは勇者様が手伝ってくれる。
「あの、勇者様?これは私の仕事なんですから、どうかゆっくり休んでください」
「気にするな。片付けくらいなら俺も冒険者稼業で慣れている。それに2人でやれば早く終わるだろう?」
いくら言ってもやめてくれない。
そしていつの間にかそれは日常となってしまった。
今日も雑談しながら後片付けをする。
「それにしても、お前の料理は本当に美味いよなぁ。俺、料理だけはいくら習ってもダメなんだよ。真剣に作ったのに『これは魔獣除けに使えそうですね』って言われたこともある」
「あはははは!」
いったいどんなのを作ったんだ?
「その点、お前はすごいよな。材料だって限られてるはずなのに、いつもうまくやってるしさ」
「調理は冒険者として登録する前から孤児院でずっとやってましたからね。大人数や限られた材料でやりくりするのは慣れてるんですよ」
驚いたような表情になる勇者様。
「…そうか。その、もし答えたくなければそれでもいいんだが、親のことは知っているのか?」
別に気にしてもいないので、知っていることをそのまま答える。
「赤ん坊の頃に孤児院の前に置き去りにされていたそうです。手がかりになるようなものは何もなかったそうですが、髪の色から北の地方から来たのでは?と言われたことはありますね」
私が生まれた頃は北の地方で不作が続き、土地を離れる者も多かったらしい。
そして黒髪は北の地方ではめずらしくないが、他ではかなり少ないのだ。
「…すまない。つらいことを聞いてしまって」
申し訳なさそうな顔をした勇者様に謝られたので笑って答える。
「別に気にしてないので平気ですよ。それに孤児院での生活は豊かではなかったけど楽しかったですから。そうそう、今回の報酬は孤児院の修繕費用にあてるつもりなんです。直す作業はできるだけ自分達でやるので、私も一緒にやる予定なんですよ」
勇者様はまだ浮かない表情をしている。
「あの、どうかしましたか?」
「…ギルドマスターから聞いた。引き受け手がいなかったこの仕事を半ば強引にお前に押し付けたと。俺も冒険者だからわかる。報酬は高額だが拘束される期間を考えれば避けたがるのも当然だ。だから申し訳なくて…」
なんだ、そんなことか。
「確かに通常の冒険者としての活動の方が稼げる可能性が高いでしょうが、それって確実とはいえないでしょう?拘束期間は長くても確実に報酬が入るからこちらを選んだだけです。だから押し付けられたなんて思ってませんよ」
「そう言ってもらえると少しは気が楽になるな。よし、この件が無事に片付いたら俺も孤児院にいくらか寄付させてもらうことにしよう」
勇者様に頭をなでられる。
「さて、片付けも終わったな。いつも早起きしてるんだから早めに寝ろよ」
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