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第2話 設定
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席を移動してテーブルを挟んで向かい合って座る。
彼女は紙とペンを持ってきていたので、私が改めて説明すると要点を記していく。
「事情はわかったわ。それじゃ、まずは設定を決めましょうか。私の方でざっくり決めてもいい?」
「ああ、よろしく頼む」
脚本作りに携わるくらいだから任せてよいだろう。
「あ、今さらだけど、付き合ってるって設定だから敬語も一切なしでいくわね」
その言葉に素直にうなずいた。
「私は王立図書館の職員で、貴方が図書館で私に一目惚れして猛アタックの末に交際が始まった、ということにしましょうか。あ、ちなみに私は本当に王立図書館の職員なの。嘘をつくにも適度に本当のことを混ぜた方がやりやすいでしょ」
演劇だけで食べていける人はまだまだ少ないと聞いているので、彼女に本業があることは納得できる。
だが、他の点でひっかかってしまった。
「一目惚れ…?」
私の人生で一番ありえないことのように思える。
「あれ、逆の方がいい?でも、こっちの方がいいと思うんだけどなぁ。ほら、終わらせるのも私の心変わりってことで済むじゃない」
なるほど。
確かに私から好きになったのに、私から捨てるというのも流れ的にあまりよくないように思える。
そこまで考えてくれていたのか。
「それにさっき主宰から貴方についてざっくり聞いたけど、貴方の性格からして一目惚れして猛アタックとかの方がインパクトがあると思わない?」
「そうかもしれないな」
意外性があって、それだけ本気だと思わせられるということだろう。
「私、たとえ舞台でなくても演じるからには完璧を目指したいの。だから設定を強固にするためにも、1回くらい一緒に出かけたりしてみない?その方がリアリティが出ると思うんだけど」
「いいのか?」
偽の恋人とデートというのは彼女に対して申し訳ない気がする。
「別にいいわよ。さすがに身体の関係はお断りだけどね。勤務先の図書館は木曜が休館日なんだけど、確か貴方は王宮の文官だったわよね?私、週末だったら夜しか空いてないんだけど」
「いや、私が木曜に休みを取ろう。今は繁忙期を過ぎたし、職場では『仕事のしすぎだからたまには休みを取れ』とよく言われているのでいい機会だ」
休んだところで特にすることもないので、体調不良以外で休みを取ったことはほぼない。
「じゃあ、次の木曜にしましょうか」
そう言って彼女は立ち上がった。
「最後に1つだけ言っておくけど、このお芝居の主役は貴方で、私は手助けするだけよ。成功の鍵は貴方の覚悟と本気さにかかっているわ。だから中途半端だけはやめてよね」
「わかった」
彼女の言うとおりだ。
木曜日。
王都の中央広場で待っていると、茶色い髪の彼女がこちらに気付いて駆けてくる。
「おはよう!私も早めに来たつもりだったけどずいぶん早いのね」
「早めの行動が基本なので、いつものことだ」
「じゃあ、さっそく行きましょうか」
私達は歩き始めた。
「今日は動物園と植物園と博物館をまわるわよ」
「そんなに?」
会って食事しながら話すくらいに考えていたので驚く。
「付き合ってるのに一緒に出かけたことがないなんて不自然でしょ。話のネタ作りが今日の目的なんですからね」
「なるほど」
親密さをアピールするためにはいいかもしれない。
乗合馬車で王立動物園に到着する。
「動物園は初めて?」
「いや。だが、子供の頃に来ただけだから、あまり覚えてはいないな」
「あ、そうなの。数年前に大幅に改装したから昔とはだいぶ変わってるわよ」
子供の頃は狭い檻の中の動物達がかわいそうに思えたが、今はそれぞれ広々とした空間が確保されている。
動物と客の間に深い堀などを配置することで安全性も考慮されているようだ。
「そうか、あの予算はこう使われていたのだな」
王宮の経理部門としての感想がついこぼれる。
「あはは!ここまで来て仕事のことを考えちゃうわけ?」
隣に立つ彼女が笑い出した。
「あ、すまない」
「いいわよ、別に謝らなくても。ものの見方なんて人それぞれだしね。でも数字だけじゃなくて、こうして実際に見ることでわかることもあるでしょ?」
「ああ、そうだな」
次の予定があるのでじっくり立ち止まって見る時間は少なかったが、それでも十分に興味深かった。
たまにはこうして出かけるみるのもいいかもしれない。
彼女は紙とペンを持ってきていたので、私が改めて説明すると要点を記していく。
「事情はわかったわ。それじゃ、まずは設定を決めましょうか。私の方でざっくり決めてもいい?」
「ああ、よろしく頼む」
脚本作りに携わるくらいだから任せてよいだろう。
「あ、今さらだけど、付き合ってるって設定だから敬語も一切なしでいくわね」
その言葉に素直にうなずいた。
「私は王立図書館の職員で、貴方が図書館で私に一目惚れして猛アタックの末に交際が始まった、ということにしましょうか。あ、ちなみに私は本当に王立図書館の職員なの。嘘をつくにも適度に本当のことを混ぜた方がやりやすいでしょ」
演劇だけで食べていける人はまだまだ少ないと聞いているので、彼女に本業があることは納得できる。
だが、他の点でひっかかってしまった。
「一目惚れ…?」
私の人生で一番ありえないことのように思える。
「あれ、逆の方がいい?でも、こっちの方がいいと思うんだけどなぁ。ほら、終わらせるのも私の心変わりってことで済むじゃない」
なるほど。
確かに私から好きになったのに、私から捨てるというのも流れ的にあまりよくないように思える。
そこまで考えてくれていたのか。
「それにさっき主宰から貴方についてざっくり聞いたけど、貴方の性格からして一目惚れして猛アタックとかの方がインパクトがあると思わない?」
「そうかもしれないな」
意外性があって、それだけ本気だと思わせられるということだろう。
「私、たとえ舞台でなくても演じるからには完璧を目指したいの。だから設定を強固にするためにも、1回くらい一緒に出かけたりしてみない?その方がリアリティが出ると思うんだけど」
「いいのか?」
偽の恋人とデートというのは彼女に対して申し訳ない気がする。
「別にいいわよ。さすがに身体の関係はお断りだけどね。勤務先の図書館は木曜が休館日なんだけど、確か貴方は王宮の文官だったわよね?私、週末だったら夜しか空いてないんだけど」
「いや、私が木曜に休みを取ろう。今は繁忙期を過ぎたし、職場では『仕事のしすぎだからたまには休みを取れ』とよく言われているのでいい機会だ」
休んだところで特にすることもないので、体調不良以外で休みを取ったことはほぼない。
「じゃあ、次の木曜にしましょうか」
そう言って彼女は立ち上がった。
「最後に1つだけ言っておくけど、このお芝居の主役は貴方で、私は手助けするだけよ。成功の鍵は貴方の覚悟と本気さにかかっているわ。だから中途半端だけはやめてよね」
「わかった」
彼女の言うとおりだ。
木曜日。
王都の中央広場で待っていると、茶色い髪の彼女がこちらに気付いて駆けてくる。
「おはよう!私も早めに来たつもりだったけどずいぶん早いのね」
「早めの行動が基本なので、いつものことだ」
「じゃあ、さっそく行きましょうか」
私達は歩き始めた。
「今日は動物園と植物園と博物館をまわるわよ」
「そんなに?」
会って食事しながら話すくらいに考えていたので驚く。
「付き合ってるのに一緒に出かけたことがないなんて不自然でしょ。話のネタ作りが今日の目的なんですからね」
「なるほど」
親密さをアピールするためにはいいかもしれない。
乗合馬車で王立動物園に到着する。
「動物園は初めて?」
「いや。だが、子供の頃に来ただけだから、あまり覚えてはいないな」
「あ、そうなの。数年前に大幅に改装したから昔とはだいぶ変わってるわよ」
子供の頃は狭い檻の中の動物達がかわいそうに思えたが、今はそれぞれ広々とした空間が確保されている。
動物と客の間に深い堀などを配置することで安全性も考慮されているようだ。
「そうか、あの予算はこう使われていたのだな」
王宮の経理部門としての感想がついこぼれる。
「あはは!ここまで来て仕事のことを考えちゃうわけ?」
隣に立つ彼女が笑い出した。
「あ、すまない」
「いいわよ、別に謝らなくても。ものの見方なんて人それぞれだしね。でも数字だけじゃなくて、こうして実際に見ることでわかることもあるでしょ?」
「ああ、そうだな」
次の予定があるのでじっくり立ち止まって見る時間は少なかったが、それでも十分に興味深かった。
たまにはこうして出かけるみるのもいいかもしれない。
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