雇われ妻の求めるものは

中田カナ

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最終話 私が欲しい言葉は

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 翌日は目が覚めるとすでに旦那様はベッドにいなかった。
 たぶん手加減してくれていたと思うけど体力不足を痛感する。
 散歩の時間を増やそうかしら?

 そして午後からお父様がやってきた。
 昨日は話す時間がなかったのですごく嬉しい。
「昨日はお父様がいらしてるなんて知らなかったからビックリしましたよ」
 手紙のやりとりも頻繁にしているのに、来訪については本当に何も触れていなかったのだ。
「ははは、男爵殿にくれぐれも内密にと言われていたからな」
 旦那様もお父様と手紙のやりとりをしていることを初めて知った。

「婚姻関係を結んだお前を3年間も放置していたことを何度も真摯に詫びてくれたよ」
「そうだったんですか」
 全然知らなかった。
「そして今は心から愛しているので、お前の二十歳の誕生日に婚姻式を挙げたいと連絡を受けて協力することにしたんだ」
 だからお母様のヴェールを持ってきてくださったのか。

「私はお前を王都の学院へやらなかったことが本当によかったのか今でも思い悩むことがあるよ」
 旦那様の話が一区切りついたところでお父様がそんなことを言い出した。
「でも、行かないって言ったのは私ですよ?」
 お父様やお兄様が学院で使っていた教科書は子供の頃から暗記するくらい読み込んだ。
 そして2人は実地で領地経営を叩き込んでくれた。

「それはそうなのだが、男爵領を発展させたお前なら、また別の道があったかもしれないと思ってね」
 首を横に振る。
「私だけの力じゃありませんよ。それに私は今の自分にとても満足していますから心配無用です」

 みんなが笑顔で憂いなく暮らせること。
 子爵家は代々このことを領地経営の最大目標としてきた。
 この男爵領でも私なりに実現できつつあると思う。

「お前は今、幸せかい?」
「はい!」
 旦那様というかけがえのないパートナーにも恵まれた。
 まぁ、いずれこのまま離婚かな?とか思ってたけれど、今の旦那様は公私ともに頼れる人だから。

 しばらく故郷の子爵領や兄の家族の話に花を咲かせる。
 このお屋敷にも部屋はあるから泊まるように勧めたけれど、父の友人は一人暮らしとかでそちらの方が気楽だからと固辞された。
「お前の兄やその家族も会いたがっているから、たまには子爵領に帰っておいで。もちろん男爵殿も一緒にね」


 ■□■□■□■□■


 半年後、旦那様とともに子爵領を訪問し、お父様やお兄様の一家と楽しい時間を過ごした。
 お兄様の子供達がかわいかったな~とか思いながら男爵領へ戻り、しばらくして私の妊娠が発覚。
 今は旦那様が仕事のほとんどをこなしてくれている。

 お腹が目立つようになって来た頃、王都から書状が届いた。
「…陞爵が決まった」
 旦那様は男爵から子爵へ。
 そしてお父様から爵位を継いだお兄様は子爵から伯爵へ。
 めでたさも二重ではあるんだけど。

「なんだか急じゃないですか?」
 素朴な疑問をぶつけたら旦那様が裏事情を教えてくれた。
 かねてより問題視されていたいくつかの貴族の家に抜き打ちの査察が入ったらしい。
 あまりにひどいところはお取りつぶしもあったとか。
 代わりに安定した領地経営を行い、人口や税収が増えている家の爵位が上がることになったのだ。

「そして、その貴族問題に関連して第二王子殿下が王位継承権を剥奪された」
 確かお気に入りの令嬢に言われるまま旦那様を見た目だけで役職からはずさせた方だっけ。
 その令嬢、なんと他国と通じていたらしい。
 もっとも危険な思想があるわけではなく、ただ利用されてただけみたいだけど。

 国としてはわざと泳がせて偽情報を流したりしていたそうだが、殿下が令嬢に貢ぐために国庫に手をつけたのが継承権剥奪の理由。
 殿下を囮として使ったこともあり、平民に落とすまではしなかったが男爵位と小さな領地を与えられることになった。
 改心して領地経営もちゃんとこなせば復帰の可能性もあるらしい。

「実はその領地というのがうちと隣接していて、領地経営の指導も頼まれているのだが…君はどうしたい?」
 ちょっと困り顔の旦那様。
「旦那様はどう思っているのですか?」
「本人次第だと考えている。役職を下ろされた件はもう過去のことだから気にしていない」
 旦那様が言うには令嬢に誑かされる前の殿下はまともだったらしい。

 私は出産と子育てが控えているので主に旦那様が指導することになるだろう。
 人に教えることは自分自身の再確認にもなるし、新たな気付きもあるだろうからよいことだと思う。
 旦那様が過去のことは気にしていないというし、私は思うところがないわけじゃないけどそもそも直接の面識はない。

 そしてもうすぐ旦那様は子爵になるけれど、やがてやってくる殿下は男爵位。
 さらに向こうは教えを請う立場。
 つまりこちらが上というわけで。

「そうですね、私としては1つだけ条件があります」
「それは何だ?」
 首をかしげる旦那様。

「殿下が『ぎゃふん』って言うことです!」
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