雇われ妻の求めるものは

中田カナ

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第6話 驚きの連続です!

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 有無を言わさず連れて行かれた先は聖堂内の控え室。

 そこにあったのは純白のドレス。
「あれ、これって…?」

 だいぶ前に商工会の婦人部の会合の後で洋装店のオーナー夫人から相談を受けた。
 平民にも婚礼衣装を普及させたいけれど、まずは貸し衣装から始める計画なので品揃えについて考えてほしいと。
 他の婦人部の方々とわいわいと意見を出し合ったのだけれど、その時に
「奥方様ご自身が着るとしたら、どれを選ばれますか?」
 と尋ねられたので、一番いいなと思ったデザイン画を指差した。
 今ここにあるのはまさにその実物。

 あっという間に着替えさせられ、控え室を出ると声がした。
「ああ、綺麗だな。よく似合っているよ」
「…えっ?!」
 そこに待っていたのは子爵領にいるはずのお父様。
 ああ、もう今日は驚くことが多すぎる!

「これはお前の母が婚姻式の時に使ったヴェールだよ」
 少し古びた箱の中には薄い布が納められていた。
 お父様がそっと私にヴェールを被せてくれる。
「さぁ、行こうか」
 差し出された肘に手を添える。
「…はい」

 聖堂内に入り、赤いじゅうたんの上をゆっくりと進んでいく。
 左右に並ぶ席には男爵領の有力者が勢ぞろいしている。
 その先には正装に着替えた旦那様が待っていた。
「幸せになるんだよ」
 そう言い残してお父様は離れていく。

 婚姻式が始まる。
 誓いの言葉の後はヴェールを上げられて誓いの口付け。
 初めてのキスはそっと触れるだけ。
 そして旦那様の極上の笑顔。
 旦那様って意外とロマンチストだったんだなぁ~なんて思ったり。
 婚姻式を終えて聖堂の扉が開かれると、たくさんの拍手と歓声が上がる。

「「「 ご結婚おめでとうございます!! 」」」

 今度はお姫様抱っこされて聖堂の階段を降りていく。
「あの、結婚したのは5年も前なんですけど?」
 小声で旦那様に尋ねてみる。
「まぁ、それはそれとして今日から本当の夫婦だと思って欲しい」
 頬にキスされた。

 ステージ上に移動して旦那様が集まってくれた人達に伝える。
「今日は春の訪れと豊作祈願、妻の誕生日そして私達の婚姻式を祝う日だ。食べ物も飲み物もたくさん用意した。みんな心ゆくまで楽しんでもらえたらと思う」
 さらなる歓声と拍手。

 私達はたくさんの人達から祝福を受けた。
 自警団の主要メンバーが旦那様を胴上げしてまた歓声が上がる。
 楽隊や曲芸団も招いていたようで、とてもにぎやかだ。

「このお祭り騒ぎは夜まで続くだろう」
 秋の収穫祭がいつもこんな感じだからよくわかる。
「だが、我々はキリがよいところで引き上げるからな」
「そうなんですか?」
 収穫祭の時は最後までいたのに。

「我々は新婚だぞ?あとは察しろ」
 そう言って耳を赤らめる旦那様。
 結婚したのは5年も前なんですけどね。


 にぎやかな聖堂前広場からお屋敷に帰ってきて、湯浴みをしてから楽な服装に着替える。

 広場であれこれ勧められてお腹いっぱいなので夕食は無理。
「今日は疲れただろう?」
「疲れたというか驚くことだらけでした」

 旦那様が言うには、ずいぶん前から私に気付かれないよう計画を立てていて、いろんな人達に協力してもらったのだとか。
 子爵領から来てくれたお父様はしばらくこの地に滞在されるそうで、古くからの友人宅に滞在しているらしい。
 お兄様は子爵領でお留守番なのだが、兄嫁は第2子を身ごもっているとのこと。
 1人目は男の子だったけど、次はどっちかな?
 お祝いを考えなければ。

「さて、そろそろ時間だな」
 なぜか毛布を巻かれてお姫様抱っこされて2階の夫婦の寝室からバルコニーへ出る。
 もう日が暮れかけて夕焼けを1割ほど残した空。

 ドーン! ドーン!

「うわぁ?!」
 夜空に広がったのは色とりどりの花火。
 赤、緑、青、白、金…
 光の粒が夜空を彩り、何発も続けて打ち上がる。

「すごくきれいですね」
「ああ、そうだな。本当はもっと暗くなってからとも考えたのだが、子供達にも見て欲しかったからな」
 そんなところまで気遣ってくれる優しい旦那様。


「でも、どうして花火…?」
 秋の収穫祭でも上げたことなどないのに。
「軍を辞してから戦友でもある同僚や部下が貴族軍人の横暴さを新聞社に事細かに話したそうだ」
 軍上層部も貴族軍人が占めているため、いくら声を上げても通ることがない。
 それならばと伝手を使って新聞社に話を持っていき、実名入りの記事が世に出回った。

 今は平時で軍部も世論を敵にはまわせない。
 ましてや国境紛争時に英雄と称された旦那様まで辞す事態と知られてしまった。
 退役軍人からの暴露も相次ぎ、問題となった貴族軍人達の処分など王都は大騒ぎだったらしい。
「私にもそれなりの額の慰謝料が入ってきたのだが、正直あまり気分のよくない金なので使い切ってしまおうと思った」
 ちなみに不祥事発覚で軍の祝祭行事が中止され、その花火を買い取ったんだとか。

「国からの謝罪と復帰要請もあったが、有事には馳せ参じるが妻とともに領地経営に専念したいと復帰は断った」
「本当に復帰しなくていいんですか?」
 あんなに軍一筋だった人なのに。
「ああ、今は君とこの地が一番大切だからな」
 そっと抱きしめられる。
 最後はひときわ大きな花火で締めくくられ、その後は身も心も本当の夫婦になった。
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